企業CEO、石油業者、投資家、政治家、理論家など、私たちから安定した気候・環境を奪った人々を紹介する。

気候変動は、近い将来の地球上の生活を劇的に変えようとしている。
変化の度合いをどの程度なだらかにできるかは、この100年間ずっと大気中に温室効果ガスを撒き散らしてきた行為を、各国政府や企業がどれだけ積極的に是正できるかにかかっている。残念ながら、危機に取り組むどころか状況をより悪化させようとしている悪人たちもいる。以下に、化石燃料業界の大物からカリスマ投資家、さらには大統領自身まで、米国史上最悪の元凶をリストアップする。

化石燃料業界の大物からカリスマ投資家まで:米国史上最悪の14人(写真14点)

・ドナルド・J・トランプ 米国大統領

化石燃料業界の救い主としてのトランプは、米国環境保護庁や内務省の予算を骨抜きにする一方で、両省庁に化石燃料業界の元幹部役員やロビイストらを送り込んだ。彼は広大な公有地を石油・ガス掘削会社へ売り払い、100近い件数の環境規制を撤廃し、年間2億トン以上の炭素ガスを大気中に吐き出すお膳立てを整えた。それでもトランプは自分自身を善人だと言い張っている。「私は環境保護論者だ」と彼は、2019年秋に行われたG7の気候変動問題の会議をすっぽかした後で述べた。「多くの人々はわかっていない。私は他の誰よりも環境について理解していると思う」

・アンドリュー・ウィーラー 米国環境保護庁長官

2018年に環境保護庁(EPA)の実権を握ったウィーラーは、同組織が新たな規制を作る際の科学的データの使用を妨害し、河川や湿地への化学物質の垂れ流しを取り締まる水質保護規制も撤廃した。さらに、カリフォルニア州の排出ガス規制やメタンガス検査を骨抜きにすべく働きかけた。ウィーラーはEPA長官に就任する前は、化石燃料業界のロビイストとして数年間活動していた。「ウィーラーは、規制に反対するワシントンの”闇”を代表する人間だ」と、非営利の市民団体エンバイロンメンタル・ワーキング・グループのケン・クック代表は2018年に述べている。
「彼は先を読んで行動している。だからますます危険な人物なのだ」

・ルパート・マードック 世界的メディア王

FOXニュースを創業し、ニューズ・コーポレーションの重役の椅子に座るビリオネアのマードックが構築したメディアネットワークでは、気候変動懐疑論を国内外へ拡散している。彼の生まれ故郷であるオーストラリアを襲い、気候変動の影響で広がった大火災に際しても、マードックのメディアはフェイクニュースを拡散した。例えばオーストラリアン紙は、火災について「よくあること」で済ませている。米国内ではもっと酷かった。FOXニュースは以前から気候変動問題に否定的な立場をとってきたが、2019年だけでも、気候変動科学を「フェイクだ」と言ったり、「地球は時速1700kmで回っているのだから」気候は変わって当たり前だと表現したり、さらに「二酸化炭素を吐いている人間として」温室効果ガスを大気中に排出する行為を悪いこととするのはおかしい、などの発言が聞かれた。

化石燃料産業へ投資を続けるウォーレン・バフェット

・ロバート・マーサー マーサー・ファミリー財団

マーサー・ファミリー財団を運営するビリオネアのロバート・マーサーと娘のレベッカは、ハートランド研究所やケイトー研究所をはじめとする反気候変動科学を掲げる米国内の有力組織へ大金をばら撒いた。2019年12月に公になった納税申告記録によれば、2018年の寄付額は縮小したものの、フレッド・コークが設立したダークマネー組織のドナーズ・トラストへ800万ドル(約8億7000万円)、オレゴン科学医学研究所へ30万ドル(約3300万円)を寄付している。オレゴンの研究所を設立したアーサー・ロビンソンは「代替科学」のパイオニアで、かつて二酸化炭素レベルの増加は環境にとって「有益な効果」をもたらす、などと発言した人物だ。

・ウォーレン・バフェット バークシャー・ハサウェイCEO

「オマハの賢人」も、気候変動危機に関してはやや先見性に欠ける。ビリオネアの投資家であるバフェットは長期的に化石燃料産業へ投資を続けてきたが、今後も方針は変わらないようだ。2019年に彼は、オクシデンタル・ペトロリウムがパーミアン盆地に持つ石油利権へ10億ドル(約1兆1000億円)を投資した。
同地域の1日あたりの産油量は400万バレルで、米CNBC局は「とても信じられない」と表現した。彼は、最優先事項はあくまでも株主の利益であり環境保護ではないと主張することで、気候変動問題に影響する自身の投資を正当化した。それでもバフェットは、気候変動危機に関して「ものすごく重要な問題」と表現している。ご心配いただきありがとう、バフェットさん!

・チャールズ・コーク コーク・インダストリーズCEO

マサチューセッツ大学の調査によると、コーク・インダストリーズは2017年に2500万トン以上の二酸化炭素を大気中へ排出したという。シェブロン、BPや多くの化石燃料の発電所を上回る数字だ。チャールズ(84)と弟のデイビッド(2019年没)は、気候変動危機が大きな問題になるかなり前から気候変動否定論に資金提供を始めた。1991年、チャールズが設立したケイトー研究所は、「地球環境の危機:科学か政治か?」という気候変動懐疑論をテーマにしたカンファレンスを開催した。コーク兄弟は、アメリカンズ・フォー・プロスペリティやフリーダム・パートナーズなどの反気候科学支持組織を設立・支援するなどして、長期に渡り議会による気候変動対策を妨害してきた。著作『コーホランド』の著者クリストファー・レオナードは2019年、ニューヨーク・タイムズ紙に「コーク兄弟は無敵の政治的影響力を持つ組織を使い、政府に温室効果ガス排出を規制するいかなる対策も取らせないように仕向けた」と書いている。

米国最大の民間石炭会社を率いたロバート・マレー

・マイロン・イーベル 気候変動懐疑論者

イーベルは、気候変動科学に疑問を投げかけることでキャリアを築いてきた(ただし彼自身に科学的なバックグラウンドはない)。特に顕著なのは、コンペティティブ・エンタープライズ研究所のエネルギー環境センターにおける活動だ。同組織は自由至上主義を掲げるシンクタンクで、化石燃料業界から多額の資金援助を受けている。
2016年、彼はトランプ大統領の下で環境保護庁における政権移行チームのリーダーとして、オバマ政権時代の政策を潰すためのチームを編成した。例えばオバマの打ち出した画期的なクリーンパワー計画をより緩い規制に置き換えるなど、有害な後戻り策を主張し続けた。

・ロバート・マレー マレー・エナジー創業者

マレー・エナジーの創業者兼CEOとしてマレーは、米国最大の民間石炭会社を作り上げた。年間7600万トンの石炭を生産した同社も、2019年に経営破綻した。しかし彼の影響力は、彼の扱っていた問題の多い環境汚染エネルギーの枠を超えて広がっている。彼は長年に渡り、気候変動危機に関するフェイクニュースを拡散し続ける保守系組織に資金を提供してきた。彼はまた、トランプ政権の気候変動に関わる政策にも大きな影響力を持っていた。マレーは大統領就任式実行委員会へ30万ドル(約3300万円)を寄付し、大統領に規制緩和の要望リストを提出した。その後リストの各項目は、政権によって忠実に実行された。

・マルコ・ルビオとリック・スコット フロリダ州選出上院議員

フロリダ州は、米国の中で最も気候変動の影響を受けやすい地域のひとつと言える。しかし、フロリダ州選出の上院議員らがどのように気候変動問題を自分の利益にしたかは、一般に知られていないだろう。スコットは同州知事時代、公式の報告書上から「気候変動」や「地球温暖化」という文言を削除させた。
スコットとルビオの両議員は2019年に気候変動が真実であることを認識し、一歩だけ前進した。しかし二人ともグリーン・ニューディールをこき下ろし、ルビオ議員が言うところの「対処可能な」問題に対する「適応性のある」解決策を推進した。言い換えれば、化石燃料業界の怒りを買わない解決策だ。ルビオもスコットも、気候変動否定組織であるアメリカンズ・フォー・プロスペリティからの支持を全面的に受けている。つまり、コークの後ろ盾を得ているということだ。

・デイビッド・バーンハート 米国内務省長官

トランプ政権の内務省に入ったバーンハートは、採取産業の利益のため忠実に働いた。彼は長い間、化石燃料業界専門のロビイストとしてハリバートンや全米石油ガス協会をクライアントに持ち、活動を続けてきた。2018年、彼は絶滅の危機に瀕するライチョウが生息する900万エーカー(約3万6000キロ平方メートル)の地域で石油の掘削ができるように、土地の保護指定の解除を主導した。さらに最近ではアラスカの北極圏国立野生生物保護区の一部を借地化し、ここでも掘削を可能とした。著しい環境破壊につながる決定に、多くの大手銀行ですら同地域での石油・ガス関連プロジェクトへの資金提供を拒んだ。バーナードのかつてのクライアントでもある米国独立石油協会の幹部らが、バーナードと「直接コンタクト」して「国有地の使用から絶滅危惧種までいろいろ話し合った」ことを自慢する2017年の会話が記録されている。

「二酸化炭素を悪者扱いするのはヒトラーに迫害された哀れなユダヤ人への扱いと同様」

・ウィリアム・ハッパー 科学者・気候変動否定論者

プリンストン大学の物理学の名誉教授であるハッパー(80)は、米国内の気候変動否定論を推進する組織の中でもかなり影響力のあるハートランド研究所と密接な関係を保ってきた。
2018年、ハッパーはトランプ政権の国家安全保障会議(NSC)のメンバーに選出された。ところが、政府の作成した気候変動に関するレポート内容を否定する彼の極論は採用されなかった。トランプの再選に影響することを懸念したホワイトハウスが、ハッパーの意見を却下したのだ。2019年にハッパーは政権の役職を辞任したが、その後も気候変動を否定する論調は変わらなかった。彼はかつて、二酸化炭素を悪者扱いするのはヒトラーに迫害された哀れなユダヤ人への扱いと同様だ、と発言している。2019年12月には、国連の気候変動会議に対抗して開催されたハートランド研究所のフォーラムで、気候変動問題を訴える運動を「異様な環境カルト」と呼んだ。

・ジム・インホフ オクラホマ州選出上院議員

長期に渡り共和党所属の上院議員を務めるインホフは、自ら気候変動否定論に関する著作『The Greatest Hoax(最大の作り話の意)』を出版した。彼が実際に気候変動など起きていないという主張を証明するため、上院議会へ本物の雪の玉を持ち込んで投げて見せたことは有名だ。この2015年の彼のパフォーマンスは、急激に溶解していく氷山の一角に過ぎない。かつてインホフは環境保護庁(EPA)をゲシュタポ呼ばわりし、2017年にはEPAが「子どもたちを洗脳している」と非難し、EPAを骨抜きにする法案を提出している。彼は気候変動否定論者の集まる大きなカンファレンスの常連で、現在は彼の計画を推進する弟子のネットワークを構築している。EPA長官のアンドリュー・ウィーラーは、かつてインホフの事務所で働いていた。
さらに同庁の主席補佐官マンディ・グナセイカラもまた、インホフのスタッフのひとりだった。彼女はトランプ大統領にパリ協定からの離脱を勧めたひとりだ。「彼らがいると安心する」とインホフは、かつてのスタッフがトランプ政権の環境政策にアドバイスできる立場にある状況についてワシントン・ポスト紙に語った。彼を気候変動否定論に向かせているモチベーションは何だろうか? 2012年に旧約聖書の創世記を引用し、人類は「神が司る天候を変えることはできない」と主張した彼は、化石燃料業界から200万ドル(約2億2000万円)以上の政治献金を受け取っている。最も金額の大きい献金者の中には、コーク・インダストリーズやマレー・エナジーの名前がある。

・ケルシー・ウォーレン エナジー・トランスファー・パートナーズCEO

テキサス出身のビリオネアで、共和党へ多額の献金を行なっているケルシー・ウォーレンは、エナジー・トランスファー・パートナーズのCEOを務める。同社は、テキサスまで延伸して論議を呼んでいるダコタ・アクセス・パイプライン(DAPL)や全米各地のいくつかのターミナルにも関わるエナジー・トランスファー・クルード・オイル・パイプライン(ETCO)の親会社だ。DAPLとETCOは、2017年のテネシー州における4998ガロンの石油流出や、掘削した200万ガロンの石油をオハイオの湿地帯へ垂れ流したローバー・パイプラインなど、何件もの環境汚染事故を起こしている。にもかかわらずウォーレンはDAPLのキャパシティを倍増するなど、事業を推進してきた。さらに、2018年に空のパイプラインにドリルで穴を開けた2人の活動家に対し、「遺伝子プールから排除されるべき」と発言した。

・ダニエル・ジョージャニ 米国内務省法務官

ジョージャニはもともとジョージ・W・ブッシュ大統領時代の内務省において、リン・スカーレット副長官の担当弁護人などを務めた。スカーレット副長官は1977年に、環境保護論を、個人の権利を制限するという意味でマルクス主義になぞらえた発言をしている。ジョージャニは後にチャールズ・コーク研究所に勤務し、コークの設立したフリーダム・パートナーズの法務顧問も務めた。フリーダム・パートナーズは多額の資金を保守系政治家のほか、化石燃料業界の規制緩和を求める活動などにばら撒いた。内務省法務官としてトランプ政権の一員となってからは、彼自身によるいくつかの法解釈が論議を呼んでいる。例えば、掘削会社がミネソタ州にあるバウンダリー・ウォーターズ・カヌー・エリア・ウィルダネス付近で開業することを容認したり(同地域はオバマ政権時代には保護されていた)、保護鳥を犠牲にして操業を続けたエネルギー関連会社を擁護したりした。「トランプ政権下の内務省は、政治カルテルのお手本のようなものだ。国のリソースを駆使して特定の利益を誘導している」とロン・ワイデン上院議員(民主党・オレゴン州)は言う。「中でもジョージャニ氏は、カルテルの重要な役割を果たしてきたと思う」
編集部おすすめ