Amazonが提供するライブ動画配信サービスのTwitch。ゲーム実況のライブ配信で非常に人気の高いサービスなのだが、特にコロナ時代に入ってからは音楽のライブ配信での人気が急上昇している。Twitchは長年に渡って、非常に高速でスムーズな配信を可能にする最先端のストリーミング技術を開発してきたわけだが、コミュニティの強さも大きな魅力なのだ。毎日、世界中からファンが集まり、チャットしながら独自の世界観を一緒に作り上げているのだが、そこにはいろいろな機能が用意されており、配信者と視聴者が直接やり取りすることもできる。その上、Twitchのメリットを配信者側から見ると、過去30日間で合計500分以上、7日以上の配信、平均3人以上の同時視聴者、50人以上のフォロワーという条件を満たせば収益化が可能となる。このハードルの低さがまた圧倒的な魅力となっているようだ。
配信者がアフィリエイトの資格を取れば、サブスク、広告、ビッツ(バーチャル・アイテム)から収益を得ることができるし、アフィリエイトからレベルアップしたければ、クリエイターとしてパートナーの資格を取ることもできる。収益化プログラムの方が複数用意されているのもいい。海外のメジャー・アーティストたちが次々とTwitchに注目しているのも不思議ではないのだ。Twitchの音楽部門責任者、Twitchs SVP, Head of Musicのマイク・オルソン氏に話を聞いた。
―元々Twitchはどういうプラットフォームとしてスタートしたのでしょうか? ゲームのライブ配信で知られていますが、どのようにジャンルの幅を広げていったのでしょうか?
マイク Twitchは常にライブでインタラクティヴな配信サービスでしたが、早い段階でビデオゲームのコンテンツがごく自然に増えていったんです。
「この2年間、私たちは音楽を優先事項にしてきました」
―音楽のライブ配信はどのように始まったのでしょうか?
マイク Twitchの中で音楽は特に新しいものではないのですが、この2年間、私たちは音楽を優先事項にしてきました。チームの構築と、Twitchで配信を始めた音楽アーティストをサポートするための新しいプロダクトと機能の開発の両方に投資してきたのです。Twitchに関して最も素晴らしいことの一つに、世界中に視聴者がいて、いつだって地球の反対側で行われている配信を観られることがあります。平均すると常に150万人がTwitchの配信を観ているわけです。そのおかげで、アーティストの方も、既存のファンとのつながりを深めるだけでなく、同じくらい音楽が大好きな新しい人たちともつながることができるのです。視聴者の方は、クリエイティヴのプロセスに参加したり、マーチャンダイズを購入したり、サブスクやビッツを購入したりして、アーティストをサポートすることができるのです。
【画像】Twitchの音楽タブで見られる配信の様子(写真3点)
―現在の人気配信アーティストを教えていただけますか?
マイク ソーシャル・ディスタンシングが始まる以前からも、Twitchでは活気ある音楽シーンが盛り上がっていたのです。
ケニー・ビーツは、3月にTwitchのチャンネルを立ち上げて、ほぼ毎日「ビート・バトル」を開催して、そこで紹介された新しいプロデューサーたちは、Slowthai、Boldy James、チャーリー・プースといったメジャー・アーティストたちと仕事をすることになりました。
https://www.twitch.tv/kennybeats
グラミー賞受賞のプロデューサー、Illmindは、ファンが選んだアカペラとビートを全面的に使用して制作したEP『Our Voices』を発表したばかりです。EPからの収益はすべてブラック・ライブズ・マター運動に寄付されます。
https://www.twitch.tv/illmindproducer
リンキン・パークのマイク・シノダは、アルバム『Dropped Frames, Vol. 1』をリリースしたばかりですが、このアルバムはファンからのインプットを取り入れて、Twitchチャンネルで制作しました。
https://www.twitch.tv/officialmikeshinoda
Seredaは、Twitchで大規模なファンベースを築くことによって、この1年で人気が急上昇しました(16万人のフォロワーを擁し、Twitchのトップ・アーティストの一人です)。彼女がコミュニティの協力を借りてTwitchで作ったEPは、ビルボードのチャート入りも果たしました。
https://www.twitch.tv/sereda
視聴者側、配信者側にとって、Twitchを使うメリット
―Twitchにおいて、アーティストはどのようにコミュニティ作りをしていくのでしょうか?
マイク Twitchにはクリエイターとファンによる大規模でエンゲージメントの高いコミュニティがあります。Twitchがユニークなのは、ライブのインタラクティヴが深く、コミュニティには高い忠誠心が存在するからです。
あと、配信スケジュールを維持(および通信)することをお勧めします。配信の一貫性のあるタイムラインを構築することで、視聴者を確実に呼び戻すことができるのです。アーティストがスケジュールを設定し、様々なチャンネルで新しい番組を明確に告知すれば、ファンの方もいつ視聴したらいいのかを知ることができるので。最後に重要なことは、ビジュアルについて考えることですね。音楽アーティストは、ライブセットの中に追加でクリエイティヴなことをやろうとしがちですが、配信の前にきちんとビジュアルを決める必要があります。ちょうどMacのユーザー向けに「Twitch Studio」という無料配信アプリをローンチしたばかりですが、このアプリでは、配信のセットアップと管理ができるように直感的なツールを提供しています。
―視聴者側、配信者側にとって、Twitchを使うメリットは何でしょうか? 収益化についてもお聞きしたいのですが。
マイク Twitchは、特に音楽アーティストにとっては、他のサービスとは全く異なるものになっています。コミュニティの感覚は、アーティストや視聴者にとって、最大の価値を生み出す要因の一つとなっていますからね。現在、まだ会場でライブをやることができないので、Twitchは、音楽アーティストにライブと同じような親密な雰囲気を作りだし、チャットを通してファンと直接交流する機会を提供します。それに、音楽アーティストが現在サポートを必要としているのもわかっています。Twitchには業界をリードする、収益化のためのツールがあり、ファンは有料のサブスクを含めて、お気に入りの音楽アーティストをサポートすることができますし、視聴者がアーティストを応援できるようにするためのビッツ、アーティストと収益を共有する広告もあります。私たちの配信テクノロジーもかなりユニークで、時間制限も中断もありません。クリエイターはライブをやりたいだけできるわけです。Twitch for Artists / Twitch.tvもローンチして、オンボーディング・プロセスを通じて、セットアップの開始、コミュニティの発見、収益化ツールを音楽アーティストに案内できるようにしています。
Twitchが考える著作権の問題
―Twitchの現状の音楽のライブ配信に対する取り組みについてもお聞かせください。プラットフォーム以外のサービスについても教えてほしいのですが。
マイク Twitchはつながったり、発見したりするのための場所です。現在多くの音楽アーティストがライブやツアーをキャンセルしなければならない状況の中、Twitchは音楽アーティストがファンを増やしたり、ファンとつながったりするために必要なサポートを得られるよう取り組んでいます。
あと、Twitchでカスタマイズされた音楽用のプレイブックを作成しました。アーティストやブランドが立ち上がって実行するために、知っておく必要のあるすべての情報をまとめた「クリエイターキャンプ」も作成しました。また、音楽カテゴリーをホームページの前面と中央に配置するために、最近「音楽」のディレクトリを立ち上げました。Twitchのコミュニティがどのようなチャンネルでも発見したり、レコメンデーションを提示したりできるよう、その点をさらに改善することを目指しており、今後も機能を強化する方法を模索していきます。
―ライブ配信における問題点についてもお聞きしたいのですが。まず、TwitchはDJの間で人気が高いのですが、他人の音楽をミックスして配信する場合には著作権の問題がありますよね。「音楽のガイドライン」にも記載されていますが、この問題について説明していただけますか。
マイク 私たちは異常な時代に生きているわけですが、最近の関心と活動の高まりには驚くべきものがありますね。
Twitchのゲーム以外のコンテンツは過去3年間で4倍に増えている
―コロナ以降のTwitchに起こった変化、またコロナを受けてのTwitchとしての新しく取り組んでいることについても教えてください。
マイク 全体的に見ると、視聴時間と新規クリエイターの数に関しては、これまでにないほどの急増がありましたね。ソーシャル・ディスタンシングの最初の数カ月の間に、視聴時間は月ごとに約50%もの成長が見られました。また、特に音楽、エンターテインメント、スポーツ業界からの、ゲーム以外のコンテンツへの流入もありました。さらに詳しく言うと、Twitchのゲーム以外のコンテンツは過去3年間で4倍に増えています。あと、アーティストや業界のパートナーと協力して、COVID-19で最も被害を受けた人たちのための募金活動の支援を優先事項としました。例えば、Twitchで、世界中のミュージシャン、アスリート、ゲーマーをフィーチャーした12時間のチャリティー配信「Twitch Stream Aid」を主催したのですが、WHOのCOVID-19連帯対応基金で277万ドル(約3億円近く)を集めました。
―日本国内における配信についても聞きたいのですが、最近ではどのような配信がありましたか?
マイク ライゾマティクスがStaying TOKYOを立ち上げて、Twitchで毎週金曜日に配信をしましたね。彼らは音楽を配信するだけではなく、Twitchや新しいテクノロジーを利用する新しい方法にも常に挑戦しています。彼らのチームは、Twitch視聴者がユニークなパフォーマンスをインタラクティヴに楽しめる方法を生み出しました。チャット・コマンドを使って、曲がリクエストできるし、カメラアングルや照明も変えて、ボストン・ダイナミクスのロボットを使ったダンスのパフォーマンスも見せました。ライゾマティクスはさらに、「Intel Presents. SFV PLAYING TOKYO vol.0」というイベントを主催して、ゲームと音楽文化をユニークな方法でミックスしています。
―今後の展望をお聞かせください。
マイク Twitchは常に人々を集めて、つながりを作り、共通の関心事を元にコミュニティを作ることを目指してきました。ゲーム・コミュニティでの突出した存在に加えて、Twitchは音楽も含め、ゲーム以外のカテゴリーにおいてもリーダーとして成長することを期待しています。今、ライブ・エンターテインメントが変化していることは明らかです。私たちの希望は、将来のライブ・エンターテインメントを推進する企業の一つになることにあります。
https://www.twitch.tv
https://www.twitch.tv/twitchjp

Twitchの音楽部門責任者。Twitchs SVP, Head of Musicのマイク・オルソン氏