サポートメンバーで参加している田渕ひさ子(NUMBER GIRL、toddle)らの導きもあり、気づけばアユニ自身の尖った一面がロックとして昇華され、完全に「バンド」の表現になってきている。よくある「楽器との出会い」みたいな話ではないところからスタートしたPEDROの物語。取材後にApple Musicのポストハードコアのプレイリストの話で「METZいいですよね!」と盛り上がるアユニ。その嗜好と媚びない姿勢で突き進んでいってほしい。
田渕ひさ子から学んだ
楽器へ向かう姿勢
ーアユニさんがベースを選んだ理由は?
アユニ:渡辺さん(渡辺淳之介/アユニが所属するWACKの代表取締役)に突然バンドをやらないかと言われて、「ギターかベース、どっちか好きなほうを選んでいい」と。ギターは弦が6本あるけどベースは4本しかないから、こっちのほうが簡単だろうという理由でベースを選び、何日か後にベースを買いに行ったんです。黒のスティングレイ。いま振り返ると、よくこんなブリブリな音出すのを選んだなと思います。で、買ってから何日間かは空いてる時間を見つけて当時のマネージャーとスタジオに入って2、3時間練習して。でもそのあと、けっこう時間が空くんですよ。半年間ぐらい。その間は楽器にも触らず、むしろベースに恐怖を感じてましたね。
【画像】アユニが「完全に見た目だけで選んだ」というベース(写真)
ー何で恐怖を感じてしまったんですか?
アユニ:ソロでバンドをやるという話が無かったことのように、しばらくまたBiSHの生活に戻るんです。そのときに「あれ? あの話は何だったんだ? 夢だったのか?」みたいな。でも家に帰ればベースが目の前にある。ソロデビューも決まってる。ソロデビューも怖いしベースも怖い。そういう期間がありました。
ーBiSHとしての活動が忙しくなってきて、半年間はとにかくBiSHのことに集中してた時期だったんだ。
アユニ:完全にそうでしたね。曲もできてないし、ソロデビューの準備はまったく何も進んでない。 バンドとか音楽への興味もあまり湧かず。そのときは本当に心の重荷になってました(笑)。スティングレイのベースは当時の私からしたら人生で一番高い買い物だったので、何でこんなに高価なものを持ってるんだろう?って。
ー半年空いてもう一回スタジオに入り始めるんですよね?
アユニ:1stライブ(「PEDRO first live ”happy jamjam psyco"」)の制作が始まってからようやく触り始めたんですけど、ライブまでの期間が1カ月弱しかなかったんです。(田渕)ひさ子さんがバンドに参加してくださるということもそのときに知ったんですが、自分のベースの練習のことだけで頭がいっぱいで。あまり他の音楽を聴いたりとかもできなくて。ドラムの毛利(匠太)さんと一緒に本番までひたすら練習でした。毎日8時間くらいスタジオに引きこもって。
ー特訓ですね。
アユニ:本当に(笑)。弾けるようになってからは少しずつ楽しいと思えるようになりました。
ー田渕さんからの影響を感じ始めたのは?
アユニ:ひさ子さんの1stライブの佇まいが本当に素敵で、カッコよかったんです。ただそのときはお話しする時間がほとんどなくて。1stライブが終わって私もプレッシャーから解放されたので、そこからひさ子さんのことをいろいろ調べるようになって、NUMBER GIRLを聴いたり、ブッチャーズ(bloodthirsty butchers)のドキュメンタリーDVDを買ってチェックしたりして。
ーアユニさんがガレージっぽい質感のバンド・サウンドを好きなのって、田渕さんからの影響ですよね。
アユニ:はい。ひさ子さんのギターもそうですけど、ひさ子さんが聴いてる音楽も自分の中でドツボだったので。
ー一緒にいて、プレイヤーとしてどんなところが勉強になりますか?
アユニ:弾き姿や佇まいもそうですし、一つのことに手を抜かない姿勢ですかね。PEDROの曲って何本もギターを重ねて録ってるから、ライブのときに一人で完全に再現するのは無理なんです。でも重ねたギターパートを細かく分けて、どこを弾くかしっかり決めてプレイしてくださるので、私も安心できるというか。普通そういうのってバンドのフロントマンが指示したりするわけじゃないですか。「ここを弾いて」って。でも私はそれができないので、ひさ子さんが「こうした方がいいだろうな」っていうことを全部やってくれているのが、見ていてすごく分かるんです。
ー田渕さんがやってるから私も真似してやってみようと思ったことって何かあります? プレイでも機材でも何でもいいです。
アユニ:アンプですね。
耳と体で体感することでバンドの「音」を理解
ー家にいるときって普段どういう練習をしてるんですか?
アユニ:TVを見ながら運指の練習するとか、よくある例だと思うんですけど、私、家でTVを見る時間がそんなにないということと、そもそも”ながら練習”ができないんです。だからベースの練習するぞ!と決めて、ひたすらベースを弾いてました。1stライブの前は自分の曲しか弾いてなかったですけど、いろいろ耳コピできるようになりたくて、好きな海外のバンドの曲とかも。
ー耳コピはその後できました?
アユニ:最初、音の区別が全然つかなくて。ピアノを習ってたので、ドレミファソラシドはわかるんですけど、どれがベースの音でどれがギターの音かすらもわかってなかったんですよ。ドラムの違いも全然わからなくて。それまで音楽をただの音として認識してたから。でもいろんな曲を聴くようになってからですかね。あと生音のベース、ギター、ドラムを自分の耳と体で体感してからは、やっと音の区別ができるようになりました。ひさ子さんのギターも「実はこんな繊細な音作りをしてたんだ!」っていうのもわかって。
ー楽器って練習すればするほど上達していくし、表現できる世界が広がっていくじゃないですか。PEDROの1stライブと去年のO-EASTのライブ(「DOG IN CLASSROOM TOUR FINAL」)ではアユニさんのプレイもガラッと変わってますよね。音楽を楽しんでるという実感がにじみ出てるというか。
アユニ:それはあったかもしれない。最初は音楽に「ノる」っていう言葉の意味が理解できなくて。1stライブのときは特にそうだったんですけど、例えばドラムをもっと感じてという話とか、当時の自分にとっては意味不明で。だから無理やりノッてたというか、ノッてても身体は自然と動かない状態だったんですけど、バンドを続けていろんな曲を聴いていくうちに「こんなに感覚が変わるんだ!」っていうぐらい、本当にその意味がわかるようになってきて。だからO-EASTのライブから半年ぐらい経った今、またこれまでとはまったく違うライブをする自信があります!
ーアユニさんにとってベースヒーロー的な存在の人っているんですか?
アユニ:それがいないんですよね。ヒーローや憧れているベーシストが今いないのが自分の中で「ああ……」ってなっていて。ひさ子さんの昔のインタビューとか読むと「ギターヒーローは特にいない」って書いてあって、それで安心してしまったのもあります(笑)。
ー(笑)アユニさんはベース・マガジンで連載持ってたりしますし(「ZOOZOOしくも先輩、お世話になります!」)、ベーシストの人脈もだんだんできてきたんじゃないですか?
アユニ:いえ、自分をまずベーシストだとあんまり思ってなくて。「別のグループで活動しながらソロでベースを弾いてる」という感覚が自分の中で土台にあって、胸を張ってベーシストです!という感じではないんです。
ーフェスにもたくさん出てるし、他のバンドのベーシストから話しかけられるタイミングは多そうですね。
アユニ:はい。声をかけてくださる方はいますね。すごく優しい方なんだと思います。ただ、自分からベースの話を振ったりとかは一切できなくて。「ありがとうございます! 聴いてくださったんですね!」っていう感じです。それは自分のコミュニケーション能力の問題もあると思うんですけど、BiSHの存在を知ってくれてる方とかNUMBER GIRLが好きなバンドマンの方とかは、意外にPEDROを聴いたり見てくれたりしてるんじゃないかなって思います。
自分のスタイルの強みを見つけて研ぎ澄ませたい
ー4月に出た1st EP『衝動人間倶楽部』について聞かせてください。既に「感傷謳歌」と「WORLD IS PAIN」のミュージックビデオは解禁されてますが、収録曲4曲すべてアユニさんが作詞していて、作曲・プロデュースは松隈ケンタ。さらにコ・プロデューサーにアユニさんの名前も入ってますね。
アユニ:PEDROを始めてから、日に日に物心を覚えて、日に日にいろんな感情も覚えて。今は「なりたい自分」というわけではないですけど、ちゃんと「人間」になれたなっていう感覚が掴めていて。それを4つの世界観で表わせたらいいなっていう。『衝動人間倶楽部』っていうタイトルもそうですけど、「衝動的」っていう単語が今もの作りをしてる自分には一番しっくり来てるんです。
あとは、今までは根暗でネガティブな感情しかなかったんですけど、それを超越してというか、ネガティブが混ざったまま超越してポジティブまで来たみたいなところがあって。特に「感傷謳歌」の”夢に届くまで泣いて””出来ないって諦めないで”とか、今までの自分だったら絶対に口に出さなかった言葉なんです。これまでだったら、どうせ人はいつか死ぬし、頑張りたくないし、みたいな気持ちがあったんですけど、今はやりたいことをやってみたい!っていう考え方に自然となってきて。すっごい明るいわけでもないけど、ネガティブさもあるポジティブというか。私の中にある前向きな気持ちを初めて書けた曲になりましたね。
ー「感傷謳歌」の”やってやろうじゃないか”の一節はライブで盛り上がりそうですね。みんなでシンガロングして。
アユニ:「感傷謳歌」っていうタイトル通り、センチメンタルな気持ちとかも謳歌しちゃえ!みたいな。それをまんま込めた曲です。
ーアユニさんの作詞曲って曲名がどれも面白いけど、歌詞を書いてるときに思い浮かぶんですか?
アユニ:曲名が先に思いついて、そこから歌詞を広げたりします。歌詞を先に考えて最後に曲名をつけることもありますけど、わりとタイトルが先に思いつくことが多いです。日常で聞いた他人の言葉とかがヒントになることもあります。
ー松隈さんとのやり取りはどんな感じですか? BiSHでも一緒に作業しているわけですけど。
アユニ:BiSHとまったく違いますね。BiSHのときは、ありがたいことにメンバーは頂いたデモを聴いて作詞して歌入れをするんですが、その後のプロセスとしては松隈さんやスタッフさん達が完成の状態まで持っていってくれるんです。PEDROのときはデモをいただいて「もっとここはこうしたい」「こういう音にしたい」って思ったら、それを全部伝えて。ミックスも一番最後のマスタリングも全部立ち会うようにしてます。
ーそうなんだ。
アユニ:前はそんなことなかったんですけど、今回はやりたいことがたくさんあったので、すごい口出ししてしまって。こうしたいってものが明確に見えてきて、制作は楽しかったです。ギターはひさ子さんが自分なりにアレンジしてくださったり、ギターソロを付け加えたりとかしてくださるので、やること全部がカッコいいと思う。だからそこはまったく口出さないです。私が言うのは音とかですね。
ー去年リリースした1stフルアルバム『THUMB SUCKER』と比べて、アユニさんがより好きそうなサウンドプロダクションになってるなぁと思いました。ザラついた肌触りというか。
アユニ:PEDROの作品はこの世で一番カッコいいと思って作ってるんですけど、聴く音楽の幅が広がって、自分がカッコいいと思う音楽がいろんな人に受け入れられるのかなって思ったりしてて。
ーここまでやっていいのか、みたいな?
アユニ:自分の個性をある程度殺さないといろんな人に届かないのかなって思ったり、でも個性は殺したくないっていう厄介なプライドがあったりとかで、すごく葛藤してます。自分の中で。
ーまあでも、田渕さんのギターが鳴ってるというだけでもすごいことですよね。
アユニ:すごいことですよね! 私の宝物です。
ーただのソロプロジェクトだったPEDROが、アユニさんのやりたいことがやれる場所になってきたわけですね。あれもしたい、これもしたいっていう気持ちも出てきてます?
アユニ:すごくありますね。以前はBiSHがもし終わったら地元に戻って失踪するとかバイトするとか言ってたんですよ。でもPEDROを始めてからは全然そんなこと思わなくて。PEDROを10~20年続けられるかどうかはわからないですけど、音楽は10年、20年、30年と続けていきたいです。そのためにいろんな知識を付けて学び始めてます。将来、バンドをやってとにかくいろんな人に届くような音楽を作りたいって考えてるかもしれないし、全然売れてなくて名も知れないミュージシャンとして音楽をただひたすら作ってるかもしれないです。今は音楽をやりたいってすごい思いますね。
ーわかりました。最後にアユニさんにとってベースの魅力とは?
アユニ:えっと……うーん……ベースはやっぱ芯がブレませんね(笑)。カッコいいこと言おうとしたけど、わからなくなった……。
ーベースの面白さとかでもいいですよ。
アユニ:ベースは聴いていて体の中に響き渡るというか、自分の心臓がドクドク動いてるのがわかる。NUMBER GIRLの音楽が自分の中では原点であり頂点であるので、すっごい速いベースラインとかよりは、太くてルードかつ直線的なベースラインがカッコいいと思ってるんです。そういう演奏を自分でもできたら楽しい気がするし、自分のベーススタイルの強みを見つけてさらにそれを研ぎ澄ますことができたら、もっともっとカッコいい音楽が、自分でもできるんじゃないかなと思います。
ーバッチリな回答じゃないですか!
アユニ:ギターを最近手に入れて弾いてみたんですけど全然できなくて。ギターのセンスがなくて。指も覚えられなくて、全然楽しくないんです(笑)。そのあとにベースを触ると楽しすぎて! やっぱりベースいいなー!って思います。

アユニが「完全に見た目だけで選んだ」というベースはアーニーボール・ミュージックマンのスティングレイ。過去にレッチリのフリーが使用していたように、オルタナティブ/ミクスチャーのイメージが強いモデル。アユニが使用するベースは、ネック、フィンガーボード、ピックアップ、ピックアップガードなど、黒で統一されたカラーリングが印象的。「誰のベースを見ても、自分のベースが一番カッコいい!と思うようになりました。自分の犬が一番可愛いと思う人の気持ちが分かるようになったというか(笑)」
<INFORMATION>

1st Single『来ないでワールドエンド』
8月12日発売
https://lnk.to/PEDROworldend
◉完全数量限定盤 [Single] ¥1,000+tax / UPCH-89433
収録曲
01 来ないでワールドエンド
02 未定

『衝動人間倶楽部』
PEDRO
EMI Records
発売中
PEDRO
”楽器を持たないパンクバンド”ことBiSHのメンバーであるアユニ・Dによるソロバンドプロジェクト。ベース・ヴォーカルに加え、全楽曲の作詞から一部作曲までを行なう。セルフプロデュースで放たれる彼女の持つ独特の世界観や感性が大きな支持を集める。過去の全国ツアーのチケットはすべて即日ソールドアウト。4月29日には1stEP『衝動人間倶楽部』をリリース。6月14日には初の無観客ライブ「GO TO BED TOUR IN YOUR HOUSE」を実施した。
https://www.pedro.tokyo/