1992年9月9日、写真家のKevin Mazurはローリングストーン誌の依頼を受けてMTV Music Awardsに出向いた。
生放送の同番組で、カート・コバーンが物議を醸した新曲「レイプ・ミー」を演奏しようとしているという話を耳にし、MTV側はパニック寸前になっていた(当時生まれたばかりだった娘、フランシス・ビーン・コバーンを身ごもっていた間にコートニー・ラヴがヘロインを服用していたという噂が流れたことで、現場の緊張感は一層高まっていた)。しかし彼がバックステージで鉢合わせたグランジ界のビッグカップルは、予想に反してとてもフレンドリーだったという。
「フランシスを抱いたコートニーがトレイラーから顔だけ出して、『あんた誰?』って言ったんだ」Mazurはそう話す。「彼女は間髪入れずに『ねぇカート、彼なかなかクールよ』なんて言って、『私たち3人の写真を撮ってくれない?』って頼んできた。カートとの付き合いはその時から始まったんだ」
カート・コバーンの死から20年の節目となった2014年に、Rock Paper Photoはニルヴァーナの秘蔵写真の数々を公開した。その一部であるMazurによる写真を以下で、本人のコメント共に紹介する。

Kevin Mazur Courtesy of Rock Paper Photo
1992年のVMAsにて、メンバーのデイヴ・グロールとクリス・ノヴォセリックと共にポーズを決めるコバーン。「全員すごく楽しそうだった」Mazurはそう話す。「3人一緒の時はいつもそうだったね。

Kevin Mazur Courtesy of Rock Paper Photo
それから1年後の1993年10月、Mazurはローリングストーン誌の依頼を受け、ニルヴァーナの『イン・ユーテロ』ツアーの2公演に同行している。この写真はシカゴのAragon Ballroom公演でのサウンドチェック中に撮影されたものだ。「この仕事の依頼をもらった時は興奮したね」Mazurはそう話す。「こういうカジュアルな写真を撮りたくて、予定よりも早く会場入りしたんだ。カートはくたびれたプロケッズのスニーカーを履いてる。彼らは服装やメイクなんかをまったく気にかけなくて、すごく好感が持てた。ロックンローラーはやっぱりこうでなきゃと思うね」

Kevin Mazur Courtesy of Rock Paper Photo
Mazurはシカゴでのライブに衝撃を受けたという。「カートは客席にダイブして、セキュリティは彼を捕まえようと必死になってた」彼はそう語る。「オーディエンスに流されていく彼は、まるで宙に浮いているかのようだった」
その翌日、彼は写真を早速現像に出した。カートがチェックしているのは、前日のライヴ写真のスライドだ。

Kevin Mazur Courtesy of Rock Paper Photo
その翌日に行われた、ミルウォーキーのMECCA Auditoriumでのサウンドチェック中に撮影された一枚。とりわけ目につくのは汚れた靴下だ。「シカゴでの公演で客席からステージに連れ戻された時、彼は靴を履いてなかった」Mazurはそう話す。「モッシュした時に無くしたんだってさ。翌日になっても、彼は靴下で歩き回ってた」

Kevin Mazur Courtesy of Rock Paper Photo
Mazurがこの写真を撮ったのは、カートがミルウォーキーでの公演後にバックステージであるファンと交流した直後だ。「カートがその顔見知りらしき男性に『よう!サインか何かが欲しいのかい?』と声をかけると、彼はこう答えた。『そうじゃないんだ。あんたにこれを渡したくてさ』そう言ってその男性が差し出したのは、彼がドラッグを1年間絶つことに成功したことを証明するコインだった。

Kevin Mazur Courtesy of Rock Paper Photo
ミルウォーキーにて、1歳のフランシスとじゃれ合うカート。「彼の写真の中でも、これは僕の一番のお気に入りなんだ」Mazurはそう話す。「彼のミュージシャンとしての才能や、様々なトラブルのことは誰もが知ってる。ドラッグ癖を含む、彼のダークな一面についてもね。でも僕は、彼の異なる一面をこの目で見たんだ。フランシスとじゃれ合ってるこの時のカートは、本当に幸せそうだった。彼女のことを愛してるんだなって思ったよ」

Kevin Mazur Courtesy of Rock Paper Photo
サウンドチェックとコンサートの間に、誰かがカート用の新しいスニーカーを調達してきた。「彼は何をするでもなく、ただそこに座り込んでた。

Kevin Mazur Courtesy of Rock Paper Photo
ミルウォーキーでのライブ中に撮影された1枚。「彼はオーディエンスの前でおどけてた」Mazurはそう話す。「パジャマのトップもすごくいいと思った。音楽を何よりも大切にした彼は、自分の見た目にはとことん無頓着だったんだ」

Kevin Mazur Courtesy of Rock Paper Photo
ミルウォーキーでのショーの後、コバーンはMazurに向こう数日間バンドのツアーに同行しないかと誘った。「残念ながら、ローリングストーン誌の別の仕事が入ってて、翌朝には飛行機で戻ることになってたんだ」Mazurはそう話す。「死ぬほど悔しかったよ」
その数週間後の1993年12月、シアトルから生中継されたMTVの『Live and Loud』の舞台で、Mazurはバンドと再会している。「これはサウンドチェック中に撮った1枚だよ」Mazurはそう説明する。「会場はジメジメとした、薄暗い倉庫みたいなところだった。だから彼はセーターを着てるんだ。

Kevin Mazur Courtesy of Rock Paper Photo
「彼らがステージに立った途端、観客のボルテージは最高潮に達した」Live and Loudでのショーについて、Mazurはそう語る。「キッズたちがあちこちでモッシュしまくってた。文字通りのプラチナチケットだったからね」
しかしManzurは、カートの様子に異変を感じとっていた。「1ヶ月前の彼とは何かが決定的に違ってた」Manzurはそう話す。「1ヶ月間の間に、彼は別人になってた」
その4ヶ月後、コバーンはこの世を去った。「彼が自殺したと知って、僕は彼の写真を見返した」Mazurはそう話す。「これらの写真を見てると、感極まって涙が止まらなかった。彼がもうこの世にいないなんて信じられなかったんだ」
写真: Kevin Mazur
インタビュアー: Simon Vozick-Levinson