4月も終わりに近づく中、リリー・コーネル・シルヴァーは心の病に苦しんでいた。

コロナウイルス絡みのロックダウンが始まって1カ月が経過し、数週間後には父クリス・コーネルの3回目の命日が迫っていた。
不安を打ち明けられる家族や友人、セラピストなどサポート体制は十分整っていたが、彼女はインターネットにさらなるサポートを求めた。だが情報がまったくないことに失望した。

「まったく前例のない出来事で、パンデミック中にメンタルヘルスにどう対処すればいいか、という情報はひとつもなかった。100歳でもない限り、パンデミックを経験した人なんていないものね」。シアトルにある自宅の日当たりのいい部屋から、彼女はZoomでこう言った。「今の時期、私が探していたのはまさにそれだった。でも見つけられなかったから、自分でそういうのを作りたいと思ったの」

ロックダウンと、ジョージ・フロイドさんの事件で感じた悲嘆とその後の怒りをきっかけに、コーネルはメンタルヘルスをテーマにしたインタビュー番組『Mind Wide Open』をIGTVで立ち上げた。毎回ゲストが様々な角度からメンタルヘルスについて話し合う。「当然、私はメンタルヘルスの専門家じゃないわ」と彼女は言う。「悲嘆とトラウマを通じていろんな経験をしてきた、ただの大学生よ。だからその分野の専門家と対話することが私には重要なの」

この投稿をInstagramで見るLily Silver(@lilycornellsilver)がシェアした投稿 - 2020年 7月月20日午前9時45分PDT

番組は先月、父親の誕生日に合わせてスタートした。初回のゲストはTrauma Stewardship Instituteの創設者で、トラウマに関する著書を何冊も出版しているローラ・ヴァン・デアヌート・リプスキー博士。
2人はメンタルヘルスについて回る偏見や、世代間に現れるトラウマの影響を深く掘り下げていった。番組の冒頭でシルヴァーは「メンタルヘルスの偏見をなくし、オープンな対話を日常化するのがこの番組の狙い」と語っている。その後もイェール大学感情的知能センターを設立したマーク・ブラケット博士や、メンタルヘルスを抱えるゲイの黒人男性として実体験を語るTikTokパーソナリティ、Sir Carterらとのインタビューが公開された。今後はガンズ・アンド・ローゼズのベーシスト、ダフ・マッケイガンがゲストとして登場する予定だ。

「自分のメンタルヘルスの浮き沈みを公表してメッセージを発信し、他の人々と対話をするなんて、本当に勇気ある行動だよ」と、マッケイガンはローリングストーン誌に語った。「今回の公開フォーラム『Mind Wide Open』は、いままさに起きている現実や、心のよりどころとなる解決策を見事に掘り下げている。リリーもまさに経験者で、今も自分の問題に向き合っている最中だ。こういうやり方を選んだことからも、芯の強い若い彼女の人柄がよく表れている」

多彩なゲストを迎えることで、シルヴァーはあらゆる立場の人々に番組を活用してもらいたいと考えている。「気づいているかどうかはさておき、今は私たち全員が集団的トラウマを経験しているんだってことを、声を大にして言いたいの」。初回を終えた後、彼女はこう言った。「今は文字通り、地球上に暮らす全ての人間が影響を受けている、歴史上数少ない時期だと思う。今回のパンデミックと構造支配は、心に深い傷を残している。
そういう傷についての知識を提供して、こういう気持ちになるのは決しておかしなことじゃない、自分一人じゃないんだ、と知ってもらいたいの。私たち全員が、似たような経験をしているのよ」

鬱について、父から言われた印象的な話

ーIGTVで番組を始めようと思った理由はなんですか?

父が亡くなって1年経ったころから思い悩んでたの。父は私の病気のことをちゃんと理解して、気持ちを分かち合って、肯定してくれた。番組を始めたのは父のためなの。きっと父なら、私の弱さを誇りに思ってくれると思ったから。他人に手を差し伸べなさい、自分の心のままに進みなさい、と父からはいつも言われていたわ。

メンタルヘルスをテーマに取り上げたのは、私はこれまでずっと不安障害や悲嘆、PTSDに悩まされてきたから。自宅検疫中はものすごく苦しかったわ。人々が悩んでいる大きな理由は間違いなく、メンタルヘルスは触れてはいけないもの、という偏見だ思う。私自身も、病気のせいでいろんな経験をしたわ――公開フォーラムでもね――。だから、どんなやり方であれ、どんな形であれ、自分の経験を語ることで、誰かに恩返しできて、かつ他の人を助けられるなら、やってみたいと思ったの。

ー『Mind Wide Open』というタイトルの由来は何ですか?

実は、『Mind Wide Open』というタイトルは父からヒントをもらったの。
高校生活最後の年に、詩の授業があってね――いかにもシアトルらしいでしょ(笑) 。(家族の)古い文献を探してきて、それを題材に詩を書くという宿題がでたの。(父が遺した)90年代の歌詞に、忘れられないこんなくだりがあった。”死んだも同然/最高の嘘を聞いたもんだぜ/睡眠は光に向かって目を閉じること/死は精神を全開にすること”。それがずっと頭に残っていて、ガンガン鳴り響いていたの。

メンタルヘルスや父のための番組作りについて言えば、精神をオープンにする方法は他にもいくらでもある。他の人たちとこういう会話をすること、メンタルヘルスの話題に対する偏見をなくすこと。それが精神を全開にする私のやり方なの。とてもショッキングな形で大事な人を亡くしたり、自分も自殺願望を抱えていたことで、精神を開放する別の方法はないかと考えるきっかけになったんだと思う。この番組は間違いなくそうした方法のひとつだわ。

ーお父さんとは鬱についてよく話をしましたか?

父とは同じ経験者として話をしたわ。私は子どものころから不安障害で、父はそれを肯定して、そうやって私を安心させてくれた。
12歳ぐらいの時に父がこう言ったの。「父さんが12歳の時も、夜ベッドで眠れなくて、ずっと心臓がバクバク鳴っていたよ」(と言って、彼女は鼓動のように胸を叩いた)。「心臓発作を起こすんじゃないかと思った」。父はいつもこう言ってたわ、「正直、おまえが(不安障害に)なったのも当然だ。父さんもずっと苦しんできたんだから」。きっと大丈夫、と言われているようで、すごく安心できたわ。

父がよく言っていたことで、今も泣きそうになることがあるの。「愚かな人たちは不安にならないんだ。お前は結果がどうなるか心配で、あらゆる可能性を考えて、あらゆる最悪の事態を怖がっている。それはお前が賢くて、脳が猛スピードで回転しているからさ。最低な気分だし、迷惑極まりないが、うまく活用すれば、自分や他の人の役に立つ方法が見つかるよ」。きっと父はそうやって私を落ち着かせようとしたのね。


ー鬱や不安障害の対策として、なにかヒントを教えてもらいましたか?

ええ。呼吸法とか、他の人に助けを求めるとか、父が習ったことだけど。でも正直なところ(父との会話は)どちらかというと説得に近かったわ。私が飛行機に乗るのを怖がると、アラスカ航空のパイロットは何時間も訓練しているから大丈夫だよ、とよく言っていたわ(笑)。

誰でも人生において、そういう緩衝材のような存在が必要だと思う。心を開くことができて、重荷だと思われるんじゃないかとか、批判されるんじゃないかと心配しなくていい存在。私にとっては母もそういう存在よ。

「友だちと音楽を演奏したり、音楽を聴いたり、曲を作ったりするのが私の生活のベースであり、中心になっているわ」

ーお父さんの知名度を考えると、悲しみと向かうのも大変だったのではないですか?

シアトルで暮らすことのいい面と悪い面ね。父の存在がそこら中にあるんだもの。それは素晴らしいことだけれど、ものすごくつらい時もある。独特の苦労がついて回るの。(大切な人の)壁画をそこら中で目にするとか、周りから注目される人はそう多くないでしょう。
いいこともたくさんあれば、つらいこともある。でも素敵よね、父がこれほど多くの人に影響を与えたってことなんだから。これまでにいろんな人から言われたわ、「心の病気で苦しんでいたんですが、お父さんの音楽のおかげで乗り切れました。自分をちゃんと見てくれて、耳を傾けて、肯定してくれる人がいると感じられるようになりました」。そういうのは本当に素敵なことだわ。

ー『Mind Wide Open』ではどんな話題を取り上げてゆきたいですか?

ローラとは、悲嘆やトラウマについて語るのがすごく重要だった。次回はマーク・ブラケット博士と一緒に、社会的感情学習、とくに子供たちの社会的感情学習をテーマに話をするわ。2~3週間のうちに、双極性障害の専門家にも話を聞くつもりよ。

メンタルヘルスについて語ろうと思ったら、その分野についてあらゆる角度から掘り下げる必要がある。だから私も悲嘆とトラウマの違いや、不安障害や鬱や双極性障害のような化学的不均衡について話し合っていきたい。今日は友人のSir Carterとインタビューするの。彼はワシントン州タムウォーター出身の若いゲイの黒人男性で、小さな町で、いくつもの差別を受けてきたコミュニティの一員として生まれ育った経験や、それがメンタルヘルスにどう影響したかという話をしてくれる。どこにでも話題はあるのよ。いい意味でね。

ー今現在、精神力を維持するために、何かやっていることはありますか?

私には瞑想がものすごく役に立っているわね。ありがたいことに、セラピストや精神科医に診てもらっていて、それも大きな助けになっている。友だちと音楽を演奏したり、音楽を聴いたり、曲を作ったりするのが私の生活のベースであり、中心になっているわ。自分が楽しめるもの、毎朝ベッドから出ようと思わせてくれるものを見つけることね。それと、必要なら薬を飲んで、セルフケアをする。セルフケアっていうと、髪を切ったりネイルをしたりすることだと誤解されてるみたいだけど、普通に食べて(これができない時もあるのよ)シャワーを浴びて、外に出るのもセルフケアなの。まずは外に出ることが必要ね。

ー鬱や悲嘆について、世間にもっと知ってもらいたいことは何でしょう?

誰でも経験するということ。誰でも苦しめられるということ。恥ずかしいことは何もないということ。

アリス・イン・チェインズの「ドント・フォロー」を選んだ理由

ーメンタルヘルスの悩みを当たり前のように口にできるようになるには、社会は具体的にどう変われっていけばいいでしょう?

個人的レベルで言えば、まずは身近な人や、まだ病気について打ち明けていない周りの人と話をするのが第一歩ね。ブラケット博士との回では、社会的レベルで感情的知能や意識改善を推し進めることについて話しあった。博士が起こそうとしている感情面での改革のひとつでもあるの。(変化は)日々、個人レベルで起こしていかなくちゃいけない。身近な範囲で人に打ち明け、自分の気持ちに正直にならなくちゃ。でも、政府や学校など、構造的・組織的レベルでも感情的知能を広めていかないと。この国の政府を見る限り、まったく広まっていないわね(笑)

ー番組のオープニング曲はアリス・イン・チェインズの「ドント・フォロー」ですが、この曲を選んだ理由は何ですか?

何人かにオープニング曲を作ってもらったんだけど、どれもしっくりこなかったの。そしたら母(アリス・イン・チェインズのマネージャーを務めるスーザン・シルヴァー)がこう言ったの、「ねえ、アリスの曲なんかどう?」 それでふと考えて、『ジャー・オブ・フライズ』の「ドント・フォロー」が最初に頭に浮かんだ。「あら、なかなかイイじゃない」って思って。あの当時、レイン・ステイリーも精神疾患と薬物中毒に悩んでいたの。彼らからはものすごくいろんなことを学んだわ。そういう意味でも、私にとってものすごく思い入れがある曲だったの。強さや精神力、スタミナ、悲嘆や喪失感を乗り越えるという意味でもね。

ージェリー・カントレルは番組を応援してくれましたか?

ちょっとだけ話はしたわ。ジェリーとかマット・キャメロン)サウンドガーデンとパール・ジャムのドラマー)、マイク・イネス(アリス・イン・チェインズのベーシスト)、ショーン・キニー(アリス・イン・チェインズのドラマー)といった人が応援してくれている。みんな私にとっては父親代わり。叔父のような存在ね。私がやることはなんでも応援してくれる人たちよ。これまでも、いろいろお世話になったわ。

ー『Mind Wide Open』の初回のエピソードと同じ質問で締めくくりましょう。最近、希望を持てたのはどんなことですか?

初回エピソードに対する反応かしら。大勢の人たちがこう言ってくれたの。「心の病気をたくさん抱えていて、どう話したらいいか分からなかったんです」とか「娘が苦しんでいます」とか「ご近所さんが病気なんですが、今回のエピソードで会話のヒントを教えていただきました」とか。うれしくて、文字通り胸がいっぱいになったわ。他の人たちに励ましと希望をもたらすことができたことで、私自身もたくさん希望が持てた。対話のきっかけが生まれたの。私もたくさんの希望をいただいたわ。

【画像】クリス・コーネルは52歳で逝去:早すぎる死を遂げた、音楽史に残る偉人名鑑(写真32点)

from Rolling Stone US
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