SSW/トラックメイカーのAAAMYYY(エイミー)による1stアルバム『BODY』が完成した。長野県南佐久郡の農家で生まれた彼女はCAを目指しカナダに留学、帰国後22歳から音楽制作を始め、2017年からAAAMYYY名義でのソロ活動を開始。
2017年から2018年にかけて、EP3部作『WEEKEND EP』『MABOROSI WEEKEND』『ETCETRA EP』をテープ&配信で発表。2018年6月にTempalayに正式加入。さらにKANDYTOWNのメンバー呂布のゲストVo、TENDERのサポートシンセの他、様々なアーティスト、作品、CMなどへの楽曲提供や歌唱提供など、その活動は多岐にわたる。

どことなく哀しげなムードを漂わせつつ、音楽が持つ自由さや楽しさもちゃんと感じさせてくれる陰影のある曲の数々は、その魅力的な声と相まってミステリアスな印象を放つ。そして不思議と心地がいい。等身大のAAAMYYYを感じさせつつ、彼女の脳内宇宙をゆったりと遊泳しているかのような、素顔のままの未来的オルタナティヴ・ポップ。「何か引っかかる要素が揃った時に、その中身をさらに知りたくなる」とAAAMYYYは取材中に語ってくれたが、『BODY』に散りばめられたフックに少しでも反応したあなたは、彼女のことがもっと知りたくなるはずだ。

ーAAAMYYYさんが長野県の山の中で育ったという話を別のインタビューで拝見しましたけど、年末にAAMYYYさんのInstagramを見てたらホントに山奥だということが分かってビックリしました。

東京の子がゲームの世界で遊んでる間、火起こしの方法や魚釣りとか、子ども時代の私は自然の中でよく遊んでいました。父親は昔、農業改良普及員の仕事をしていて、母親はずっと農家で、父の退職後は夫婦で農業を営んでます。父は男3人兄弟なんですけど、かつて兄弟でブルースバンドをやっていたみたいで、この間実家に帰った時、父のレコードがたまたま出てきて。餅つきしながら聴きました(笑)。


ーRolling Stone Japan vol.05の「BREAKING THE WALL」という特集にTempalayのメンバーとして出てもらった際、2018年にハマったものとしてNetflixを挙げてくれましたよね。ドラマのタイムラインで何分何秒にどのセリフが出るとか暗記するくらい繰り返し見るって聞いて、それもまたビックリしました。

いいシーンだなぁと思ったら、同じエピソードを何度も繰り返し見ます。そうするうちに一つ前の伏線が気になってしまって、またさかのぼって見たり。ドラマでも映画でも、そういう気になる画がたくさん入ってるのをよく見るんですけど、謎解きみたいな感じで探っていくのが好きなんですよ。

ー今回のアルバムだと「被験者」って曲がありますけど、それこそNetflixのドラマのタイトルみたいですよね。AAAMYYYさんの歌詞って短編小説のような味わいがあるというか、この世界観はどこから来てるんだろう?とか、このフレーズの意味はどういうことなんだろう?って気になる「何か」が散りばめられてるなーと思って。

「被験者」は完全にNetflixの影響ですね。今回に限らず歌詞を書いてる時って、誰かと日常会話をしていて、とりとめもない話が10分くらい続いたりすると、その話をどうしたらもうちょっと語り甲斐のある内容にできるか、よく考えることがあるんです。

ー会話中に考えるんですか?

そうです。この話、どうしたら皆の引き出しを開けることができるだろうかとか、Netflixのドラマの会話など見てるとそういうポイントがめちゃくちゃ多いんですよ。絶妙なタイミングでハッとさせるようなワードが入ってきたり。
私としては、音楽って不特定多数の人が聴くものなので、(歌詞は)あんまり刺激的にはしたくない気持ちがあるんです。でも、そういうハッとさせるようなワードを入れることで、最初に聴いた時は何とも思わなかった場合でも、何カ月か経った後に同じ曲を聴いて「そういうことか」って思ってもらえるといいなっていうメッセージ性を持たせてるかもしれない。

ーなるほど。

今回は最初にあらすじを考えたんですよ。「時は2615年のβ版、陰謀まみれの政治と人々の闘争が止まらない未来都市。郊外に隠れるように佇む小さな脳科学研究所に、秘密組織が潜入した。人間らしさとは、生きるとは何なのか?」っていうSF映画のようなプロットで。それを元にワクワクしながら作りました。

「ミニマムでシンプル」を実践するAAAMYYY、謎めいた作品の奥にあるもの 

Courtesy of SPACE SHOWER MUSIC

ー会話をどう発展させていくかって話もそうですけど、脚本のお仕事とかもできそうですね。

書いてみたいです。この間『湯を湧かすほどの熱い愛』を見たんですけど、伏線のポイントがいっぱいあって、しかも脚本が映える画になっていて。脚本家の人ってスゴイなと思いました。


ーもう少し歌詞の話を聞かせてください。歌詞のインスピレーション源ですが、実体験を下敷きにしたものが多いんですか?

そうですね。割とその時に考えてたりすることがきっかけになってます。例えば「屍を越えてゆけ」は三途の川を渡るイメージで書いたんです。カナダに行っていろんな人と英語で話してると、様々な宗教の人がいることに気づくんですよ。キリスト教以外の宗教の人もたくさんいる。埋められて死ぬのが本望だって人もいれば、海に散骨したいという人もいるわけです。で、私の宗教的アイデンティティはどこにあるんだろうと考えたら、三途の川みたいなイメージに行き着いたというか。

ー深いですね。

後から知ったんですけど「俺の屍を越えてゆけ」っていうゲームが昔あったらしくて(1999年に発売されたプレステ用のRPGソフト)、昔の時代の人が呪いを解くためにどんどん代を重ねて強くなるっていうゲームらしいんですけど、それも曲と共通するところがあると思って。でも元々はタイトルを先に決めていて「俺の屍を越えてゆけ」って英語にすると「over my dead body」で、ドレイクの曲に「Over My Dead Body」っていうのがあって、それが好きだという安直な考えが一番最初のきっかけだったりします(笑)。

ー僕は『WEEKEND EP』収録の「JESUS」って曲がきっかけでAAAMYYYさんの音楽が好きになったんですけど、あの歌詞はどういうモチーフが?

あれは神頼みの曲です。
あの曲を書いた時、無宗教の人が増えているなという印象を受けていて、無宗教でいることが一つのアイデンティティであるのかもしれないけど、みんなお参りに行くじゃないですか。で、私は都合がいい時だけ神頼みしていると、悪いことが起きた時に救いが無くなってしまうかもしれないという恐怖を感じたので、そういう気持ちを歌詞にしたりして。あとは彼氏にフラれた時、自分はいいことばかりしてきたつもりだけど、そうじゃなかったかもしれないという反省とか、逆に相手はどうだったんだろうとか、そういうことを歌ってますね。

ーうーむ、深い。「彼氏にフラれて最悪。神様どうしよう」みたいな軽い感じの失恋ソングかと思ってました。

それもありますよ。そういう考え方のほうが心がラクになりますし。でもまあ、二面性があるってことですよね。

ーもっと歌詞について話したいのですが、続いてサウンドメイキングについて聞かせてください。ソングライティングはどういうプロセスで進んでいくんですか?

移動中とか外にいる時にひたすらトラックを作ってます。移動中のほうがいろんな音楽を聴いたり、景色を見たりしているので「これいいかも」みたいなアイデアが入ってきやすいのかもしれない。
Figureというスマホのアプリで土台を作って、帰宅したらDAWに入れて足りない要素を付け足したり、エディットしたりしてます。私の場合、TENDREでクルマで移動する時は自分が運転することが多いから、移動中は何もできないんですけど、Tempalayの時は席に座ってPC広げて作業することもあります。クルマの中で聴いてる音楽が例えば5分の4拍子の曲で面白いなと思ったら、アルペジエーターとかを使って4拍子の曲にそういうリフを入れたり。偶然の産物が多いです。

ー今回のアルバムはどういう感じだったんですか?

バラード調のものは歌から先に出来上がりましたね。

ーAAAMYYYさんが作るトラックも好きなんですけど、やっぱり心にグッとくるのは歌メロなんですよね。『BODY』の曲はそのメロディたちがより色鮮やかになったなぁと思って。

完成してから振り返ってみると、確かに歌メロに光るものがたくさんあったと思います。

ー「これだ!」ってメロディが思い浮かぶまでは大変ですか?

いつもそういう感じですね。トラックのストックがいっぱいあるんですけど、一応デモとして歌とかその時に思い浮かんだメロディを入れてはいるんです。しっくりこないやつはしばらく熟成させて、後々聴いてみて「こっちのメロディのほうがいいな」って差し替えたり。「GAIA」はそういう曲です。
最初は全然違うメロディでした。

ー今回はフィーチャリングのゲストも多彩です。

スペースシャワーTVの「PLAN B」って番組でニューヨークに行った時にコラボしたのが「Z(Feat. Computer Magic)」と「All By Myself(Feat. JIL)」です。現地で作って録って、日本に帰国してからミックスをして。「ISLAND Feat. MATTON」に関しては、同じレーベルのチームでもあるPAELLASのMATTONが「一緒にやろうよ」って言ってくれて。CONYちゃん(CONYPLANKTON)は初対面の時、まったく同じ格好をしていて妹みたいだなと思って、その後に彼女のバンド(TAWINGS)を聴いたらカッコよくて。CONYちゃんはギターを弾けるし、これまで女の子をフィーチャリングしたことがなかったから一緒にやったら面白いかなと思って「EYES Feat. CONYPLANKTON」で実現しました。

ー「GAIA」で<Harmony Supervisor>でクレジットされているTomoko Osakaさんはどんな方なんですか?

SANABAGUN.やSuchmosでコーラスをしている女の子です。同い年なんですけど、私が今のソロを始める前からの付き合いで。この曲のメロディの作りが面白かったので、彼女にコーラスで参加してもらいたたくて。

ー「愛のため」には<Dedicated to Takuma Oikawa>というクレジットがありますけど、Oikawaさんは?

この曲を書くきっかけになった人なんですけど、昨年秋ぐらいに亡くなった私の曲作りの師匠です。DTMのやり方をいろいろと教えてくれて、当時OikawaさんはPinag sama samaっていう2人組のユニットで活動していて。ドラムマシンで作った4小節のビートをサンプラーに入れて、そのビートを流しながらOikawaさんがギターを弾いてリフをつけて、もう一人がベースラインを入れて歌うみたいな作曲スタイルだったんです。当然かもしれないですけど、私の今の曲の作り方に似てるところがあって。

ーAAAMYYYさんの曲が、ミニマムかつシンプルなのに有機的な感触があるのは、その師匠の教えの影響もあるんでしょうね。

最近はそういうシンプルなものでも成立するんだろうなって気持ちで曲を作ってますね。ソロになる前は、音数が多くてポップス路線というか割とメジャー寄りのサウンドだったんです。それはそれですごく面白かったんですけど、昨年の一件もあって師匠の教えに立ち返るというか、ミニマルでシンプルなトラックが多くなりました。

ー昨年のバンド編成のライブも拝見したのですが、ドラム、ベース、ギター、キーボードとの絡みも堂々としていて惚れ惚れしました。個人アーティストとして活動しているAAAMYYYさんにとってバンドでのライブはどんな体験になりましたか?

めちゃくちゃ気持ちよかったです。ツーミックスでデジタルの音源を流すだけってことと比べたら、まず音の迫力が違いますよね。”人間が奏でるのがバンド”っていう当たり前のことに、2018年はTENDRE、Tempalayでステージに立ってみて、改めて感動する機会が多かったです。ソロのバンドに関しては、周りにシーケンスを流しながらライブをする人が多くて、私もそれがスタンダードなアプローチだなと思いつつ、いかにそうじゃない見せ方でできるかを探すのが今は楽しくて。

ーAAAMYYYさん独特の言語が「5人の音楽」に翻訳されているなぁと感じました。

音源とライブは別物だから面白いですよね。

ー3月には東京と大阪でリリースイベントもあります。バンドの可能性もまだまだ広がりそうですね。

バンドのメンバーそれぞれスゴい人たちなので(TENDERの河原太郎、SANABAGUN.の澤村一平、ODD FOOT WORKSのTondenheyなど)、いつも私は個性をどんどん出してくださいってリクエストするんです。ミュージシャンの方によっては、あまり個性を出さずにバックバンドに徹するのが正義って方もいると思うんですけど、音源をなぞるのではなくプレイヤーが感じるグルーヴで表現してほしいって。そうすると思いがけないものが生まれたりして、また新しい発見があるんです。知らない間にミュージシャンとして成長できたりするから、バンドは面白いですね。

「ミニマムでシンプル」を実践するAAAMYYY、謎めいた作品の奥にあるもの 

『BODY』
AAAMYYY
SPACE SHOWER MUSIC
発売中

01. β2615
02. GAIA
03. 被験者 J
04. Z (Feat. Computer Magic)
05. ポリシー
06. ISLAND (Feat. MATTON)

07. 愛のため

08. All By Myself (Feat.JIL)

09. 屍を越えてゆけ

10. EYES (Feat. CONYPLANKTON)

<ライブ情報>
「BODY~屍を越えてゆけ~」
2019年3月9日(土)渋谷 WWW

2019年3月30日(土)大阪 CONPASS

https://spaceshowermusic.com/artist/12483693/

編集部おすすめ