大勢の演劇ファンが怒り心頭し、「#SaveBeetlejuice」(ビートルジュースを救え)というハッシュタグがTwitterのトレンドチャート1位に登場した。リン=マニュエル・ミランダといったセレブリティらも立ち上がり、公演続行を訴えた。だが明らかに誰よりも怒り狂っていたのはTikTokのティーンエイジャーたちだった。彼らこそ、演劇好きな子もそうでない子も全部ひっくるめて、ミュージカルの巨大なファンベースを築いたのだ。
「ビートルジュースがドル箱公演のせいで追い出されちゃう」――というのは、『マリオカート』テーマ曲のリミックスをバックにしたTikTok動画のキャプション。別のTikTokには、歯列矯正をした子どもがパニックに陥ってクラッカーを頬張る姿が映し出されている(『ビートルジュース』の中の1曲「The Whole Being Dead Thing(原題)」の歌詞にちなんだもの)。タイトルもずばり、「『ビートルジュース』がウィンターガーデンから追い出されるのを知った瞬間」。
一見すると、30年以上も前の映画のブロードウェイ・ミュージカル版に10代の若者の間でこれほど熱狂するのは少々面食らう。プレビュー公演で権威ある演劇評論家からさんざんこき下ろされていたのだから、なおさらだ。「批評家たちにはウケなかった、とだけ言っておきましょう」と、作曲家のエディ・パーフェクト氏はローリングストーン誌に語った。
だがどういうわけか、『ビートルジュース』はジェネレーションZの観客にぴったりハマった。アレックス・ブライトマン演じるビートルジュースは、性に奔放で、とことんエロくて、これでもかと反体制的な雰囲気を放つ。
TikTokから劇場へ足を運ぶ若者が急増
「同世代の子はみんな、登場人物に共感できるって言ってる。みんな自分が場違いで、普通じゃないって感じているの」と言うのは、コスプレイヤーの19歳Foxberri。彼女が作った『ビートルジュース』のTikTok動画は、再生件数が数百万回にも上る。「私もいつもそんな気分だった」 ポップ・パンクやライオット・ガールの雰囲気が感じられる劇中の人物、リンダの代表曲「Dead Mom(原題)」は、Z世代らしさがぎゅっと詰まっている。パーフェクト氏曰く、10代の女の子が寝室で安いアンプで演奏している姿を想像したのが曲のヒントになったという。「いわゆる”ファック・ユー”ソングですね。僕も数々の”ファック・ユー”ソングで育ちましたよ」と彼は言う。
@foxberri.cosplayThank you for all the Lydia Love #lydiadeetz #lydiadeetzcosplay #beetlejuice #beetlejuicecosplay #timburtoncosplay♬ Dead Mom - Sophia Anne Caruso, Beetlejuice Original Broadway Cast Recording Ensemble
2年前の春の初演以来、『ビートルジュース』は製作陣の予想をはるかに越えてみせた――興行収入という点でなく(大方のブロードウェイ作品がこれを基準としている)、ソーシャルメディアでの人気度という点でだ。どのプラットフォームでも、2018~2019年シーズンのブロードウェイ・オリジナルキャストによるサントラアルバムの中で最多ストリーミング件数を誇っているし、トニー賞授賞式でのパフォーマンスを収めたYouTubeの動画は、250万回以上も再生された。
こうした人気の原動力となったのは、主に若い世代や初めてブロードウェイを訪れた観客だ。製作側が発表した2019年9~11月のデータによると、観客の54.95%がそれまで一度もTelecharge(ブロードウェイの公式販売窓口)でチケットを購入したことがないと回答した。また19~54歳が占める割合は70.79%で、大半のブロードウェイ作品の49%を大きく上回っている。実際は若年層にもっと偏っているという話も聞く。筆者も感謝祭前の水曜日に夜の公演を鑑賞したが、観客のほとんどがレンタカーを借りられる年齢をはるかに下回っていた。幕間には、『ビートルジュース』の代役の役者が客席にいた友人に挨拶しようと私服姿で出てきたところを、巻き毛の高校生のファンに見つかるというシーンにも遭遇した(代役の役者は、いささか面食らってはいたものの、礼儀正しかった)。
『ビートルジュース』はTikTokといったアプリでも大成功を収めた。「The Whole Being Dead Thing」や「Say My Name」「Dead Mom」「What I Know Now」といった楽曲を使った動画が何百万回も再生されている。「TikTokで話題になり始めた頃からものすごいことになっていきました」とパーフェクト氏も言う。
TikTokでハッシュタグ「#BeetlejuiseMusical」が使用された回数は延べ4360万回以上。おそらく動画クリエーターの多くは、ミュージカルも原作の映画も観たことはあるまい。その点で、2018年秋に『Heathers: The Musical(原題)』の1曲が大ブレイクしたのと似ている。
TikTok人気の理由
TikTok人気の要因のひとつとして、パーフェクト氏は元となった作品の奇妙でおどけた雰囲気を挙げつつも、経済への不安や上の世代への怒りを抱えた世代に強く訴えるテーマを扱っているからだとも考えている。「人生をどう生きるべきか、なぜそうするべきか、人生で大切な人とどう繋がればいいか。そういうリアルな苦悩を描いています」と彼は説明する。「たまたま僕らはそれを不気味に、とことんハチャメチャに表現したというだけです」
2020年6月に『ビートルジュース』が『ミュージック・マン』に劇場を明け渡すというニュースが発表された後、ファンは『ビートルジュース』をブロードウェイに残してほしいと訴え、Change.orgでも10件近い署名運動が立ち上がっている。何よりもソーシャルメディアに後押しされて成功を収めたという事実は、舞台をこき下ろした批評家たちに対して中指を立てただけでなく、これからのブロードウェイの製作者たちに良い前例を示した。「そのうちブロードウェイにもクソ忌々しいソーシャルメディアの専門家に、自分たちの公演をTikTokで話題にするアイデアを乞う時代が来るでしょうね」とパーフェクト氏も言う。
もちろん、これだけファンのサポートがあるからといって『ビートルジュース』がブロードウェイに残ると決まったわけではない。同公演の広報担当者がローリングストーン誌に語ったところでは、今のところ新しい劇場が見つかったという話はない。だが、地位に胡坐をかく連中に対する反抗や人生の諸行無常をテーマにした作品であることを考えれば、究極のベビーブーマー作品とも言える『ミュージック・マン』に追い出されるというのも、むしろ『ビートルジュース』らしい幕引きと言えるだろう。