人気バトルゲーム『フォートナイト』を手がける米エピックゲームズは、AppleのApp Storeが反競争的であることを理由に同社を提訴した。

8月13日は目まぐるしい1日だった。
まずはAppleが人気バトルゲーム『フォートナイト』をApp Storeから削除すると発表した。Apple曰く、『フォートナイト』が同社のアプリ内課金システムに違反したというのだ。数時間のうちに同ゲームを手がける米エピックゲームズ(以下、エピック)はApple提訴という形で応酬した。エピックは、AppleがApp Store内の流通市場を独占したと主張している。

今回のApple対エピック戦争は、エピックが『フォートナイト』をアップデートし、同アプリの機能にVバックスというゲーム内通貨が購入できる新オプションを実装したのをきっかけに勃発した。新オプションにより、プレイヤーはApp Storeよりも2ドル安い価格でVバックスをエピックから直接購入できるようになったのだ。App Storeよりも低い価格で提供できるのは、30パーセントの手数料がかからないため、コストが削減できたからとエピックは語る。だが、AppleはこれがApp Storeの商取引ルールに違反していると主張し、同ゲームをApp Storeから削除した。

「我々は、iOSエコシステムに反競争的な制約を設けつづけるAppleを裁判所が止め、2020年が『1984』になるのを何としても防いでいただくよう、謹んでお願いします」とエピックは訴状を通じて述べ、Appleのマッキントッシュの有名なCM「1984」を引き合いに出した。マッキントッシュのCMは、イギリスの作家ジョージ・オーウェルがディストピアを描いた小説『1984年』にインスパイアされたものだ。

訴状に加え、エピックは8月13日に「1984」をもじった「Nineteen Eighty-Fortnite」というアップルを標的にしたショートムービーを公開した。

今回の提訴にあたり、エピック側は損害賠償金の支払いを一切求めていない。
その代わり同社は、「主要IT市場におけるAppleの独占状態にピリオドを打ち、進歩と創意工夫のためのスペースを解放し、Appleのモバイル機器がAppleのパソコンと同程度の競争にさらされるよう」対策を強化してほしいと訴えている。『フォートナイト』はTwitterで1100万人以上のフォロワーと訴訟内容をシェアした。フォロワーには、数多くの人気ゲーマーも含まれている。

Appleの利用規約が定めるところによれば、App Storeにアプリを提供する第三者アプリ開発者は、アプリの総売上高(アプリ本体のみならず、アプリ内課金の売上も対象)に対して30パーセントの手数料をAppleに支払わなければならない。エピックはこれを極めて抑圧的と非難し、AppleはiOSプレイヤーが利用するストアの選択肢を独占し、市場に対する影響力を振りかざしていると主張。さらにエピックは、App StoreよりもオープンなMacデバイス向けアプリの手数料は3パーセントだと述べた。

エピックの提訴は、シリコンバレー最大のIT企業の反トラスト法違反行為を調査中の関係者たちの厳しい目がAppleに向けられる最中の出来事だ。

今回の判決は、個人の開発者からSpotifyのような大手開発企業にいたるまで、全アプリビジネスにとって重要な先例となるかもしれない。世界最大の音楽ストリーミング企業であり、Apple MusicのライバルでもあるSpotifyは、App Storeの利用規約を公に非難しており、ついにはプレミアムプランを購入する機能をApp Storeから削除してしまった。iOSデバイスユーザーは今後、Spotifyの公式ウェブサイトからサブスクリプションを購入しなければならない。先日Spotifyは、反トラスト法違反として欧州のAppleを同じように提訴している。

訴状のなかでエピックは、『フォートナイト』の削除は「Appleが巨大な権力を振りかざして理不尽な制約を設け、iOSアプリ内課金市場における完全な独占状態を不当に維持しようとした例のひとつ」と表現した。


『フォートナイト』は、目まぐるしく成長するライブストリーミング空間として音楽業界で独自の地位を確立してきた。トラヴィス・スコットやマシュメロなどのアーティストは、バーチャルコンサートの場として同ゲームを活用した。(※先日、日本人として初めて米津玄師がバーチャルライブを実施した)大人気を博したスコットの歴史的なコンサートは、『フォートナイト』で初披露されたニューシングル「The Scotts」を本誌のトップ100チャートの1位に押し上げるのに貢献している。

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本誌がコメントを求めると、Appleの代理人は次のように述べた。「エピックは、10年前からApp Storeにアプリを提供しており、App Storeというデジタルエコシステムの恩恵を受けてきました。ここでの恩恵には、Appleがすべての開発者に提供しているツール、テスト、流通が含まれます。ビジネス上の利益を理由にエピックが特別待遇を要求できるからといって、こうしたガイドラインがすべての開発者に公平で、ユーザーにとって安全な場を提供していることに変わりはありません。本件の解決に向けて、可能な限りエピックと取り組みます。『フォートナイト』がApp Storeに復活できるように」。

追記:
AppleがApp Storeから『フォートナイト』を削除したあと、同ゲームはGoogle Play Storeからも姿を消した。Googleの広報担当は、次の声明を本誌に提出している。「Androidのオープンなデジタルエコシステムは、開発者がアプリを複数のアプリストアに流通することを可能にしています。
弊社の配信システムGoogle Play Storeを選んだゲーム開発者のために、弊社は開発者に公平であると同時にユーザーが安心してストアを利用できるようにする一貫した利用規約を設けています。『フォートナイト』はいままで通りAndroidでは利用できますが、Google Play Storeでは利用できなくなります。それは、同ゲームが弊社の利用規約に違反したからです。しかしながら、私たちはGoogle Play Storeに『フォートナイト』を復活させるべく、エピックゲームズと話し合いを続ける機会を歓迎します」。Googleの決断について本誌はエピックゲームズにコメントを求めたものの、同社はすぐに応じなかった。
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