1981年以降、スレイヤーが奏でる危険なほど高速なテンポと切れ味鋭いリフが、スラッシュメタルとスピードメタルの基準を決めてきた。
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『血の王朝』でスレイヤーは、メタリカ、メガデス、アンスラックスとともにスラッシュメタル四天王の座を得た。そしてこのアプローチは、破滅度が増した1988年の『サウス・オブ・ヘヴン』、聞きやすくなった1990年の『シーズンズ・イン・ジ・アビス』、さらにその後も採用され続けた。
長年に渡ってスレイヤーのサウンド作りの中心人物だったキングは、メガデス、ビースティ・ボーイズ、パンテラ、ロブ・ゾンビ、マリリン・マンソンなどとの共演やレコーディングを経験している。私たちは経験豊富な彼にお気に入りのメタル・アルバム10枚を聞いてみた。「スレイヤーのアルバムを1枚入れようと思ったんだ」とキング。「たぶん『血の王朝』あたりが良いと思ったのだが、これを入れると他のバンドの好きな作品を一つ入れられないことに気付いた。だから入れなかったのさ」。
では、ここから彼が選んだ10枚を、選んだ理由のコメントとともにアルファベット順に紹介しよう。
●【リスト一覧】スレイヤーのケリー・キングが選ぶ、不滅のメタル・アルバム10作
AC/DC『地獄のハイウェイ』(原題:Highway to Hell、1979年)
今回選んだ作品は多岐に渡っている。
ブラック・サバス『サボタージュ』(1975年)
『サボタージュ』はとてもヘヴィな作品だ。良い点も相当ある。
エクソダス『Bonded by Blood』(1985年)
今回このリストを作るときに自分のレコード・コレクションに目を通していて、「そうだ、エクソダスだ」と思った。今後の人生でずっと聞き続けるエクソダスの作品を1枚選ぶなら『Bonded by Blood』だな。「Shovel Headed Kill Machine」と「The Atrocity Exhibition」が大好きなんだが、この『Bonded by Blood』は全部の曲が本当にいい。「Strike of the Beast」はエクソダスの楽曲の中でも特に気に入っている1曲だ。本当に好きだから、あるツアーでこの曲をプレイしたこともある。
1985年にエクソダスとヴェノムと一緒にアルティメット・リヴェンジをやった。
『Bonded by Blood』には「Piranha」「Bonded by Blood」「And Then There Were None」のように最高の曲が目白押しだ。全部が成功した曲で、スキップしてしまう曲はゼロ。このアルバムは最初から最後まで聴き通すタイプの作品だよ。
アイアン・メイデン『魔力の刻印』(原題:The Number Of The Beast、1982年)
アイアン・メイデンのアルバムを選ぶのに苦労したよ。だって最初の3枚は同じくらい気に入っていて優劣つけがたい。『魔力の刻印』にした理由は、これがブルース(・ディッキンソン)の最初のレコードで、至るところでみんなのド肝を踏み潰しているからだ。ブルースは彼が感じたアイアン・メイデン的なものを全部ぶっ壊したんだ。
(オリジナル・ヴォーカリストの)ポール・ディアノも好きだった。彼がいた頃の音楽はパンク要素が強かったし、俺はそれも気に入っていたよ。でもアイアン・メイデンをメタルの帝王にしたのはブルースだ。ポールが抜けてからパンク的な要素を少し削ったのかもしれない。だって『魔力の刻印』はメタル寄りのアルバムだから。でも、そういう変化をもたらしたのがブルースだと俺は思う。この作品はヘヴィメタルと呼べるからね。
このアルバムの楽曲はよくカバーしたものだ。「アカシア・アヴェニュー22」なんかをやったよ。「審判の日」にもちょこっと手を出したけど、これは俺たちがライブでプレイしたい曲じゃなかった。
俺は「侵略者」が好きだった。誰かから(ベーシストの)スティーヴ・ハリスがこの曲を毛嫌いしているって聞いたことがあるよ。でも、俺もそれは理解できる。だってスレイヤーでも「ああ、もう、この曲、ウザい」となるものが数曲あるからね。「デザイア」なんて嫌悪しているし、「クレンズ・ザ・ソウル」も大嫌いだ。でも「侵略者」を聞いたとき、「うわっ、この『侵略者』っていいな」となった。そして、スティーヴが毛嫌いしている理由を考えてみた。でも、理由が思いつかなくてね。たぶん、彼はこの曲に近すぎるんだと思う。俺もスレイヤーの曲に近いだろ。
ジューダス・プリースト『ステンド・クラス』(1978年)
俺が思うに、この作品はジューダス・プリースト史上最も完成度の高い作品だ。特に「ステンド・クラス」のイントロが大好きで、ロブ・ハルフォードはいつも変わらずお気に入りのシンガーだ。その次に好きなのがロニー・ジェイムス・ディオとブルース・ディッキンソンの順で、この3人の間にほとんど差はない。初期のレコードにも後期のレコードにもリフがたくさんあるが、彼らがその先に花開く「プリースト・サウンド」の種を見つけたのが、この『ステンド・クラス』で間違いないだろう。彼らのサウンドは少しずつ進化し続けたが、このアルバムのサウンドが『背信の門』や『運命の翼』よりも明らかにその後のプリーストらしい。この作品のサウンドには、それ以前よりも一体感があるように思える。
スレイヤーでは(『背信の門』収録の)「異端からの反撃」をカバーしたけど、その理由はこの曲が超ヘヴィなのにかなり曖昧だから。俺たちがカバーしたあと、この曲がスレイヤーの曲だと思っていた人がたくさんいた。でも、プリーストがプレイしたこの曲はギターが2本で、俺たちのよりも若干クリーンだった。それが『レイン・イン・ブラッド』でスレイヤーのサウンドの未来が決まったきっかけかもしれない。俺たちはあれ以来、基本的には同じサウンドだからな。
マーシフル・フェイト『Melissa』(1983年)
マーシフル・フェイトを忘れるところだった。レコード・コレクションを堀りながら「そうだよ、マーシフル・フェイトがいるじゃないか」ってなったよ。彼らのアルバム『Melissa』は彼らが自分たちのサウンドを見つけた作品だ。そして、彼らが今でも活動していたら、きっと同じサウンドだっただろう。ソングライティングも素晴らしい。マイケル・デナーとハンク・シャーマンのギター・デュオも大好きだね。それにキング・ダイアモンドの歌い方は完全に彼独自のもので、好き嫌いが分かれるヴォーカルだ。『Melissa』に欠点を見つけられる人なんてほとんどいないだろう。これはとても上手く作られた作品だからね。
(スレイヤーの)『ヘル・アウェイツ』がマーシフル・フェイトから影響を受けているのは明らかだ。それこそ、尺長の曲と1万回リフが変わるのでわかる。これは確実にマーシフル・フェイトからの影響だった。これと同じのが『Melissa』の「Into the Coven」と「Melissa」のイントロに入っているんだ。特に「Melissa」は聞くたびに、この曲が本当に悲しい曲なものだから、丸1日ずっと頭の中に残ってしまう。ずっと頭の中で歌ってしまうんだ。
実は、2015年にメイヘム・フェストでキング・ダイアモンドと一緒にステージに立って「Evil」を、そうだな、8公演くらいプレイした。あれは俺にとっては最高なんてもんじゃない喜びで、キングにとっても同じだった。あの状況に自分がいたってことが今でも考えられない。「あのキング・ダイアモンドだぜ。なんで俺が一緒にプレイしなきゃダメなんだ?」ってね。でもキングは一緒にやりたがった。10代の頃の俺に誰かが「お前、将来キング・ダイアモンドと一緒にマーシフル・フェイトの曲を演奏するぞ」と言っても、俺は「そんな嘘は言うんじゃねぇ」ってなるに違いない。『Melissa』の発売が(スレイヤーの)『ショー・ノー・マーシー』と同じ年だけど、彼らはその前から存在していた。俺は『Merciful Fate』というEPも持っている。俺にとって彼らは自分たちよりも大きな存在だったのさ。それに当時の俺はまだ10代で、影響を受けやすい年頃だった。ヒーローにどっぷり浸かるなんざ朝飯前だったよ。
メタリカ『メタル・マスター』(原題:Master of Puppets、1986年)
メタリカのレコードをこのリストに入れるかどうか決めかねていたが、入れたとは言え、「とりあえず入れてみた」というわけでもない。メタリカは素晴らしいバンドだし、このリストに入るべきバンドだと思う。だから「例えばワークアウトするときに聞くならどのアルバムだろうか?」と考えた。答えは『メタル・マスター』。このアルバムにはお気に入りメタリカ・チューンの上位に入る曲が多く収録されている。というか、俺が一番好きなメタリカの曲が「ダメージ・インク」なんだ。彼らが作った曲で一番良い曲だ。それもハードコア・スラッシュ系のガキが作った曲なんだから、それだけでもこのリストに入れる正当性があると思う。
メタリカの音楽をスラッシュと思う人がいるかわからないが、彼らはスラッシュをやっていた時期があるし、スラッシュ・バンドとしてしばらく活動していた。俺たちよりも連中の方がバンドとしてしっかりしていたよ。オレンジ・カウンティで初期の彼らを見た記憶がある。ウッドストックという俺たちがよく行っていた場所だ。俺とジェフはウッドストックによく顔を出して、有望な若手バンドや新しい音楽をチェックしていたんだ。メタリカの噂はもう聞いていて、行ったときに至近距離で彼らのプレイを見た。俺が覚えていることは、 デイヴ・ムステインがとんでもなくクレージーなソロの数々をプレイしていたことと、一度も手もとを見ないでプレイしていたこと。俺は「この男、マジでヤバい。最高だし、かなりの才能だ」と思った。しかし、残念なことに彼の悪癖とメンバーとの確執が原因で、彼は他の道に進まざるを得なかった。
とは言え、『メタル・マスター』には最高の音楽とプレイがある。俺のお気に入りは「バッテリー」と「メタル・マスター」だ。ただ、これは俺にとっては少し尺長だ。ほら、スレイヤーは尺長の曲を作らないだろう。長い曲だと俺が飽きるからなのさ。でもメタリカの『メタル・マスター』には値千金の最高の曲が収録されているね。
オジー・オズボーン『ダイアリー・オブ・ア・マッドマン』(1981年)
『ブリザード・オブ・オズ~血塗られた英雄伝説』にするか『ダイアリー・オブ・ア・マッドマン』にするかで迷いに迷った。それに、俺としては(ギタリストの)ザック・ワイルドが弾いている作品ならどれでも良かった。彼はスーパースターだから。オジーの最初のソロ・アルバム(『ブリザード・オブ・オズ~』)も最高だった。あれで初めて(ギタリストの)ランディ・ローズを知ったからね。でも『ダイアリー・オブ・ア・マッドマン』はキーボードがそれほど影響していない感じがした。オープニングの「オーヴァー・ザ・マウンテン」からヘヴィさ全開に聞こえた。この曲は半端なくヘヴィだよ。この曲を初めて聞いたとき、「こりゃあカッコいいぞ」と思った。それに「ダイアリー・オブ・マッドマン」のイントロなんてめちゃくちゃ不気味だ。忘れられなくなってしまう。そして「ビリーヴァー」。まったく、なんて素晴らしい曲なんだよ。
俺はランディが最後に出演した大晦日のライブで彼の演奏を見ることができた。たぶんロングビーチだったと思う。最高だった。あの夜、今後20年経っても30年経っても彼を見るたびに驚くプレイだと思ったけど、残念ながらそうならなかった。あの日、最終的に行くことにして良かったと思う。だってランディのプレイを生で見た人なんて多くはないんだから。彼は簡単に弾いているように見えた。見ているだけで、彼が天賦の才能に恵まれたギタリストだってわかったよ。難しいプレイも簡単に見えるんだからね。
レインボー『バビロンの城門』(原題:Long Live Rock n Roll、1978年)
ロニー・ジェイムス・ディオは本当に素晴らしいシンガーだ(本当は”だった”と過去形にしなきゃいけないのが辛い)。レインボー時代の彼を見たことは一度もないが、ブラック・サバスにいたときに見た彼は、天賦の才能に恵まれたシンガーだった。ライブなのにレコードを聞いているようだった。それくらい上手かったんだ。最近、リッチー・ブラックモアが俺の中で大復活しているんだが、彼は素晴らしい曲を作っているのに過小評価されている。俺は『虹を翔る覇者』も「スターゲイザー」も気に入っているが、『バビロンの城門』は衝撃度が最も強いと思う。曲が変わるたびにガツンと頭を打たれる衝撃を感じるんだよ。最高の楽曲が収録されているし、ヤバいほどヘヴィだ。
収録曲は6曲か7曲で、俺が聞かない唯一の曲が最後のやつ。「キル・ザ・キング」「ロング・リヴ・ロックンロール」「ザ・シェッド」「バビロンの城門」……まったく、これなんて史上最強にクールな曲だ。
ブラックモアに関して言うと、俺はディープ・パープルが大好きだし、ディオが抜ける前のレインボーが大のお気に入りだ。ディオが抜けたあと、彼はグラハム・ボネット、ジョー・リン・ターナーと一緒にポップ路線に行こうとした。好きな曲もあるが、俺が好きなレインボーじゃなくなっていた。彼がディープ・パープルで達成したことがスラッシュに影響を与えたと評価しているよ。だから、ディープ・パープルのアルバムをこのリストから外すことは辛かった。もし入れるとしたら『マシン・ヘッド』だ。「ハイウェイ・スター」のリッチーはサバスよりも高速リズムを弾くことに夢中みたいだから。サバスが速くなるには相当な時間がかかったと思う。サバスのスピードが上がったのは、ディオがいた時期の「Neon Knights」あたりじゃないかな。この曲はトラッシュっぽいって思う。でもブラックモアはそれよりもずっと前に高速プレイに目覚めていた。スレイヤーは「ハイウェイ・スター」をカバーしたよ。過去の偉大な曲でほとんどの公演でプレイしたのは「ハイウェイ・スター」だけのはず。それくらい素晴らしい曲だよ。
でもブラックモアのアルバムを選ぶなら『バビロンの城門』。その理由は、ほぼ全曲が良い出来だからだ。
ヴェノム『Black Metal』(1982年)
80年代は音楽を見つける作業が今とは全く違っていた。メタル・フォースやケラング!といったメタル雑誌が、アメリカに届くまで待たなくちゃいけなかったんだ。そして、到着した輸入雑誌を見てやっと、アメリカでは扱われないバンドの情報を手に入れることができた。今ではインターネットを使えば世界中に情報が落ちている。とにかく、当時は近くにある家族経営の小規模レコード店に通うことが非常に重要だった。メタル雑誌がその店に並ぶと、すぐさま買って読み漁ったものだ。ヴェノムは、雑誌にの載った写真が「こりゃ最高だ」と思った。今では彼らの写真を見ると安っぽくて笑っちゃうのだが、多感な10代の俺は「この連中、イカしてる」って思ったね。
初期のスレイヤーはヴェノムに似ていた。俺たちは影響を受けやすかったし、自分探しの真っ最中だったし、たぶん俺たちはヴェノムとマーシフル・フェイトを足して2で割ったようなもので、そこにプリースト風味が少し、パンクが少しって感じだったと思う。俺たちの出発点がそれなのさ。
『Black Metal』を選んだ理由は、ヴェノムは活動を続けるごとに良くなったと思うからだ。史上最高のクソバンドが彼らだ。でも、『Black Metal』では彼らが良くなっているのがわかる。それに良い曲もある。確か、彼らはアルバムとアルバムの間にEPを出していた記憶があるんだが、「Bloodlust」はもともとEPに入っていたはずだ。今のリマスター版『Black Metal』には「Bloodlust」が収録されているし、この曲の出来が良くなっている。ヘヴィになっているんだ。みんなが彼らの音楽を……まあ、俺は彼らの音楽をスラッシュとは呼ばないけど、確実に高速メタルだと言える。あれ、違う、「黒いメタル」だ。彼らはあの頃、新語を作っていたようだ。
From Rolling Stone US.
【レジェンドが選ぶ「史上最高のメタル・アルバム」】
①オジー・オズボーンが選ぶ、究極のメタル/ハードロック・アルバム10作
②ジューダス・プリーストのロブ・ハルフォードが選ぶ、至高のメタル・アルバム10作
③メタリカのラーズ・ウルリッヒが選ぶ、最強のメタル/ハードロック・アルバム15作
④スレイヤーのケリー・キングが選ぶ、不滅のメタル・アルバム10作