人間椅子が7月26日、東京・豊洲PITにて、〈三十周年記念オリジナルアルバム『新青年』リリースワンマンツアー〉のファイナル公演を開催した。人間椅子最高の出来との呼び声高い新アルバム『新青年』を引っさげ、全国12都市で開催されたこのツアー。
その集大成に期待を膨らませた超満員の観客で豊洲PITは一杯になった。

19時5分、照明が落ちるとSEとして『新青年』の1曲目「新青年まえがき」が会場に響く。歓声と拍手の中、和嶋慎治(Vo&G)、鈴木研一(Vo&B)、ナカジマノブ(Vo&Dr)が登場すると、SE中の歌詞で「君も 僕も 生まれ変わる」と宣言され、1曲目「あなたの知らない世界」からライブはスタート。和嶋の超攻撃的なギターリフには会場は待っていましたと大盛り上がりだ。続いて、ナカジマのドラムソロから始まる『新青年』のボーナス・トラック曲「地獄のご馳走」。和嶋のテルミンが奇怪な悲鳴の如く轟き、激しい中にも見入ってしまうような魅力に溢れたライブが繰り広げられる。

人間椅子、豊洲PIT公演レポート 30年間の歴史と30年分の進化


MCでは、和嶋が生配信で見ている世界中の人に向けて、YouTube越しに英語で「Please dont forget to thumbs up and subscribe!」と投げかけ今流行りのYouTuberの様な振る舞いを見せると、会場はそれまでの張り詰めた空気とのギャップに笑みが漏れる。MCでは爽やかに楽しませるその気取らない自然な姿もまた、人間椅子のライブの魅力の1つとなっている。そして、『新青年』の売れ行きが30年間で最も良いことにも触れ、「我々死ぬまでバンドやっていきますので、よろしくお願いします!」とファンにとってはたまらないような宣言もなされると、これからもついて行きますといった喜びの歓声が会場に広がった。そこから、江戸川乱歩の短編怪奇小説から着想を得た曲「鏡地獄」、2014年のアルバム『無頼豊饒』から「地獄の料理人」と怒涛のヘヴィネスが次々に展開されていき、会場は熱気を増していく。鈴木が「人間椅子がもうやらなくなったベストテンの一曲の入る曲です」と言って披露したのは、1991年の2ndアルバム『桜の森の満開の下』から「盗人讃歌」。人間椅子にしか作り出せない壮大な展開は、30年間の進化の中で更に深く醸成されていた。
続く「幻色の孤島」も途中のアルペジオから変調する物語性の高いレア曲だ。

そして、ツアー初日の時点でYouTubeの再生回数100万再生、ライヴ当日には196万再生を突破し、世界中から絶賛されている人間椅子の新たな名曲「無情のスキャット」へ。CD音源よりもライヴでのヘヴィさは更に増し、凶暴な重低音に観客は圧倒された。続けて再び2ndアルバム『桜の森の満開の下』より「太陽黒点」を披露。怪しげに赤黒く照らされた3人の姿がとても印象的だった。本ライブの選曲は、進化した旧曲と進化した先に紡ぎ出された新曲が入り混じり、まるで小説の短編集を読んでいるかのような満足感を魅せる。30年間の歴史と30年分の進化を前に観客は目が釘付けになっていた。

人間椅子、豊洲PIT公演レポート 30年間の歴史と30年分の進化


人間椅子、豊洲PIT公演レポート 30年間の歴史と30年分の進化


人間椅子、豊洲PIT公演レポート 30年間の歴史と30年分の進化


『新青年』より「いろはにほへと」で3人の痛快なグルーヴが会場を巻き込むと、鈴木が「僕の大好きなジーン・シモンズ(KISS)に捧げましょう」と言って披露した「瀆神」、続けて「今昔聖」へ。”兄貴”ナカジマの熱いMCパートで会場は大きく盛り上がると、ナカジマが豪快に歌い上げる「地獄小僧」で会場の熱気は最高潮に。その勢いのまま「地獄の申し子」、「超自然現象」へ。和嶋の歯ギター奏法が会場に響くと、大人気曲「針の山」で本編は締められた。

冷めやらない興奮の中、鳴り止まない拍手とアンコールに3人が再びステージに現れる。
和嶋がツインネックの12弦/6弦ギターに持ち替えると、「月のアペニン山脈」を披露。鈴木も滅多に見せない指引きを魅せるなど、情緒溢れる人間椅子の深みに観客は落ちていった。この美しい1曲の存在で本ライブの厚みがさらに増したと言えるだろう。そこからアンコール2曲目の「地獄風景」で一転激しくヘヴィに駆け抜けると、観客はメロイックサインを掲げ熱くそれに応えた。

まだまだ帰れないとのダブルアンコールに再びステージに戻った3人は、「どっとはらい」を最後に披露した。〈正気の沙汰はおしまい どっとはらい どっとはらい 狂気の沙汰の始まり どっとはらい〉と歌詞にあるように、本ライブの「正気の沙汰」はここで終わるも、人間椅子の「狂気の沙汰」はここからまだ始まっていくという決意を見せた粋な演出で本ライブは終了。

人間椅子、豊洲PIT公演レポート 30年間の歴史と30年分の進化


人間椅子にとって今日は、メモリアルであり、また通過点に過ぎないのだ。30年間進化を弛まず続けてきた人間椅子にしか見せられない濃厚なライブであった。

12月13日には中野サンプラザで30周年記念ワンマンライブが開催される。30周年記念ワンマンライブも含め、日本の、いや世界のヘヴィを更新し続ける人間椅子のこれからの活動にますます目がはなせない。

セットリスト
1. あなたの知らない世界
2. 地獄のご馳走
3. 鏡地獄
4. 地獄の料理人
5. 盗人讃歌
6. 幻色の孤島
7. 無情のスキャット
8. 太陽黒点
9. いろはにほへと
10. 瀆神
11. 今昔聖
12. 地獄小僧
13. 地獄の申し子
14. 超自然現象
15. 針の山
EN1-1. 月のアペニン山
EN1-2. 地獄風景
EN2-1. どっとはらい
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