過去2年間、ジゼル・パーマー氏はポルノ業界の中心地、米ロサンゼルスのサンフェルナンド・ヴァレーで多数のポルノビデオに出演してきた。すると今年に入ってから、新型コロナウイルスの噂が耳に入るようになった。本人いわく、LAから故郷のテキサスへ戻ってしばらく撮影現場から遠ざかることにしたのも、それが主な理由だという。
「コンテンツプラットフォームやストリーミングにシフトすることにしたの。これなら、共演者と身体的接触を取らずにすむでしょう。こういう決断をして本当に良かったと思ってるわ」と、彼女はローリングストーン誌に語った。「状況がいつごろ落ち着くか分かるまで、様子を見るつもりよ」
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現場から身を引く道を選んだことで、パーマー氏は金銭的に大きな痛手を被った。本人の推測では、何万ドルものチャンスがふいになったという。それでも、自分の健康を守るためなら安いものだと、彼女は考えている。この業界も、忍び寄るコロナウイルス感染の脅威に十分な備えができていないと言う点では、アメリカの他の業界と変わらない。
現在、ポルノ業界内でのコロナウイルス感染者は報告されていない(ただし、コロナウイルスをヒントにしたポルノ作品はPornhubにあがっているが)。「他の皆さんと同じように、我々も全体的に苦境に陥っています」と、アダルトストリーミングサービスAdult Timeのディレクター兼チーフ・クリエイティブディレクター、ブリー・ミルズ氏は言う。
「私はWEBカムのほうに力を入れて、そっちでファンと交流するつもり。ちょっとでも感染リスクにさらされなようにね」と言うのは、ポルノビデオ出演者でWEBカムパフォーマーのレクシー・ルナ氏。
現在ルナ氏は手術後の療養で撮影を休業しているところだが、「ちょうどいいタイミングだった」と言う。「しばらく休んで、この先どうなるか様子を見るつもりよ」と言って、今後はSextpantherのようなプラットフォームを中心に活動するつもりだと付け加えた。ここでは、ファンとパフォーマーが性的メッセージを直接やり取りすることが認められているので、撮影で失った収入を補填することができる。「この業界でお金を稼ぐ方法はまだまだたくさんあるわ。必ずしもパフォーマーと直接顔を合わせなくてもいいのよ」
ヨーロッパのポルノ業界の状況
新型コロナウイルスが急速に広がっているヨーロッパでは多くの撮影スタジオがすでに一時的な撮影停止に踏み切った。これを受け、コンテンツクリエイターがソーシャルメディアの購読をファンに直接販売できるヨーロッパのソーシャルネットワークFanCentroは、撮影の代わりにプラットフォームへの参入を希望するパフォーマー向けに、利用手引きを発表した。さらに、コロナ危機で自宅待機中のパフォーマーへの支援活動も行っている。
「業界内に不安が広がっていることに気づきました。
海外のポルノビデオ制作会社との撮影やエスコートの依頼で、パフォーマーがヨーロッパに出張することも珍しくない、とパーマー氏は言う。新型コロナウイルスの脅威で、パフォーマーたちは前にも増して海外出張に及び腰になった。ルナ氏の周りにも、Exxoticaのような見本市に行かないことにした、というパフォーマーが大勢いるという。パフォーマーとの対面を楽しみに世界各国からやってくる参加者と、じかに交流するのを恐れているのだ。
大勢のポルノビデオ業界関係者は新型コロナウイルスの脅威にいまだ楽観的だ。「撮影セットがウイルスに汚染されている可能性は無きにしもあらずだけど、前向きな態度でいる必要があると私は思う」と、パフォーマーのサラ・ヴァンデラ氏は言う。「(当然これまで通り)健康には十分注意しつつ、病原菌の拡大防止のために衛生対策は徹底するべきだけど」
そうはいっても、撮影セットでのパフォーマーたちの密着具合を考えれば、やはり感染の脅威が大勢の頭に浮かぶ。「セクシャルな状況では身体的接触もたくさんありますし、体液や唾液の交換も多々行われますから、頭を悩ませるのは当然でしょう」とミルズ氏は言う(WHOいわく、ウイルスが性交渉で感染するかどうか判断するにはいま現在十分なデータが集まっていないものの、粘液や唾液の飛沫を経由して伝染することがある。つまり、キスやその他親密な接触は、ウイルスを広める可能性があるということだ)。
仮に新型コロナウイルスが性交渉では感染しないと判明しても、ポルノ作品はサンフェルナンド・ヴァレーのごく限られた場所で撮影されていることから――ウイルスが物体の表面でどのぐらい生存するものか、まだわかっていないことからも――撮影セットで誰かがウイルスにかかる可能性はある、とパーマー氏は指摘する。「同じ現場で、何度も何度も、来る日も来る日も、違う相手と撮影して、しかもソファは体液まみれなのよ」。
「個人事業者」のリスクも
そのうえ、大半のパフォーマーが個人事業者であるという事実が絡んでくる。つまり保険に加入していない、あるいは病気になってもなんの保障も受けられないパフォーマーが大勢いるのだ。パーマー氏の周りにも、こうした理由で、軽い病気――たとえば風邪や皮膚病――程度ならそのまま仕事場に現れるパフォーマーが大勢いるそうだ。「自営業の場合、生活のためにはどうしても自分を優先させなきゃいけないのよ」とパーマー氏。「現場に行ったら、共演者が具合悪そうにしていたり、口の周りにヘルペスがあったり。そんなのは決して珍しくもなんともないわ」
ポルノ業界全般も、すでにプライバシーの問題や業界改編の重圧にあえいでいるが、さらに甚大な経済的ダメージを受けることになるだろう。自宅からモデルやWEBカム、カスタマイズ映像制作といったコンテンツ中心の個人営業スタイルにシフトしているパフォーマーは大勢いるものの、従来のカラミ中心の撮影は収入の面だけでなく、他の収入源の宣伝戦略という意味でも必要不可欠だ。新型コロナウイルスの影響による撮影の一時停止は、制作会社にも「大きな被害をもたらす」だろうとミルズ氏は言う。「オーディエンスに新作を絶えずリリースすることが、我々の主要業務です」と彼女は言う。「Netflixが、現在制作中の新作をひとつのこらずお蔵入りにするとしたらどうなるか。想像してみてください」
だがポルノ業界には、他の業界にはない利点がひとつある――すでに何度も、公衆衛生危機を経験している点だ。
こうした恐怖を経て、確かにポルノ業界は他業界よりも健康への意識が高くなった。万が一、ウイルスの危険に直面しても、これが功を奏するだろう、とアダルトパフォーマー兼監督のレナ・ポール氏は言う。「私たちの仕事は身体が資本です。ですから業界の統括団体(PASS検査制度を統括するFree Speech Coalition、通称FSC)は、白癬(水虫・たむしなど)のような比較的軽症の感染症が流行した場合でも、検疫を敷くことで知られています」と彼女は言う。「ですから自信をもって言えますが、パフォーマーの1人がコロナウイルスにかかったら直ちに制作停止が下されるでしょう」
FSCもWEBサイトでこれを認めている。同団体は現在ロサンゼルス・カウンティも含め、パフォーマーが撮影および/または渡航するエリアを監視しており、これらエリアの1カ所でも、ウイルス感染の拡大によって一般市民への感染リスクが高まったと保健当局が判断した場合は、直ちに制作停止を呼びかけるという。パフォーマーに対しても、制作停止の場合に備えてコンテンツを備蓄しておくよう推奨し、もし具合が悪くなった場合は、「給料の必要性に迫られれば、このような決断をするのは容易ではないでしょうが」、撮影現場に行かないよう呼びかけている――他業界の個人事業者が現在抱えているのと、まったく同じ問題だ。
ウイルスの検査キットが不足している現状を考えれば、検査がすぐにでもポルノ業界の標準検査手順やPASS検査に組み込まれることは、まずないだろう。それでもポルノ業界内には、いまだ根強い期待が残っている。
●米ポルノ業界、人種差別の赤裸々な実態
From Rolling Stone US.
2020年上半期「国際部門」ベスト5
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