※本記事は米ローリングストーン誌2020年7月号のカバーストーリーを翻訳したものです(ウェブ版は2020年6月16日初出)。
新たな発火点はミネアポリス
ミネアポリスの警察官がジョージ・フロイドを5月末に殺害した2日後、アメリカにおける新型コロナウイルスの犠牲者は10万人に達した。このうち2万2千人は黒人だが、私たちがアメリカの全人口中で占める割合はほんの13%だ。世界的なパンデミックがアメリカのほとんどすべての構造的な不平等をあらわにするなか、ミネアポリスのストリートを覆った動揺はふくれあがり、ここ数世代で最大かつ最多の抗議行動に至った。多様な文化的背景を持つ、幾万に及ぶ非暴力的なプロテスターたちは、さまざまな都市で「ブラック・ライヴズ・マター[=黒人の命は大切だ、以下BLM]」の声を上げた。このフレーズは、現代の公民権運動のマントラであり、私たちの死に対する人々の無関心な態度に対するスローガンである。
ブラック・ライヴズ・マターの創立者たち、2016年撮影。左からパトリス・カラーズ、アリシア・ガーザ、オパール・トメティ。(Photo by This Page: Jeff Vespa/Getty Images for Glamour)
公民権運動に関わるオーガナイザーであるアリシア・ガーザ、パトリス・カラーズ、オパール・トメティがこの3語を私たちの精神と心に埋め込んだのは7年前のことで、当時彼女たちはこの国を変えようと動き出していた。今日私たちが目にしている、変化を求める広範な呼びかけは突然始まったものではなく、彼女たちのようなアクティヴィストたちの仕事が結実したものだ。彼女たちの成果は私たちにより多くを求める余地を与えてくれた。というのも、単に口に出すだけでは、黒人の命が本当に大切に扱われるようになどならないからだ。
●白人警官による黒人男性暴行死、「息ができない」デモが過激化(写真ギャラリー)
プロテスターたちは素早く、大きな怒りと共に結集した。標的の範囲は有り余るほどだ。過度に軍事化された警察活動、不適切な医療サービス。大量収監、仕事場における偏見。食料不足に住宅問題、南部連合軍を記念するモニュメント、エンタメ業界におけるレイシズム。「黒人の命は大切だ」という声がプロテスターたちや企業の口から響き渡っているなか、この3語が「生存をかけた闘い」ではなく「事実の表明」とされるアメリカを築くためには、何が必要だろうか?
BLMが発足した2013年、その背景
7年前の7月、トレイヴォン・マーティンの殺害に関してジョージ・ジマーマンが無罪となった件にアリシア・ガーザが反応した。彼女は、ネットで広まることになるFacebookへのポストで、自身の痛みを表現してこう綴った。
「黒人の人たちへ。私は、あなたたちを愛しています。私たちを愛しています。私たちの命は大切です。黒人の命は大切です(Our Lives Matter, Black Lives Matter)」
「予想外の反響を呼びました」とガーザは語ってくれた。「私たちは黒人の死を四六時中目にしていましたし、それがどういうわけだったのかわかっていないのですが、帰宅したあと、真夜中に泣きながら目を覚ましたのを覚えています。それで自分の電話を手にとってタイプしはじめたわけです」。ガーザは現在、Black Futures Labの主導者として投票者に働きかけ、黒人国勢調査を制作している。
南カリフォルニアのアクティヴィストでガーザと親しいパトリス・カラーズは、件のポストを見て#blacklivesmatterというハッシュタグを付け加えた。ニューヨーク・シティで移民たちのコミュニティ・オーガナイザーを務めるオパール・トメティがジマーマンの判決を知ったのは、ライアン・クーグラーの映画『フルートベール駅で』の上映会をあとにしたときだった。2009年、警察によるオスカー・グラント3世の射殺事件を描いた作品だ。気持ちがすでに昂ぶっていたなか、トメティは話題となっていたガーザのポストを読んだというのだ。
2013年7月13日、ガーザとカラーズのFacebook投稿。(画像出典元:Elin Jernstroms Webpage)
「あれは衝撃でした」とトメティは語る。「(世間には)多くの怒り、多くの痛み、多くのシニシズムが溢れていました。しかし、彼女のポストは私と共振したのです。その理由はたくさんあります。それがはっきりと黒人の立場からのものであったから、愛に根ざしたメッセージであったから、そしてとても希望に満ちたものに感じられたからだと思います」
翌日までに、トメティは同輩のオーガナイザーであるガーザに連絡をとった。トメティはBlack Organizing for Leadership and Dignity Network(黒人のリーダーシップ開発によって社会変革を促す非営利団体)を通じてガーザを知っていたのだ。トメティはまだカラーズと会ったことはなかったが、すぐにこの3人は協力しあい、ブラック・ライヴズ・マター・グローバル・ネットワークを立ち上げた。
「パトリスと私は、国家による暴力を整理するプロジェクトの立ち上げについて話し始めました」。グローバル・ネットワークの創立について、ガーザはこのように語る。「パトリスは当時、Dignity and Power Now(黒人収監者の尊厳と権利を訴えるLAの団体)という彼女自身の仕事にとりかかっていました。それがちょうど軌道に乗りだしたところだったのです。
本記事が掲載された、米ローリングストーン誌2020年7月号の表紙イラスト(Illustration by Kadir Nelson for Rolling Stone)
ガーザによると、当初BLMは彼女のフルタイムの仕事ではなかったという。しかし、マイケル・ブラウン・ジュニアが警察官のダレン・ウィルソンによって2014年に射殺されると、ミズーリ州ファーガソンへと向けたフリーダム・ライドが行われた。カラーズは、共同オーガナイザーのダーネル・L・ムーアと共に同年9月のガーディアン紙に寄稿し、1960年代初頭に人種隔離政策下のアメリカ南部で行われたフリーダム・ライドの精神(黒人と白人の有志グループが長距離バスに乗り込み、人種による座席の区別に抗った)にならって40人の他人と共にバスに乗り込んだ取り組みを、このように表現した。いわく、それは「反黒人感情の暴力に直面したファーガソンの住民たちと、国中から集まって彼らに加わった私たちとが下した自己決定の具体例」だった。
「私はおそらく、自分たち3人のなかでも『さあ行こう、でっかくなろう、みんなを巻き込もう』みたいな感じの人でした。必ずしも組織の構造について考えてはいなかったのです」。カラーズは今日こう振り返る。「私が主に考えていたのは、人々が参加することができ、そうすることでアイデンティティを感じられるような大衆運動を築くことについて。私が関心を持っていたのは、周縁化され暴力に晒されてきた黒人や貧しい人々に、より多くの可視化の機会をつくることでした。
ガーザはまた、黒人の命は大切だと単に問うことさえアメリカにとっては重荷に過ぎたことも、記憶にとどめている。ジマーマンの無罪判決直後でさえもだ。「政治的な展望から言えば、BLMはまさに暗礁に乗り上げていました」と彼女は語る。「各種の世論調査を見てみてください。おおむねBLMのすべてを物語っています――この運動はまさに人々の気に障ったのです。また、政治的立場から言っても同様で、BLMを州議会に持ち込むことはできなかった。なぜならBLMは人々の頭の中では、たとえばブラックパンサー党と同義語。関わり合いになろうとしなかったのです」
そんな彼らも、いまやこの運動に参加している。フロイドの死の直後、2013年には人種に関する議論に近づこうともしなかった企業が、いまではBLMを口にしている。NFLのコミッショナーであるロジャー・グッデルでさえも心変わりしたのだ。NFLといえば、2016年のシーズン中、クオーターバックのコリン・キャパニックが警察による暴力と制度的レイシズムに抗議して、ひざまずいて非暴力的なプロテストを行った際、彼を追放したリーグだ。これは、広範にわたる白人による懺悔の時間の一部をなすものだ。
BLMがもたらした問題意識の変化
「BLMに関して重要な点のひとつは、それがスローガンになったことです。これは本当に大事なこと」
マーカス・ガーベイ(ジャマイカ出身の黒人運動指導者)からブラックパンサー党員に至るまで、あらゆる人々を記録してきたドキュメンタリー映画監督のスタンリー・ネルソン・ジュニアは、私に運動におけるスローガンの価値について語るなかでこう教えてくれた。「『ブラック・ライヴズ・マター』のサインを掲げる白人をどれだけ見かけます? ひざまずくことや拳を掲げることがシンボルになったのと同じですよ」
6月にニューヨークシティで行われた、兄ジョージの追悼式典に出席するテレンス・フロイド。(Photo by Anthony Geathers for Rolling Stone)
市民はまた、遅ればせながら、警察による人種差別と暴力の現実を認識しつつある。とりわけ、スマートフォンがそれらの証拠を捉え、ソーシャルメディア上で話題になることによってだ。6月10日に行われたギャラップの世論調査に応じた人々の19%は、「人種関係や人種差別」がアメリカの最重要課題であると答えたが、1カ月前にはその数値も4%にすぎなかった。またこれは、(キング牧師が暗殺され、反人種差別運動が激化した)1968年以来、調査において最も高い数値となった。
6月2日のモンマス大学による調査によれば、「アメリカ人の大部分(57%)は、警官が困難な、あるいは危険な状況に陥ったとき」、それが黒人の個人に対する場合だと特に「過度な武力行使を行いがちだと回答した」といい、「対して、警察が同様のタイプで、被疑者が黒人でも白人でも過度な武力行使に訴える可能性は同じくらいだろうと回答したのは3分の1(33%)だった」という。これを2016年の夏、ルイジアナ州バトンルージュのふたりの警官がアルトン・スターリングを射殺したときの同じ調査と比較してみよう。回答者のうち、黒人の個人のほうが他の人々よりも過度な武力行使に遭いやすいとしたのはたったの34%だったのだ。2014年、ニューヨーク市警の警察官がエリック・ガーナーの首を絞めて殺害したときも同様だ。当時、過度な武力行使に人種差別的な傾向があると答えたのはほんの33%、そのうえ58%が武力を用いる際に黒人も平等に扱っていると答えていたのだ。
アメリカを「軍国主義」から立て直すために
しかしながら、調査の結果も企業のプレスリリースも命を救うことはない――また、プロテストもそれだけでは命を救わない。黒人の命を気にかけもしない国を建て直すためには、抜本的かつシステム全体にわたるアメリカの警察活動の改革がなければならない。しかしBLMがメインストリームとなれば、解放運動の要求を高める助けになる。もしアメリカが黒人の命が過度に脅かされていることを認めたら、今度は何が、誰が彼らを脅かしているのかについて語る必要がある。ノースカロライナ州立大学で教鞭をとる歴史家のブレア・L・M・ケリーはこのように語る。
「私たちはいまだ、命が守られるために私たちが経験する必要のある変化から遠ざかったままです。けれども、同時に、(BLMは)何が可能であるかの下限を押し上げてくれました」
フロイドの死以来オーガナイザーたちが掲げた要求を見れば、それは一目瞭然だ。批判者は警察権力の漸進的な改革プランを退け、あざ笑ってきた。しかし、かつてはもっと過激だと見なされた、警察に対して「資金援助停止」し、リソースを他のコミュニティプログラムへ振り替えるといった変化を受け入れるようになったのだ。
「これこそあなたがたが望むものです。自分たちのラディカルな要求を普及させたいのでしょう」とカラーズは語る。彼女は現在、人権団体Reform L.A. Jailsの議長を務めている。
「そうすれば、その要求は実行可能になる。もうあなたのところの現職議員も、監獄への35億ドルもの予算を切るのに怯えることもなくなります。なぜって、他の人もみんな、メンタルヘルスに問題を抱えた何千もの人間を檻のなかに閉じ込めるだなんて、もはや良いアイデアではないと言っているわけですから」
5月30日にシカゴで起きた抗議デモで、プロテスターと警察が衝突。(Photo by Jim Vondruska/NurPhoto via Getty Images)
アトランタのキング・センターのCEOであり、マーティン・ルーサー・キング牧師の娘であるバーニス・キング牧師は、彼女の父親が晩年、軍産複合体からの資金引き上げとコミュニティへの再投資を率直に擁護していたことについて、このように語る。
「私たちの警察がいっそう軍事的になってしまったからには、私たちは資金を振り分け直す必要があります。私たちの社会にとってもっと重要な、教育や健康、そして環境といった社会問題にお金をあてるようにしなければなりません。もっと突き詰めて言うならば、私たちは軍国主義から全面的に資金を引き上げて、私たちすべてをひとつの国家たらしめるイシューに再投資する必要があるのです」
50年前、アメリカは「法と秩序」――つまり法廷、警察、収監――に一時的な財政援助やフードスタンプ、社会保障と同じくらいのお金を費やしていた。しかし、ワシントン・ポスト紙が6月に報じたところによると、これらふたつのあいだの溝は、以来増大してきたのだという。今日、「法と秩序」に費やされる額は、金銭による福祉プログラムの2倍に達している。
それと同じ期間にわたって、アメリカ政府は組織的に黒人コミュニティへの援助を削減してきた。トメティは、レーガンからブッシュ親子、そしてトランプに至るまでの共和党選出の大統領のもとで、公的セーフティネットが削減されてきたことを引き合いに出す。とりわけトランプの大統領としての職務はしばしば、黒人の生存に対する無関心か、むき出しの敵意を明らかにしてきた。環境基準の引き下げから公衆衛生上の危機に対する意図的な失策に至るまで、トランプは有権者から委任された白人ナショナリズムの権能を利用してきた。その権能を彼にもたらしたのは、おそらく1972年のジョージ・ウォレス以来最も人種分断的な選挙キャンペーンだった。トランプは、呼吸器系の疾患をもたらすパンデミックのさなか、ホワイトハウスの外に集まった平和的なプロテスターに催涙ガスを噴射さえしたのだった。
トランプの人種差別的な政策やレトリックに関するあらゆる会話がそうであるように、この問題はトランプに始まることでもないし、トランプで終わりになることでもない。連邦レベルでも地域レベルでも、失敗は彼が当選するずっと前から始まっていたのだ。その失敗のひとつには、警察への金の流れを食い止めるにも身体的な暴力を削減するにも至らなかった生ぬるい改革も含まれる。結果として2015年以降、非武装の容疑者に対する発砲の全体的な割合は低下してきているにも関わらず、未だ警察は非武装の容疑者のうち白人の4倍の確率で黒人を殺害する傾向にある。
ハーバード・ケネディ・スクールの歴史家であるカリル・ギブラン・ムハンマドが、アメリカ人は短期的な改革以上の目標を持つ必要があると述べる理由はここにある。「私たちは、警察活動が削減された世界が実際どのようなものになるかを大きく考え直し、それについて語っていく必要があるのです。それは抽象的な考えではなくて、グリーン・ニューディール(再生可能エネルギーや地球温暖化対策に公共投資することで、経済再生と雇用創出を目指す政策)と関連するものであり、また公衆衛生に関わる労働者に対する投資の必要性に関連するものでもあります。それらはまた、私たちが暴力抑止(violence interruption)を行う助けになるものであるべきだし、公共の安全を維持するコミュニティ主導の取り組みであるべきだし、また警察に頼らなくともよいものであるべきです」
BLMにおけるフェミニズム/インターセクショナリティ
また、ムハンマドによると、私たちが今これらの大きな問いを提起できるのは、ガーザやカラーズ、そしてトメティの尽力のみならず、彼女たちが築き上げたフレームワークのおかげなのだという。BLMはクイア的、フェミニスト的なフレームワークを備えた組織として生まれたが、そのフレームワークはインターセクショナリティ(人種、エスニシティ、ジェンダー、社会階級、セクシュアリティといった差別の軸が交差し、相互に作用することで独特の抑圧が生じている状況)の重要性を掴んだものだった。「パトリスも私も、黒人の自由を求める運動のなかにクイアの黒人女性として参加してきた経験を持っています。そうした運動は実際、私たちのイメージにはそぐわなかった。かなり早い段階でパトリスと私を実際につないだことの一つは、そうした領域をナビゲートしようとすることが何を意味しているか、ということでした」とガーザは語る。
それは特に重要な点だ。なにしろメディアは当時、黒人の死についてストレートの黒人男性/少年にばかりフォーカスを集中させていた。人々は、人種、ジェンダー、そしてさまざまなやり方で割りあてられるアイデンティティのすべてによって抑圧されているのだから、もし黒人の命が本当に重要であるならば、他のすべても同じように尊重されなければならない。トニー・マクデイドやニーナ・ポップといったトランスジェンダーの人々の死が、昨今の悲劇がもたらす混乱のなかに埋もれてしまわなかったことは、この運動の業績である。しかし、そうした可視化が唯一の達成というわけではない。
「現在の状況は、運動を機能させ、運動を築くにあたって、組織化がいかに重要であるかを具体化しています」とムハンマドは語る。「明らかなのは、彼女たちが行ったことが、現在現れつつある、街ごとにいるオーガナイザーたちの全国規模のネットワークを準備する助けとなったことです。オーガナイザーたちは既に危機に足を踏み入れる用意があり、意志があり、その能力もありました。私たちがここで起こっていることを理解するにあたっては、これらの大規模なプロテストの核心が、こうした仕事のすべてがもたらした成果の上にあるという観点が不可欠です」
2014年のファーガソンの騒動で全国的なリーダーとして頭角を現したオーガナイザーのブリタニー・パケット・カニンガムも、アメリカ人は称賛されるべきものを称賛するようになってほしいと考えている。「私がこの6年間にわたって築かれてきたレンズを通して現状を見つめるならば、私が本当に考えるのは、誰もが、つまり今まさに街に繰り出している人々から電話をかけたりEメールを送ったりしている人々に至るまでの誰もが、プロテスターたちに感謝する必要があるということです」と彼女は語る。「プロテスターたち――2014年の、2013年の、90年代、80年代、70年代、60年代の――のおかげです。何世代にもわたる、数百万とは言わずとも数千もの人々の活動の集大成こそが、ついにアメリカをして警察活動というひどく暴力的な制度について考え始めるに至らせたのです」
変化は起きている、しかし戦いは続く
「昨日、私は初めて喜びのあまり泣きました」。トメティは6月はじめのプロテストのあと、私にこう語った。「ニュースが私たちの姿や、警察への資金援助停止を求める私たちのスローガンをはっきりと映し出すところを見て、メッセージが人々に届いたんだと思いたくなりました。なぜなら、ほんとうに長いこと、私たちの声に耳を傾ける人はいなかったのですから。なぜ私たちがTwitterに赴き、Facebookに赴いて、ソーシャルメディアを活用しなければならなかったか。それは私たちの社会が反黒人差別について沈黙していたからです。ソーシャルメディアは、コミュニケーションのための実用的な手段だったのです」
ジョージ・フロイドの死から一夜明けた5月26日、ミネアポリスで抗議活動が巻き起こった。街が嘆き怒るなか、警官との衝突によって数百もの逮捕者が出た。(Photo by Julio Cortez/AP/Shutterstock)
かつてはラディカルすぎて不可能だと思われた変化が、現実味を帯び始めている。ミネアポリス市長のジェイコブ・フレイが警察への資金援助停止を誓約するのを拒んだのは6月初頭のことだ。その後、市議会はミネアポリス市警察を完全に解体し、コミュニティ主導による公共安全の取り組みに投資する計画を発表した。彼らの動向はたしかにこの早い段階で最も踏み込んだものだ。しかし、警察部門への資金援助停止を求める強い機運こそが、暴力の濫用で悪名高い警察隊を抱えるこの市のリーダーを打ち破ったのだ。
警察への出資を1900万ドルまで増やす一方で、若者による暴力を防ぐプログラムなどを打ち切るという計画に固執してきたフィラデルフィア市長のジム・ケニーは、6月頭、件の予算増をとりやめて寄せられた改革案を検討すると表明した。ニューヨーク・シティの市長ビル・デ・ブラジオは、900億ドルに及ぶ市の予算の6%近くを占めるニューヨーク市警察への予算に手を付けないでおこうと試みていたものの、要求に折れて警察への出資削減を約束した。
この動きに加わる市はまだ数えるほどだが、これからも増えていくだろう。もしこの動きが幅広く受け入れられれば、この国の数十年にわたる党派を問わない警察への支出や軍事化への没頭を食い止められるかもしれない。それだけでも、ほんのひと月前には考えられそうになかったことだ。いま、なにかが変わりつつある。
私もそれを実感している。かつて私が最も望んでいたのは、事件後の説明責任が果たされることだった。生活し、生き延びようとする黒人男性としての望みだ。無作為に私を標的にしないような警察官を望むなど、ほとんど高望みに思えた。しかし私は率直でなくてはならない。もしこのBLM運動の時代が私の安全を確保するような類の変化をアメリカにもたらさなかったとしても、私は国からこうした譲歩を求めることを以前よりも不安に思わずに済むようになった。主要な都市のみならず、テキサス、メイン、モンタナなどの白人が優勢の町に集まる群衆の様子から察するに、他の人々も私と同意見らしい。こうした平和的な行進はまるで都市を流れる血流のようだ――街はここ数カ月のパンデミック下で生気を失っていたというのに。これはただの象徴化ではない。動揺させてやらねばならない有力者はまだまだいるのだから、前進を続けなければならない。
BLMの先に広がる未来
私見ながら、BLMの創立者3人は、闘いが激しさを増すにつれ、いっそう力が入ってきてさえいる。カラーズは最近「R法案」をロサンゼルス郡で通過させたところだ。この法案は、保安官部門を市民によって管理することを定め、郡刑務所に収監された人々に対する精神科ケアや薬物療法その他のサービスを改善することにフォーカスしたものだ。「この運動に関わってもう20年になります」と彼女は語る。「いつも私は信じられないくらい楽観的でした――ほとんど欠点みたいなものです。私がここ7年にわたって見てきたものの大部分を占めるのは、インフラやオーガナイジングの力が弱まることはないということです。抵抗が起こり、反乱が起こるとき、組織はとても重要な役割を演じます。私たちが大きく大胆な変化を達成できる好機は存在するのです」
トメティは現在の状況が持つ緊急性と独特な性格を認めている。「現状について考えると、私としては、ここにたどり着くまで私たちは十分な早さで動けていないように感じていました」。彼女が私に語る言葉は苛立って聞こえた。「私たちの仕事は、状況が求めるほどには効果的ではありませんでした。私たちはあらゆる賞を受賞しました。でも私は『ああ神様、もう賞なんかいらない、これが終わってほしいんだよ』という感じで。もう称賛はたくさん。私にとってみれば、そう思うのは常識の範疇です。こんなふうに人々が死に、殺されるのも見たくはないでしょう」
私はそう語るトメティの口調を心に留めた。彼女の声には興奮よりも苛立ちがあった。この7年間は長かったが、この仕事に打ち込むアクティビストたちにとっては想像を絶するほどの長さだったのだ。アメリカにおいて、黒人の痛みはそれが身体的なものであれなんであれ常にはっきり見えていた。身体的であれ感情的であれ、痛みは奴隷にされた私たちの祖先の背中に残るケロイドのごとく突出している。銀板写真に収められている隆起したミミズ腫れは、どこに鞭打たれたかを記憶に留めるものとして彼らが永遠に身にまとうものであった。永久に刻み込まれたこれらの傷痕のごとく、黒人はアメリカという国が抱える致命的な併発症を暴露するために、常に自らの健康をリスクに晒す必要があった。セルマのエドマンド・ペタス橋における血の日曜日事件がなければ、またアラバマ州警察官によるアクティヴィストのジミー・リー・ジャクソンの殺害がなければ、1965年の投票権法の成立に至る道は開かれなかった。次のことはきわめて重要だ。つまり、アメリカの白人はまず黒人の身体に見舞われた暴力を目にし、それから平等に向けて動き出すのだ。事態は2020年になってもまったく変わっていない。
同様に、私たちは白人たちに、私たちの犠牲によって彼らに利益をもたらすこうした構造に対する闘いに加わってもらう必要がある。しかし、私たちを救ってくれと求めるべきではない。白人たちの多くが能動的でコンシャスな役割を引き受けるために踏み出した最初のステップを私は歓迎する。たとえその多くが下手くそで薄っぺらかったとしてもだ。人々は「反レイシズム」が何を意味するか学ぶ必要があった。たとえば何の本を読むべきか、この闘いを助けるためにはどこに送金すればよいか、どこに金を落とすのをやめるのがよいか。そして、政治家にいつもどおりの感受性訓練のセッションとは異なる意味あるアクションを起こさせるためには、プロテストはこれほどの大きさで行われる必要があった。白人たちが黒人の命の尊さを訴え大挙して行進する。すると出し抜けに、政治家たちも仕事を済ませるため重い腰を上げだしたのだ。
6月7日、イタリア・ローマにて撮影。BLM運動はアメリカから世界中に広がっている。(Photo by Alessandra Benedetti - Corbis/Getty Images)
これ以前、黒人たちが多くの場で私たちの生存を懇願し、多くの遺骸を前に祈りを捧げてきたにも関わらず、それでは不十分だった。エリック・ガーナーやエリック・ハリスやジョージ・フロイドやハビエル・アンブラーが警察の拘束に対して「息ができない」と懇願しても、彼らの訴えは無視された。バーニス・キング牧師の父親であるマーティンは、最後のスピーチで「私たちみんながアメリカに言っているのは、『書いたことに忠実たれ』ということです」と述べた。この国の言葉には黒人にとっても何らかの意味があるはずだ。
「ブラック・ライヴズ・マター」という言葉は、この3人のアクティヴィストによって勇敢に提案され、いまや多くの人々が担う言葉である。この言葉は、それを口にすることを選んだ権力あるポジションにつく者の、具体的な行動や政策によって支えられなければならない。NFLのコミッショナーや映画会社の重役、そして政治家たちのことだ。黒人たちが息をすることのできるアメリカを、そうした自分たちの要求を白人たちに承認してもらう必要のないアメリカを築くため、闘いは続く。この国が自らの持つポテンシャルを発揮しそこねていることの責任を取らせるまでは、私たち黒人の命が真に大切に扱われることはない。
フロイドの死に触発された、新しい抗議のアンセム
5月25日にジョージ・フロイドがミネアポリスの警察から殺害された事件を受けて、プロテスト・ソングのストリーミング再生回数が激増している。警察に対する黒人の怒りを表現したN.W.A.「Fuck Tha Police」を筆頭に、パブリック・エネミー「Fight The Power」、ビヨンセ「Freedom」、ケンドリック・ラマー「Alright」、チャイルディッシュ・ガンビーノ「This Is America」などの名曲が再浮上。さらに、アーティストたちは、フロイドの死とその余波に触発された新しい抗議のアンセムに、彼らの怒りと悲しみを注ぎ込んでいる。ここでは事件直後に発表された、注目すべき10曲を紹介しよう。
「FTP」 YG
「The Bigger Picture」 リル・ベイビー
「ROCKSTAR (BLM REMIX)」
ダ・ベイビー feat. ロディ・リッチ
「I Cant Breathe」 H.E.R.
「2020 Riots: How Many Times」
トレイ・ソングス
「Pig Feet」 テラス・マーティン、デンゼル・カリー、カマシ・ワシントン、G・ペリコ(写真)
「Front Lines」 コンウェイ・ザ・マシーン
「Get Up」T-ペイン
「Perfect Way To Die」 アリシア・キーズ
「I Just Wanna Live」 キードロン・ブライアント
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