ニューヨーク市の元検視官で、FOXニュースにも度々出演しているマイケル・バーデン医師は、『Fox & Friends』に登場し、故エプスタイン被告が自殺ではないと考える理由を語った。特にバーデン氏が指摘したのが、エプスタイン被告の喉ぼとけ上部の舌骨左側にあった1カ所の骨折、それに喉頭の両側にあった2カ所の骨折だった。同氏は「首吊り自殺でこうした損傷が見られるのは極めて稀であり、むしろ絞殺による他殺のケースで頻繁に見られる」と主張した。
バーデン氏の新発見にも関わらず、ニューヨーク市の主任検視官バーバラ・サンプソン医師は、エプスタイン被告は自殺だったという検視局の判断を支持した。「我々は検死の結果、エプスタイン氏の死因は縊死であり、自殺によるものだとの結論に至りました」と、サンプソン医師はローリングストーン誌に宛てた声明でこう述べた。「我々はこの判断を支持します。検死に関する情報は、引き続きエプスタイン氏のご遺族、関係者、ご遺族の病理学アドバイザーにお伝えしてまいります。最初の検死は徹底して、完璧に行われました。当局がもう一度検死を行う必要はありません」 ローリングストーン誌のコメント取材依頼に対し、バーデン氏からの返答は得られていない。
主任検視官が所属する検視局は、未だ検死に関する画像や資料を公表していない。検視局の代表者もローリングストーン誌宛のメールでこの点を確認した。だがバーデン氏はFOXニュースにエプスタイン被告のものだという検死報告のコピーに加え、図表やX線画像を提供したとみられる。
現時点で、バーデン氏の発見から結論を導くのは難しい――主任検視官がかたくなに自殺の判断を固持しているのだからなおさらだ。バーデン氏はこの道の専門家として知られているが、同時に目立ちたがり屋で、著名な事件に首を突っ込むことでも有名だ。ローリングストーン誌は別の法医病理学者2名に話を聞いたが、彼らが言うには詳細――現在進行中の警察の捜査結果も含め――がないと、エプスタイン被告の死をめぐる事件の全容を知ることはできない、と示している。
「なぜ徹底した検死を行うかというと、見た目と実情が一致しているか、全てつじつまが合っているかを確認するためです。私は常に疑惑の目で検死を行っています」と言うのは、法医学サービスを提供するAnchor Forensic Pathologyの独立認定専門医、プリヤ・バナジー医学博士だ。捜査に直接関わっているわけではないので事件に関して具体的なコメントはできないとしたうえで、ローリングストーン誌に語った。「それに拘留中の死亡ではどんな場合も、死因をはっきり特定するために、事細かに検査されます」
結論に至るには不十分な証拠
バナジー博士曰く、今回のように精密な検死が行われる場合、遺体のあらゆる骨のX線を撮影し、細部を顕微鏡で観察するのが通常だという。さらに骨折の原因を詳しく追及するために、法人類学者に追加確認をしてもらうこともあるという。「首の損傷の検死は常に厄介です。一般的に首は非常に守られた部位なんです」と言うバナジー博士は、縊死や絞殺など首の損傷が絡んだ事件を何百件も担当してきた。「舌骨は、U字型をしたとてもデリケートな骨です。七面鳥の叉骨が簡単に折れるとの同じように、圧を加えると簡単に折れてしまいます。
喉頭の中にある喉ぼとけについてもバナジー博士は説明してくれた。喉頭の側部は首の後ろに向かってだんだん細くなっていて、より損傷しやすいのだという。「疑いの目で見れば、私ならこれを自殺による損傷の範囲内だと考えることはないでしょうね」と博士。「これらの損傷は確かにかなり異常です。疑問を禁じえません」
法医学コンサルタントを行う企業PathologyExpert Inc.のCEOで認定法医学者のジュディ・メリネク医学博士によると、骨折の箇所や位置よりも、死亡現場の状況や損傷に関する他の検死視内容をふまえたうえでの骨折箇所に対する索状痕の位置のほうが重要だと言う。
「もし骨折のあった場所が索状痕の跡の周辺ではなく、腕に防御創があれば、事件は首吊り自殺と見せかけた他殺の線のほうがしっくりきますね」とメリネク博士。今回の検死には直接関与していないため、具体的なコメントはできないと断りを入れたうえで、ローリングストーン誌に語ってくれた。「もし、遺体に他に損傷がなく、舌骨と甲状軟骨の骨折箇所が索状痕と符合していれば、首吊り自殺だろうと考えるのが現実的です」 。これまでのところ、防御創に関する証拠は公表されていない。確認するべく検視局にコメントを求めたが、返答はなかった。
エプスタイン被告の首の損傷に加え、バーデン氏は眼球の出血も指摘した。彼曰く、眼球の出血は絞殺ではよく見られるもので、首吊り自殺では、ゼロとは言わないが、あまり見られないという。
「私に言わせれば、この発見は具体性に欠けますね。どちらとも言えません」
だがメリネク博士も指摘しているように、現在入手できる情報だけで実際に何が起きたのかを知るには不十分だ。「警察の捜査報告書や現場の写真、検死の画像、刑務所の監視カメラ映像などが公開されるか、民事裁判手続きの中で明るみにされるまで、主任検視官のサンプソン医師やバーデン氏の根拠が不確かかどうか、知るすべはありません」と博士。
またメリネク博士は、主任検視官に与えられていた警察の情報へのアクセス権限がバーデン氏には与えられていなかったのではないかと述べた。現在進行中の捜査状況を除いて、入手可能なあらゆる証拠にアクセスできるのはサンプソン医師とチームだけなのではないかと言うのだ。とにかく現時点では、今後さらに発見があるのか――それとも、今回の件は単にエプスタイン被告が自殺したという公式見解に疑惑の目を向けさせようとしただけなのかは、定かではない。