米大手通信社ブルームバーグ創業者でありビリオネアのマイケル・ブルームバーグが正式に大統領選への立候補を表明した。偏った方針に基づく報道は、ニュース報道とはいえない? ブルームバーグの立候補による悪影響はあるのか?

77歳のブルームバーグは、混戦の民主党候補に名乗りを上げた。
より左傾化する民主党に対し、彼は中道現実路線を打ち出している。ここ数年ブルームバーグは巨額の私財を投じ、銃器の安全な取り扱いに関する規制強化や気候変動対策を推進するよう強く求めている。

2019年11月後半の週末、ブルームバーグ・ニュースは大きな打撃を受けた。本記事は、ニュースビジネスの将来とニュースビジネスの終焉を予言するものだ。

11月24日、前ニューヨーク市長でビリオネアのマイク・ブルームバーグは正式に民主党の大統領候補指名争いへの参戦を表明した。ブルームバーグ・ニュース編集長のジョン・ミクルスウェイトは、編集・調査担当者へ送ったメモの中で、上司であるマイク・ブルームバーグと他の民主党候補者の何れに対する「調査」も行わない方針を示している。

候補者への調査を行わないという我が社の慣習に従い、マイク(及び家族や財団)に対する調査は行わない。同様の方針は、他の民主党候補者に対しても適用する。マイクだけを他の候補者と別格に扱うことはできない。

マイク・ブルームバーグにニュースビジネスを尊重する気持ちがあるのなら、自社の編集者であっても自身について事細かに取材されるのを厭わないはずだ。または、自分のメディアビジネスを手放すかのどちらかだろう。或いは、大統領選への立候補などしないか…

ところがマイク・ブルームバーグはいかにも彼らしく、最も軽蔑すべき破滅的な方法を選択した。
彼は(言ってしまえば、馬鹿げた)選挙期間中だけは通信社における職を停止するものの、世界最大級の報道機関のオーナーには留まるという。

マイク・ブルームバーグによる決断は、同社に所属する約2700人のジャーナリストを酷い倫理で縛ることとなる。命令によって記者らによる政治報道の大部分が遮断されてしまうとなれば、当然彼らによる他のいかなる報道の正当性も失われてしまう。

一方で、ドナルド・トランプ大統領に関する調査報道の方に偏る可能性もある。しかし一本道しか進むことを許されないとすれば、それはニュース報道とはいえず、記者らもそのような状況を我慢している場合ではない。結局、編集者に政治的な方針を押し付けるのと同じだ。

ブルームバーグの読者と視聴者は、いったいどのような事実やストーリーが伏せられて報道されているか知る由もない。これは冗談のような話だ。

大手報道機関が自らの政治的指針を公然と示したのは、ブルームバーグが初めてだ。報道機関による指針表明については、筆者の著書『Hate Inc.』でも触れている。ニュース報道は既に二元化し、営利を目的としたメディア企業は自らの「政治思想」に反するニュースを報道しなくなっている。

このようなやり方は、1990年代にFOXニュースから始まった。
当時CEOだったロジャー・エイルズは、保守系思想を持つ白人を中心とした「55歳以上」向けの偏った報道が大きな広告収入につながることに気づいた。

FOXは自己の利益のためにフェイクニュースを流すことも厭わなかったが(トランプによるオバマの出生に関わる悪名高い誹謗中傷が最も典型的な例)、同社による最も酷い詐欺行為は、共和党員や保守系に対する調査報道を行わない姿勢にある。

FOXは嘘をつく必要がなかった。ただ特定の政治家に対する敵対的なニュースをほとんど流さないことで、視聴者が彼らを支援するように仕向けるだけでよかったのだ。例えばイラク戦争中に視聴率が高まる中で、FOXは大量破壊兵器の捜索に対する懐疑論ですら報道を控えた。そしてアブグレイブ刑務所における捕虜虐待の報道を、まるでリベラル主義者による陰謀であるかのように報じた。敢えて伏せられたストーリーの中に最も大きな嘘が隠れていたのだ。

2016年夏、MSNBC、CNN、ニューヨークタイムズ紙、ワシントンポスト紙など老舗の「大手」報道機関にも、かつてのFOXと同様の行動が見られ始めた。トランプの出現は、多くの報道機関が従来型の客観的報道というものを見直すきっかけとなった。同年8月に筆者は、この状況がどのような結果をもたらすかについて懸念を示した。

現在は、民主党の腐敗を報じる共和党系メディアと、共和党の腐敗を報じる民主党系メディアという構図になっている。このような状況は正常に機能しない。


編集者や記者は、少なくとも公平に見せなければならないというプレッシャーから解放されると、当然フェイク情報に踊らされやすい。そして最終的には誤ったストーリーで一か八かの勝負に出ることとなる。大量破壊兵器の件もロシア疑惑にまつわる「トランプ包囲網」のストーリーに対しても、報道各社は事実よりも作り上げられたストーリーを基に報道したため、崖っぷちに追い込まれやすかった。

さらに悪いことに、編集者や記者は自分たちが「支援する側」に関する報道を止めると今度は、「正しい」観点に基づく予め選択したストーリーを作り始める。結果として特定の政治情報源とのなれ合いが度を超えて、本来の目的を見失うどころか言葉遣いまで忘れてしまうようだ。記者らがまるで政治家のような口ぶりで話し出すのだ。

ここで抜き打ちテストを試してみよう。以下の内、民放テレビ局の見出しはどのグループで、民主党全国委員会のものはどれか?

グループA
打ち負かされるジム・ジョーダンのビデオ
タイムライン:ヨバノビッチに対する圧力キャンペーン
偽りの発覚:トランプによる最も笑える腐敗の主張
エコノミック・クラブにおけるトランプによる嘘満載の最新スピーチ

グループB
発覚:ルビー・ジュリアーニによる「でたらめな犯罪」
多くの分野で行き詰まりながらも経済成長を主張するトランプ
安全保障政策をエスカレートするトランプ
ウクライナ陰謀説を唱え続ける共和党

答えは、グループAが民主党全国委員会で、BがMSNBCだ。

次に「別の側」による例も見てみよう。一方が共和党全国委員会で、もう一方が民間の報道機関によるものだ。

グループA
結論は出た:シフの失敗
トランプ政権下で活気づくアフリカ系アメリカ人コミュニティー
激怒:連邦判事の再編で大慌ての民主党
国民は弾劾にうんざりしているにもかかわらず、止めようとしない民主党

グループB
バイデンがアイオワで苦戦すると支持者が考える理由
世論調査:弾劾に賛成していた無所属層も、公聴会の最初の2週間を終えて多くが反対に回る
感謝祭の反弾劾キャンペーンへ向けて懸念を高める民主党
息子を一流私立学校へ進学させたにもかかわらず、子どもたちは私立学校へやっていないと否定するエリザベス・ウォーレン

グループAは共和党全国委員会で、Bがデイリー・コーラーだ。

あるビリオネアを政治の世界へ飛び込ませる道筋を付けたブルームバーグによる公式声明は、有機的に発生するものというよりは、FOXやMSNBCのような報道の問題といえる。
偏った報道や、或いはオーナーやスポンサーを予め報道内容から除外するいかにもありそうな内容の報道でミスリードできる、という考え方から来るものだ。

マイク・ブルームバーグの場合、このような考えを理解せず或いは気にもかけずにメディアネットワークを所有しているとは思えない。彼が大統領候補に名乗りを上げてからまだわずか数日しか経っていないが、報道の自由を金で買っても問題ないと考えていることを有権者に表明することで、既に大きなダメージを与えた。そんな彼が民主主義を救うことができるのだろうか?

ブルームバーグの立候補に不信感を抱く理由は他にもたくさんある。彼は当初、警官による不審者の身体検査や職務質問を推奨していたものの、後に謝罪している。彼はまた、ウォール街の汚職に対して寛容な態度を取っている。しかし、メディアの役割に関する彼の貴族階級的な考え方には、既にうんざりだ。彼は視聴者に見せるものと見せないものを自分が決めてよいと思っている。神よどうか、救世主妄想を持つビリオネアたちから私たちをお守りください。
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