究極の映画愛”をキャッチフレーズにしたホラー映画『ゴーストマスター』が公開中だ。
本作は、第2回TSUTAYA CREATORS PROGRAM準グランプリを受賞した新星ヤング・ポール監督による長編デビュー作。
そんな監督と今回対談をおこなった相手は、ロック・バンドBase Ball Bear、そしてマテリアルクラブで活躍する小出祐介。本作の主題歌「Fear」をマテリアルクラブが手がけ、J-ホラー・リスペクトを込めたリリックが話題を呼んでいるが、映画に関しても一家言ある論客としておなじみだ。
そんな2人が激突するのだから、血を見ずには終わらない。惨劇が今、幕を上げる!
ー『ゴーストマスター』ではトビー・フーパー監督の映画『スペースバンパイア』(1985)が重要なキーワードとして登場しますが、ポールさん的にはガチでLOVEなのでしょうか? かなりツッコミどころのある映画なので、『テッド』の『フラッシュ・ゴードン』や『ビッグ・ヒット』の『キングコング2』みたいに、好きなんだけどプププ…… みたいな屈折した愛情なのでしょうか?
ヤング・ポール(以下、ポール):かなりガチですよ。今回のテーマの1つが”継ぎ接ぎ”なんです。映画もいろんなカットを継ぎ接ぎして作るんですけれど。『スペースバンパイア』の面白いところは、SF(スペース)とホラー(バンパイア)がくっついた名前で、映画自体にもいろんな要素が詰まっていて、話も一本調子じゃない。だけど、全体で見ると圧倒的な凄いものを見てしまった…… というそのあり方。『スペースバンパイア』が持っている継ぎ接ぎの魅力とかをパワーに帰結したいなと。ネタ的に始まりつつ、実はガチにトビー・フーパーへのリスペクトを捧げたつもりです。
ー小出さんは、『スペースバンパイア』についてはどう見ていらっしゃいますか?
小出祐介(以下、小出):そういう意味では『スペースバンパイア』って結構ヒップホップみたいだなと思って。
ートビー・フーパー監督作品でいえば、『スペースインベーダー』(1986)はどうでしょう?
ポール:個人的にはやっぱり宇宙人の造形が可愛くて最後、ミラーボールみたいに光が表現されていて、ああいうディテールの驚きが好きな作品ですね。宇宙人が可愛すぎるな…… みたいな印象もありますが。
ートビー・フーパーの晩年の監督作品はけっこう困ったものもありますが、お2人ははどこまで付き合いましたか?
小出:僕はチリヂリに見ている感じですね。全部は観ていないです。
ポール:僕はUAE資本の最後の作品『悪魔の起源 ジン』(2013)まで観てます! 池袋の新文芸坐で”トビー・フーパー追悼オールナイト”があって、1本目が『悪魔のいけにえ』(1974)で。その後『マングラー』(1995)、それから『悪魔の起源 ジン』もあって。
ー小出さんの『ゴーストマスター』を見た印象は?
小出:謎のエモさがありましたね。
ー先ほどサンプリングという言葉も出ましたが、『ゴーストマスター』では幾つもマニアックなネタがありますね。それはコアな客層に向けたものなのでしょうか?
ポール:正直、「このネタ判るよね?」みたいなオタクの楽しみみたいな映画にしちゃいかんと思っていたんですよ。実際いろんなサンプリングというか、わかりやすい引用もあるんですけれど、それは台本上、(主人公の)黒沢明という男の脚本が生み出した世界なんです。ネタ元を知らないと楽しめないということもないし、密かなホラーマニアの為に作ったわけではなくて。知らない人が見ても面白がれるようにしたつもりではありますね。
小出:そもそもサンプリングというものは、そうあるべきなんですよ。元ネタがわかる人がニヤリとする為だけにあってはいけない! サンプリングすることによって別の新しい何かになっていないといけないんです。この映画はそうなってはいないから、元ネタを知らないでも楽しめるし、「面白いな、カメラ人間!」となれるという(笑)。
ポール:音楽でも、元ネタに偶然フト出会うと、すごく感動するんですよ。
小出:元ネタと出会ったときに、改めて感銘を受けるときもあるじゃないですか。ヒップホップのサンプリングのときに本当に一部だけ使っていて、原曲を聞いたら「え? これってこんな曲なの」とか思ってびっくりしたり。
ー『ゴーストマスター』の映像上の”サンプリング”で印象に残っているものはありますか?
小出:それって難しいですよね。これっぽいかもっていうのはあるけど、はっきりとしたそれは実はそんなに多くないから。
ポール:台本になくて現場でやることになったのは(イエジー・)スコリモフスキー監督の『ザ・シャウト さまよえる幻響』(1978)っていう映画があるんですけど。叫び声で人を殺すっていう…… それを導入出来たのは嬉しかったですね。あと、サンプリングではないんですけど、勇也というキャラクターは意識したものではないんですけど、トビー・フーパーのモンスターに対するシンパシーにつながっている気がします。『悪魔のいけにえ』のレザーフェイスだって、ただのキ●●イ家族の怖いモンスターではなくて、皮のマスクをかぶった悲しさも描かれていると思うんですよ。人をさらってきた時に、はっきりではないんですけど一瞬ためらう様子が見えたりとか…… 「俺は一体何をしているんだ?」というか。勇也に関してもそうで、ただ頭のおかしい俳優が乗り移られてこんなことをやっちゃいましたというのではなくて、彼には彼なりの真面目さがあって。
ー映画に出てくるモンスターでお気に入りのものは?
小出:マイケル・マイヤーズ(『ハロウィン』シリーズに登場する殺人鬼ブギーマン)かな。
ポール:今まで言ってきた人物像とは真逆に、本当に底がない悪いだけの男としてウェス・クレイヴン監督作品の『ショッカー』(1989)に出てくるピンカーですね。死刑になってテレビの電波になっちゃうやつで。哀愁のかけらもないのが最高。やってることも無茶苦茶だし、あそこまでやられるとスカッとしていて。
小出:ところで映画を見るとき、キャラクターで見ますか? それともストーリーで見ますか?
ポール:キャラクターでは見ないですね。シーンというよりかは出来事だったり、瞬間の断片です。だから、映画を見終わっても何の映画だか忘れちゃうこともあるくらいで。でもあの場面であの出来事が起こったなとかはかなり覚えていますね。
小出:俺は、全体の構成とか、お話の奥行きとか…… だから人間が残っていないくて。極端な話、どの俳優さんが出ているのかとかには興味がないのかも(笑)。人によっては、ブラピが良かったとかいうけど。俺も良かったとは思ったけど、そんなに覚えてないわ、みたいな。
ポール:僕は本当に記憶力がなくて、俳優の名前を覚えるのが苦手なんですよ。たまにすごく記憶している人っているじゃないですか。
小出:俺も出てこないんだよなあ。すぐ出てきるのイーサン・ホークくらい(笑)。
ポール:語感がいい人は覚えやすいですよね。
ー黒沢明がいろいろな映画監督の名前を出して「謝れ!」と言うシーンで、引き合いに出されるのがジョージ・A・ロメロ、ジョン・カーペンター、ブライアン・デ・パルマ、ウィリアム・フリードキン、ルチオ・フルチ、サム・ライミ、ジョージ・ミラー、ジョー・ダンテ、ジョン・ランディス、スティーヴン・スピルバーグ、深作欣二、中島貞夫、野村芳太郎、黒澤明…… そんな中で「タランティーノはいい」というオチが付きますが、何故タランティーノには謝らなくていいのでしょうか?
ポール:あのセリフは脚本の楠野(一郎)さんが書いたセリフなんです。僕も一瞬、何でかな……? とも思ったんですけどまあ、よく考えると確かに謝らなくてもいいなって。僕の解釈では、黒沢の中でタランティーノはライバルなんですよ。
小出:同族嫌悪というか。
ポール:ジョー・ダンテだったりサム・ライミとか関しては、マスターピースだし偉人。ただタランティーノ、お前は俺と一緒だろ? っていう。お前だって映画ファンじゃん! という意味でライバルだから、あいつは入れない……! ということだと思います。
小出:タランティーノって映画の天才というよりかは、エキスパートのオタクじゃないですか? だからああいう作品を作れる。そういう意味では天才なんだけど。映画を開拓していった監督とは違う文脈だと思うんですよ。『ゴーストマスター』の明はどっちかっていうとタランティーノ側の人間。ゼロから何かを作るんじゃなくて、いろんなものが大好きで俺も撮りたいっていう人。
ポール:うん、だから彼の成功が憎たらしいってね。俺だって映画見てるし! なんであいつだけうまくいってるんだっていう。羨ましいんだと思いますね。
小出:タランティーノの場合、昔から続いている文脈を未だにサンプリングしているのが本当にヒップホップっぽいんじゃないかな。音楽もそうだし、場面や文脈ごとのサンプリングがうまくて。だから明はより嫉妬するんじゃないかな。俺もそういうことやりたいよ! っていう。
ポール:むしろ文脈で勝負してますもんね。『デス・プルーフ in グラインドハウス』なんかも、歴代のトラッシュムービーで殺されてきた女性たちがいるんですよ、から彼女たちのリベンジのムービーなんですよっていう読み替えが憎たらしい! けど見にいって楽しんじゃうみたいな。
ー余談ですけど、スタンリー・キューブリックには謝らなくても良いんですかね。
ポール:……。うーん、キューブリック問題ね(笑)。キューブリックはファン多いからな。でも個人的には全く謝る必要がないと思ってるんですけどね。あいつはちょっとtoo seriousに、これは意味があるものなんだと説得している。本当の欲望はもっと幼稚で純粋なのに、大上段に構えたから大作家に見られているって個人的には思っていますけどね。
ー『ゴーストマスター』の劇伴音楽にはどのようにこだわりましたか?
ポール:劇伴に関しては渡邊琢磨さんが担当してくれました。彼と話したのは、いろんな種類の音楽と音色が欲しいということでしたね。懐かしさを感じるものもあるけれど、そこから一歩新しいものに聞こえるのがカッコいいと思いました。
ー小出さんが「Fear」のリリックを書かれたのは映画を見てからですか。
小出:そうですね。単純にラストシーンからエンドロールに入るあの流れに対して、どういう音を当てたらいいのかな? という考えから入りました。せっかくこういう映画なので、J-ホラーというテーマだけでラップできたら日本初かも……? と思って、やってみました。
ポール:小中理論からネクロノミコンまで。最高ですよね(笑)。おかしみとかユーモアって大事だと思います。
ー白石景子さんの演じる録音の柴本幸がジューダス・プリーストのTシャツを着ていますが、あれは?
ポール:その人の背景を感じさせるような衣装にしたいと思ったんです。音楽好きで、プライベートではどでかい音を聴いてる…… みたいな。だからメタルTシャツがいいかなと考えました。ただメタリカは嫌だなと思って(笑)、ジューダス・プリーストにしましたね。
ー最後に、この映画を観て扉を開かれた若者が見るべきホラー・SFのオールタイム・ベストを教えて下さい。
ポール:デヴィッド・クローネンバーグが好きなんです。『スキャナーズ』(1981)は特に好きですね。ハタから見ると単に睨み合っているだけなんですけど、そこに造形が乗っかっていて。頭が爆発するアイデアとしてはシンプルなんだけど、説得力があるんです。ストーリーとしても超能力者なのに全く幸せそうじゃないという(苦笑)。
小出:今年見たやつだと、『ゴーストランドの惨劇』(2019)ですね。H.P.ラヴクラフトの肖像画から始まるんですよ。だから、そこからクトゥルフ神話なのかなと思って見始めるんですけど、実はラヴクラフトに憧れている女の子が主人公で、母親と一緒に引っ越した先で『悪魔のいけにえ』的な出来事に襲われるんですよ。それから10年後、『ゴーストランドの惨劇』という小説でベストセラー作家になっていて。どうするんだろうって思ったら、彼女が元々空想癖を持っていて、映画本編が彼女の空想なんですよ。現実はゴーストランドの惨劇のまま続いているのに、頭の中では10年後になっていると。その対比の見せ方が面白くて。ラヴクラフトネタだと思ってたら、ラヴクラフト本人が出てくるっという衝撃の展開で。大好きです(笑)。
ポール:ラヴクラフトに「君は才能がある」って言われるんだよね(笑)。
小出:何? この映画っていう。特殊メイクでラヴクラフト本人を再現して出したの、この映画が初めてじゃないかな。
ポール:クラシックで言うと、『死霊のはらわた』シリーズをシリーズ通してみて欲しいですね。1本1本の好みはあると思うんですけど、シリーズ全作を一気に見るべきですよ。1作目がギャグっぽいところもありつつホラーで。『~2』はなんと1作目のパロディにするっていう。『~3』では設定が中世になって、そんな続編の作り方アリかよ……! っていうのが面白いな。
小出:ああ言うやり方を『死霊のはらわた』が作ったから、後のホラー・パロディがたくさんやれるようになったんじゃないかな。あれがアリなら、みたいな。
ポール:よく続編はオリジナルを越えられない、みたいなこと言いますけど、違うんだと。『~2』は1作目との格闘の記録なんだと。だからあの戦い方は僕は好きですね。
ー続編の美学はぜひ『ゴーストマスター2』でお願いします!
ポール:2はどうしようかなあ(笑)。
小出:すでにパロディだしね(笑)。
<作品情報>
『ゴーストマスター』
2019年12月6日公開
監督:ヤング・ポール
出演:三浦貴大、成海璃子 ほか
配給:S・D・P
公式HP:http://ghostmaster.jp/
(C)2019『ゴーストマスター』製作委員会
Photo by Mitusuru Nishimura
本作は、第2回TSUTAYA CREATORS PROGRAM準グランプリを受賞した新星ヤング・ポール監督による長編デビュー作。
ゾンビありスプラッターありサイバーパンクあり、ありったけのホラー映画LOVEを込めたストーリーは、映画ファンであるほどハートを撃ち抜かれるに違いない。
そんな監督と今回対談をおこなった相手は、ロック・バンドBase Ball Bear、そしてマテリアルクラブで活躍する小出祐介。本作の主題歌「Fear」をマテリアルクラブが手がけ、J-ホラー・リスペクトを込めたリリックが話題を呼んでいるが、映画に関しても一家言ある論客としておなじみだ。
そんな2人が激突するのだから、血を見ずには終わらない。惨劇が今、幕を上げる!
ー『ゴーストマスター』ではトビー・フーパー監督の映画『スペースバンパイア』(1985)が重要なキーワードとして登場しますが、ポールさん的にはガチでLOVEなのでしょうか? かなりツッコミどころのある映画なので、『テッド』の『フラッシュ・ゴードン』や『ビッグ・ヒット』の『キングコング2』みたいに、好きなんだけどプププ…… みたいな屈折した愛情なのでしょうか?
ヤング・ポール(以下、ポール):かなりガチですよ。今回のテーマの1つが”継ぎ接ぎ”なんです。映画もいろんなカットを継ぎ接ぎして作るんですけれど。『スペースバンパイア』の面白いところは、SF(スペース)とホラー(バンパイア)がくっついた名前で、映画自体にもいろんな要素が詰まっていて、話も一本調子じゃない。だけど、全体で見ると圧倒的な凄いものを見てしまった…… というそのあり方。『スペースバンパイア』が持っている継ぎ接ぎの魅力とかをパワーに帰結したいなと。ネタ的に始まりつつ、実はガチにトビー・フーパーへのリスペクトを捧げたつもりです。
ー小出さんは、『スペースバンパイア』についてはどう見ていらっしゃいますか?
小出祐介(以下、小出):そういう意味では『スペースバンパイア』って結構ヒップホップみたいだなと思って。
いろんな要素をサンプリングしてひとつの作品にする姿勢というか。そう考えると映画ってヒップホップみたいだなと思うことって結構あります。タランティーノの作品とか特にそうですけど。そういう映画の一面は好きだし、それを自分の音楽に落とし込めたらと日々思っています。今回、その点でもラップのある曲で参加できてよかったです。
ートビー・フーパー監督作品でいえば、『スペースインベーダー』(1986)はどうでしょう?
ポール:個人的にはやっぱり宇宙人の造形が可愛くて最後、ミラーボールみたいに光が表現されていて、ああいうディテールの驚きが好きな作品ですね。宇宙人が可愛すぎるな…… みたいな印象もありますが。
ートビー・フーパーの晩年の監督作品はけっこう困ったものもありますが、お2人ははどこまで付き合いましたか?
小出:僕はチリヂリに見ている感じですね。全部は観ていないです。
ポール:僕はUAE資本の最後の作品『悪魔の起源 ジン』(2013)まで観てます! 池袋の新文芸坐で”トビー・フーパー追悼オールナイト”があって、1本目が『悪魔のいけにえ』(1974)で。その後『マングラー』(1995)、それから『悪魔の起源 ジン』もあって。
ー小出さんの『ゴーストマスター』を見た印象は?
小出:謎のエモさがありましたね。
荒削りの中に光るものがあるというか。言葉で凄さを説明できる映画よりも、1日2日置いてやっぱ好きかもって思える映画の方が心に残るじゃないですか。『ゴーストマスター』はそういう映画でしたね。

ー先ほどサンプリングという言葉も出ましたが、『ゴーストマスター』では幾つもマニアックなネタがありますね。それはコアな客層に向けたものなのでしょうか?
ポール:正直、「このネタ判るよね?」みたいなオタクの楽しみみたいな映画にしちゃいかんと思っていたんですよ。実際いろんなサンプリングというか、わかりやすい引用もあるんですけれど、それは台本上、(主人公の)黒沢明という男の脚本が生み出した世界なんです。ネタ元を知らないと楽しめないということもないし、密かなホラーマニアの為に作ったわけではなくて。知らない人が見ても面白がれるようにしたつもりではありますね。
小出:そもそもサンプリングというものは、そうあるべきなんですよ。元ネタがわかる人がニヤリとする為だけにあってはいけない! サンプリングすることによって別の新しい何かになっていないといけないんです。この映画はそうなってはいないから、元ネタを知らないでも楽しめるし、「面白いな、カメラ人間!」となれるという(笑)。
ポール:音楽でも、元ネタに偶然フト出会うと、すごく感動するんですよ。
これが元ネタだったのか! ってね。それと同じで、この映画に出てくる描写の元ネタに20年後とかに気がつくような…… そういう出会いがハッピーだと思いますね。
小出:元ネタと出会ったときに、改めて感銘を受けるときもあるじゃないですか。ヒップホップのサンプリングのときに本当に一部だけ使っていて、原曲を聞いたら「え? これってこんな曲なの」とか思ってびっくりしたり。
ー『ゴーストマスター』の映像上の”サンプリング”で印象に残っているものはありますか?
小出:それって難しいですよね。これっぽいかもっていうのはあるけど、はっきりとしたそれは実はそんなに多くないから。
ポール:台本になくて現場でやることになったのは(イエジー・)スコリモフスキー監督の『ザ・シャウト さまよえる幻響』(1978)っていう映画があるんですけど。叫び声で人を殺すっていう…… それを導入出来たのは嬉しかったですね。あと、サンプリングではないんですけど、勇也というキャラクターは意識したものではないんですけど、トビー・フーパーのモンスターに対するシンパシーにつながっている気がします。『悪魔のいけにえ』のレザーフェイスだって、ただのキ●●イ家族の怖いモンスターではなくて、皮のマスクをかぶった悲しさも描かれていると思うんですよ。人をさらってきた時に、はっきりではないんですけど一瞬ためらう様子が見えたりとか…… 「俺は一体何をしているんだ?」というか。勇也に関してもそうで、ただ頭のおかしい俳優が乗り移られてこんなことをやっちゃいましたというのではなくて、彼には彼なりの真面目さがあって。
理屈があって、ああなってしまった。そんな描き方は、トビー・フーパーと繋がっているかも知れないです。真似しようとしたわけではなく、モンスターの描き方がそうなったということですけどね。
ー映画に出てくるモンスターでお気に入りのものは?
小出:マイケル・マイヤーズ(『ハロウィン』シリーズに登場する殺人鬼ブギーマン)かな。
ポール:今まで言ってきた人物像とは真逆に、本当に底がない悪いだけの男としてウェス・クレイヴン監督作品の『ショッカー』(1989)に出てくるピンカーですね。死刑になってテレビの電波になっちゃうやつで。哀愁のかけらもないのが最高。やってることも無茶苦茶だし、あそこまでやられるとスカッとしていて。
小出:ところで映画を見るとき、キャラクターで見ますか? それともストーリーで見ますか?
ポール:キャラクターでは見ないですね。シーンというよりかは出来事だったり、瞬間の断片です。だから、映画を見終わっても何の映画だか忘れちゃうこともあるくらいで。でもあの場面であの出来事が起こったなとかはかなり覚えていますね。
小出:俺は、全体の構成とか、お話の奥行きとか…… だから人間が残っていないくて。極端な話、どの俳優さんが出ているのかとかには興味がないのかも(笑)。人によっては、ブラピが良かったとかいうけど。俺も良かったとは思ったけど、そんなに覚えてないわ、みたいな。
ポール:僕は本当に記憶力がなくて、俳優の名前を覚えるのが苦手なんですよ。たまにすごく記憶している人っているじゃないですか。
小出:俺も出てこないんだよなあ。すぐ出てきるのイーサン・ホークくらい(笑)。
ポール:語感がいい人は覚えやすいですよね。

ー黒沢明がいろいろな映画監督の名前を出して「謝れ!」と言うシーンで、引き合いに出されるのがジョージ・A・ロメロ、ジョン・カーペンター、ブライアン・デ・パルマ、ウィリアム・フリードキン、ルチオ・フルチ、サム・ライミ、ジョージ・ミラー、ジョー・ダンテ、ジョン・ランディス、スティーヴン・スピルバーグ、深作欣二、中島貞夫、野村芳太郎、黒澤明…… そんな中で「タランティーノはいい」というオチが付きますが、何故タランティーノには謝らなくていいのでしょうか?
ポール:あのセリフは脚本の楠野(一郎)さんが書いたセリフなんです。僕も一瞬、何でかな……? とも思ったんですけどまあ、よく考えると確かに謝らなくてもいいなって。僕の解釈では、黒沢の中でタランティーノはライバルなんですよ。
小出:同族嫌悪というか。
ポール:ジョー・ダンテだったりサム・ライミとか関しては、マスターピースだし偉人。ただタランティーノ、お前は俺と一緒だろ? っていう。お前だって映画ファンじゃん! という意味でライバルだから、あいつは入れない……! ということだと思います。
小出:タランティーノって映画の天才というよりかは、エキスパートのオタクじゃないですか? だからああいう作品を作れる。そういう意味では天才なんだけど。映画を開拓していった監督とは違う文脈だと思うんですよ。『ゴーストマスター』の明はどっちかっていうとタランティーノ側の人間。ゼロから何かを作るんじゃなくて、いろんなものが大好きで俺も撮りたいっていう人。
ポール:うん、だから彼の成功が憎たらしいってね。俺だって映画見てるし! なんであいつだけうまくいってるんだっていう。羨ましいんだと思いますね。
小出:タランティーノの場合、昔から続いている文脈を未だにサンプリングしているのが本当にヒップホップっぽいんじゃないかな。音楽もそうだし、場面や文脈ごとのサンプリングがうまくて。だから明はより嫉妬するんじゃないかな。俺もそういうことやりたいよ! っていう。
ポール:むしろ文脈で勝負してますもんね。『デス・プルーフ in グラインドハウス』なんかも、歴代のトラッシュムービーで殺されてきた女性たちがいるんですよ、から彼女たちのリベンジのムービーなんですよっていう読み替えが憎たらしい! けど見にいって楽しんじゃうみたいな。
ー余談ですけど、スタンリー・キューブリックには謝らなくても良いんですかね。
ポール:……。うーん、キューブリック問題ね(笑)。キューブリックはファン多いからな。でも個人的には全く謝る必要がないと思ってるんですけどね。あいつはちょっとtoo seriousに、これは意味があるものなんだと説得している。本当の欲望はもっと幼稚で純粋なのに、大上段に構えたから大作家に見られているって個人的には思っていますけどね。
ー『ゴーストマスター』の劇伴音楽にはどのようにこだわりましたか?
ポール:劇伴に関しては渡邊琢磨さんが担当してくれました。彼と話したのは、いろんな種類の音楽と音色が欲しいということでしたね。懐かしさを感じるものもあるけれど、そこから一歩新しいものに聞こえるのがカッコいいと思いました。

ー小出さんが「Fear」のリリックを書かれたのは映画を見てからですか。
小出:そうですね。単純にラストシーンからエンドロールに入るあの流れに対して、どういう音を当てたらいいのかな? という考えから入りました。せっかくこういう映画なので、J-ホラーというテーマだけでラップできたら日本初かも……? と思って、やってみました。
ポール:小中理論からネクロノミコンまで。最高ですよね(笑)。おかしみとかユーモアって大事だと思います。
ー白石景子さんの演じる録音の柴本幸がジューダス・プリーストのTシャツを着ていますが、あれは?
ポール:その人の背景を感じさせるような衣装にしたいと思ったんです。音楽好きで、プライベートではどでかい音を聴いてる…… みたいな。だからメタルTシャツがいいかなと考えました。ただメタリカは嫌だなと思って(笑)、ジューダス・プリーストにしましたね。
ー最後に、この映画を観て扉を開かれた若者が見るべきホラー・SFのオールタイム・ベストを教えて下さい。
ポール:デヴィッド・クローネンバーグが好きなんです。『スキャナーズ』(1981)は特に好きですね。ハタから見ると単に睨み合っているだけなんですけど、そこに造形が乗っかっていて。頭が爆発するアイデアとしてはシンプルなんだけど、説得力があるんです。ストーリーとしても超能力者なのに全く幸せそうじゃないという(苦笑)。
小出:今年見たやつだと、『ゴーストランドの惨劇』(2019)ですね。H.P.ラヴクラフトの肖像画から始まるんですよ。だから、そこからクトゥルフ神話なのかなと思って見始めるんですけど、実はラヴクラフトに憧れている女の子が主人公で、母親と一緒に引っ越した先で『悪魔のいけにえ』的な出来事に襲われるんですよ。それから10年後、『ゴーストランドの惨劇』という小説でベストセラー作家になっていて。どうするんだろうって思ったら、彼女が元々空想癖を持っていて、映画本編が彼女の空想なんですよ。現実はゴーストランドの惨劇のまま続いているのに、頭の中では10年後になっていると。その対比の見せ方が面白くて。ラヴクラフトネタだと思ってたら、ラヴクラフト本人が出てくるっという衝撃の展開で。大好きです(笑)。
ポール:ラヴクラフトに「君は才能がある」って言われるんだよね(笑)。
小出:何? この映画っていう。特殊メイクでラヴクラフト本人を再現して出したの、この映画が初めてじゃないかな。
ポール:クラシックで言うと、『死霊のはらわた』シリーズをシリーズ通してみて欲しいですね。1本1本の好みはあると思うんですけど、シリーズ全作を一気に見るべきですよ。1作目がギャグっぽいところもありつつホラーで。『~2』はなんと1作目のパロディにするっていう。『~3』では設定が中世になって、そんな続編の作り方アリかよ……! っていうのが面白いな。
小出:ああ言うやり方を『死霊のはらわた』が作ったから、後のホラー・パロディがたくさんやれるようになったんじゃないかな。あれがアリなら、みたいな。
ポール:よく続編はオリジナルを越えられない、みたいなこと言いますけど、違うんだと。『~2』は1作目との格闘の記録なんだと。だからあの戦い方は僕は好きですね。
ー続編の美学はぜひ『ゴーストマスター2』でお願いします!
ポール:2はどうしようかなあ(笑)。
小出:すでにパロディだしね(笑)。

<作品情報>
『ゴーストマスター』
2019年12月6日公開
監督:ヤング・ポール
出演:三浦貴大、成海璃子 ほか
配給:S・D・P
公式HP:http://ghostmaster.jp/
(C)2019『ゴーストマスター』製作委員会

Photo by Mitusuru Nishimura
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