2020年の米大統領選に出馬を表明した民主党候補の一人、アンドリュー・ヤン。米国の雇用における自動化の悪影響を緩和するためには、「自由の分配(Freedom Dividend)」政策こそが最良の方法だと掲げるヤン。
今回、ローリングストーン誌のロングインタビューに応じてくれた。

44歳のヤンは、全国民に対する最低所得保障制度(ユニバーサル・ベーシック・インカム)を導入し、技術革命により苦しむ米国民を守りたいと考えている。市民権の一環として国民に支出することで、貧困状態や賃金の停滞を緩和し、米国の実体経済を活性化しようという制度だ。ヤンは、全ての取引に対する10パーセントの付加価値税(欧州で一般的なVAT)を導入し、財源に充てようと考えている。米国の全ての成人に1カ月あたり1000ドル(約11万円)の”自由の分配”を保障する、という大胆な政策案を打ち出しているのだ。

ユニバーサル・ベーシック・インカムの考え方は過去にもあり、ニクソン政権時代、ベーシック・インカム法が米下院で可決された。また、州の石油産出から得られる年間収入をベースに州民が配当を受け取っているアラスカ州が、同コンセプトの有効性を実証している、とヤンは言う。アラスカ州の石油配当金制度は、雇用機会の創出や子どもの健康改善、さらに所得格差の減少を実現し、保守層にも支持されている、と主張している。「テクノロジーは21世紀の石油だ」とヤンは言う。「アラスカ州で実現したことは、全米の国民にも適用できるはずだ。」

台湾からの移民二世でコロンビア大で学んだヤンは、法律家からテック・ワールドへと転身した。GMATの予備校を売却後、非営利団体ベンチャー・フォー・アメリカを立ち上げ、デトロイトやセントルイスなど経済的に苦しむ都市でビジネスを立ち上げようとする若い企業家の育成に努めている。

ー大統領選に挑戦しようとしている理由は何でしょう?

私は約6年に渡り、デトロイト、クリーヴランド、セントルイス、バーミングハムなど全米各地で、ビジネスを立ち上げようとしている実に多くの企業家たちを支援してきた。
デトロイトとサンフランシスコ、クリーヴランドとマンハッタンに見られる都市間の格差に愕然とした。それら都市では、ただタイムゾーンをまたぐだけでなく、全く異なる次元や時代を行き来しているような感じを受けるだろう。

そしてドナルド・トランプが大統領に就任した時、より一層衝撃を受けた。トランプの勝利は、オートメーション化が前出の都市や全米から400万もの製造業の仕事を奪ったことによる、と私は感じた。仕事のオートメーション化と、トランプに投票しようという各地方における流れとは、直接の相関関係がある。

シリコンバレーの友人たちは、過去に全米の製造業に従事する人たちに対して行ったことを、小売店の従業員、コールセンターのオペレーター、ファストフードの店員、トラックドライバーやその他多くの職業に対してもしようとしている。ところが、米国史上最大の経済とテクノロジーの転換期の真っただ中で、ドナルド・トランプがホワイトハウスを仕切る今、私が対話した政治家や政策立案者たちの描く米国の将来像には、率直に言って、失望と恐怖を感じた。米国の政治的リーダーの誰も、テクノロジーの変化が我々のコミュニティを分裂させつつあるという深刻な問題に、目を向けようとしていない。そこで私が大統領選へ立候補しようと思った。

ーローリングストーン誌では、トラック業界におけるオートメーション化と同業界の暗い将来について取り上げました。

トラックドライバーは、全米29の州で最もポピュラーな職業だ。現在350万人のトラックドライバーがおり、内94パーセントが男性で、平均年齢は49歳。
平均的な学歴は高卒で、年収は4万6000ドル(約500万円)だ。さらに、ドライバーたちが毎日利用するトラック用のドライブインや宿泊・飲食施設には、約500万人の米国人が働いている。

一方でシリコンバレーには、トラックドライバーに関連する仕事のオートメーション化は98パーセントまで来ている、と言う友人たちもいる。オートメーション化による経済的誘因は驚くべきものだ。トラックは昼夜問わず運行でき、交通事故も減少するため、人件費が削減できるだけでなく、燃料効率や設備利用率の向上により年間1680億ドル(約18兆4160億円)のコスト削減効果がある。米国ではトラックに絡む事故で年間約4000人が犠牲になっている。我が国にはこの問題を解決できる賢い人たちもいるが、解決した暁には数十万人の労働者や数千のコミュニティが悲惨な目に遭うこととなる。

ーあなたはトランプを、米国経済におけるオートメーション化の副産物であり、状況はさらに悪化すると見ています。

ドナルド・トランプが原因ではない。彼は、史上最大の経済とテクノロジーの転換期が3イニングス目に入ったことを示す兆候なのだ。そして我々は、できる限り速くその病原菌を潰さねばならない。そう、確かに状況は悪化する可能性がある。
例えばトラックドライバーの場合、年収4万6000ドルの仕事を失ったら、何をして稼げばよいだろうか? 残念ながら、高卒の中年労働者が同等の年収を得られるような仕事はそう多くない。さらに、労働組合に加入しているトラックドライバーはわずか13パーセントしかいない。従って団体交渉のようなものを期待する人は、失望するだろう。トラックドライバーの大部分は、20~30人のドライバーを抱える個人経営の小さな会社に所属している。1台のロボットトラックに太刀打ちできない普通のトラックに、数万ドルを費やし借金する状況を想像してみて欲しい。「(トラックドライバーにとって)よい機会だ。次のステップを見つければよい」と言うような人は、我々の歴史を理解せず、トラックドライバーがどんなに苦労して生計を維持しているのかがわかっていない。

ーあるいはスケープゴートとして攻撃するか……。

我々は史上で最も重武装した社会にいる。トラックドライバーと銃のオーナーとはかなりの人数がオーバーラップしている。トラックドライバーの約8万人は軍出身者だ。そのことは容易に推測できる。


ー現在のオートメーション化は経済に良い効果をもたらし、オートメーション化によって職を追われたトラックドライバーやその他の労働者はただ再教育すればよい、と主張する経済学者もいます。この見解をどう思いますか?

我々は、人は際限なく順応性があり保持可能だと思い込まされてきたが、実際はそうでない。私は、オハイオ州やミシガン州などで職を失った400万人もの製造業労働者についてよく考えてみた。私の経済の教科書によると、彼らは新たな職に就くことができ、経済は成長し、全て順調に進むはずだった。しかし実際は違う。労働者の約半数は離職後に再就職できず、失職した労働者の内約半分は障害申請を行っている。

そして多くのコミュニティでは、絶望で自殺する者やドラッグに溺れる者も増えた。製造業労働者を全員再教育する魔法などない、というのは明らかだ。独自の調査によれば、政府主導による製造業労働者への再教育プログラムの成功率は、0~15パーセント程度だ。製造業労働者に起きたことが、トラックドライバーにも起ころうとしている。数十万人のトラックドライバーを再教育してソフトウェアプログラマーにできる、などという夢のような話をする無責任な人々もいる。実際、ほとんどの者は再教育プログラムに登録せず、もし参加したとしても、ほとんど役に立たないだろう。


ーあなたの政策の目玉は”自由の分配”というユニバーサル・ベーシック・インカムです。失職したトラックドライバーたちの全容を把握し、全ての米国民に毎月支出できるのでしょうか?

トラックドライバーについて多くの時間を割いて話してきたが、そのほかにも大きな経済シフトにより、米国で最も一般的な職業である小売店の店員や販売員など数百万人の職が奪われようとしている。今後4年間で米国内のモールの30パーセントが閉鎖されるだろう。平均的な小売業界の労働者は39歳の高卒女性で、時給は11~12ドル(約1200~1300円)だ。さらに米国民の57パーセントが、今すぐ500ドル(約5万5000円)を支払えと言われても対応できない。今の歴史的な経済シフトに対応しようとするなら、人々にシフトを乗り切らせるような本当の解決法を授ける必要がある。最も効果的な方法は、ユニバーサル・ベーシック・インカムなのだ。私は、保守層にも受けの良いように”自由の分配”という呼び名を変えた。

ー本当ですか?

(笑)そうだ。数字はとても正直だ。どのように呼ぼうが、革新主義者、リベラル主義者、民主主義者は皆それを気に入る。保守派は”自由”という単語が付く限り、それを好きにならないが、外したら大いに気に入ってくれる。


ー月に1000ドル(約11万円)という案ですが、条件は付けないのでしょうか?

成人が対象だ。18歳になったら毎月1000ドルを受け取れる。

ーそれはジェフ・ベゾスだろうが誰だろうが、ということでしょうか?

その通り、誰でもだ。

ージェフ・ベゾスに月1000ドルを支給する理由を教えてください。

金持ちから取って貧乏人へ渡すという形でなく、真の意味で市民の権利とするため、万人向けの制度にする必要がある。しかし必要な財源を確保するために、AI、ビッグデータ、自動運転車で得た利益を活用する。我々は現在、これらニューテクノロジーの大きな恩恵は、Amazon、Google、Facebookといった巨大企業が受けており、しかも彼らの収める税金は少ない(彼らは経理処理のトリックや海外のタックスシェルターを使っている)、という術中にはまっている。我々は世界の先進国に倣って付加価値税を導入すれば、Googleの検索やAmazonの取引から得られる利益を国民に分配できるだろう。あなたが例として挙げたジェフ・ベゾスは結局今よりもっと(税金を)支払うこととなり、システムにももっと投資する。だから彼が月に1000ドル受け取っても、誰も問題にしないだろう。

ーほとんどの米国民は、付加価値税に馴染みがありません。どう課税するのか簡単に説明していただけますか?

モノやサービスに対する消費税で、プロダクション・チェーン内で支払いが行われる全てのポイントで課税される。他の国々が積極的に導入する理由は、取引を実行したり一定の集団へ販売しようとする際の不正操作や脱税がほとんど不可能だからだ。

ー例えばFacebookは広告料を得ていますが、いわゆる”消費”とは異なるように思います。この場合はどのように課税するのでしょうか?

彼らの広告主は、自分が受ける広告サービスに対して税金を支払うことになる。国民が常に利益の分配を受けられるようにするのが目的だ。

ーデジタルの世界でも付加価値税が有効だということですね。自動車や電子機器のように実体のあるものだけが対象ではないと?

基本的にお金のやり取りがある時には価値も移動する。そこで国民は利益の分配を受けられる。

ー結局どうなるのでしょう?

付加価値税は、欧州の半分の税率レベルにしても、新たに約8000億ドル(約8兆7700億円)の税収があるだろう。既存の支出、国民全員へ月1000ドル配当することによる経済成長、コスト削減と利得等を全て加味すると、成人全員に月1000ドル支払っても十分に採算が合う。

ー不確定要素が多いようですが、10パーセントの税を導入すれば全員に毎月1000ドル支払えるという理論でしょうか?

それが基本的な考えだ。しかし重要なのは、二次的効果に目を向けること。5万人の成人が住むミズーリ州のある街で、全員が月に1000ドル受け取ると住民は5000万ドル分の購買力を得ることとなり、自動車修理、子ども向けの食料や家庭教師、時折の夜の外出、家の修繕など、地元経済へ還元される。最終的に分配したお金は、街の中で循環することになる。つまり、付加価値税の収入がそのまま国民へ分配するお金となる訳ではない。そのお金は消えることはない。全ての実体経済が強固になり人手も不足するため、消費経済が成長し、新たな雇用が多く生まれるだろう。

ーしかし月1000ドル、年間で1万2000ドルというのは、年間4万6000ドルを稼いでいたトラックドライバーに対する補填として十分でないように思えます。

職業の転換のことを言っているのではない。期待しているのは、現在トラックドライバーとして働いている人はまだ何年かトラックの運転を続けられるだろうし、その上で受け取った年間1万2000ドルは財産形成のベースとなるだろう。トラック業界も全体として何らかの移行計画が必要だと思う。なぜなら年間1680億ドル(約18兆4160億円)のコスト削減は、大部分のトラックドライバーへの補償に十分で、さらに数百億ドルが残るからだ。

しかし経済全体を見ると”自由の分配”は実際に多くの雇用を生み出すだろう。さらに仕事の定義の幅を広げ、我々の社会が必要とする多くのものを取り込むようになるだろう。例えば、実に多くのコミュニティで消滅しようとしている介護や子育て、アートやクリエイティビティ、ボランティア、ジャーナリズムなどだ。これらは今、我々が大切なものだと言いながらも、金融市場では非常に低く扱われている。

”自由の分配”は、多くの人々が望む自由な仕事の形を実現する。特に今、社会において価値を認められず報酬もない多くの仕事をこなしている女性を助けることとなる。私の妻は自宅で2人の幼い息子たちの面倒を見ている。子どもの内ひとりは自閉症だ。彼女の仕事はこれからもなくてはならないものであるにもかかわらず、金融市場もGDPも彼女の働きの価値をゼロとみなすだろう。

ー議論を始めるよいきっかけになると思います。あなたは本当にこのアイデアを推進していくのか、それとも本当に大統領になろうという野望があるのでしょうか?

私が望むのは、現代の最も大きいと思う問題を解決することだ。きっかけはどうあれ、与党も野党も問題の存在を認めようとしないし、取り組もうともしていない。もしも誰か私以外の人が大統領選に勝利し、正に私が今提案している全てを実現してくれるなら、私は大歓迎だ。

我々はこの国を、大混乱のまま次の世代へ引き継ごうとしている。例えば気候変動問題について、ほとんどの国民はそう感じている。気候変動問題は本当に深刻で、実在する脅威だ。また、多くの米国民が就く職業や貢献度が過小評価され縮小されていくような経済も、子どもたちの世代へ残そうとしている。

真面目に一生懸命働いているトラックドライバーだろうが、怠け者のだらしないドライバーだろうが、関係ない。自動運転トラックがどちらのタイプのドライバーにも取って代わろうとしているのだ。価値に基づき報酬を得るような経済ではないという現実を、我々は直視し始めなければならない。その経済は、どんな役割を持ったどのような人だろうがお構いなしに、何十万という人々を見捨てようとしている。

ー少し前にあなたは、ジャーナリズムも廃れていく業界のひとつだと指摘しています。各選挙区のジャーナリストに資金援助するというあなたの提案には、興味をそそられました。

国民が今起きていることを把握していない限り、有効に機能する民主主義の実現は事実上不可能だ。以前は多くのコミュニティに、地域の広告と三行広告が支える地元紙があった。ラッキーな時代だった。しかしその後、三行広告が排除されCraigslist(クレイグズリスト)に置き換わり、今やジャーナリズムは廃れていこうとしている。そして多くの米国民がニュース砂漠に生きている。地元のジャーナリズムなしに、住民に地域の問題に対する賢い決断を下したり適切な判断に基づく投票をさせるのは、不可能だしばかげていると思う。私が提案しているのは、各選挙区のジャーナリストに資金援助しようというフェローシッププログラムだ。民主主義を信じるなら、ジャーナリズムも信じるべき。だからジャーナリズムを活かすために資金を投入すべきだ。

ーあなたは成功者のひとりです。しかし全国的には知られていません。読者はあなたの何を知っておくべきでしょうか?

私は移民の息子だ。父は物理学の博士号を取得し、GEとIBMで米国の69の特許取得に貢献した。母はアーティストで弟は心理学の教授だ。私は5カ月間ニューヨーク市でうだつの上がらない法律家を勤めた後で、ドットコム企業を立ち上げたもののすぐに失敗した。ニューヨークのヘルスケア・ソフトウェアの会社に4年間勤めた後、GMAT予備校のCEOに就任した。全米No.1の予備校に成長させ、2009年にワシントン・ポストに買収された。その頃私は、もっと多くの若者が全米各地で起業すべきだと思った。何もウォールストリートやシリコンバレーが全てではない。そこで私は非営利団体ヴェンチャー・フォー・アメリカを立ち上げ、デトロイト、クリーヴランド、セントルイスなどの都市で数千の雇用を創出する支援をした。そうしている内に私は、全米各地の各業界で数十万の職が吹き飛ばされようとしていることに気づいた。

ーあなたは、誰もが受けられる無料結婚カウンセリングなど、多くの興味深い政策案を打ち出しています。もうひとつ、力を入れたい政策案があれば教えてください。

私のキャンペーンの柱のひとつとして、経済発展と経済価値を別々に測る必要性を打ち立てている。現在我々はGDPを基準にしているが、GDPの算出者ですら福祉を測る基準としては酷いものだと述べているし、福祉を測る基準として使うべきでない。自動運転トラックはGDPに大きく貢献するだろうが、実に多くのコミュニティにとってとても悪い影響をもたらそうとしている。メンタルヘルス、薬物乱用、平均収入、平均寿命などについて、もっと実態に即した計測方法が必要だ。新たな測定方法が得られれば、発展するためのより的確な方法の理解につながるだろう。CEOとして測定方法を誤れば、間違った方向へと進み始めてしまう。今我々はGDP、株式市場の成長、公表失業率を基準としている。これらの数字は、今やほとんどの米国民の実態にほとんど即していない。公表失業率は特にミスリードを招いている。一旦離職した従業員はその後計算に入れられないからだ。米国の労働参加率は63%にまで落ち込み、エルサルバドルやドミニカ共和国と同じレベルになっている。また、働き盛りの男性のおよそ5分の1が、1年間職に就いていない状況だ。これらの人々が統計情報に組み込まれ、その統計情報が信じられないほど我々を誤った方向へと導いている。21世紀の我々の実態に合わせてアップデートされるべきだ。

ー既にキャンペーンに回った州での感触はいかがでしたか? 通じ合うのは簡単ではないと思います。人々にあなたのメッセージは伝わっていると思いますか?

アイオワ州で私は人々に「近所の店が閉まっているのを見たか?」と問いかけると、皆口々に「イエス、イエス、イエス」と応えてくれた。「なぜだろう?」と言うと、しばらく考えてから「Amazon」と言うんだ。そこで「その通り。これから良くなっていくか、それとも悪くなるだろうか?」と問えば、「もっともっと悪くなる」と言う。「そこで皆に聞きたい。この状況に対してあなた方はどうしようとしているか?」と質問すると、人々は「私にできることがあるのでしょうか?」という感じだった。私は「そう。私を大統領にしてくれれば、あなた方にもできることがある。私は、今クラウドかどこかへ吸い上げられているお金から、月1000ドルを取り戻してみせる。アイオワやニューハンプシャーの実体経済に数万の雇用を生み出し、あなた方の子ども世代が地元を離れなくても済むようにしよう」と言った。アイオワ州やニューハンプシャー州の多くの人々を惹き付けるにはこれで十分だった。
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