もはや言うに及ばず日本における音楽フェスのオリジネイターであり、その最高峰として国内のみならず世界中のミュージックラバーから愛されているフジロックフェスティバル。
そして、99年に開催された第1回から──もちろん”フェス飯”というワードが生まれるはるか以前から──フジロックは食文化にもこだわりを持ち続けてきた。その変遷を、初年度からフジロックのスタッフとして名を連ねステージ制作をまとめているSMASHの小川大八と飲食出店の管理を任されているホットスタッフプロモーションの鯉沼源多郎、アーティストブッキングの中軸を担っている高崎亮に語ってもらった。
「フェスの飲食店は夏祭りの屋台じゃない」
ーフジロックに来日する海外アーティストにとって、ロケーションはもちろん、食事が美味しいというのもフジロックを愛すべき理由になっていると思うんですけど。
小川 ああ、だって世界の重要な音楽フェスティバルでフジが3位に選ばれたんでしょ?(笑)。
ーUKのリサーチ企業が主体になっている「Festival250」のランキングで1位がコーチェラ、2位がグラストンベリー、3位がフジロックという。
高崎 バックステージはアーティストの数よりも音響から照明、マネージャーも含めてクルーの数が多いんですよね。そうすると、ライブが終わったら”オアシスエリア”で酒を飲みながら「ここの屋台が美味いんだ!」「ラーメン、最高!」とか言ってるクルーがいて(笑)。それにつられるように、アーティストも屋台のご飯を食べて「ほんとだ! 美味い!」ってなるんですよ。
ーやっぱりフジロックの屋台は他国のフェスに比べてもクオリティがかなり高いわけですよね。
高崎 だって、グラストンベリーに行ってみたら炎天下の中で寿司を売ってるんですよ!(笑)。
ーカピカピになった寿司が(笑)。
高崎 そう、ネタもシャリもカチンコチンになっていて(笑)。正直、食べられたもんじゃないものもいっぱいありますね。コーチェラはまだ洗練されてますけどね。
鯉沼 え!? でも、食べ物は美味しくないよ!(笑)。美味しいのはピザくらいでしょう。
小川 最近は全体的にけっこうクオリティが上がってるんですよ。
高崎 ただ日本のクオリティと安さは飛び抜けてると思いますね。初年度のフジロックの飲食出店ってどんな感じだったんですか?
鯉沼 ちゃんと覚えてないけど、でも初年度に日高さん(正博/SMASH代表)が「フェスティバルの飲食出店は焼きそば屋とか、たこ焼き屋とか、夏祭りの屋台みたいな感じじゃないんだ」ということを言っていて。
ー飲食に関してもロールモデルが日本にはなかったわけで。そこから話がスタートする。
鯉沼 そう。それで初年度から日高さんの知り合いのレストランを呼んで”ワールドレストラン”というエリアを作ったんです。
小川 最初からそれをやったことがすごいなと。
鯉沼 初年度の富士天神山、2年目の豊洲を経て、3年目で苗場に移ってからワールドレストランブースとケータリングカーというスタイルがどんどん定着していって。で、今度は世の中的にケータリングカーで売るケバブとかタイラーメンとかが流行りだすわけですよ。そうすると、フジロックでも「あれ? 同じエリアにケバブを出してるお店が2つある、タイラーメンを出してるお店が数店舗ある。これはよくない!」と思ったんですよね。
ーそれはいつごろの話ですか?
鯉沼 苗場に移って3、4年目くらいだったと記憶してます。そこから僕が勝手にいろいろやり始めたんですよ(笑)。お店の選定も人任せだったところを僕が全部引き受けて。そういう意味ではそこからフジロックの飲食出店に関しては僕の独断でやっちゃてるところがありますね(笑)。
ーお店のチョイスも完全にですか?
鯉沼 そうです(笑)。
小川 いろんな店を食べ歩きしてね(笑)。
鯉沼 そうそう(笑)。ワールドレストランは2016年を最後に無くなってしまったんですけど、僕が飲食を仕切るようになってからは飲食出店の一般公募を始めて、実際にお店に食べに行ってクオリティを確認するようになったんです。

©宇宙大使☆スター

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ー僕も知人がフジロックで飲食出店をした経験があるんですけど、ストレートに言うと、よっぽど売れないかぎりは赤字になると。
鯉沼 そうなんですよ。だから初めて出店される方にはとにかく「儲けようと思わないでください」と口酸っぱく言ってますね。

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ーそれでもフジロックに継続して出店したいと希望する店も多いわけですよね。
鯉沼 でも、入れ替わりもかなりありますしね。1年出店してみて「二度と出るか!」って言うお店もあるし(笑)。大変すぎて割に合わないって。でも、そういう状況の中でも「やっぱりフジロックは面白いな」って思ってくれるお店が残りますよね。
名物「もち豚」誕生秘話
小川 ここ10年くらいでフードフェスも相当盛り上がってるじゃない? それでケータリングカー的な飲食店のクオリティもすごく伸びてるんじゃないかって思うんだけど。
鯉沼 レベルは上がってきてると思う。でも、これはあまり言いたくないんだけど──フジロックに関して言えば、結局、ケータリングカーの味のレベルってある一定以上はいかないんですよ。
ーそれはなぜですか?
小川 ケータリングカーだと必然的にメニューを簡易的に作れるものにしたり、ある程度の利益を出すことを考えたりしたコスト管理が求められるから。ようするに、コストパフォーマンスということですよね。そうすると、食材のランクや手間も含めて限界があるんです。一方で、たとえば東京の路面で商売している飲食店はやっぱり味が美味しくなければお客さんがシビアに来てくれないわけですよ。当然、味のレベルはケータリングカーよりも上になりますよね。だから、フジロックにもそんなお店にもっといっぱい出店してもらいたいんです。そういう考えがあるから、サービスエリアで出店しているようなお店にはご遠慮いただいていて。僕はフジロックでいかに美味しいものを提供できるか、ということしか考えてないですね。あと、バラエティに富んだメニューをどれだけ出せるか。
ー実際に「え、こんなメニューを提供してるんだ!」って驚かされる店もあります。
鯉沼 そうそう。ここ数年はミシュランの星を獲得している京都の割烹料理屋さんが出店してくれていたり。そこは鱧にゅうめんとかを出してくれていて。それは1000円するけど、味は間違いないので。もちろん、ミシュランの星を持ってるからいい店というわけではないですけどね。

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ーあと、フジロックと言えば大名物の越後のもち豚みたいなところがありますよね。あの串焼きを食べると多くの人が「今年もフジロックに来れた」と実感するという。
鯉沼 あれは単純に地元の方が出店してもち豚の串焼きを出したらバカ売れしたという、それだけのことから始まったんですよ。3年目に苗場に会場が移って、なるべく地元の名産を飲食出店でも出したいなということになって。そこで、越後のもち豚が一つのブランドとしてずっと地元にあったと。あとは、もち豚の串焼きがこれだけフジロックの名物になったのは一種のフィンガーフードだったのも大きな要因だと思いますね。
小川 それはあるよね。食べやすいという。
鯉沼 そうそう。片手にビールを持ちながら食べられるから。ケバブもフィンガーフードだから売れるんですよ。最初はどれだけ売れるかわからなかったから、生肉を焼いて出してたんです。だから余計に美味かったの。
小川 冷凍じゃなかったんだ。
鯉沼 そう、鮮度のいい生肉を焼いていた。そりゃ美味いっすよ。気がついたらビックリするくらい売れるようになって。そこから地元の飲食の人たちから「自分ももち豚の串焼きで出店したい!」って言われるようになった。「二番煎じはやめてください」ってお願いしたんですけど、そこから2、3年はもち豚丼とか、派生したメニューが多くなっちゃったんですよ。それで、「もっともち豚以外に地元の名産を売り出すアイデアを出してください」とお願いして。地元の人たちもそれに応えてくれて、「うちはこれを売りたい」「だったらうちはこれを売る」という意識が生まれ始めたんです。お客さんもそれに興味を持ってくれてちゃんと売れるようになった流れはいいなと思いますね。
ーちなみにもち豚の次に名物的に売れてるメニューはなんですか?
小川 タイラーメン?
鯉沼 タイラーメンも一時期すごく流行ったんですけど、それを僕が抑えたんですよ(笑)。流行りすぎたらイヤだと思って。で、東京にお店を持っているタイ料理屋さんが出店してくれるようになって、そこのタイカレーがすごく美味くて! お客さんも食いついてくれたんです。
ーたとえば今、世間ではタピオカが狂ったように流行ってるじゃないですか。
鯉沼 だから、僕はそういうメニューはフジロックで出したくないんですよね。ホットクとかも「死んでも出すか!」と思ってます(笑)。やっぱり一つのメニューが流行りだすと面白くなくなるんですよ。
ー食もフジロックの文化を形作る重要な一つになってますしね。
鯉沼 毎年次なるヒットが出てくるといいなと思ってます。

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FUJI ROCK FESTIVAL19
期間:2019年7月26日(金)、27日(土)、28日(日)
会場: 新潟県 湯沢町 苗場スキー場
http://www.fujirockfestival.com/