インターネットにおけるストレートの男性の人口比率に注目してみると、アメリカは危機に瀕している――オピオイド中毒や学生ローン、性的虐待や警察の銃撃事件、有色人種の低所得層に対するヘルスケア問題や、気候変動とは全く関係がない。真の危機は、男性がセックスしなくなっているということだ。そして男性側も、なんとかしてくれと訴えている。
もちろん、この問題自体は決して真新しい話でもない。インターネットは常々、あらゆる年代、あらゆる性別の人々に、人生の様々な局面における怒りや不満をぶつける場を提供していて、そうした不満には満足できないセックスライフも含まれている。だが、若い白人男性の主張がますます声高になり、欲求不満が惨事を引き起こすことが判明している中、新たな調査結果が発表され、男性陣の不満を勢いづかせている。
シカゴ大学の総合社会研究センターが発表した調査結果によると、調査対象となったアメリカ人のおよそ1/4つまり成人の23%が、この1年セックスしていないと答えた。セックスをしていない成人の割合が9%だった2008年から、大幅に増加している。こうした傾向はとくに18~30歳の若い男性の間で顕著にみられ、若い男性の28%がこの1年セックスをしていないと答えたという。これに対し、若い女性の場合は18%だった。
こうした減衰傾向の理由ははっきりしないが、調査内容を報じたワシントンポスト紙の記事は、いくつかの考えられる理由を挙げている。ひとつには、スマートフォンが広く普及したこと(多発する怪しげなセックスやデートの要因としてしばしばやり玉にあがっている)。
だた、いわゆる「セックス危機」の責任が社会悪にあるとか、危機が延々と続いている原因を女性だけに見る意見にはいまひとつ納得しかねる。男性の権利を話題にするサブレディットは今、この手の議論でもちきりだ。
r/BlackPillScience(人間の性的行動をエセ科学的見地から論じるフォーラム)やr/mensrightsといった様々なページで、多くのユーザーが調査結果に救われたと感じている。調査結果の原因として、女性のセックス基準が次第に(彼らの言葉を借りれば、不当に)高くなったことや、「女性たちが自分の性的思考を、限られた男性たちに集中させるようになった」ことなどを挙げている(不本意にも禁欲生活を強いられている者たちの間では、こうした現象は「80:20の法則」と呼ばれている。もともとは経済用語だが、この場合は、恋愛市場で80%の女性が20%の男性に集中している状態を指す)。
これは明らかに大問題だ――男性が吐露する欲求不満やうっぷんが間違っているからではない。こうしたフォーラムに蔓延するコメントが(例えば、女性や女性の権利向上自体が男性からセックスを「奪っている」というコメント)が、恐ろしい引き起こすことが判明しているからだ。禁欲者のコミュニティは、数々の女性に対する暴力事件につながっている。
女性は男性にセックス「させてもらっている」という発言――セックスという特権をはく奪された男性が、残虐な暴力行為に走るという発言――の拡散には、オンライン上の危険な女性嫌いの男たちだけでなく、良識のあるまともな人々も加担しているようなのだ。オルト・ライトの主導者ジョーダン・ピーターソンが人々を惹きつけてやまない理由のひとつは、自己責任を解く彼の基本メッセージが明快で分かりやすいというのがある。だがそのために、性的欲求不満な男たちが大量殺人を犯すのを防ぐのに、一夫一妻制の法制化を求める彼の主張は見過ごされがちだ。デートアプリでうまくゆかず、欲求不満気味のストレートの男性と話をした人ならわかると思うが、彼らとの会話はTinderやBumbleに対する一般的な不満から始まって、すぐに80:20法則のような数字に特化した、一見筋が通って見える主張へと移っていく。禁欲主義と欲求不満は本来違うものだが、最近ではその境界線も徐々にあやふやになってきている。