架空の舞台で繰り広げられるファンタジー大作である『ゲーム・オブ・スローンズ』だが、実際の「世界史」をモチーフにしているところも実は多い。

もっとも有名なのは、薔薇戦争時代のイングランドを参照していることだろう。
だが、それだけにとどまらず、『GoT』は様々な時代や地域の「世界史」からの引用が複雑に散りばめられている。そのコンテキストを理解することもまた、『GoT』の楽しみ方のひとつだ。本稿では丸屋九兵衛に、世界史ドラマとしての『ゲーム・オブ・スローンズ』の見方を解説してもらった。

小説であれ、映像であれ。世界史愛好家にとって、ファンタジー作品とは分析&ツッコミを入れながら偽歴史を楽しむ場でもある。

『コナン・ザ・グレート』=1万年以上前のはずなのに、どう見ても中国と思える「キタイ」という国が東方にある。モンゴル人らしき遊牧民もいるし。

『スコーピオン・キング』=舞台は紀元前3000年くらいだが、「メソポタミア人を殺したぞ! ひゃっほ~!」と気勢を挙げるバイキングらしき人たち。君たちの登場は4000年ほど後なのだが。

以上は、この地球が舞台なのに時空を捻じ曲げている豪快な2例だが、異世界を舞台に「架空の中世ヨーロッパ」をリアリズムで描いた『ゲーム・オブ・スローンズ』(以下、『GoT』)の場合は、もちろん事情が違う。

『GoT』が15世紀イングランドの薔薇戦争をモチーフにしていることは有名だし、史実のランカスター家とヨーク家に、『GoT』のラニスター家とスターク家の原型を見るのは難しくない。しかし、薔薇戦争の両家の紋章であるバラは、『GoT』ではタイレルの家紋。
原作者ジョージ・R・R・マーティンが繰り返すように「歴史をモデルにしているが、一対一の対応はしていない」のだ。

ウェスタロスの歴史は、エッソス大陸からの侵略&植民の繰り返し

例えば、デナーリスの一族ターガリエン家はヴァリリア文明の末裔。ヴァリリアはエッソス大陸・南海岸の古代帝国だから、つまりローマ帝国だ。そのヴァリリアの子孫がウェスタロスの覇者となったことは「アーサー王はローマ人の血を引く」という説を思い起こさせる。だが「兄弟姉妹間の結婚を奨励」という習慣は、むしろ古代エジプト王朝に通じる。なお、エッソスの南海岸にはヴァリリア以前にギスカリ(Ghiscari)文明もあった。アスタポー等で奴隷たちを酷使していたマスターたちはその末裔。この文明は、ローマの先輩であるギリシアにあたるのだろう。守護神がギリシア神話の怪物ハーピー(女性の上半身+鳥の羽と下半身)だし。

ウェスタロスの歴史は、エッソス大陸からの侵略&植民の繰り返しだ。ブリテン島と同じように。だから、かつては全土に住んでいたが後続のアンダル人に追われ、今は「北」の住民となったノースメンはケルト系(スコットランド人)と思える。
だが、非人類である先住民「森の子ら」から見れば、そのノースメンも侵略者。人類に負けた先住の非人類が、やがて妖精化……これはブリテン島ではなくアイルランド神話~民話のパターンだ。

ウェスタロス内の少数派文化としては、バイキングっぽい鉄諸島の皆さんも気になるが、大陸南端部のドーンの異文化ぶりはさらに目を引く。特に、両性愛を堪能するオベリンの豪快さよ! ドーンのモデルはたぶん、君主なら美青年愛人を持つことが常識だった中世イスラム世界なのだ。ドーンの宮殿はスペインのイスラム式建築で撮られたものだし。

去勢済み男性公務員(?)である宦官等、語りたい要素はまだまだあるが、字数が尽きた。いつかどこかで。

Edited by The Sign Magazine
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