「グアテマラ野郎」、「TONK」、「非人ども」…米国境警備隊員によるショッキングなテキストメッセージの数々が、先日公開された。政府支給のピックアップトラックで、移民を故意的にはねたアリゾナ州の国境警備隊員の裁判で明らかになった、国境警備隊の堕落したカルチャーの内幕とは?

不法入国した23歳のグアテマラ人男性を政府支給のフォードF-150でひいた容疑がかかる米国境警備隊のマシュー・ボーエンは、事件の数日前、同僚へあるテキストメッセージを送っている。
連邦検事は、メッセージの内容が「拘束する外国人に対する彼の認識」を露呈していると主張している。ボーエンは同僚とのやり取りの中で、同僚に向かって投石した不法移民を「無知で野蛮な殺人者」や「たき火の燃料にもならないむかつく非人」などと罵った。また、「トランプよ、お願いだから俺たちの本領を発揮させてくれ!」と米国大統領に対する嘆願のメッセージも見られる。

メッセージの送信から2週間後の2017年12月3日、ボーエンはアリゾナ州ノガレス周辺をパトロール中、米国側へ不法に侵入しようとする移民を発見した。連邦宣誓供述書によると、男性の名前はアントリン・ローランド・ロペス=アギラル。彼は不法入国後に身を隠していたが、「拘束されることを恐れて」ノガレスの入国ポイントへと走って戻ろうとしていたという。

ロペス=アギラルを発見したボーエンは、徒歩でなく、国境警備隊の間で「キロ・ユニット」と呼ばれる公用車で追跡した。宣誓供述書によると、ボーエンは運転する「トラックのフロントグリルをロペス=アギラルの真後ろに近づけた」というが、その様子は車載カメラの映像にも記録されている。襲いかかるF-150に対しロペス=アギラルは「迫る車のボンネットから逃れようと背を向けた」が、ボーエンは「ロペス=アギラルの背中へ向けてキロ・ユニットを加速させ、彼を地面に押し倒した」という。ボーエンの運転するフォードは「地面に横たわるロペス=アギラルをひく寸前で」急停止した。

現在39歳のボーエンは2018年5月、2件の容疑で起訴された。1件目は人権に対する違法行為で、検察によるとボーエンは「逃走する脅威でない人間に対して殺傷する可能性の高い方法」を選択した、としている。
2件目は「自分の犯罪を隠蔽しようとした」司法妨害の容疑だった。ボーエンはいずれの容疑に対しても無罪を主張している。(裁判資料によると、ロペス=アギラルは擦り傷を負ったものの、深刻な状況ではない。また合衆国への不法入国の軽犯罪に問われ、懲役30日の刑を受けたという。)

ボーエンの公判は2019年8月に始まる予定だが、彼の裁判のおかげで、米国境警備隊の荒廃したカルチャーに既に注目が集まっている。米国境警備隊は税関・国境警備局の法執行機関のひとつで、国境へ押し寄せる移民に対応している。また、未成年者に対する身体的・性的虐待や、移民を”犬の檻”レベルの劣悪なシェルターに収容したりと、あらゆる悪事が横行している疑惑もかけられている。

ボーエンと同僚隊員とのテキストメッセージのやり取りは被告弁護人から提出されたものだが、彼らはメッセージを裁判の証拠から除外しようと働きかけている。メッセージの内容を見ると、「guat(グアテマラ人に対する差別的呼び名)」や「fucking beaners(ヒスパニック系に対する差別的表現)」などという侮辱的な悪口は日常茶飯事で、さらに不法移民への暴力行為はただのジョークとしてまかり通るような職場環境が窺える。

テキストメッセージ全般に見られるように、不法移民は「tonks」と呼ばれている。国境警備隊による過剰な権力の行使を告発した2004年の連邦裁判では、「tonk」を「”ウェットバック(不法移民のメキシコ人)”の頭を懐中電灯で殴った時の音」と表現している。テキサス大学エルパソ校で人類学を教えるジョサイア・ヘイマン教授による国境警備の実態調査によると、1990年代初頭から国境警備隊は「tonk」という言葉を使用しているという。
「階層制度の中のひとつの地位を表す」と教授は、国境警備隊員と不法移民との関係について解説する。「不法移民は殴ってもよい人々として扱われているのだ。」

(国境警備隊を擁護する者の中には、「TONK」は単に「Territory of Origin Not Known(出自不明者の意)」の略称か、「TONC」=「Temporarily Outside Native Country(母国外への仮出国者の意)」の代替スペルだとする者もいた。ヘイマン教授は、これら言葉の定義を「作為的」だとし、TONKという言葉は「国境警備隊自身によって、人が殴られる音として明確に定義された」ことを強調している。)

ボーエンが送信したテキストメッセージは、連邦捜査令状により押収された。裁判所は彼のメッセージを、「攻撃的な人種差別主義者と認識される可能性のある文書」と一括りにしている。被告弁護側は「移民に対する侮辱的な表現やボーエン氏の政治信条に基づく発言は、本法定で連邦政府が証明しようとしている違反行為のいかなる要素にも影響しない」として、テキストメッセージは裁判の証拠から除外されるべきだと主張している。

一方の検察側はボーエンが発信したテキストメッセージの一部を引用し、彼は「有罪の証明に関係する証拠を除外しようとしている」と以下のように主張している。

被告は、国境警備隊が「拘束から逃れようとする不法移民を逮捕する」にあたり隊員に課す制限が厳しすぎると考えている。今回の裁判においてこの考え方は、逃走する移民の逮捕を確実に実施するため被告が故意にF-150を使用したのではないか、ということに関連する。被告は、現場で彼が対応した移民たちが「たき火の燃料にもならないむかつく非人」だとみなしている。従って、車で相手をひくという深刻な危険性があったにもかかわらず、不法移民の逮捕にF-150を使用したのは適切だ、という被告の考えにつながったと思われる。

検察によるとボーエンは、他の車両の動きを封じる運転テクニックを人間に対して使ったことについてもテキストメッセージに書いている。
「逃げるグアテマラ人に、F-150で人間版PIT行動を仕掛けてやった」とボーエンは事件のあった翌日に、同僚の隊員に送信している。「カメラで撮影していたし、誰もが俺が奴をひいたと思っただろう。結局そのtonkは全く無事だったけどな。フォードのバンパーでちょっと押してやっただけだ。」

政府によると「PIT」は「Precision Immobilization Technique」の略で、法執行機関の車両が、逃走するターゲット車両に体当たりしてスピンさせることで停車させ、動きを封じるテクニックだという。検察側は、「”人間版PIT行動”は正式な法執行の用語ではないが、今回告発されている被告の行為を的確に言い表している」と主張する。さらに一般には公開されていないが、現場で記録された証拠ビデオもあるという。

事件で自分が深刻な状況になる可能性のあることに気づいたボーエンは、すぐさま言い分を変えた、と政府は主張している。検察は、事件から約1週間後にボーエンが同僚へ送ったテキストメッセージも引用している。「俺は、あれは故意でなく事故だったという追加の報告書を提出した。それから新型F-150のアクセルの反応に慣れていなかったとも書いた。」

被告弁護人は、ボーエンによるテキストメッセージの一部を、裁判の証拠から除外することができるかもしれない。ある判事は、今回罪に問われている被告の行為は「計画性がなく」、「衝動的な事件」だったとして、「非人ども」などの記載を含む事件以前に送信されたテキストメッセージについては、証拠から排除すべきだと勧告した。テキストメッセージを証拠に含めるかどうかの審理は、2019年7月初旬に行われる予定だ。


今後開かれる裁判以上に、国境警備隊のボーエンと同僚との間で交わされたテキストメッセージは、同組織内のカルチャーに対する疑問を提起している。あるメッセージでは、テイザー銃による電気ショックの威力を強めるためのオイルの使用が、同僚とボーエンとの間でジョークとしてやり取りされている。「普通のピーナツオイルを塗ってテイザー銃を当てたことはあるか? 肌がチリチリ焼けるんだ」という同僚からのメッセージに対し、ボーエンは「グアテマラ野郎は地元のオリーブオイルでカリカリに美味しくできあがるぜ」と答えている。

税関・国境警備局(国境警備隊の上部組織)の報道官からは、「tonk」の意味や、「guat」や「beaner」などの言葉遣いについての内部ポリシーがあるかどうかの質問に対して回答をもらえなかった。国境における虐待問題を告発した米国市民自由連合(ACLU)による2018年の報告書に対し、税関・国境警備局は「当組織に所属する男女スタッフは皆、プロとして自らの職務を果たしている。そして誰に対しても等しく尊厳と敬意をもって対応している」と反論した。ボーエンの代理人はインタヴューを拒否し、ボーエンが「tonk」という言葉が移民の頭を殴る音を意味すると理解しているかどうかなど、具体的な質問にも答えていない。

被告弁護人は批判を和らげる目的で、「tonk」という言葉を含む「人種差別主義的または攻撃的」と思われる可能性のある内容のテキストメッセージを、別の観点からグループ化している。さらにボーエンの弁護人は裁判所に対し、証拠として採用されるメッセージ中の「tonk」という語句を編集するよう求めた。弁護側は「”guat”や”tonk”などの言葉は”移民”と置き換え、それら言葉の使用から来る偏見を排除すべきだ」と主張している。弁護側の申し立てによれば、もしもそれらテキストメッセージが未編集のまま証拠として採用されるならば、「ボーエン氏は、それら言葉が国境警備隊のトゥーソン支部全体では日常的に使用されており、組織のカルチャーの一部である、と立証するだろう」という。

国境警備隊による暴力は、単なるレトリックではない。
前出のテキサス大学エルパソ校のヘイマン教授は、2013年に実施した研究『Bordering on Criminal: The Routine Abuse of Migrants in the Removal System』(Immigration Policy Center)を共同執筆している。同研究では、調査対象の最近強制送還された1000人の移民の内11%が、米国当局による身体的虐待を経験していることが明らかになった。さらに虐待を訴えた人の3分の2(67%)は、国境警備隊からの被害者だった。同研究の著者は、国境警備隊が組織内に存在する一部の「腐ったリンゴ」による行動に苦労している、という考えを否定し「米国で拘留中の移民に対する虐待は、組織内で培われてきたカルチャーの問題だ」としている。

実際に「tonk」という言葉は、国境警備隊内の慣習と関係しているようだ。ProPublicaは最近、国境警備隊や税関・国境警備局による虐待を受けたとされる200人以上の移民の子どもを調査した。レポートでは、頭部に裂傷を負い3針縫ったある少年が、懐中電灯で頭を殴られたと主張している事例などを紹介している。同レポートによると「殴られ、テイザー銃を当てられ、食事や薬を与えられない子どもたちもいた。懐中電灯で殴られた例が特に多い」という。
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