米マサチューセッツ州セイラムに拠点を置く悪魔教寺院「サタニック・テンプル」。同宗教団体が信教の自由を主張し、中絶の権利を求めている。


ここ最近の連邦最高裁判所に関して共通して言えることは、いくつかの重要問題に関して驚くほどリベラルな点だ。ゲイの権利を支持し、中絶規制を無効にし、納税申告書提出の免除を求める大統領の訴えを却下した。たしかにその通りだが、だからと言ってリベラルだとは言い切れない。むしろこれらの裁定とは裏腹に、最高裁はいまだにかなり保守的だ。それがよく現れている分野が信教の自由だ。

最高裁は、アメリカ合衆国の法令において宗教は特別な立ち位置を占めるとの判決を3件立て続けに下した。どう特別かというと、宗教団体は一般的に適用される反差別法令から免除され、予防治療の保険適用を義務づけたオバマケアの遵守を拒否し、宗教学校の学生向けの公的援助を宗教団体に支給するよう州に強制することができる。こうした傾向は、ジョン・ロバーツ最高裁首席判事が就任して以来変わっていない。2012年以来、最高裁に持ち込まれた信教の自由をめぐる訴訟13件のうち、12件で宗教団体が勝訴している。

驚くことでもないが、今年最高裁が判決を下した裁判で信教の自由を訴え、勝訴したのはいずれも主流派であるキリスト教だった。とすれば、少数派の宗教団体が信教の自由を訴えた場合、最高裁(それ以外の裁判所も含め)が同じ姿勢を貫くのか、と疑問を抱くのは当然だ。

ここで登場するのがサタニック・テンプル(The Satanic Temple)だ。
昨年、正式に宗教法人として認可された同団体は人類の善意と博愛を信じ、専制支配を拒絶し、常識と正義を標榜する。彼らは長年、最高裁がキリスト教に適用した信教の自由の解釈を、自分たちの信者にも適用するよう戦っている。

サタニック・テンプルがとりわけ力を入れているのが、中絶をめぐる戦いだ。彼らの教義の3番目にはこのように書かれている。「何人の身体も不可侵であり、自らの意思のみに従う」。州が中絶手術に課している障害物レースのような規制は、自分たちが深く信仰する信念に反することから、信者には適用されるべきではない、とサタニック・テンプルは主張している。生殖の権利に関して広報担当者はこうコメントした。「洗礼を受ける前に州のカウンセリングを受けなければならない、という法律を容認するキリスト教徒は誰もいないでしょう。同様に我々の信者にも、教会の儀式を執り行う上で信教の自由を正当に認められるべきです」

サタニック・テンプルが起こした裁判はいずれも敗訴している

これまでサタニック・テンプルは妊娠して中絶を希望する信者に代わって裁判を起こし、州裁判所や連邦裁判所で度々こうした主張を繰り広げてきた。これまでのところ勝訴には至っていない。今年6月にはミズーリ州を管轄する連邦上訴裁判所が、教義が法律にそぐわないからといって、サタニック・テンプルの信者を一般的に適用される中立的な法律から免除することはできない、との判決を下した。

同団体はこの件を最高裁判所に持ち込むとみられるが、譲歩する様子は全くない。
今月に入ってから報道声明を発表し、州の中絶規制から免除されるべきだ、という主張を繰り返した。最高裁が信教の自由をどう扱うか、想像を巡らせているのは間違いない。最終的には最高裁が信教の自由の判例を等しく適用するだろう、と踏んでいるのだろう――国内の主流派の宗教に認めたなら、すべての宗教に認めてしかるべきだと。最高裁がこうした原則の適用に中立的立場をとるかどうかは疑わしいが、仮にそうなった場合、サタニック・テンプルは事実上勝利を手にすることになる。

争点となるのは、「中立的」で「一般に適用される」法律が、それとは相反する信念を持つ人物に適用された場合、信教の自由を侵したことにはならない、という1990年の最高裁の判例だ。この裁判では、ペヨーテの喫煙を禁じる州の法律は、ペヨーテの吸引が信仰に重要だとするネイティブアメリカンにも適用されうる、とされた。問題の法律はネイティブアメリカンに害を与える目的に特化して制定されたわけではなく(中立的)、すべての人に適用されることから(一般に適用される)、信教の自由の訴えは認められない、というのが裁判所の判断だった。

この裁判は判決当日から非難を浴びた。左派は少数派の宗教が州から糾弾されることになる、と主張し、右派はキリスト教徒が起訴されることになる、と主張した。その結果、最高裁でこの判例を覆そうという大々的な運動が起きた。また複数の州で、信教の自由の訴えを保護する法律を制定する動きがみられた。2014年、手芸チェーン店Hobby Lobbyが従業員に対して医療保険制度改革法で義務付けられている中絶手術の保険適用を拒否した裁判では、連邦裁判所は連邦版の信教の自由保護法(他の連邦法に対してのみ適用可)を適用した。


中絶の悪魔は現れるか?

サタニック・テンプルはこうした法律や運動を持ち出して、信者を中絶規制から免除させようとしている。彼らの主張はHobby Lobbyと同じ。ただし、連邦の保険制度法ではなく、州の中絶規制が対象だ。彼らはまた、「中立的」「一般に適用される」という最高裁の判例が覆ることも期待している。この判例は徐々に効力を失い、問題視されているが、現在も法律として有効なままだ。次年度、最高裁で審理が行われる予定の裁判が流れを変えるかもしれない。この裁判では、キリスト教系の養子縁組斡旋業者がフィラデルフィアの反差別法に対抗し、ゲイのカップルを排斥する権利を求めている。

LGBTの権利拡大や中絶の容認に抵抗を示し、聖書の教えを絶対視するキリスト教右派の活動を真剣に捉え、キリスト教の主張がOKなら宗教を信じる者全員がOKであるべきだ、と訴えている。最高裁がすべての人々に信教の自由を認めるか否か、その答えが出るのは時間の問題だ。

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from Rolling Stone US
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