新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行により、ライブミュージック業界が完全に麻痺してしまっている中、小規模なプロモーターたちがこの危機を乗り越えられるか否かが懸念されている。

Outside Lands Festival、Chase Centerでのコンサート等を企画および運営しているAnother Planet EntertainmentのCEO、グレッグ・パーロフはそういった見方に苛立ちを覚えている。
同社はアメリカ最大のインディペンデントプロモーターであると主張する彼は、各地のより小規模なプロモーターが倒産に追い込まれる可能性については認めつつも、AEGとライブ・ネイションという2大巨頭が市場を独占するようになるとは考えていない。「私の考えはむしろその逆です」。パーロフは本誌にそう話す。「この危機が過ぎ去った頃には、大きなビジネスチャンスが生まれているはずです。そういう考え方をしていない人も多いですが」

パーロフによると、Another Planetは現在のところ従業員の解雇や給与の未払いなどを回避できており、同社が今後直面する課題を乗り越えられると確信している。具体的な名前こそ明かさなかったものの、彼は既に複数の団体から全米規模のツアー企画について相談を持ちかけられているという。

あるデータによると、Another Planetが拠点を置くサンフランシスコは早い段階でウイルスのホットスポットとなりつつあったものの、ソーシャルディスタンスの徹底によって感染拡大を免れたとしている。しかし同社のビジネスは既にその影響を受けており、6月までに開催が予定されていた全コンサートを中止または延期したほか、パーロフによると夏に開催が予定されているショーも影響を受ける可能性があるという。同社の最大のイベントであるOutside Landsは、今のところ8月7~9日に開催される予定となっているものの、大規模なイベント開催の禁止令が撤回される時期が不透明である以上、同フェスの日程変更もあり得る。そんな状況でも前向きでいられる理由について、パーロフが本誌に語ってくれた。

ー過去数週間であなたが経験したことについて教えてください。

すべてのショーを秋頃まで延期しなくてはいけませんでした。
今のところ、開催が可能になるのは最短で8月の3週目頃とされていますが、明日にはその見方が変わっているかもしれません。今は何よりも、迅速な意思決定と行動が求められています。コンサート業界はすぐに営業を再開できるようなビジネスではなく、軌道修正には時間がかかります。企画から宣伝まで、コンサートの開催には様々な準備が必要です。今はどこの企業も暗中模索している状況でしょう。

「新たな情報が入ってくるのは5月4日か5日頃でしょう」

ー数多くのイベントの開催日程を迅速に再調整することは、大変な苦労を伴ったと思います。

サンフランシスコとベイエリアは、事態への対処が早かったんです。私たちはサンフランシスコ市が所有するBill Graham Civic Auditoriumを運営していますが、市側からそこを使用しないようにという通達がありました。その頃、NBAのウォリアーズはそこで試合を行なっており、またテーム・インパラのコンサートが直後に控えていました。市は彼らのライブの前日に会場の閉鎖を決定し、その後はウォリアーズの試合はもちろん、ありとあらゆるイベントが中止されました。ほどなくして、ベイエリアの全住民に対して外出の自粛が求められました。市の対処は迅速でしたね。


その時点で私たちは、予定されている全イベントの開催が不可能であることを悟りました。予定されていたショーの数は100~120ほどで、その8割が延期または中止になりました。私たちは在宅勤務しながら、チケット保有者へのイベント延期または中止の連絡や、マーケティングプランの変更等の作業に追われたため、以降の数週間は多忙を極めました。今は7月に状況がどうなるかを見極めようとしているところですが、5月4日か5日頃まではアップデートは期待できないでしょう。新しい情報が出れば、7月や8月のイベント開催の可否が判断できるはずです。

秋に予定されている数々の大規模ツアーも影響を受けており、現在では多くのアーティストが来年まで延期することを検討しているようです。数週間前の時点では、春に予定されていたイベントの延期により、秋の予定がすし詰め状態になると考えられていました。対処しきれないほどのイベントが行われ、カオス状態になるだろうと予想していたんです。同日に多くのイベントが開催されると、客の奪い合いが起きてしまいます。私たちは今後数週間で、アリーナまたはスタジアム級のツアーどうなるのかを見極めるつもりです。秋に予定されているシアター規模のイベントの多くは、政府高官の見解通りになると考えられます。

ー市長の側近たちとのミーティングはどういった様子でしたか?

現在敷かれている外出禁止令は(ベイエリアでは)5月3日まで継続されることになっており、カリフォルニア全土でも同様の措置が取られています。
この街の人々は、事態の深刻さをよく理解しています。一方でフロリダやテキサス、テネシーなどの状況を見ていると、1人1人の行動がもたらす影響について分かっていないと思いますね。

「この危機が去ってコンサートが開催されるようになれば、人々はなけなしの金をはたいてでもチケットを購入するでしょう」

ー音楽業界はまさに未曾有の危機を迎えていますが、現在の状況にあなたはどのように対処していますか?

私たちは9.11もサンフランシスコ大地震も経験しましたが、規模の大きさ以外でそれらと大きく異なっているのは、危機の開始と終焉がはっきりしないということです。現在は何もかもが不透明で、それが人々にとって大きなストレスとなっています。今後数カ月の間に自分たちの生活がどう変わってしまうのか、誰も予想できていません。仕事を続けられるのか、経済がどうなるのか、何ひとつはっきりしていないのです。

それでも、私たちの会社はポジティブな見方をしています。コンサートビジネスに従事する私たちは、この危機が去ってショーが再び開催されるようになれば、人々はなけなしの金をはたいてでもチケットを購入してくれると信じています。多くのプロモーターは状況を注視しつつ、アーティストに出演料の値下げを交渉したりしています。ツアーの中止によって甚大な経済的損失を被っているのはアーティスト側も同じなのですが、自分たちのリスクを下げることばかりを考える人もいるということです。

私たちはそれとは逆のアプローチをとっています。もしもツアー業界から撤退する企業があれば、私たちは新規参入を検討するつもりです。
私たちはローカルのプロモーターとして長くやってきましたが、全米ツアーやワールドツアーを企画したこともあります。現在の危機が去った時には状況が大きく変化しているはずであり、多くの人々がそれまでとは異なるオプションを検討するようになるでしょう。

米国最大のインディペンデントプロモーターが語る、コンサート業界の行方

グレッグ・パーロフ( Photo by Adrian Sky)

ーつまりこの業界から企業が撤退して需要が生まれた場合、あなたの会社を大きくする計画があると?

野球に例えて言えば、現在は9イニングの2回くらいにあたります。今の私の考えは、1週間~2週間後にはきっと変わっているでしょう。私としてもいい加減なことは口にしたくありませんが、もしもレモンが豊富にあるのならば、私たちはレモネードを作ろうとするでしょう。要するに私たちは、今後コンサート業界には大きなビジネスチャンスが生まれると考えているということです。

ー夏の終わりに開催が予定されているOutside Landsは、他のフェスに比べると時間的に余裕がありますが、今はどのようにお考えですか?

人々が安心して参加できる状況でない限り、フェスを開催するつもりはありません。状況は刻一刻と変化しており、現時点では開催の可否について明言することはできません。私自身は、懸念が完全に払拭されるまでには何年もかかるだろうと考えています。市内の公園で行われるOutside Landsの開催には市の許可が必要ですが、現時点では彼らがどういった見解を示すかもわかりません。でももし開催が決定すれば、オーディエンスの反響は大きいでしょう。

ー同フェスの開催を延期する場合にはどういったことが必要か、何かしらの話し合いが行なわれていますか?

話し合いは何度も重ねていますが、現時点では予定通りの開催を見込んでいます。
もし6月に開催が予定されていたならば、延期は確実だったでしょう。もし11月だったとしたら、そういった質問をされること自体がなかったでしょうね。8月の2週目というのは非常に微妙な時期で、心配していないと言えば嘘になります。開催か延期か、その決定を下すのはもう少し先になるでしょう。

ーあなたはライブ・ネイションとAEGだけが生き残るという見方を否定しましたが、小規模なプロモーターの多くが苦境に追い込まれたり撤退する可能性は高いと思われます。

そうかもしれませんが、代わりに新たな企業が登場するでしょう。空き物件が大量に発生し、そこから様々なことが生まれ得ます。現在の危機はまだ初期段階にあり、行動は慎重に起こすべきです。隣人よりも早く目覚め、より遅くまで必死に働く、そういう姿勢が求められるでしょう。この国のレストランの4割が閉店に追い込まれるといった見方にはゾッとしますが、それをビジネスチャンスだと捉え、飲食店経営に乗り出す人々が必ず出てくるはずです。

ー現在の危機収束後に、プロモーター業界でも同様の動きが起きると考えていますか? その時に、あなた自身はどのように変化していると思いますか?

ひとつだけ断言できるのは、これから事態がどうなろうとも、世界のあり方は大きく変わるということです。そういった中で企業は柔軟に行動し、発生した機会を迅速にものにすることが求められるでしょう。
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