米国疾病管理予防センター(CDC)は2020年2月25日、コロナウイルスは米国内でも流行の兆しがあると警告した。「米国内では感染拡大の恐れがないとはもはや言えない状況ですが、問題はいつ起きるかです」と、国立予防接種・呼吸器疾患センターのナンシー・メッソニエ博士はニューヨークタイムズ紙のインタビューに答えている。
「米国民の皆さんには、状況は悪化する可能性があるという前提で準備して欲しいと思います」とメッソニエ博士は言う。
昨年2019年に中国で発生し、その後アジア、ヨーロッパ、中東へと拡大し続け、現時点で8万人以上が感染し3000人近くが死亡しているとされる現状を見れば、米当局による警告も不思議ではない。しかしコロナウイルスに関するトランプ米大統領の発言からは、そういった危機感は読み取れない。「(コロナウイルス)問題は収束に向かっていると思う」と大統領は、2月25日に滞在先のインドで行った記者会見で述べている。
「米国内でコロナウイルスは完全に管理下に置かれている」とトランプ大統領はツイッターでも発言している。「関係する人間や各国とも連絡を取り合っている。CDCとWHOはとてもよくやってくれている。株式市場も私からすれば好調のように見える!」
トランプ大統領が米国民に信じ込ませようとしているのとは裏腹に、コロナウイルス問題は深刻化している。トランプ政権はまるで事の重大さを把握していないようにすら思える。2月24日夜、ホワイトハウスはコロナウイルスへの対策費用として、250億ドル(約2億7500万円)の予算案を議会へ送った。
共和党もまた、政府の対応に不満を示している。
2月25日の朝に行われたコロナウイルス対策に関する公聴会の場で、ジョン・ケネディ上院議員(共和党・ルイジアナ州)は国土安全保障省のチャド・ウルフ長官代行に対し、米国内での感染可能性に関する根本的な質問にも答えられていないとして強く非難した。
アーロン・ルパー(@atrupar)のツイート
「長官(代行)であるならば回答できてしかるべきだ」と共和党のジョン・ケネディ上院議員ですら、コロナウイルスに無知な国土安全保障長官代行のチャド・ウルフに苛ついている。
上院歳出委員会のリチャード・シェルビー委員長(共和党・アラバマ州)も保健福祉省のアレックス・エイザー長官に対して、トランプ大統領はコロナウイルス対策に必要なリソースの重要性を「故意に軽視している」との懸念を表明した。
米ABCニュース(@ABC)のツイート
リチャード・シェルビー上院議員は保健福祉長官のアレックス・エイザー上院議員に対し、トランプ政権の提示したコロナウイルス対策予算は「あまりにも少なすぎて、賄えない恐れがある」と伝えた。
「このように問題を軽視していると、後でしっぺ返しを食うだろう。」
騒ぎの元凶を辿ると大統領に行き着くだろう。コロナウイルスの現状を直視しようとせず、自分の耳をふさぎ、政府はしっかり対処しているから全てはOKだと繰り返している。ウイルスはそのうちに「姿を消す」だろうなどという彼の考えは、過去のパンデミックの脅威の推移を根拠としているのだろうが、それは当時の政府とCDCが一致団結して感染拡大をある程度食い止めたからだ。現トランプ政権が危機に対する楽観的な見方を示そうとやっきになっている一方で、関係当局は現実との闘いを余儀なくされている。
さらに問題なのは、トランプ大統領がCDCをはじめ米国立衛生研究や米国際開発庁の予算を削減したにもかかわらず、これら機関にパンデミックの対応を押し付けていることだ。CDCが中国から重要な情報を引き出せずに苦労している一方でトランプは、中国の対応を称賛した。
トランプ大統領にとって唯一の頼みの綱は、全て順調であると主張し続けることだ。2月25日朝のインドでの記者会見で大統領は、コロナウイルスはすぐに「消え去る」だろうとし、ワクチンの完成も「間近だ」と主張した。ラマー・アレクサンダー上院議員(共和党・テネシー州)はCNNの取材に対し、ワクチンの開発には「1年~18ヶ月」かかるだろうとコメントしている。アレクサンダー議員はさらに、上院議員たちは米国内での感染拡大は「避けられない」ものと認識していることを明らかにした。議員の発言内容は、この数時間後に出されたCDCからの警告内容と一致する。
コロナウイルスは大騒ぎするほどのものでないと大統領が必死に主張している裏には、感染拡大に伴う混乱が市場に影響を及ぼし、さらに自身の再選の行方も懸念しているからだ。そしてトランプは「株式市場も私からすれば好調のように見える!」とツイートした。
ワシントンポスト紙も同様の報道をしている。
「トランプ大統領は、政府によるさらなるアクションが経済に影響することへの懸念を募らせている。また大統領顧問らに対しては、これ以上市場を刺激するような政府による行動や発言は控えて欲しいと伝えた。大統領は、大規模な感染拡大が自分の再選に悪影響を及ぼさないかを常に心配している」。
ホワイトハウスは、政府が米国民の福祉に反する活動をすることなどない、と主張している。しかしトランプ大統領による2月25日のコメントやこれまでに政府が直面してきた危機への対応を見る限り、彼の無能さによって被害を被る米国民のことよりも、自身のPRの方を優先しているように見える。トランプの望み通りコロナウイルスがすぐに「消え去って」くれない限り、最悪の状況が待っている。2月25日の午後にCDCが出した警告の通り、現実は深刻な方へ向かっているようだ。