アルバカーキにあるこの施設は、患者の1人がヴァンパイア・フェイシャルの施術後まもなく「何らかの感染症」にかかったと報道され、昨年閉業している。
ニューメキシコ保健局では、2018年5月または6月に同スパでヴァンパイア・フェイシャルを受けた患者に対し、HIVおよびA型・B型肝炎の検査を受けるよう勧告した。同保健局の広報担当者、キャシー・カンケル氏は最新の声明の中で、スパ施設の元顧客100名がすでにHIV、A型・B型肝炎の無料検査を受けたことを明らかにし、市としては「注射を伴う治療を受けた方にも、検査とカウンセリングサービスを提供してゆきたい」と述べた。さらに、2名の患者がHIV検査で陽性反応が出たことから、両者が同じ感染ルートをたどった可能性が高いとも語った。
幸いなことに、2名の患者の他には元顧客でHIV陽性反応が出た者はいなかったと、ニューメキシコ保健局のデイヴィッド・モーガン広報部長はローリングストーン誌に宛てた声明で述べた。また、「こうした美容施術を直接規制する法律はないものの……ニューメキシコ保健局では、施術を受ける前に内容をしっかり把握しておくよう、人々に呼びかけています」とも付け加えた。
もともとヴァンパイア・フェイシャルは、キム・カーダシアンによって人気に火が付いた(施術後の写真を自撮りし、Instagramに投稿していたことで有名)。正式名称は多血小板血漿(PRP)療法。具体的には、患者の腕から血液を採取し、遠心分離機で多血小板血漿と赤血球に分離する。多血小板血漿には肌のコラーゲンと弾力性を高める成長因子が多く含まれると言われ、それにより若見え効果が得られるという。患者はまずマイクロ・クリスタルピーリングを受けた後、血液から採取した血小板を、いわばフェイシャルマスクのような感じで肌に塗布される。「PRPは体内の天然成長因子やサイトカインに働きかけて肌を修復し、健康的な新しい肌繊維を再生して、コラーゲンの生成を促します」というのはジュリー・ラサック博士。
PRP療法はポピュラーだが、十分に研究された施術とはいえない。PRP療法がけがの回復プロセスを速める効果があるとする研究結果もあるが、たとえば小じわやしわの除去に効果的だという証拠はどれも信ぴょう性に乏しい(ただし、2018年に行われた小規模な研究では、「光老化肌の数値改善」に作用する可能性が示唆された)。
有資格の医療関係者が施術することになっているものの、需要増加のため不認可クリニックでも施術が行われるようになっている。こうした傾向を誰よりも嘆いているのが、チャールズ・ラネルズ医学博士だ。細胞医学学会(CMA)の創設者である彼は、何を隠そうヴァンパイア・フェイシャルとヴァンパイア・フェイシャルリフトの生みの親。2010年、最初にヴァンパイア・フェイシャルリフトで商標登録し、その後ヴァンパイア・フェイシャルも商標登録した。
ラネルズ博士は、ニューメキシコ州の件でのウィルスの詳しい感染経路はわからないとしながらも、おそらく施術者が廉価版の装置を使っていて、そこに他の患者から採取した血液が付着していたために二次感染したのでは、とにらんでいる。「施術者は私の研究チームにいたわけでも、私のもとで訓練を受けたわけでもないのに、勝手に私の名前を悪用してしていたのです」とラネルズ博士はローリングストーン誌の取材に答えた。または、施術で使われた注射針の廃棄方法が不適切だった可能性もある。「我々はマイクロニードリング用と、消毒済みの施術ツールしか使いません。いずれも施術の度に施術室で開封します。
訓練を受けていない従業員がから血液を採取され、顔に塗られるのを喜ぶ人がいるとは思えないが、ラネルズ氏いわく、驚くほど日常的に行われているという。「先週は知的財産に関する勧告書を300枚も出しました。去年は弁護士費用に80万ドルもつぎ込みましたよ」という彼は、非正規ヴァンパイア・フェイシャル施術者の拡散ぶりをこのように例えた。「ハンバーガーの屋台にマクドナルドのロゴをくっつけても、マクドナルドにはなれません。そこのハンバーガーは美味しいかもしれませんが、実際はヤギの肉かもしれないのです」