ウェイン・ショーター、カマシ・ワシントン、マカヤ・マクレイヴンなど、2018年にリリースされた至高のジャズ・アルバムからローリングストーン誌のHank Shteamerがトップ20を選んだ。

2018年もまた、ジャズの波が新たなゾーンへと押し寄せた。
中でもシカゴのマカヤ・マクレイヴンや、ロンドンのヌビア・ガルシア、シャバカ・ハッチングスらの新人が、本格的なストリートレベルのジャズ・シーンを牽引した。同時に、サックス奏者のウェイン・ショーター、チャールズ・ロイド、ペーター・ブロッツマン、ドラマーのアンドリュー・シリルら、70年代~80年代から活躍するヴェテランも進化を続け、傑出した挑戦的な作品を残した。また、ジョン・コルトレーンの『ザ・ロスト・アルバム』やチャールズ・ミンガスの『Jazz in Detroit』等の印象的なアーカイヴがジャズの歴史へと目を向けさせる一方で、やはり中心にあるのは次々とリリースされる新作であることを再認識させてくれた。

以下に、ローリングストーン誌が選定した2018年の至高のアルバム20枚を紹介する。

20位 ジョシュア・レッドマン、ロン・マイルズ、スコット・コリー、ブライアン・ブレイド『Still Dreaming』 
ローリングストーン誌が選ぶ「2018年ベスト・ジャズ・アルバム」トップ20

同作品は、故オーネット・コールマン自身がジャズ界のテンポを刻んでいたことを証明する最新作品だ。ある意味では、ジョシュア・レッドマン(サックス)、ロン・マイルズ(コルネット)、スコット・コリー(Ba)、ブライアン・ブレイド(Dr)ら本作に参加したジャズのスーパーグループは、トリビュートに対するトリビュートを捧げていると言える。ジョシュア・レッドマンの父デューイ・レッドマンをはじめとするコールマンの共演者らは、70年代~80年代にオールド・アンド・ニュー・ドリームスを結成し、コールマンの作品などをプレイしていた。同カルテット同様、現代の4人組は兄弟同然の息の合ったノリで、小気味良いフィンガースナップやライン外のカラーリングでプレイしている。アルバムには、グループメンバーによるオリジナル6曲に加え、コールマンの曲と、彼のカルテットのベーシストでソウルメイトだったチャーリー・ヘイデンの作品を合わせた全8曲が収録された。先駆者たちの表現方法を受け継ぎつつ、自分たちの自由奔放なインフレクションを加えた現代のカルテットのプレイを楽しめる。



19位 アンドリュー・シリル『Labroba』
ローリングストーン誌が選ぶ「2018年ベスト・ジャズ・アルバム」トップ20

2019年に80歳になるドラマー兼コンポーザーのアンドリュー・シリルは、キャリア後半のルネッサンス期の真っただ中にいる。さまざまなグループとギグで共演したり、伝説的なECMレコードのレコーディング・セッションでは、ずば抜けて才能豊かなメンバーを招集している。
ECMレコードで2枚目となる本作には、『The Declaration of Musical Independence』(2016年)から引き続きビル・フリゼールがギターをプレイし、さらに近年また精力的に活動しているヴェテラン・トランペッターのワダダ・レオ・スミスも参加している。アーシーなブルーズにインスパイアされ、ゆったりとした西アフリカ・スタイルのギターによるインプロヴイゼーションの合間に各プレイヤーが自由にプレイするシリル作のタイトル・トラックをはじめとする、トリオのベスト・プレイを楽しめる。アルバム全体を通じ、コンテンポラリー・ジャズを代表するドラマーのシリルは、繊細な究極のプレイを披露しながら確実にバンドを牽引している。



18位 クリス・デイヴィス、クレイグ・テイボーン『Octopus』 
ローリングストーン誌が選ぶ「2018年ベスト・ジャズ・アルバム」トップ20

「僕らの間には共通の文法がある」と、本作で共演したクレイグ・テイボーンは、斬新なマインドを持つピアニストのクリス・デイヴィスについて語っている。2人は、ユニークで楽しいライヴを披露している。テイボーンによるコメントは、本作に収録された5つの作品を聴けば、さらに理解が深まるだろう。まるで2人の脳がひとつであるかのように聴こえる。テイボーン作の「Interruptions One」で聴ける2人の掛け合いはとても速いため、どちらがどちらをプレイしているか判別不能なほどだ。デイヴィス作の「Ossining」では、パーカッシヴなプリペアード・ピアノをひとつのリズムマシンのように使っている。自由奔放なサン・ラー・ワルツのカヴァー曲「Love in Outer Space」では、2人のユニークなインヴェンションの絶妙なバランスを楽しめる。

Octopus by Kris Davis, Craig Taborn

17位 アンテローパー『Kudu』
ローリングストーン誌が選ぶ「2018年ベスト・ジャズ・アルバム」トップ20

トランペッターのジェイミー・ブランチは、2017年にリリースしたアルバム『Fly or Die』で注目を集めた。激しいインプロヴィゼーションによるテクスチャーと、軽快でゆったりとしたグルーヴをミックスした、エクセレントなカルテットによるアルバムだった。
『Kudu』はより偏狭だがエキサイティングさは失わず、ブランチとドラマーのジェイソン・ナザリーは共に、エレクトロニクスによる自由なインプロヴィゼーションで音楽的なウサギの巣穴を深く掘り下げた。例えば「Ohoneotree Suite」では、サイケデリックな抽象と激しいフリーファンクを、説得力をもって橋渡ししている。「Get Up With It」に代表されるように、アルバム全体を通じてフラクチャード・ビートと響き渡るブラスのコリジョンが、70年代のマイルス・デイヴィスによるスリリングな独特の世界の現代版を思わせる。じっくり聴くべき作品だ。



16位 ハイル・メルギア『Lala Belu』
ローリングストーン誌が選ぶ「2018年ベスト・ジャズ・アルバム」トップ20

『Lala Belu』は、強烈なファンクをベースとしたトランス調のノリの良いサウンドで、2018年の最先端のジャズにフィットしている。本作の作者ハイル・メルギアは、70年代初頭から祖国エチオピアでは有名なキーボーディストだったが、国外では2013年まで無名の存在だったことは興味深い事実だ。彼は同年、流行りのレコードレーベルAwesome Tapes From Africaによる80年代のアルバム・リイシューの1枚に参加した。マイク・マイコフスキー(Ba)とトニー・バック(ザ・ネックスのドラマー)のオーストラリアン・リズムセクションによる揺るぎないパルスをバックに、アコーディオンやさまざまなキーボードを操るメルギアが、豪華なサウンドのタペストリーを編み上げている。アルバム全般で、クラシカルなオルガン・トリオによるジャズ、ジュークボックから流れるブッカー・T&ザ・MGsのR&B、長いラーガなどがブレンドされ、ピアノ1台でアルバムのラストを飾る「Yekfir Engurguro」は、繊細でソウルフルなチェイサーになっている。メルギアが時代の先を行ったのか、あるいは世界がようやく彼に追いついたのだろう。

15位 JP・シュレーゲルミルヒ、ジョナサン・ゴールドバーガー、ジム・ブラック『Visitors』
ローリングストーン誌が選ぶ「2018年ベスト・ジャズ・アルバム」トップ20

2000年~2013年にかけて、ドラマーでコンポーザーのジム・ブラックはアラスノーアクシスを率いて、実験的なジャズとアトモスフェリック・ロックを融合した一連のブリリアントなアルバムをリリースした。2018年、キーボーディストのJP・シュレーゲルミルクとギタリストのジョナサン・ゴールドバーガーとのコラボにより、それぞれが楽曲を持ち寄る形で、当時の印象的で分類し難い音楽を再現した。
現代の冒険的なインプロヴィゼーションに匹敵する気骨のあるプログレッシヴと驚きのサイケデリアから生まれた「Visitors」は、印象的に作り上げられたメロディと深く練り上げられたテクスチャが結合されている。アルバムを製作した3人のプレイヤーが棲むジャズの世界に精通したリスナーのみならず、デヴィッド・ボウイやキング・クリムゾンのファンにもアピールするような独創的なスタイルが、シームレスにブレンドされた作品といえる。




14位 カマシ・ワシントン『ヘヴン・アンド・アース』
ローリングストーン誌が選ぶ「2018年ベスト・ジャズ・アルバム」トップ20

2017年にEP『Harmony of Difference』をリリースして小休止したカマシ・ワシントンは、2015年にリリースしたフルレングスのヒットアルバム『The Epic』のスプロールへと戻ってきた。サプライズ・ボーナスディスク『The Choice』を含む3枚で構成された3時間以上の本作で、サクソフォニストのワシントンは、プラシッドなライト・ファンクからヴォコーダーを使ったラテン・ジャズまで彼の持つあらゆる音楽的要素を盛り込んでいる。ワシントンは壮大な野望を、湧き上がるインヴェンションとして長編作品の中に織り込んだ。オーケストラ的ファンタジー「The Space Travelers Lullaby」やコルトレーン版ゴスペル的な楽曲からは、彼がジャズ以外にも通じていることがよくわかる。

13位 ジョー・ロヴァーノ&デイヴ・ダグラス・サウンド・プリンツ『Scandal』
ローリングストーン誌が選ぶ「2018年ベスト・ジャズ・アルバム」トップ20

数十年に渡り偏狭なオブザーバーたちは、”ストレート・アヘッド”や”アヴァンギャルド”などとジャズを細分化し、時には正反対のジャンルを作ろうとしてきた。幸運にも、トランペッターのデイヴ・ダグラスやサックス奏者のジョー・ロヴァーノらエリート・ミュージシャンは、ジャンル分けには興味を持っていない。本作は、ウェイン・ショーターの決してジャンル分けされない美的センスにインスパイアされ、両者がコラボしたサウンド・プリンツ名義での2枚目の作品だ。ローレンス・フィールズ(P)、リンダ・メイ・ハン・オウ(Ba)、ジョーイ・バロン(Dr)の素晴らしいリズムセクションをフィーチャーしたクインテットは、ショーターによる60年代のブルーノートの代表作2曲をはじめ、各メンバーによる自由奔放なインプロヴィゼーションをじっくりと楽しませてくれる。『Scandal』は、偉大なプレイヤーたちがカテゴリーの垣根を取り払えば、ジャズとしてひとつになれることを示している。



12位 ハリエット・タブマン『The Terror End of Beauty』
ローリングストーン誌が選ぶ「2018年ベスト・ジャズ・アルバム」トップ20

『The Terror End of Beauty』をかけると、壁が汗をかくような気がする。
ジャズに限らず、2018年にリリースされたアルバムの中で、これほど厚く包み込むような雰囲気を醸し出す作品は他にない。どっしりとして感傷的なサウンドは、長年に渡り共演を続けるブランドン・ロス(Gt)、メルヴィン・ギブス(Ba)、J・T・ルイス(Dr)のニューヨークで活動するパワー・トリオとプロデューサーのスコッティ・ハードの、シンパシーのある深いつながりを感じる。ダブのドリフト、フリージャズの情熱、ハードロックのパワーなど、数え切れぬほどさまざまな要素を採り入れながら、アルバム・タイトルに見られるように、アヴァンギャルドの偉大なギタリスト、ソニー・シャーロックなど、トリオが影響を受けた先駆者たちへの敬意を払うと同時にレガシーをさらに拡大している。本作を、ジャズ・レコードと呼んだり特定のスタイルに分類するのは安直だ。ずっしりと重いモンスター・アルバムと呼ぶべきだろう。

11位 ジェームズ・ブランドン・ルイス、チャド・テイラー『Radiant Imprints』
ローリングストーン誌が選ぶ「2018年ベスト・ジャズ・アルバム」トップ20

パーカッショニストのチャド・テイラーとサックス奏者のジェームズ・ブランドン・ルイスのデュオは、ジョン・コルトレーンの名作『インプレッションズ』の作曲法や1967年の伝説的な『Interstellar Space』のテナードラムのフォーマットなど、コルトレーンからの明確なインスピレーションを形にした。しかし類似点はそこまでで、2人は荒々しいフリージャズよりもアップテンポのビバップに近い、力強く疾走するスウィングを得意とする。「First Born」のような楽曲でテイラーは、トラップセットをムビラに置き換え、穏やかで空想的なサックスのメロディに透明感のある音を加えた。ジャズに限らず、コルトレーンのトリビュート作品は無数に存在する。本作は、ありふれたトリビュート作品とは異なり、高度に進化した斬新な手法を採り入れたレアな作品だ。



10位 ヒューストン・パーソン、ロン・カーター『Remember Love』
ローリングストーン誌が選ぶ「2018年ベスト・ジャズ・アルバム」トップ20

有名シンガーのエタ・ジョーンズやソウル・ジャズの大御所リチャード・”グルーヴ”・ホームズらの共演者として名の知られたテナー・サクソフォニストのヒューストン・パーソンは、50年以上に渡り、ジャンルを超えて活躍を続けてきた。本作で彼は、彼と同様に幅広くかつ長く活躍してきた数少ないミュージシャンのひとりと共演した。
80歳代になる世界記録保持者でスーパーベーシストのロン・カーターは、パーソンとは数十年来のデュオ・パートナーだ。本作には、「ラヴ・イズ・ヒア・トゥ・ステイ」から「今宵の君は」までお馴染みの曲が収録されている。パーソンの温かみのある伝統的なトーンが、カーターの絶妙なスウィング・ラインの上に漂う。本作はオールドファッションにカテゴリーされるだろうが、2人の巨匠の手にかかると、全く古臭さが感じられない。

9位 レイ・アングリー『One』
ローリングストーン誌が選ぶ「2018年ベスト・ジャズ・アルバム」トップ20

キーボーディストのレイ・アングリーは、ミック・ジャガー、ディオンヌ・ワーウィック、クリスティーナ・アギレラ、ザ・ルーツらあらゆるアーティストと共演してきた、長年に渡り第一線で活躍するミュージシャンのひとりだ。サイドマンとして20年以上のキャリアを誇る彼だが、2018年9月に初めてリーダーとしてのデビュー・アルバムをリリースし、同年の最も予想を超えたジャズの名盤となった。アンブローズ・アキンムシーレ(トランペット)、マイロン・ウォルデン(サックス)、デリック・ホッジ(Ba)、エリック・ハーランド(Dr)ら有名スターを迎えたアングリーは、ソングフルなリリシズム、ストラット・ファンク、動きのあるポスト・バップ、極めて優美なビョークのトリビュートなど、目のくらむほど強烈なコンセプトを示した。我々が長年待ち望んだ作品をついに手にできたのだ。

8位 ダン・ワイス『Starebaby』
ローリングストーン誌が選ぶ「2018年ベスト・ジャズ・アルバム」トップ20

これはジャズ・アルバムと言えるだろうか? ある意味、答えは”ノー”だ。全体的にインプロヴィゼーションというよりも、敏捷なテクニックと優れたイマジネーションを兼ね備えたドラマー&コンポーザーによる、ジャンルを超越して作り込まれた組曲といえる。ドゥームメタルからデヴィッド・リンチまで幅広いジャンルからインスパイアされた、ダークで激しくダイナミックなワイスの最新作をこなせるのは、エリート・ジャズ・ミュージシャンしかいないだろう。音楽の骨格はワイスによるものだが、錚々たるプレイヤーによる心地よいテクスチャーによって肉付けされている。
ポイズンガスのギターを披露するベン・モンダーは、デヴィッド・ボウイの『★』でもプレイしている。さらに、驚異のSF的なキーボードの先駆者であるクレイグ・テイボーンとマット・ミッチェル。そして、ミスター・バングル、ファントマス、メルヴィンズ等のバンドとの共演でも知られ、不穏に響くベースを聴かせるトレヴァー・ダンらが参加している。ドラマーのワイスによるユニークなヴィジョンと相まって、ユニークな音を生み出すアルバムの最後を飾る「Episode 8」は狂気のサーカス・プログレッシヴで、リスナーの心に映画のような現実を見せてくれる。

Starebaby by Dan Weiss

7位 ヴァリアス・アーティスト『We Out Here』
ローリングストーン誌が選ぶ「2018年ベスト・ジャズ・アルバム」トップ20

コンピレーション・アルバムは、とかく思い付きで製作されたもののように思われがちだ。しかし本作は、はっきりとした目標をもって作られていることがわかる。本作には、ジャズを若々しくダンサブルかつ新しいものとして世界からの注目を集めさせたロンドンのシーンが詰め込まれている。最も印象的なのは、マイシャによるポスト・コルトレーンのユニークな解釈から、テオン・クロスのノリの良いチューバ・ファンク、モーゼス・ボイド・アンサンブルによるクラブ向きのエレクトロ・ジャズ・グルーヴに至る幅広いエクレクティシズムと、主要参加アーティストによるさまざまなアンサンブルだ。アルバムには、ヌビア・ガルシア(サックス&フルート)、ジョー・アーモン=ジョーンズ(ピアノ)、シャバカ・ハッチングス(マルチインストゥルメント)らが参加している。共演者を仕切るハッチングスは2018年、自身のバンドであるサンズ・オブ・ケメットを率いてインパルス!レコードからデビューしている。本作は、プロのアンサンブルによるミックステープの形式を取った共通のセルフポートレートといえる。




6位 チャールズ・ロイド&ザ・マーヴェルズ、ルシンダ・ウィリアムズ『Vanished Gardens』
ローリングストーン誌が選ぶ「2018年ベスト・ジャズ・アルバム」トップ20

本作には、楽しげな”オールスター”によるセッションという面と、ヴェテラン・プレイヤーとの真の芸術的なアライアンスという一面がある。ビーチ・ボーイズやドアーズらとの共演でも知られるジャズの巨匠チャールズ・ロイドと、著名なルーツ・シンガーのルシンダ・ウィリアムズがタッグを組み、本作を完成させた。アルバムには、ビル・フリゼール(Gt)、グレッグ・リース(ペダルスティール)、リューベン・ロジャース(Ba)、エリック・ハーランド(Dr)ら、ワールドクラスのアーティストたちも参加し、新旧さまざまな楽曲や厳選されたカヴァー曲をリラックスした雰囲気でプレイしている。ウィリアムズ作品のリワークである「Ventura」や「Unsuffer Me」、さらに激しく光を放つジミ・ヘンドリックスの「Angel」など、ジャンルを超えた曲を楽しめる。また、収録された数曲のインストゥルメンタル作品は、80歳になるロイドがいかに飾り気なく巧みにジャズの境界線を広げ続け、新鮮な空気を呼び込んでいるかを表現している。

5位 ペーター・ブロッツマン、ヘザー・リー『Sparrow Nights』
ローリングストーン誌が選ぶ「2018年ベスト・ジャズ・アルバム」トップ20

頑固な放蕩者というレッテルをたびたび貼られるペーター・ブロッツマンは、間違いなくこの50年で最も偉大なインプロヴィゼーションのコラボレーターのひとりだ。デュエットで最高の才能を発揮する彼と、ペダルスティール奏者として活躍するヘザー・リーとのコラボレーションは今、最高潮を迎え、雰囲気の良いスタジオ・レコーディングのゴージャスなインプロヴィゼーションを実現した。得意とするテナー・サックスやその他のサックスであれ、クラリネットであれ77歳になるブロッツマンは、リーによる悲しみに満ちた叫びと、憂鬱で時には耳障りなテクスチャーと張り合っている。収録された10曲は抽象的かもしれないが、純粋に感情的な表現をするならば、2018年の最もアーシーで感動的なブルーズだと言える。



4位 マカヤ・マクレイヴン『ユニバーサル・ビーイングス』
ローリングストーン誌が選ぶ「2018年ベスト・ジャズ・アルバム」トップ20

2018年の最もバジーなジャズ・アーティストは、ドラマーでプロデューサーのマカヤ・マクレイヴンだろう。スター・バンドを率いて世界中を回りライヴ・レコーディングし、その成果を精巧につなぎ合わせ、大陸をまたいだグルーヴのコラージュを作り上げた。彼の最新アルバムは、1年半の間にニューヨーク、ロンドン、ロサンゼルス、そして故郷のシカゴで行ったライヴから素材を集めたもの。マクレイヴンは共演者のサポートに回ることもたびたびあり、ハーピストのブランディ・ヤンガー(ニューヨーク・サイド)や、サクソフォニストのヌビア・ガルシア(ロンドン・サイド)らと魅力的なインプロヴィゼーションを繰り広げている。本作は、豊かな音楽旅行記であり、かつ偉大なインプロヴァイザーたちがオーディエンスの前で繰り広げるプレイを収めた最新の記録でもある。ちなみに2017年10月のライヴを収めたアルバム『Where We Came From』では、本作のロンドン・サイドのベースとなった音楽を聴くことができる。



3位 ウェイン・ショーター『エマノン』
ローリングストーン誌が選ぶ「2018年ベスト・ジャズ・アルバム」トップ20

ウェイン・ショーターのアイディアは、常にジャズの枠を超えている。本作はさらに、音楽の枠をも超えた。ボックスセットには、長年のパートナーと組んだカルテットとオルフェウス・チャンバー・オーケストラによる3枚組のライヴCDが収められ、さらに、ショーター自身も製作に参加したオリジナルのグラフィック・ノベルもセットになっている。ノベルに登場する惑星を飛び回る”いたずらな哲学者”と、アルバム内の大胆なインプロヴァイザーとを関連付けるのは難しいことではない。サクソフォニスト兼コンポーザーのショーターは、ダニーロ・ペレス(P)、ジョン・パティトゥッチ(Ba)、ブライアン・ブレイド(Dr)という気心の知れたメンバーと共に、詩的な優しさから劇的な戯曲まで幅広く表現している。ショーターは85歳になった今なお新たな境地を模索している。

2位 セシル・マクロリン・サルヴァント『ザ・ウィンドウ』
ローリングストーン誌が選ぶ「2018年ベスト・ジャズ・アルバム」トップ20

ジャズ・シンガーは、ジャンルの主流から離れ、クロスオーバーに取り組まねばならないこともたびたびある。しかし、今世界中から最も注目を浴びているジャズ・ヴォーカリストのセシル・マクロリン・サルヴァントは、ジャズの本流に十分満足しているようだ。彼女が2018年にリリースした本作を聴くと、その理由がわかる。アメリカン・スタンダードを中心に、ピアニストのサリヴァン・フォートナーと2人だけのレコーディングによる本作は、ムードによって魅力的で豪華に聴こえたり、完全にシンプルに感じたりする。ロジャース&ハマースタイン作『The Gentleman Is a Dope』のようなアップビートな楽曲は軽快でレトロな楽しさがあり、アルバムを締めくくるジミー・ロウルズ作でサクソフォニストのメリッサ・アルダナをゲストに迎えた『The Peacocks』のような長いバラードは、葛藤を抱えた感情の深い井戸だ。自分の元々のスタイルに無限の広がりを感じている時に、横道へ逸れる必要はない。



1位 ザ・バッド・プラス『Never Stop II』
ローリングストーン誌が選ぶ「2018年ベスト・ジャズ・アルバム」トップ20

結成して17年でバンドは、コンテンポラリー・ジャズ界における最も絆の強いグループとしての評判を築き上げてきた。メンバーの頻繁な入れ替えが常態化している現在では、とてもレアなケースといえる。ところがバンドは2017年に、オリジネルメンバーでカリスマ的存在だったイーサン・アイヴァーソンに代わり、ベースのリード・アンダーソンの旧友で経験豊かなピアニストのオリン・エヴァンスの加入を発表した。エヴァンスの参加はサプライズであり、楽しみでもあった。2010年の傑作アルバム『Never Stop』の続編として位置付けられる本作に参加したエヴァンスは、プログレッシヴな複雑さや騒々しいインプロヴィゼーションに対峙する心に響く透明なメロディで、バンドへ自然に溶け込んだ。本作はバンドの新たなチャプターを開くものではなく、アンダーソンとデイヴ・キング(Dr)が長年のファンに対して、自分たちのコアとなる美学が揺るぎないものであることを約束する作品となった。一方で、脱退したアイヴァーソンがサクソフォニストのマーク・ターナーとのデュオでレコーディングした哀愁漂うアルバム『Temporary Kings』は、全く異なる音楽性でも彼が上手くやっていけることを証明している。
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