米国民のほとんどが感じているトランプ政権の疲弊感が、大統領の足元に忍び寄ろうとしている。

トランプタワーの超豪華なトリプレックス・ペントハウス、マール・ア・ラーゴの宮殿のようなダイニングルーム、彼の所有するゴルフコースやホテル、またホワイトハウスの公邸などよりも、ドナルド・トランプにとってずっと居心地が良いのは、自分に対する忠誠と献身を示す人々が大騒ぎする政治集会だ。
トランプは、ステージ上で赤い帽子をかぶった支持者による賛辞に包まれて満足げにしている。特に悪いニュースが続いた後や執務室での大変な一日を過ごした後では、なおさらだ。

2020年の大統領選で再選を目指すトランプは2019年8月15日の晩、ニューハンプシャー州マンチェスターで行われた政治集会に出席した。株式市場の低迷、内外の経済問題の兆候、景気後退が迫る新たな前兆が見られる中で開かれた集会だった。不穏な経済ニュースは、大統領による一連の自暴自棄なツイートにもつながっている。

驚くべきことでもないがニューハンプシャーでの集会では、数々のヒット曲が流され、誤りや偽情報など、これまでに我々が見てきたどの現大統領の集会よりも錯乱状態が一層増していた。

いつものように(危険なほどに)大統領は時折、「フェイクニュースメディア」に攻撃の矛先を向けた。今回は、ニューハンプシャー州では何人かの民主党候補者がトランプと並んでいる、と報じた記者たちを偽の世論調査の情報だとして非難した。(トランプお気に入りのFoxニュースによる別の世論調査によると、トランプはジョー・バイデン、エリザベス・ウォーレン、バーニー・サンダース、カーマラ・ハリスら民主党候補者にリードされている。)トランプはウォーレンに対し人種差別的な言葉で攻撃し、またバイデンは及び腰だという印象を植え付けようとした。さらに、キャンペーン商品として新たにデザインした「Keep America Great」と表記した赤い帽子を、得意げに見せびらかしていた。

彼のパフォーマンスは、その辺りから異様で支離滅裂になっていく。


トランプの演説を妨害しようとした反対派が、熱狂する支持者の中に引き出される様子は、トランプの集会でよく見られる光景だ。かつてのトランプは、反対派に対する暴力を助長することすらあった。ニューハンプシャーでは、集会に紛れ込んだ反対派だとトランプが思った参加者に向かって「彼は体重の問題を抱えているようだ。家に帰って運動しなさい」という酷い言葉を投げつけた。ところが実はその参加者は、本物のトランプ支持者だった。(トランプは演説の中で、自分が主導する活動は「愛の上に成り立っている」と発言している。)

ここでトランプは唐突に、「ウィスコンシン州では、多くの素晴らしい農業関連のイベントが広く行われている」などと褒め言葉を並べた。貿易戦争によって悪影響を受けている米国の農民たちへ配慮する振りをしたレトリックだ。また、2016年の米大統領選における選挙人団による投票にも触れたが、獲得した票数を誤って306票(実際は304票)と発言している。さらに、2016年の選挙時にニューハンプシャー州は自分から奪われたなどと証拠もなく主張するのは、米国の民主主義に対する冒涜にもなりかねない。

しかし、トランプがニューハンプシャーの人々の前に姿を現してから2時間が経った頃、大統領の演説は、使い古して目新しさを欠くお決まりのギャグのようになってきた。ヒラリー・クリントンやジョー・バイデンに対する攻撃、「彼女を収監しろ!」や「壁を作れ!」といった掛け声、人種差別主義的なレトリック(例えば「米国民の多くは”ヨーロッパ”に起源を持つ。
私もそうだ」という発言。※訳注:ヨーロッパ=白人を暗に指す)、将来の政策に関する口先だけの公約(例えば「政府は広告やキャンペーンを通じ、青少年や子どもたちに対してドラッグの危険性を積極的に訴えている。ドラッグは脳を破壊する恐ろしいもので、あらゆる悪事に関係する。これはとても大変な啓蒙活動だ」との発言)、ミシガン州の「マン・オブ・ザ・イヤー賞」なる実在しない賞を受賞したという主張など、これまで何度も繰り返してきた内容が並んだ。

トランプ支持者ですら、うんざりしたようだ。集会に参加したアトランティック誌の記者イレイナ・プロットは、大統領の演説中にもかかわらず多くの人が出口へ向かっていたとツイートしている。

「トランプ・ラリー」は勢いを失ってしまったのか? トランプの言動は支持者にすら新鮮味がなくなったのか?

答えを出すのはまだ時期尚早だ。しかし、米国民のほとんどが感じているトランプ政権の疲弊感が大統領の足元に忍び寄ろうとしているとすれば、2020年の再選を目指すトランプにとっては不吉な兆候だ。
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