米国内で初めての感染者が確認されてから1ヶ月後、マサチューセッツ大学アマースト校で感染症モデルを研究するニコラス・ライク教授は、同校の博士課程研究員トーマス・マカンドリューと共同で、コロナウイルスが今後米国内でどのような広がりを見せるかについて各専門家の意見を収集した。
調査の目的はいたってシンプルで、世界中にいる結束の固い少数精鋭の感染症専門家たちに呼びかけてコロナウイルスに関する見解を収集し、今後のCOVID-19の展開を見極めようとするものだった。調査に協力したのは、H1N1型インフルエンザ、SARS、ジカ熱、チクングニア熱、エボラ出血熱等の大流行をモデリングした伝染病のプロたちだ。ライク教授らは毎週月曜日に調査項目をまとめたアンケートを作成し、ジョンズ・ホプキンズ大学、ハーバード大学チャン公衆衛生大学院、ロンドンのインペリアル・カレッジ等で研究する約20人の専門家へ5週間に渡り調査を行った。
専門家によるさまざまな感染予測モデルを収集したライク教授とマカンドリュー研究員は、今後数ヶ月間の米国内におけるウイルス感染状況のイメージをまとめた。最新の調査で専門家たちは、2020年4月まで感染拡大が続き、入院患者数のピークは5月頃だろうと予測した。また秋には、コロナウイルスの第2波がやって来ると見ている。
さらに今後ウイルスによる死亡者数も増え、2020年末までに米国内で19万5000人に達すると専門家らは予想している。ちなみに季節性インフルエンザで亡くなる人の数は、毎年1万1000人~9万5000人の間で推移している。
19万5000人という大きな数字も、インペリアル・カレッジ・ロンドンによる最悪のシナリオを想定したモデルと比較すると10分の1に満たない。同校が算出した数字によって、トランプ政権が重い腰を上げたとも言われている。インペリアル・カレッジは、仮に何の対策も打たない場合、米国内で220万人がコロナウイルスの犠牲になるだろうと予測した。同レポートの作成に関わった専門家のひとりが、ライク教授の調査にも協力している。
ライク教授はインペリアル・カレッジのレポートについて、「(現時点でのコロナウイルス拡大に関する)より包括的なモデリング研究」と評している。しかし同時に「”無対策”のシナリオは、現時点である程度の数字が積み重なっているにしろ、起こりえないと思う」ともコメントしている。ライク教授らがまとめた専門家の予測モデルでは、米国で150万人以上の死者が出る可能性は約6%と試算されている。
「モデルはあくまでも予測に過ぎません」とライク教授は言う。「各モデルには、検証不能な多くの仮定が含まれます。(インペリアル・カレッジの)モデルにも、100%正しいとは言えない仮の前提条件が全体的に採用されています。現時点では私たちにも未知の要素が多すぎます」と教授は付け加えた。
状況がどれほど急激に変化してきたかは、5週間前にライク教授らが初めて実施したアンケートに対する専門家からの回答を見れば明らかだ。
最初のアンケートでライク教授とマカンドリュー研究員は、「米国内で確認されるCOVID-19の症例は4月1日までに100件を超えると考えますか?」と質問した。教授によると、多くの専門家から「ノー」という回答が返ってきたという。「4月1日までにCOVID-19の感染者数が100人を超えるだろうと回答した専門家は、全体の6割強でした。その後はご存じの通り、あっという間に超えてしまいました。」
ジョンズ・ホプキンズ大学の集計によると2020年3月19日午後現在、4月1日までまだ2週間を残して、米国内で確認された感染者数は1万1274人で、150人以上が亡くなっている。
「専門家ですら予測するのが難しいレアで不確実な状況であると言えます」とライク教授は言う。「今回の感染拡大は、いわゆるブラックスワン・イベント(滅多に起きないが大きな被害をもたらす事象)です。通常とは大きくかけ離れた状況で、専門家でも正確に予測できないでしょう。」