2006年に専門家が作成したパンデミック対策プランでは、米ニューヨーク市で9500台もの人工呼吸器が不足するだろうと警告していた。だが市が購入したのはたった数百台。
それも結局、維持費が賄えずに処分された。

2006年7月、アジアと中東で強力な新型インフルエンザが蔓延し、当時のニューヨーク市長マイケル・ブルームバーグ氏は包括的なパンデミック対策プランを発表した。

ウイルスが市の5つの行政区に広まるスピードをコンピュータモデルで計算した結果、専門家たちはニューヨークには相当数のマスクと人工呼吸器の備蓄が必要だと結論づけた。1918年のスペイン風邪級の大流行が起きれば、「推定2036~9454台の人工呼吸器が不足するだろう」と予想した。

報告書によれば、市の保健局はニューヨーク州と協力して人工呼吸器の購入に乗り出し、「マスクを備蓄する」予定だった。プランが公開されてほどなく、ブルームバーグ市長は連邦政府高官とパンデミック対策協議を開き、そこには現在国のコロナウイルス対策の顔となったアンソニー・ファウチ博士の姿もあった。

だが結局、この恐ろしい予測も行動を起こすには至らなかった。数カ月後に市が追加で購入した人工呼吸器はわずか500台。予算削減の中で、備蓄増加の動きも次第に途絶えていった。

その500台も実は無くなっていたと先日、保健局が発表した。命綱の人工呼吸器は年月が経つにつれ故障し、市が機器の維持費を賄えなかったため、少なくとも5年前には競売にかけられていた。

パンデミック対策プランの公表から14年が経過した現在、新型コロナウイルスの死者は連日数百人単位で増加し続け、人工呼吸器の不足によりこれからもまだまだ増えるだろう。
パンデミックが始まった当初、市には約3500台の人工呼吸器があったが、先日そろそろ在庫が底をつくだろうとビル・デブラシオ市長が発表した。アンドリュー・クオモ州知事は、州兵がまだ余裕のある病院から人工呼吸器を回収し、より緊急を要する病院に回すことを承認した、と述べた。

・臨戦態勢の米ニューヨーク、1000床備えた仮設病院の内部公開(写真ギャラリー)

初めのうちは、連邦政府が国の戦略備蓄からニューヨークに人工呼吸器を適宜補充してくれるだろうという期待もあったが、主要な中央省庁もパンデミックへの準備が出来ていなかったことがわかると、その望みも消えた。COVID-19危機でトランプ政権による国家備蓄のずさんな管理も明るみになり、その備蓄もパンデミックが全米で猛威を振るうにつれ、多くの州から要請が殺到しても、到底応じることができないほど在庫薄であることが判明した。実際のところ、国が備蓄していた人工呼吸器の一部もニューヨークと同じ状態――故障して動かなかった。

孤立無縁になることはわかっていた

先日トランプ大統領はニューヨークを非難し、これ以上の人工呼吸器は保証できないと発言した。「無理だ」と大統領は報道陣に語った。「ニューヨークにはもっと人工呼吸器の備蓄がもっとあったはずだ」(トランプ大統領本人も、ウイルスの死者数が世界的に増加するのを目の当たりにしながら、初期の警告を無視し、ウイルスの脅威を軽視したとして、方々から非難を浴びている)

ニューヨーク市も14年前のプランで、パンデミックの特性――急速かつ圧倒的な勢いで複数の地域を襲う――を考えれば、様々な意味で孤立無援になるだろうと認識していた。

「ひと度アメリカ全域で感染が大流行すれば、連邦政府の戦略備蓄からの物資支給が見込めない可能性もあり、各地の貯蔵が頼みの綱となるだろう」と、2006年の報告書にも書かれている。

当時ニューヨーク市保健局の副局長を務め、パンデミック対策プランの立案にも携わったアイザック・ワイズフュース博士はその年の新聞のインタビューで、連邦政府を当てにすることはできないだろう、と述べた。「いかなるパンデミックへの対応においても、ニューヨーク市は自分たちの面倒を自分たちで見ることになるだろう、というのが我々の考えです」

全国的に取り上げられたニューヨークの人工呼吸器問題は、パンデミックが始まる前から言われていたその他の警告と同様に、専門家が前々から挙げていた重大な脆弱性のひとつであるにもかかわらず、政府が優先して予算に組むことはなかった。

当時のニューヨーク市保健局長で、2006年のパンデミック対策プランの陣頭指揮を執ったトーマス・フリーデン氏は、その3年後にアメリカ疾病予防管理センターに異動し、プランの主な部分は実行されぬままだった。
現在、公衆衛生の慈善団体を主宰しているフリーデン氏は、最近国の準備不足を非難して注目を集めている。1月にも、「我々は今、次の世界的大流行に対する備えを怠ったツケを払わされている」と書いた。

資金不足が準備不足へ

ブルームバーグ市長時代の対策プランのもうひとつの要――市民へのマスクの大量配布――も、専門家が先の指示を撤回し、ニューヨークのような感染者の多い地域では顔を覆うようしきりに勧めているというのに、実現していない。代わりに、デブラシオ市長は先週、スカーフやバンダナといった「家にあるどんなものでも」使用するよう市民に呼びかけた。市の病院では未だに医療従事者を守るマスクだけでも300万枚以上不足している、と市長は述べた。

別の元保健当局者も独立系調査報道機関ProPublicaとのインタビューで、他にも懸念すべき脅威がまだまだあるが、あらゆる可能性に万全の備えをするだけの予算はなかった、と述べた。

「後から振り返って、パンデミックにもっとお金を使うべきだった、と言うのは簡単です。ですが、その先何が起きるかなど当時はわかりませんし、脅威は他にもありました」と、ワイズフュース博士も言った。彼はフリーデン氏の下で2012年まで市の疾病管理部門の部長を務めていた。「当時の仕事には満足していますが、今の状況を見れば明らかに不十分でした」

2000年代中期の鳥インフルエンザ騒動とパンデミック対策プランの後、最初に試練が訪れたのは2009年。H1N1インフルエンザ、いわゆる豚インフルエンザが発生した時だ。

大規模な感染になるのではないかと恐れられた。
一部の学校は閉鎖され、物資不足についての議論も活発に行われた。だが流行はコロナウイルスよりずっと低い死亡率で収束し、市民の関心はニューヨーク経済を壊滅的な状態に至らしめた不況の影響へと戻っていった。

「豚インフルエンザで、我々は誤った教訓を得てしまったのでしょうね」 ニューヨーク市保健局の緊急事態管理室の元メディカルディレクター、ダグラス・ボール博士はProPublicaに語った。彼は第二次世界大戦中のロンドン大空襲に例えてこう言った。「近くに落ちた爆弾を免れた人々は、自分たちが安全だと考えました。本当なら『ああ、なんて幸運だったんだ』と考えるべきだったんです」

市保健局の予算削減は何年にもわたり、専門家たちが大規模なパンデミックを恐れ続ける中、市の準備能力は制限されていった。

2014年、市の公立病院の緊急事態管理を統括していたニコラス・カリューソ氏はパンデミック講習会で参加者に対し、病院の準備体制、とりわけ緊急設備の備蓄能力は予算削減の影響をもろに受けていると語った。

自転車創業の医療機関

代わりに、病院は毎日の治療に足る分の在庫しか仕入れなくなった。パンデミックに備えるのとはまるきり逆行している。緊急物資はすぐ手に取れる状態にしておくべきだ、とカリューソ氏は言った。「物資が手の届くところになければ、存在しないのと一緒です」

先日、市保健局のスポークスパーソン、マイケル・ランザ氏は声明を発表し、パンデミックへの対策準備が疎かだったのは連邦政府からの支援がなかったせいだ、と述べた。

「こうしたプランでは、連邦政府からの潤沢な支援が頼りです。
議会が十分な財政援助を承認しなかったがために、州や地方自治体は非常事態への適切な準備を進めることができないのです」と彼は述べた。「公衆衛生や保健医療用備蓄への連邦政府の年間援助額は、これほど大規模で広範囲にわたる非常事態に備えるには不十分です」

2006年にプランで警鐘を鳴らし、初期段階では備蓄増強の動きもあったが、デブラシオ市長のスポークスパーソン、エイヴリー・コーエン氏は「通常、人工呼吸器を備蓄するのは市ではありません。州や連邦政府が行うものです」と声明を発表した。

「我々も最善を尽くして物資拡充を図ってきましたが、これほどの規模の危機を予測することは不可能でした」

マイケル・ブルームバーグ元市長が就任したのは、2001年9月11日の同時多発テロ攻撃からわずか数カ月後だった。

プランニングを重んじる元市長は、次の危機に備えを固めようとしていた。「ブルームバーグ元市長は、沿岸地域の暴風雨、感染症の大流行、テロ攻撃――あらゆる緊急事態に事前の対策を立てておきたかったのです――そして常に最新のものに改訂し、予行演習を行うよう徹底していました」とエドワード・スカイラー元副市長は言った。

そんな折、致死的な新型インフルエンザが世界各地で流行した。2002年には中国南部でSARSが発生。2005年には鳥インフルエンザがアジア諸国を襲った。

ブルームバーグ市長時代の最初の保健局長だったフリーデン氏は、市にはパンデミック対策プランが必要だと考えた。専門家委員会を設立し、2006年7月には266ページにわたるプランを公表した。フリーデン氏は序文の中で、ニューヨーク市は「特に感染症の脅威に脆弱だ」と書いている。


プランは将来的にパンデミックが起きた場合死亡率は2%、市全体の感染率は30%、ワクチンが完成するまでの数カ月間、医療従事者や医療物資には甚大な負荷がかかるだろう、と先見していた。

準備は感染症以外にも必要

2005年、市保健局はパンデミック時にどのぐらいの物資が必要になるか把握するために、ほぼ全ての公立・私立病院にアンケートを行った。その結果、ニューヨーク市の病院にある人工呼吸器はおよそ2700台で、感染が深刻化した場合に必要な数には遥かに及ばないことが判明した。

人工呼吸器の調達・備蓄・維持にはかなりの労力を要するとプランは念を押していたが、それでも市は備蓄確保に乗り出した。パンデミックになれば国の戦略備蓄の物資は各都市や州と奪い合いになることからも、非常に重要だった(ホワイトハウス上級顧問のジャレッド・クシュナー氏は先週、国の備蓄は州が使うためのものではない、と政府のウェブサイトとは矛盾する発言をした)。

パンデミック対策プランの公表後、市は2006年と2007年に数百台の「災害用」人工呼吸器を購入した。176万ドルの契約を勝ち取ったのは、ニューヨークを拠点に展開する企業VarsaMed社だった。

VersaMed社の元CEO、ジェリー・コーテン氏は当時を振り返り、大規模なパンデミックの際にはその数だけでは足りないことを市の職員も理解していた、とProPublicaに語った。

「より大量の人工呼吸器が必要になることはニューヨーク市もわかっていました」とコーテン氏。「然るべき時に、然るべきものに誰も投資しなかったのは本当に残念です。今となっては手遅れですが」

市は2009年までに、一部の病院で新しい人工呼吸器の使い方の研修も行っていた。これは保健局が人工呼吸器を査定する目的も兼ねており、その後は将来に備えて倉庫に保管されていた。


「倉庫からトラックで一刻も早く病院に人工呼吸器やその他物資を届ける、という計画でした」とワイズフュース元副局長。現在はコーネル大学公衆衛生研究科の客員教授を務めている。「物資が集められ、あとは然るべき場所に運ぶだけでした」

だが2009年以降、人工呼吸器を大量に備蓄する試みは尻すぼみになっていった。「出来る限り不足分を補おうとはしました」と、ワイズフュース元副局長は語った。「でもそこまででした。生物テロといった別の問題の補填にも、予算を割かなくてはならなかったのです」

賄えない維持費

2008年にVersaMed社がGEヘルスケアに買収され、ニューヨークが購入した人工呼吸器の製造も中止された、と市保健局のスポークスパーソン、ランザ氏はProPublicaに語った。「我々にはどうにも出来ませんでしたが、在庫維持の費用や実現性には直接影響が及びました」 ランザ氏の話では、500台のVersaMed製人工呼吸器の年間維持費は、バッテリーや部品交換などを含めて10万ドルを超えたという。市は結局、人工呼吸器を競売にかけることになった。誰が、いくらで競り落としたのかはわからない。GE社のスポークスパーソン曰く、市の人工呼吸器のサービス契約は2014年から2016年のどこかで失効しており、同社では現在でも、同じ型の人工呼吸器のアフターサービスを継続しているという。

病院側も、日常業務に必要のない機器や防護具の維持費を払うのには消極的だった。

過去数十年にわたり、メディケイド(低所得者向け医療保険)の支払額引き下げやその他財政的な重圧で医療業界は様変わりし、公立私立を問わず市の病院のベッドの数は合わせて数千床近くも減少した。

クイーンズのエルムハースト病院やマンハッタンのベルビュー病院など、市内11カ所ある公立病院のネットワークは常に巨額の赤字を抱えながら営業しており、近年では不足分を市の援助に頼っている。多くの貧しいニューヨーカーにとって、公立病院ネットワークは主要な医療施設だ。公立病院を利用する患者の7割近くが、健康保険に未加入またはメディケアの被保険者だ。

市は連邦からの助成金で、パンデミック用に110万枚のマスクを購入する予定だった。だが助成金が減額されたため、実際には21万6000枚しか購入できなかったことが、ニューヨーク州の会計検査員によって判明した。かかった費用は約8万4500ドルだった。

マスクについて訊かれると、保健局は「N95を大量に購入しましたが、結局使用期限切れになってしまい、予算的にも十分な量を補填するのは厳しい状況でした」 と答えた。その代わり、コロナウイルスのパンデミックが発生する前に2000万枚以上の医療用マスクを購入しており、数百万枚はすでに医療従事者や最前線で働く人々に配布されていると述べた。

パンデミック対策プランに関する質問に対して、フリーデン氏は声明で「世界のどの保健局でも、これほど深刻でこれほど大規模なパンデミックに対応するのは難しいでしょう」と答え、人工呼吸器及びマスクに関するプランがその後どうなったかについては、一切発言を控えた。

豚インフルエンザの間違った教訓

2008年の金融危機の後、税収はすっかり底をついていた。市保健局の予算はその後5年間で17%減少し、2億9000万ドルも削減され、連邦政府からの助成金も大幅に減額された。

保健局の支出の中には、発達障害を持つ児童へのサービスのように法律で義務化され、予算を削減することができないものもある。そのため保健局は他のところで予算を削らねばならず、感染症対策がその犠牲になった。

2009年、ブルームバーグ市長のプラン公表以来初となるパンデミックの脅威、豚インフルエンザがニューヨークに到来した。クイーンズのとある高校で生徒数百人が感染し、市内全域に感染が広がるのではと危ぶまれた。

「もし予測通りに感染が広がれば、人工呼吸器が不足するだろう、という議論は当時もありました」と、市保健局の元幹部職員は当時を振り返った。感染拡大中に機材を購入する暇はなかったが、結局ウイルスは予想よりも早く収束した。

保健局の人工呼吸器の備蓄はごくわずかだったが、病院からの要請は一切なかった、とワイズフュース元副局長は語った。パンデミックで人工呼吸器が不足するかもしれない、という重要課題は、またもやうやむやになった。

元幹部職員によれば、ブルームバーグ市長時代後期、保健局はインフルエンザの大流行に備えて大量のタミフルを、あるいは炭疽病用の抗生物質をどう配布するかという計画にかかり切りだった。「人工呼吸器不足の問題は二の次、三の次でした」と元職員は言った。

ブルームバーグ氏のスポークスパーソン、ストゥ・ルーサー氏は「ブルームバーグ政権は全米の自治体として初めてパンデミックへの包括的な対策プランを策定しました。プログラムの主要部分は見事に実行され、2009年のH1N1ウイルス対策の際にも効果を発揮し、国の衛生緊急対策のモデルにも採用されました」と声明の中で述べた。

変わらない資金不足、孤立の恐れ

パンデミック対策は、2014年に就任したデブラシオ市長の下でも継続された。

その年、連邦緊急事態管理庁のニューヨーク・ニュージャージー支部とウォール街の業界団体の共催でオンラインのパンデミック研修会が開催され、数百人の企業重役と政府関係者が参加した。

当時、公立病院の緊急事態管理室の室長補佐をしていたカリューソ氏もプレゼンテーションを行い、緊急事態下での物資調達の難しさについて警告した。

「サプライチェーンの崩壊は深刻な問題です。我々緊急事態管理室としては非常に残念ですが、今はジャストインタイム生産システムの時代です」とカリューソ氏は当時述べ、病院が経費削減のために医療機器の在庫を制限している現状に触れた。「なのでサプライチェーンのトップの方々と何度か議論を戦わせてきました。とはいえ、私もビジネスや現状については十分理解しています」

現在も公立病院機構に携わっているカリューソ氏にコメント取材を依頼したが、返答はまだ得られていない。

しかし市が専門家の警告を行動に移そうにも、連邦政府からの助成金の大幅削減が行く手を阻む。2012年に開催された感染症学会で、当時市の疾病管理センター副局長だったジェイ・ヴァルマ博士は「感染症プログラム」が「緊縮政策時代の打撃を受けている」と警告した。

それから3年後、緊急事態準備対策室の副室長を務めていたマリサ・ラファエル氏が、議会の公聴会で同じ警告を繰り返した。「我々の進歩を脅かす最も深刻な脅威は、連邦準備助成金の減額です」。2005年以来、疾病予防管理センター(CDC)の主要プログラムは助成金を2億5000万ドル以上も減らされた。ラファエル氏によれば、CDCは公衆衛生対策チームのスタッフ数を半分以上も削減せざるを得なかったという。

サプライチェーンの問題は2018年に再び浮上した。1918年のスペイン風邪大流行から100年目の節目に、ジョンズ・ホプキンズ大学で行われたパンデミック講習に市の公立病院機構が参加したときだった。カリューソ氏と同僚らは、講習内容をまとめた論文を学術雑誌に提出した。

一言で言うとこうだ:パンデミックが起きたら、ニューヨークは自力で切り抜けなくてはならないだろう。

「州も連邦政府も配布準備が整った医療品は備蓄しているが、パンデミックが発生すれば同じように支援が必要な地域同士で競合が起き、物資の割り当てが困難になるため、結局支給される量や早さは制限されるだろう」と記されている。

彼らが提案した解決法は市の備蓄増強ではなかった。むしろ、テクノロジーによる解決を訴え、「政府が一目で見てわかるようにデータを自動的に表示する」仕組みを作るよう要求した。

公立病院機構にコメント取材を依頼したが、未だ返答はない。

準備不足のまま突入したパンデミック

2015年、ニューヨーク州はインフルエンザ大流行が起きた際の人工呼吸器割り当てに関するガイドラインを改訂した。州の計算では、ニューヨーク市をはじめとする州内緊急治療施設には約7250台の人工呼吸器があり、さらに1750台の在庫があることになっていた。もしパンデミックが複数地域で同時に発生すれば、国の備蓄に頼って不足分を補うことはできないと、州も理解していた。

「州が現在備蓄している人工呼吸器の限られた数は、来たるパンデミックへの準備と、今の医療体制の維持を天秤にかけた結果だ」と報告書には書かれている。深刻なパンデミックが起きれば、「ニューヨークには緊急用の備蓄があるにもかかわらず、重篤な患者の治療に必要な人工呼吸器が足りなくなるだろう」。さらに報告書には、病院が物資の使用を制限しなくてはならなくなった場合、どの患者を人工呼吸器に繋ぐべきか判断するためのガイドラインも掲載されており、生存確率の低い患者には使用しないよう指導している。報告書には、現在ニューヨーク市が不足しているものや具体的な在庫数については記載されていない。

コロナウイルス危機に突入するときに、ニューヨーク市内の病院が持っていた人工呼吸器の数はおよそ3500台。2005年に保健局がアンケートをとったときの総数は2688台だった――確かに増えてはいるが、大規模なパンデミックで必要とされている数と比べれば、微々たるものだ。

市長は再三にわたって、連邦政府から1万5000台の人工呼吸器を補充する必要があると訴えたが、これまで市に配布されたのはたったの2500台だった。

人工呼吸器は毎日、あるいは数時間単位で交換が必要と明言した上で、ニューヨーク市では少なくともあと2500台必要になる、と述べた。「私にとって、生死をはっきり分けるもののひとつが人工呼吸器です」と市長は説明した。「救える命を全て救うのであれば、必要な数の人工呼吸器を必要な場所に、必要なタイミングで用意しておかなくてはなりません」

※この記事はProPublicaのウェブサイトに掲載されていたものです。
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