昨年8月にリリースされたミニ・アルバム『なんて素晴らしき世界』は、オリジナル・メンバーの竹内祐也(Ba)が脱退し、以前からサポートを務めていたAAAMYYY(Cho, Synth)を正式メンバーに迎えた新体制で作り上げた初の作品だった。
これまでの作品同様、すべての作詞作曲を手がけるのは小原綾斗(Vo, Gt)。ふと立ち現れる、日常の亀裂をそのまま音にしたような、聴く前と聴いた後では世界のありようがすっかり変わってしまうような、そんな楽曲を作り続ける彼は普段、どんな日々を過ごしているのだろうか。
「基本、出不精なので家で過ごすことが多いんですよ。出かけるとしても、1人なら映画を観に行く。混んでいるのが嫌いなので、なるべく人がいない時間帯に単館系の映画館に行きます。何を観るかは、とりあえず行ってみてその場で決めることが多いかな。新宿のシネマカリテなんかは、割といい作品が揃ってますよね。あと、都心からちょっと離れたシネコンとかも、昼間はスッカスカで最高に気持ちいいですね。いい飛行機に乗っているみたいで(笑)」
お気に入りの作品は、人間の狂気や暴力性をテーマにしたものが多いという。
「コーエン兄弟の『ファーゴ』や『ノー・カントリー』。自分がだらしない人間なので”下克上モノ”や、日本のヤンキー映画も好きですね。初期の『岸和田少年愚連隊』や、仲村トオルがやっていた頃の『ビー・バップ・ハイスクール』とか。

そういった感覚は、多かれ少なかれ誰にでもあるものではないだろうか。いわゆるサイコスリラーやバイオレンス、ホラー映画に人が惹かれるのも、自分の心の奥底に潜む”狂気”や”暴力性”に触れてみたいという衝動があるからだと筆者は思う。
「あと、昔から巨大なものが好きなんですよね。例えば牛久大仏とかもそうですが、巨大なものに対してものすごい恐怖感を覚えつつ、同時に美しさを感じるというか。それって、幼少期に川で溺れかけたことと関係している気がします。川の真ん中ってむちゃくちゃ深いんですけど、川底には巨大な岩がゴロゴロしているんですね。それを覗き見た時に”死”を感じたというか」
その時の体験がきっかけとなって、「死」に取り憑かれるようになったという小原。
「そういう衝動は今でもずっとあって。高校生の頃はちょっと自分が怖かったですね。のちに音楽をやるようになって、その衝動がより加速している感じはあります(笑)。でも、はけ口が音楽に移行したことで、なんとか正気を保っているのかもしれない。家族とは離れて暮らしているけど、メンバーやスタッフという”守るべき存在”も増えたことで、踏みとどまっているところはありますね」
そんな話を聴きながら、小原がフェイバリット・ムービーに挙げている北野武監督作品『ソナチネ』のことを筆者は思い出していた。ビートたけし扮する北川の、「あんまり死ぬのを怖がっているとな、死にたくなっちゃうんだよ」という有名なセリフは、小原の「死」への衝動に近いものがあるのではないか。
「実は、今作っているアルバムの中に”そなちね”というタイトルの曲があるんですよ。初めて観たのは中学生の頃で、まず『映画体験』として衝撃的だったんですけど、最近改めて観たら”見え方”が少し変わってたんです。あの映画って、親に恵まれなかった人たちの末路を描いているんだなって。帰る場所がない彼らが唯一見つけた”一瞬の安息の地”が沖縄なんだけど、結局のところ帰る場所はもう”死”しかない。それに気づいたのは冒頭のシーンなんです。

そう話しながら、タバコに火をつける小原。お気に入りの銘柄は「アメリカンスピリット」で、曲を作っていて煮詰まった時や、酒を飲む時に吸うことが多いそうだ。映画には印象的な喫煙シーンが多いが、小原の記憶に残っているのはどんな映像だろうか。
「『タクシードライバー』のラストシーン近くで、血まみれになって倒れたトラヴィスが吸っているところは忘れがたいですよね。あと、戦争映画の喫煙シーンっていつもメッチャ美味そう。あれ、なんなんですかね(笑)。今年オスカーをとった『グリーンブック』にもめちゃくちゃタバコを吸うシーンがありましたけど、最近TVではすっかり無くなりましたよね。『ロンバケ』で、キムタクがタバコを吸うシーンとかメッチャかっこよかったのになあ」
そんな小原は、着ている服や使用する楽器にも彼らしい「こだわり」がある。ギターはGalantという、イタリア製の一風変わったモデルを愛用し、服はもっぱら古着。どちらも「ダサさ」すれすれの「カッコつけないカッコよさ」を追求しているように見える。
「古着は中学生くらいからずっとハマってますね。人とかぶらないところが好きだし、『どこで作ったのこれ?』みたいな、ダサイものが好きなんですよ。ギターも一緒です。『ギターなんて音よりルックスや!』という思いと『人とかぶらないもの』を追求した結果、ここに辿り着いたという感じ。だけど、ルックス優先なんで如何せんサウンドはクソなんですよ(笑)。会場のキャパが大きくなってくると、『届かない』という問題が出てきてしまって。最近、あまり使えてないんですけど、相変わらずヘンな形のギターを見つけると買ってしまいますね」
さて、小原率いるTempalayの来るべきニューアルバム『21世紀より愛をこめて』(6月リリース予定)は、一体どんな作品になるのだろうか。
「もうほぼ完成していて、かなり攻めた内容というか、前作の延長線上とかではなく、全く新しい世界が広がっている気がしていますね。ここ1年で明らかにお客さんも増えたし、関わっている人も変わってきている。自分たちがどんなものを求められているのかも理解しているんですけど、そうすると天邪鬼な性格なもので『期待されていること』の真逆をやりたくなっちゃうんですよ。しかも、それで出したサウンドがメイン・カルチャーとなるような工夫を、もっと自分たちでしなきゃいけないなっていう”勝手な使命感”に燃えているところですね(笑)」

自分たちの「攻めの姿勢」を、照れ隠しからかそう茶化して表現した小原。
「僕らのような音楽が、こうやって受け入れられているのはすごく素敵なことだなと。ただ、今いる場所は一過性だと思っているんですよね。運とタイミングもあったんでしょうけど、僕の知らない場所で、何かしらのキッカケがあって売れているに過ぎなくて。それに説得力を持たせられるかどうかが、今後の動員に繋がっていくんでしょうね。一過性で終わらないようにするためには、もっともっとたくさんの人を巻き込んでいく必要がある。しかも自分たちの”自由”を見失わないようにすること……それがTempalayの今後のミッションですね」
撮影協力:CHOP COFFEE
<リリース情報>
『21世紀より愛をこめて』
Tempalay
SPACE SHOWER MUSIC
6月5日発売
<ツアー情報>
Tempalay TOUR「21世紀より愛をこめて」
2019年6月6日(木)京都・磔磔
2019年6月21日(金)石川・金沢GOLD CREEK
2019年6月22日(土)新潟・GOLDEN PIGS BLACK STAGE
2019年6月23日(日)宮城・spaceZero
2019年6月28日(金)岡山・ YEBISU YA PRO
2019年6月29日(土)大阪・Shangri-La
2019年6月30日(日)愛知・APOLLO BASE
2019年7月3日(水)東京・LIQUIDROOM
2019年7月5日(金)福岡・THE Voodoo Lounge
2019年7月6日(土)広島・CAVE-BE
2019年7月7日(日)香川・高松TOONICE
2019年7月20日(土)北海・BESSIE HALL
https://tempalay.jp/