ユニバーサル ミュージック グループ(UMG)の所有者にとって、いまはまさにエキサイティングな時代だ。
世界最大の音楽企業UMGの親会社で、パリを拠点とするビベンディは10月、中国のインターネット大手テンセントとの30億ドル以上(およそ3200億円)の契約の進捗について株主に報告した。この契約が実現すると、テンセントはUMGの10~20%の株式を手に入れることになる。報告によると、ここ数週間以内で交渉は最終段階へと向かう。
それだけでなく、ビベンディが同社の事業のなかでももっとも収益の大きい資産の最大50%を売却する意思を強調するにつれ、ますます多くの入札者がUMGに興味を示している。「UMGの少数株を追加でほかのパートナー企業に売却するプロセスも進行しています」と仏現地時間10月17日にビベンディは声明を発表した。「なかには、テンセントと同じような価格帯での投資に興味を示す企業もあります」
あらゆる戦略的”シナジー”のほかに、入札希望者がいまUMGの一部を所有することに興味を持つ理由を理解するには、なにも経済オタクである必要はない。
ビベンディが発表したデータによると、2019年1月からの9カ月でUMGの全収益(音楽・出版・その他の事業が対象)は50億6000万ユーロ(およそ6100億円)に達した。米ドルに換算すると、これは前年に比べて7億7000万ドル(およそ830億円)の上昇だ。だが、5年前の2014年の同じ9カ月を比較すると、なんと150億ドル(およそ1600億円)もアップしていた。
UMGをめぐり、こうした明るいニュースが飛び交っているにもかかわらず、第3四半期の結果にはひとつだけ傷があった。そして、それこそが業界が注目すべき決定的なトレンドを表していた。2019年の最初の9カ月間、音楽ストリーミングによるUMGのレコード音楽の収益成長率が大幅に低下したのだ。
シンプルにパーセントで見てみると、2019年1月から9月末にかけての音楽ストリーミングによるUMGの収益成長率は、前年比23.4%という緩やかな成長を見せていた。前年の同じ期間の上昇率は35.8%、さらにその前年は40.8%だった。
筆者は、ユーロ基準のビベンディの2017年から3年にわたる第3四半期の結果をそれぞれの時期に応じた為替レートで米ドルに換算し、データを詳しく調べてみた。これによってUMGの真のパフォーマンスがわかるからだ。レコード音楽の収益の50%近くが生まれる北米が現在のUMGの最重要テリトリーであるのを考えると、これはなおさら重要なことだ。
筆者の計算によると、2019年の最初の9カ月間、UMGのレコード音楽のストリーミング収益は前年と比べて1億ドル以上(およそ110億円)少なかった。2つ目のグラフにあるように、2018年の9カ月間は6億1100万ドル(およそ660億円)だったのに対し、2019年の同期間は4億9700万ドル(およそ540億円)だったのがおわかりいただけるだろう。
UMGの四半期ごとの音楽ストリーミング収益(単位:100万ドル)

前年と比べた時のUMGの収益成長率(単位:100万ドル)

とはいえ、これはさして大きな問題ではない。なぜなら、9カ月間のUMGの2019年の音楽ストリーミング収益は前年と比べて最終的には5億ドル近く成長しているであろうし、同社は2019会計年度に世界的な全収益の記録を打ち立てるべく前進しているからだ。
さらに、UMGはいまでも音楽のメインストリームにおいてもっとも影響力のある企業であり、10月初めにビベンディは、Spotifyの2019年前半のグローバルチャートにランクインしたトップ10のうち8曲がUMGと契約しているアーティストの楽曲であるだけでなく、トップ6をすべてUMGアーティストが占めたことを高らかに公表した(ランキングトップは、この夏最大のSpotifyのヒット曲、ショーン・メンデス&カミラ・カベロの「セニョリータ」)。
それでも、音楽ストリーミングによる収益が下がりはじめたという事実(2019年前半を見ると、これはUMGの最大のライバルであるソニー・ミュージックエンタテイメントにも言える)は、大手音楽企業がこれから数年は立ち向かわなければならない課題を浮き彫りにしている。とりわけ、米国、英国、欧州をはじめとする主要な市場が成熟するにつれてSpotify、Apple Music、TIDALなどの全世界の音楽ストリーミングの成長が鈍るなら、いったい何がストリーミング収益をふたたびアップさせられるのだろう?
10月17日の投資者向けアップデートで米モルガン・スタンレーは、UMGの成長の見込みについて楽観的な姿勢を保っていた。
同社の情報によれば、2019年からUMGの「音楽ストリーミングの成長は、かなり低下する」ことが予測される。だが、音楽ストリーミングというフォーマットが既存の有料オンデマンド式サービスとともに中国やインドをはじめとする新興市場に「解放される」ことで今後の成長スピードを上げる可能性もあると示唆した。
さらに同社は、今後UMGの音楽ストリーミングの収益をアップさせるかもしれない別の可能性も指摘した。それこそが「TikTok、Calm、Facebook、Instagramにおける音楽ライセンスの新興ユーザー主体の成長」だ。
とりわけTikTokは特筆すべきアイデアだ。TikTokを所有するBytedanceは現在、将来の同サービスへの取り込みを念頭に大手レコード企業とライセンス交渉の最中にあると言われている。さらに、TikTok/BytedanceはSpotifyふうのオンデマンド式オーディオサービスを近日実施する(それも年内に、と言われている)。こうしたサービスによって、まだ成熟していない新興グローバル市場にようやく注目が集まる、というのが業界関係者の予測だ。
こうした流れは、UMGにとっても朗報だ。