今年2月、2年ぶりとなるジャパン・ツアーを終えたばかりのミツキがフジロックに初降臨。彼女の来日はこれが4度目となるが、実は今年9月7日にニューヨークのセントラルパークで開催されるイベント「Summerstage」を最後に、しばらくライブ活動を行わないという声明が、ちょっと前に出されたばかり。


となると、日本で観るミツキのライブはこれが最後になるかもしれない。それもあってか、開演前からRED MARQUEEはいつもとは違う緊張感が漂っていた。

客電が落ち、前回の単独公演と同様カエターノ・ヴェローゾの「Cucurrucucu Paloma」が流れ出す。後方のスクリーンには「MITSKI」という文字が大きく映し出され、会場は温かい拍手と声援に包まれた。ミツキの大学時代の友人で、過去の作品全てに関わってきたパートナー、パトリック・ハイランド(Gt)を筆頭に、ブルーノ・エスルビルスキー、ジェニ・マガナ(Ba)、マリー・キム(Key)がステージに登場。機材セッティングを始める中、遅れてミツキがステージに現れる。

が、テーブルと椅子が設置されたステージ中央ではなく、左袖に横向きで立ったまま。ただならぬ気配にざわつく中、幾何学的な電子ピアノのアルペジオに導かれ、まずは彼女の2ndアルバム『Retired From Sad, New Career In Business』(2013年)収録の「Goodbye, My Danish Sweetheart」。前回の来日公演では、アンコールの最後に演奏した楽曲である。抑揚の効いたクラシカルなメロディを優雅に歌いながら、徐々にステージ中央へとにじり寄っていくミツキ。そして、曲が終わると同時にようやく机の前までたどり着き、そこで初めて彼女がフロアへ顔を向けると割れんばかりの拍手が巻き起こった。

続いて通算5枚目となる最新作『Be The Cowboy』から、「Why Didnt You Stop Me?」。
ひねりの効いたコード進行がピクシーズを彷彿とさせる、不穏かつエレガントな楽曲だ。機関銃のようなシンセベースの連打が鳴り響く中、椅子に座ったミツキがテーブルの前でシアトリカルなパントマイムをし始める。曲の後半ではテーブルの上に寝そべり、膝を軸にして両足をぐるぐると回転させて見せた。

「こんにちは、ミツキと申します。テント住まいの方、お疲れ様です」と、落ち着いたトーンで話し始めると、会場は完成と笑いに包まれた。「今日はこんな調子でどんどんやっていきますよ~。では、戻ります」と言い終えるとすぐに、グラビアのモデルのようなセクシーポーズで静止。そのままの格好で「Francis Forever」へなだれ込む。バックの演奏は中盤に向けて徐々に盛り上がっていき、前作『Puberty 2』(2016年)に収録されたダムドばりのパンクチューン「Dan The Dancer」では、スフィンクスのようなポーズのまま足をばたつかせる。両膝に黒いサポーターを装着し、ピッタリとした黒のショーツに白いTシャツという出で立ちで、パントマイムとも、コンテンポラリー・ダンスとも、ヨガともエアロビクスともいえない(あるいは、そのどれともいえる)、奇妙でどこかコミカルな動きをしながら美しいメロディを歌い上げるという、これまで見たことのない光景に呆気にとられるばかりだ。

激しく心を揺さぶる、狂おしいほど切ないメロディ

クロマティックなコード進行と奇妙なスケールのメロディラインが、どこかモリッシーを彷彿とさせる「Washing Machine Heart」、硬質なベースラインがピクシーズの「Debaser」を思わせる「I Will」と続き、「胸がはちきれそう」と日本語を交えた歌詞が印象的な「First Love / Late Spring」では、初めて恋に落ちて気が動転した人を演じてみせる。さらに、荘厳なオルガンのドローンとともに始まる「Geyser」を、テーブルに突っ伏したまま歌い出したミツキは、曲が盛り上がっていくのに合わせて躍動的に踊り出し、最後はテーブルと格闘。
大歓声に包まれながら力任せにひっくり返した。ロックンロール・ナンバー「Townie」では、舌を出してセクシーな顔をしながらゴーゴーダンスを踊り、その”ダサさ”をカリカチュアライズしたようなパフォーマンスに、フロアは大いに沸き立った。

「今日は何曜でしたっけ。金曜? みんなよく仕事の休み、取れましたね。お疲れ様です」と、飄々と挨拶した後、おもむろに「Nobody」のヴァースを歌い出すと大歓声が巻き起こり、あちこちでシンガロングする声が上がった。狂おしいほど切ないメロディが、繰り返される転調とともに激しく心を揺さぶる。続く「Liquid Smooth」は、彼女の1stアルバム『Lash』(2012年)に収録された曲だが、洗練されたピアノのコードはローラ・ニーロやバート・バカラックを連想させる美しさ。ほぼギター1本で歌い上げた「A Pearl」も、ソングライターとしてのミツキの類稀なる才能を遺憾なく発揮していた。

ギターのカッティング音とともにどよめきが上がった「Your Best American Girl」、モリッシー直系のメロディを朗々と歌い上げた「I Bet On Losing Dogs」と続き、「Drunk Walk Home」では矢沢永吉ばりにマイクスタンドを振り回しながら、ハイトーン・ボイスを駆使して熱唱。最後は『Puberty 2』から「Happy」を披露し「ありがとうございました。バイバイ」と言い残してステージを去った。

日本ではこれがラスト・ライブになるかもしれないというのに、あまりにも呆気ないエンディング。
ちょっと肩透かしを食らったような気持ちにも一瞬なったが、ラスト・ライブだろうが通常のライブだろうが、どの公演も同じくらい心を込めて演奏している彼女にとっては、こういう終わらせ方こそ「誠実さ」の表れなのかもしれない。

とはいえ、これでもうミツキのライブが観られなくなるなんて寂しすぎる。また気が向いたら、いつでも戻ってきてほしい。
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