米現地時間1月18日、リンカーン記念堂の前で、ケンタッキー州にあるコビントン・カトリック高校の生徒たちがネイティヴ・アメリカンの抗議者の一人、ネイサン・フィリップスを嘲笑った。この生徒たちの行動が批判されると、生徒たちがフリップスと遭遇する前に、少人数のブラック・イズレイライツ(※肌が濃褐色のユダヤ教信者を指す)の抗議者グループがこの生徒たちに侮辱的な言葉を叫んでいた動画が投稿された。もちろん、だからと言って生徒たちの行動が許されるわけではないが、この騒動を受けて、この生徒たちがリベラルなメディアの被害者だとする保守派の宣伝攻勢が始まった。保守派の主張は、騒動の一部だけを取り上げられてメディアから一斉に攻撃された生徒たちこそが被害者だとするものだ。
トランプ大統領は保守派のこういった主張を上手くすくい上げようと必死だ。1月22日、トランプ大統領はツイートで、フィリップスの鼻先で薄ら笑いを浮かべていた高校生ニック・サンドマンと彼の同級生たちは「フェイクニュースとその悪意のほどを象徴する生徒となった」と述べた。同日遅く、サラ・ハッカビー・サンダーズ報道官は渦中のコビントン・カソリック高校の生徒に対して、政府閉鎖が終わったらホワイトハウスへ招待すると発表した。そして「私たちは連絡して政府の支援を伝えた。メディアが熟考せずに結論を出して、やってもいないことを非難する状況を現大統領以外に理解できる人はいない」と述べた。
その夜の遅く、ショーン・ハニティー(※トランプお気に入りテレビ局FOXのニュース番組キャスター)との会談でも、サンダース報道官はメディアへの攻撃の手を緩めず、「あれほど喜々として子供の人生を破壊する人々を未だかつて見たことがない」とまで言い放った。
雑誌「The Atlantic」アダム・サーワーのツイート
トランプ政権は故意に約3000人の子どもたちを家族から引き離し、その苦悩を移民の阻止に使おうと画策した。
(トーキング・ポインツ・メモの投稿「ホワイトハウスはメディアをバッシングする:あれほど喜々として子供の人生を破壊する人々を未だかつて見たことがない」へのリツイート)
銃規制運動を展開していることで保守派から執拗な攻撃を受けているパークランド高校襲撃事件の生存者デヴィッド・ホッグも異論を唱えた。
デヴィッド・ホッグのツイート
本当に?
(同じトーキング・ポインツ・メモの投稿へのリツイート)
ホワイトハウスが報道すべき内容を牛耳ると決めると、大抵の場合、主要メディアはそれに従う。これは政府の指示に従わないメディアは「バイアスがかかっている」と非難されるとメディア自体が信じていることに起因する。1月23日の朝、NBCのニュース情報番組「トゥデイ」でキャスターのサヴァンナ・ガスリーとサンドマンの対面インタビューを放送したが、そこでもこの法則が生きていた。
この番組に登場する2~3日前、共和党の息のかかったPR会社の手伝いを得て、サンドマンは保守派が主張する内容に従った声明を作っている。その声明には、彼と彼の同級生は「ソーシャルメディアの暴徒」の被害者だと書いてあった。サヴァンナ・ガスリーとの会話の中で、サンドマンはその声明に書かれた文章を繰り返し言うだけだったが、ガスリーはその言葉を額面通りに受け止めた。その姿はまるで息子を心配する母親が疑わしい点を好意的に解釈して、息子を甘やかしているようにも見えたのである。
それは「今回の一件で誰かに謝るべきだと思う?」と「自分が悪かったと思う?」というガスリーの質問に顕著だった。
このインタビューでサンドマンが謝罪した場面は一つもなかった。結局、大統領はすでにこの青年の言動を承認していたのである。それにもかかわらず、ガスリーはサンドマンがこの経験から教訓を得たことを視聴者に強く印象づけようとした。「サンドマンは恐怖を感じながら生きたくないと言います。
トゥデイのツイート
「フィリップスさんを全力で尊敬しています。彼も表現や宗教の自由を保証されたこの国の権利を自由に行使していた人です。それに、彼がこの国の兵役についてくれたことに感謝したいです。あと、彼とお話してみたいと思います」(ニック・サンドマン談)
トゥデイで公開されたこのインタビューは、右翼がメディアと戦うためにコビントン・カトリック高校の生徒を小道具として使用した不誠実な行為とみなされた。事実、サンドマンの主張と矛盾する動画が存在する。フィリップスへの「あの表情は無意識だった」と、あれは「自分は怒らないよと彼に伝えるための」笑顔だったと、彼は人々を説得している。しかし、サンドマンの笑顔が穏やかな笑顔に見えない、優勢を示す笑顔だ、人を見下す笑顔だとコメントする人が後を絶たない。
サンドマンは社会の今を映す鏡だ。計り知れないハラスメントを受け、ホワイトハウスから一切支持されなかったデヴィッド・ホッグがそうだった。トレイボン・マーティン(2012年2月26日射殺、享年17歳)やタミール・ライス(2014年11月23日射殺、享年12歳)など、疑わしい点を好意的に解釈してもらえなかった多くの有色人種の若者たちがそうだった。そして、今でも南部の国境で親から引き離されたままの何千もの移民の子どもたちもそうだ。
「人種差別は単純な憎悪ではない。特定の人間に対する深い思いやりと、それ以外の人間に対するもっと深い懐疑心という形で現れることが多いものだ」である。