サイケデリック・ガレージ+エロという独自の世界観を貫いてきた女性バンド・キノコホテル。7枚目のフルアルバム『マリアンヌの奥儀』ではその独自の世界観に異変が!?  キノコホテルの総支配人・マリアンヌ東雲が、アルバムのこと、性のことをタブーなし語ってくれた。


―ニューアルバム『マリアンヌの奥儀』、まずはアルバムジャケットから強烈ですね。『マリアンヌの休日』『マリアンヌの誘惑』の並ぶ衝撃の露出シリーズ的なことになっていますが。

たまたまなんですけどね。別に脱ぐコンセプトはなかったんですよ。アートディレクターの常盤響さんと衣装について打ち合わせした時に出たアイデアがいわゆるヴィンテージの結構レアなドレスで。今回お願いしたのが非常に急だった事もあり、手配が間に合わなくて。結果的に常盤さんが手作りして下さった装飾具をそのまま裸体に貼ったり巻いたりしてああなりました(笑)。

―結果的には、アルバムのリード曲が「ヌード」だし。

そうそう。上手く繋がったから良し(笑)。

―そもそも論なんですが、キノコホテルのベースにあるエロはどこから?

私自身は、エロって本当に意識していないんですよ。自分が特別エロいとか、セクシーだとも思わないですし。
周りが勝手にそういうものを期待しているだけです。ステージで下着が見えたりするから、それで勝手にエロとか言われているだけで。

―それで充分にエロいとは思いますし、メディアでの発言もかなり過激ですし。

確かにお色気トークが好きではありますしそこに全く抵抗もないですが。ただ自分自身が日々エロを意識してるかというと別にそういうわけでもないです。性的な物事に対する執着も年々減退していく気がしているし、このまま終わっていくのかしら、なんて考えたり。マリアンヌさん的にはまずいんじゃないかと最近思ったりするんですけど(笑)。

―このまま終わるってどういう意味ですか?

女が(笑)。

―(笑)。それにしても、日本のガールズバンドでお色気トークがOKなバンドってあまりないですよね。

そうですね。というのもガールズバンドって年代が若い子が多いじゃないですか。
若い子で下ネタOKな子って、音楽やっている子にはあんまりいないですよね。お酒ガブガブ飲んで下の話しか出てこないようなタイプって。特に東京には少ないです。みんな真面目でしっかりしている。寂しいというか、物足りなさを感じる事はありますね。こちらが振っても「やめてください~(笑)」で終わってしまったり。単に興味がないのか。一つの探究心じゃないですか、エロって。良く言うと知的好奇心というか。

エロに対する知的好奇心

―マリアンヌさんはエロに対する知的好奇心は旺盛だと?

まぁ嫌いではないですね。単純に面白いですし。やはり人間の本能に関わる部分ですから。
そういう話しを男性に振られたら全然打ち返します。逆にそこでモジモジしたり怒ってしまうような女が嫌い!

―かまとと的な女性?

そうです。「お前彼氏いて毎日エッチしてるくせに、何恥ずかしがってんだよ!!」って殴りたくなってしまうんですよね。まあ私が明け透けすぎるんでしょうけど。男性に対しても、いっそドン引きされるくらいの返しをしてやろうと、そういう気持ちはどこかしらにありますね。ちょっとした意地悪心というか。そんなことをしても何の得もないんですけどね(笑)。単に趣味の問題でしょうか。

―昭和の時代ってエロが公共の場にエロがあったじゃないですか? 緑川アコ、渥美マリ等のエッチな昭和歌謡ムードのレコードのジャケットや、テレビも昔はおっぱいボロリとかありましたし。

大磯ロングビーチの水泳大会とかね。今あれ放送できないですもんね。いつからやらなくなったのかしら。


―セックス、ドラッグ、ロックンロールの時代から、若い人達がどんどんセックスレスになって来てますし。

そうですよ、もうセックスに興味すらない。男性が女性を必死で口説こうと頑張ったりする時代じゃないらしくて。そんなの面倒臭い、だったら家でゲームしてオナニーしてる方がラクっていう。女の子にモテたくて一生懸命カッコつけようとする男の子がどんどん減っているらしいです。だからそのアイテムとしての車なんかも、今の若い世代には売れないですもんね。

―そして、世間も性に対して厳しいですよね。セクハラ問題、#me tooと、被害者救済とかを超えたレベルで騒いでいる感じもありますが、いずれにしても、世間は性に対して萎縮してしまっている感じが強いですね。

ああいう人たちって本当暇だなって思います。嫌ですね。さっきのかまととぶる女も嫌いですけど、些細な事ですぐ被害者面する女も嫌いなんですよ。何で一々大ごとにして周りを巻き込んで騒がないと気が済まないのか。
そりゃお前みたいな女、いじめたくなるし泣かせたくなるわって思いますよ。そしたらまたme too、me tooってね。最近も職場で女性にパンプスを履かせられるのが頭に来るってkutoo運動っていうのが話題になりましたけど。確かに足の形が合わないとか腰が悪いとか、どうしてもハイヒールで仕事が出来ない人はいるでしょう。それを会社の誰にも言い出せない。でもネットで騒いで大勢でギャンギャン喚くことには抵抗がない。その感覚が私には理解できないんですよね。ハイヒールだって、そんな女に履かれたくないですよ。

足が痛いなら裸足でいなさいよっていう感じです。嫌いですね、ああいう何でもすぐ騒いで大事にするような人って。なんか、大体パターンが同じじゃないですか、ああいうヒステリックな女性って。うーん……まあ同じ女でも私とは全くタイプが違う女なんだな、と思いながら遠まきに眺めている感じですね。
分かり合えないでしょうから、私の意見を押し付けるつもりも無いですが。

「奥儀」の意味とは?

―例えばですが、男三人と女性一人でお酒飲みに行ってビールを注文。お店の人が女性の前にビール瓶を置いたらそれはもうハラスメントなんだそうです。女性に御酌を強制してるので。

目の前にビール瓶置かれたら、もうラッパ飲みしちゃえばいいじゃない(笑)。逆にそこでね、「何で? 私がやれってこと? 女は給仕じゃない!」っていう発想になぜなるんだろうなっていう感じですよね。別にいいじゃない。そんなの考えてる暇があるなら早く呑みたいし。面倒くさいから、御酌して、自分も手酌してがッと呑む!!!  だって楽しく呑むために居酒屋来たんでしょ?

―今から50年前のアメリカのフリー・セックスや、日本の性のオープン化なんて、今はとんでもない話で、性に関してはどんどん窮屈な世の中になっている傾向ですよね。

会社とかも大変だと思いますよ。昨日も会社勤めの友人とおしゃべりしていたら、今セクハラに対して会社が非常に神経質になっていて。仲のいい女性社員相手にも迂闊なことを言えないって話をしてましたよ。

―会社にこの『マリアンヌの奥儀』のジャケットを飾るくらいのことをして欲しいですよね。そういう余裕が欲しいなとふと思います。

本当ですよ。是非お勧めしたい。無断でやって頂いて大丈夫です(笑)。例えば社長室の壁にも大きくパネルにして飾るとか。あと玄関ロビーとか会議室とか。

―会社の名刺の裏に刷るとか?

それいいですね。どこかの書道家にでも頼んで『奥儀』って書いてあったら、取引相手の掴みはOKでしょ。

―その『奥儀』っていうタイトルはどこから?

これも大きく出ましたけど、今回、如何せん7作目のアルバムで。毎回『マリアンヌの〇〇』を続けていると段々選択肢がなくなっていくわけです。しかも漢字二文字って縛りがあるので。で、ノートに40パターンぐらい思いつくままに書いたんですよ、とにかく二字熟語を。その中のひとつが奥儀だったんですが、最初ピンと来なかった。ちょっと地味な気もしたし最近は漢字に弱い人が多いから、この程度でも大丈夫だろうか、など色々考えて。で、マネージャーがそれとは別でいくつか候補を考えてきてくれて、見せてもらったら奥儀だけかぶっていて、それで奥儀に決めました。なので、ノリですね。でも良かったですよ、この写真とこのタイトルと、妙にハマって。何か訳ありげな感じになれたので(笑)。

―しかも今回初めて共同プロデューサーを迎えてのアルバム制作。サウンド面も今までとは変化があり『奥儀』というのが意味深に響いています。

バンド史上初めて共同プロデューサーを迎えるという本当に奥の手というか必殺技というか、ずっと隠していたものを満を持して出したのもありますからね。ついに天下の宝刀を抜きやがったな、という感じはしますね(笑)。バンドが創業(結成)13年目に入ったこのタイミングでようやく次のフェーズに進む事ができた。抜くのが遅すぎという雰囲気もありつつ(笑)。

地球の裏と表ぐらいフィールドが異なる人間とのコラボレーション

―その共同プロデューサーさんがなんとSMAPやAKB48などに楽曲提供&サウンドプロデュースをしている島崎貴光さん。かなり意外なコラボレーションだったんですけど、その経緯は?

島崎さんのことは島ちゃんと呼んでいるんですけど、元々は古いお友達で。ただ、島ちゃんは地球の裏と表ぐらいキノコホテルとはフィールドが違うしとにかくキャリアのある方なので、まさかご縁があるとは露ほどにも思っていなかったのですが、何年か前に共通の友人を介してばったり再会する機会があったんですね。その時に、私『お嬢』って呼ばれてるんですけど、『キノコホテルってお嬢のバンドだったんだね』って言われて、『そうよ!』っていう話しになって、彼が非常に興味を持っていてくれていたんです。で、2017年の創業10周年の時の実演会(ライブ)に。お招きしました。そこから急速に仲が深まって、バンドのことや曲作りのことを相談させてもらったんです。

で、いつか一緒にやりたいねって、お酒を飲みながら話しをしたんですよ。酔っぱらって別れて、帰り道に”いつかじゃなくて次のアルバムで一緒に何かしてみたい”という気持ちが芽生えてきて。その時点ではまだアルバム制作の話は上がってはなかったんですけど。で、いよいよ具体的な話が出てきた時点で、私がマネージャーに「実は私の友人で、こういう方がいて、一緒に組みたいんだけど」って話したら、かなり驚か「え? そんな知り合いがいたの?それもっと早く言いなよ」って(笑)。それで島ちゃんにオファーしたら、快く引き受けてくれて。だから結構運命的です。その再会するタイミングがなかったら、彼とお仕事することはなかったでしょうし、島ちゃんがいなければ絶対にこの作品は出来上がらなかったので。偶然やご縁の産物なんです。

―それにしてもキノコホテルの世界観と島崎さんの世界観は真逆とも言えるので、ハマれば凄いですが、一見冒険にも感じます。

そうなんです。これは一つの賭けだという思いはあって。もちろんニッチな世界観を追求してきたキノコの作品がどうなるのかというのもあるし。あと下手したらお互いが真剣にやり合い過ぎて、決別に至ってしまう可能性もゼロではないと思っていました。もちろん、島ちゃんはプロで責任感の強い方ですけど、私がですね。どこまで新しい状況に適応できるかが未知数でしたので。でも、彼を指名してお願いしたのは私ですから、自分が責任を取らないといけないし。島ちゃんを信用して最後までやり切るしかないって気持ちでしたけど。でもそういう、不安は全くの杞憂に終わりました。本当に島ちゃんはマイルドで優しい方で。私がイライラ、カリカリしていても、アンガーマネジメントをしてくれるぐらいで。『ちょっと落ち着いて一旦深呼吸しよう』とか、とても乗せ上手な方なんですよ。

―へぇ。

島ちゃんは新人作家の養成講座も主宰していて門下生が沢山いるので、私も彼の教え子になったような気分で、結構頼らせて頂きました。そこはもう、分からないことは分からないと素直になった方がいいと思って。自分以外の誰かに大事な部分をあえて委ねて素直になれる状況が、今までのキノコホテルはほぼ皆無だったので。行き詰っても相談できるし、とても楽しかったですね。今までのアルバム制作で断トツで有意義な時間でした。

―楽曲の振り幅も、ポップで踊れるという今までのキノコホテルにはないサウンドもありながら、キノコホテルならではのアルバムに仕上がっていてすごく楽しめました。変な言い方ですが、島崎さんとの共同作業でマリアンヌさんの音楽スキルを一緒に引き上げてもらえたとか?

それは非常にあると思います。

―そもそも作曲は独学だったんですか?

完全に独学です。コードすら知らないところから。

―それでキノコホテルの全楽曲を作詞・作曲していたのはマリアンヌさんの才能ですが、今回のアルバムで音楽的な引き出しがさらに増えた感じがします。

そうですね。引き出しを増やしていただけた感じですね。自分の中では分かってはいても、あえて避けて通っていた選択肢だとか二の足を踏んでいたものに対して背中を押してくれたのもありましたので。これはキノコらしくないなとか、自分っぽくないとか、そういうことで普段悩みがちなんですけど、堂々と振り切って取り組むことを幾度となく勧められました。”何やってもキノコでしょ”と彼が第三者的な立場から言ってくれたことで臆することなく作れましたね。こんなにポップで大丈夫かしら、なんて思いながらも、島ちゃんがディレクションしてくれると、あ! いいじゃないかっていう。確かにありそうでなかった音世界になりましたし。曲ごとに沢山の発見があったし、今までやってこなかったサウンドアプローチが出来たアルバムです。正に私が島ちゃんに期待していたことが全て実現されたような気分ですね。

―それにしても5曲目の「レクイエム」の音楽史に残るフェイドアウトにはびっくりしました。あれは誰のアイデアですか?

自分ですね。デモの時点でああでした。島崎ちゃんに、「お嬢、このフェイドアウトは、事故ではないよね?」って言われたので、「いや、もういいかなって思って下げたの」って。「これは凄いよ!」とエンジニアさん共々大笑いしていましたけど。それこそセオリー的には違うんでしょうけど。でもあそこで落とすことで変な違和感が生まれるでしょ? それを狙ってやった部分はあります。このまま綺麗に終わるのはやはりつまらないなって。

―そういうところはキノコホテルとしてありますよね。絶対に普通には終わらないという。

そうですね。綺麗な曲であればあるほど、何かいたずらしたくはなる。

―それはどこから来てるんですか?

ただの性格ですかね(笑)。人間性というか。

―普段の生活もそうなんですか?

個人的な話ですけど、手の届くところに降りてきた幸せを壊したくなる性質が元々あるみたいで。本当良くないですね。不幸になりたいわけでは決してないのに、綺麗にハッピーにまとまりそうなものを、「つまらん」と自ら壊してしまう。何かにつけて破壊に向かいがちでした。特に若い頃とかは、人間関係とかでも。

―最近それは是正されつつあるんですか?

最近はできるだけ波風立てないように生きていきたいって思って(笑)。そろそろ無の境地に足を踏み入れつつあるのかも。段々悟り入ってきました。

来年はメジャーデビュー10周年

―(笑)。そして、来年でメジャーデビュー10周年ですよね。

そうなんです。2020年で10周年です。

―来年のことはもうおぼろげに考えていらっしゃるんですか?

そうですね。何となくですが多少大きい公演を考えています。

―キノコフェスみたいな?

フェスですか。キノコホテルってお友達があまりいないので、出演者の人選が難航しそうですね。断られたら地味に切ないし(笑)。ギターウルフには声かけたいですね。きっと出てくれると思う(笑)。

―でも1バンドだと対バンになっちゃいます(笑)。

そうね、ただのツーマンになっちゃいますね。まぁ何かしら話題は提供したいところです。またリリースもできたらいいですけどね。フルアルバムじゃないにしても、何か作って出したい気持ちが一応あることはあります。

―因みに、キノコホテル的には令和はどうなんですか?

何とも思わないですけどね。もう元号も三つ目ですしね(笑)。昭和生まれがどんどん肩身が狭くなっていくんだなって感じですよね(笑)。

―令和という新しい時代にバンドとしてこのポジションに行こうみたいなのはないんですか?

まぁバンドって一生続けられるものではないのと、令和って自分にとってはもう余生だと思っているので。いつかは必ず終わるキノコホテルをどう綺麗に落とし前をつけるか、まぁ終活ですね。最高傑作を出しておいてアレですけども。いかにキノコが最後まで美しく居続けることができるか、そういったことを考えてる気がしますね、なんとなくぼんやりと。

―えっ!?  キノコホテルはもう終活に入ったと?

いい感じに終わりたいじゃないですか、何事も。

―このジャケットで終活はないでしょ。

アハハハハ。まぁこれでね、名前をたくさんの方に知っていただいて聴いていただくことで、いつかは訪れるフィナーレも華々しくなるんじゃないかと思いますよ。その為にはもっと大きくならないと格好つきませんので、既に始まっているツアーも含めてもうしばらくは足掻くことになりそうですけど(笑)。

<INFORMATION>

キノコホテル・マリアンヌ東雲が突き詰める「音楽」と「性」の本質

「マリアンヌの奥儀」
キノコホテル
キングレコード
発売中

「サロン・ド・キノコ~奥儀大回転」
2019年8月4日(日)宮城・FLYING SON
2019年8月30日(金)愛知・名古屋CLUB QUATTRO
2019年8月31日(土)広島・広島CLUB QUATTRO

http://kinocohotel.org/

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