一般的な謳い文句の表現を借りれば、売春の非犯罪化は「今が旬」。ニューヨークのジュリア・サラザール議員とジェシカ・ラモス議員は、ニューヨーク州を売春の非犯罪化第1号の州とする法案を提出。
セックスワーカーの権利がここへきて新たに注目されるようになり、女性の権利や労働者の権利に味方する時代風潮も相まって、2020年の大統領選に出馬を表明する民主党候補は、これまで全国レベルでの会話では周辺に追いやられていた問題に取り組むことが求められている。だが、そのうち何人がそうするかどうかは分からない。
ひとつ例を挙げると、ヴァーモント州選出の無所属バーニー・サンダース上院議員は、最近行われたラジオ局The Breakfast Clubとのインタビューで売春の非犯罪化について尋ねられると、「いい質問ですね。私から申し上げることはありません」と答えた。
サンダース議員の反応は注目を浴びた。ひとつには、2020年大統領選にあたってこのような質問を受けた候補者は、彼が初めてではないことが挙げられる。カリフォルニア州選出の民主党サマラ・ハリス上院議員は、地方検事だった2008年、サンフランシスコの売春非犯罪化法案に反対した経験がある。また最近では、非犯罪化の問題に180度態度を転換したことがニュースになった。「そう思います。
ただし、同じインタビューの中でハリス議員は、セックスワーカーたちから差別的で害を及ぼしかねないと批判されているSESTA/ FOSTA法案支持の立場を強調することも忘れなかった。「Backpageを運営していた人々のやり方は、我々の生活に首を突っ込み続け、若者を商品とすることで儲けていました。ですから私はサイトの閉鎖を訴えたのです」 セックスワーカーの広告を掲載していたwebサイト、Backpage.comに言及して議員はこう発言した。「あのような決断をしたことに後悔していません」 セックスワーカーの権利を支持する人々は彼女の態度に納得してはいないものの、サンダース議員とハリス議員が全国レベルで非犯罪化について問われたこと自体が重要なのだと、ニナ・ルーオ氏は言う。ニューヨーク州での売春非犯罪化を推進する組織DecrimNY運営委員会のメンバーだ。「いまや全国レベルでの議論になりつつあります」という彼女は、「ジャーナリストがこの問題を取り上げるのは……以前よりも世間がこの問題を重視しているからです」
ハリス議員の方向転換は、セックスワーカーの権利問題が全国レベルで知名度を上げていることを如実に表している、と言うのは、ピッツバーグシティペーパー紙のセックスコラムニスト、ジェシー・セイジ氏。支援団体SWOPピッツバーグの主宰者で、風俗業界情報を発信するポッドキャストPeepshowで共同司会者も務めている。「風俗業界はハリス議員を信用していません。(非犯罪化に対する彼女の支持コメントで)彼女が何を言いたいのかもよくわかりません」とセイジ氏。「ですが、この問題に言及するのが政治的に有利だと彼女が判断したことは重要だと思います。世の中の風潮が変わりつつあるのです」こうした世論の変化は数字の上でもはっきり表れている。
こうした認知アップの推進力となったのは、Backpageなど性犯罪絡みのオンライン人身売買の対策法案SESTA/ FOSTAへのあおりだ。表向きは、女性たちが自らの意思に反して人身売買されるのを防ぐのが目的だが、セックスワーカーたちはみな、最終的に逆効果だったと主張している。「業界にかかわる大勢の女性が、街に出て仕事をしなくてはならなくなり、安全ではなくなりました」というのは、セシリア・ジェンティリ氏。元セックスワーカーで、現在はDecrimNY運営委員会で活動している。

バーニー・サンダース議員は売春の非犯罪化に中立の立場を表明し、カマラ・ハリス議員は支持に回った 写真提供:Pete Marovich/EPA-EFE/REX/Shutterstock, Elise Amendola/AP/REX/Shutterstock
法案は売春の闇化の背中を押したかもしれないが、セイジ氏はそれでも、セックスワーカーの権利問題を表舞台に引き上げるという想定外の効果があったと考えている。「FOSTA/ SESTA法案の影響で、これまでにないほどセックスワーカーたちは一致団結しています」と彼女は言う。「こうした団結がセックスワーカーに関する世論に変化をもたらし、セックスワーカーの権利をメインストリームに押し上げています。その結果、いまでは大手新聞も風俗業界に悪影響を及ぼす法体制を記事にするようになりましたし、セックスワーカーの寄稿記事も掲載されるようになりました。こうした流れをうけて、大統領選候補者らは選挙キャンペーンでセックスワーカーの問題に触れざるを得なくなるでしょう」
ダニエルズの存在が全国レベルで知れ渡るようになったことも、セックスワーカーの権利が公共の話題に上る後押しになったといえよう。特に彼女はメディアでセックスワーカーの権利向上を声高に主張してきた。
セックスワーカーの権利問題が新たに注目を浴びる一方、The Breakfast Clubでのサンダースの発言からは、この問題をタブー視するある一定の懸念があることも否めない。「おそらく彼は、政治的にリスクが高いと思ったのでしょう」とルーオ氏は言う。ジェンティリ氏も同じ意見だ。「(彼の考えは)『売春問題に触れなければ、ロングアイランドの主婦層をごっそり獲得できる。なら、そうしよう』とんでもない。いまの時代、あるコミュニティを避けて別のコミュニティに媚びる、というのはもはやまかり通らないことを、候補者もそろそろ理解するべきです」
だがジェンティリ氏のような元セックスワーカーは、売春が公の場でおおっぴらに議論されるようになったこと自体が、世論の変化の現れだという。「10年前、私は売春のために監禁され、そのせいで拘留されました。留置所から出てきたとき『こんなのおかしい』と思いました」と本人。