Y世代(80年代序盤から90年代中盤までに生まれた世代)にとって、ヒルトン一族といえば「生まれながらの有名人」で、パパラッチのカメラの前でポーズをとったりベロベロに酔いつぶれてNYのクラブ「Bungalow 8」から出てくる以外に能がない、つぶらな瞳のおてんばご令嬢という定着したイメージがある。
だがZ世代(90年代中盤以降に生まれた世代)にとって、パリス・ヒルトンは時代の象徴だ。自力で財を成したビジネスウーマンの先駆けであり(フレグランスをはじめとする彼女のブランド商品の時価総額は数十億ドル)、InstagramやTikTok動画でひっきりなしにもてはやされる2000年代初期の美的感覚――セクシーなドレスやラインストーンを埋め込んだチョーカー、フィンガーレスグローブなど――を生んだファッション・アイコンであり、音楽界で活躍する(おそらくは過少評価されている)アーティストでもある。そして何より、カイリー・ジェンナーやヘイリー・ボールドウィンのはるか以前にさかのぼる元祖インフルエンサーで、幅広いコネと親の七光りで巨大な地位を築いているその他ハリウッドの若い女性の先駆者だ。
アレクサンドラ・ディーン監督によるYouTubeオリジナルのドキュメンタリー映画『This Is Paris』が描こうとしているのは、Z世代のパリス・ヒルトンだ。リアリティ番組『シンプル・ライフ』での迷言や、コーチェラ・フェスで報じられたパンツ丸見えスタイルを世間が笑いものにする中、ひそかに数十億ドルの帝国を築き上げた叩き上げの女性、駆け出しの起業家、#girlbossとして。また虐待経験者として、女性活動家としての新たな立ち位置を提示することで、今までとは違うヒルトンのイメージを打ち出そうとしている。
過去の問題発言は取り上げられていない
『This Is Paris』は、1990年代から2000年初期にかけて世間からレッテルを張られた人物、とりわけ女性たちに新たな光を当てる流れの最新の例だ。アニタ・ヒル、ロレーナ・ボビット、トーニャ・ハーディングといった女性たちに対する見方を変え、それがいかに女性蔑視の影響を受けていたかを認識し、新たな理解と同情をオーディエンスに求めるのがねらいだ。だが彼女たちとは違って、ヒルトンは社会から疎外されているわけではない。彼女は富と美貌ゆえに成功を収めた、美しい裕福な白人女性なのだ。
本作品ではこの事実が深く掘り下げられていない。
カメラの前でNワードを発するなど、人種差別的な過去にも触れていない。飲酒による危険運転で収監された際も、凡人ならもっと長い刑を務めることになるところを、たくみに特権を利用して早々と釈放されたことにも言及していない(ちなみに、映画のプロデューサー陣にヒルトンの名前があることは指摘しておくきだろう)。
セックスビデオの流出はさながら「デジタルレイプ」
たしかに、全盛期のころのヒルトンはマスコミからひどい扱いを受けていた。本人の同意なく公開されたセックスビデオに対する報道は、過剰なまでに道徳観を振りかざし、女性蔑視丸出しだったという『This Is Paris』の指摘は正しい。「まるで私が何か悪いことをしたみたいに、悪者扱いされたわ」。ヒルトンは感情をあらわにしながら当時のマスコミ報道についてこう語り、セックスビデオの流出はさながら「デジタルレイプ」だったと語った。
ヒルトンの家族や友人も、マスコミが彼女をバカなブロンド娘として打ち出したことに不快感を示した。本人が言うには、『シンプル・ライフ』放映中はそれを逆手に取っていたそうだが。確かに、ヒルトンは賢くないわけではない。実際の彼女は、絵にかいたように自分のことにしか興味がないのだ。人生の目標について、お金を稼ぐこと、それ以外は興味がないと公言してはばからない。
そして『This Is Paris』の倫理的テーマであり、争点でもある虐待疑惑が登場する。ざっくりいきさつを説明するとこうだ。娘の破天荒なパーティ癖をなんとかしようと思った両親が、彼女をいくつかの上流階級向け寄宿学校や更生プログラムに送り出す。そのうちのひとつがユタ州のプロボキャニオン・スクールだった。本人の話によれば、夜中にいきなりベッドから叩き起こされて学校に連れていかれ、そこで殴られた後、20時間も独房に入れられたうえに、わけのわからない薬を飲まされたという。
この件についてプロボキャニオン・スクールはWEBサイトに声明を掲載し、2000年に所有権の売却が行われたため、「売却以前の学校運営や患者の生活についてはコメントいたしかねます。当校では感情・行動・精神面で特別な支援、場合によっては複合的な支援を必要とする若者に、高水準な治療を提供することに努めております」と述べている。
パリス・ヒルトンは時代が求めるフェミニストか?
ドキュメンタリーの中でこうした出来事を語る際、ヒルトンは動揺の色を隠せない。今でも夢に見るそうだ。ドキュメンタリーの終盤では、彼女が立ち上げた反虐待キャンペーン#BreakCodeSilenceに賛同するプロボ校の卒業生と対面。
「今の地位を築くまでものすごく苦労したわ。今の完璧で、ハッピーな人生があるのもそのおかげよ」と彼女は言う。「(虐待の)事件は、今の地位とはまったく関係ない」。もう少し虐待の話を掘り下げ、彼女の地位を控え目に描いていれば良い作品になっていただろう。海に面したミコノス島のインフィニティプールに身を浮かべ、無償提供されたデザイナーブランドの服を物色し、国際線のフライトに乗る時しかガウンは着ないの、と茶目っ気たっぷりに語る現在のヒルトンを描くのではなく。
現代の女性蔑視的文化は、虐待被害者に被害者「らしく」ふるまうことを要求する。ヒルトンはそうした部類に当てはまらないし、そうする必要もない。だが『This Is Paris』は皮肉にも、ヒルトンが本格的に活動家として自分を再構築したのは過去のトラウマがバネになっている、と言わんばかりだ。彼女がそうした役回りに最適かどうかは別として。
Nasty Galのソフィア・アモローソやキム・カーダシアンをはじめとするセレブリティが経済的成功を収め、ミレニアム世代の独立女性の代表格としてメディアから称賛を浴びる中、#girlbossや叩き上げの女性起業家の原型ともいえる彼女も近年再び注目を集めている。
#girlbossフェミニズムの主張は、蓄積された富が女性の手にわたることをもってフェミニズムの勝利としているように見える。女性参政権運動も、1970年代の女性解放運動も、性的暴力の撲滅を訴えるTake Back the Night抗議集会も、最終的には自分の度量を世に示すための戦いだったのだ、と。
『This Is Paris』は公開後、タブロイド紙をにぎわせるバカなブロンド娘ではなく、不当な扱いを受けた博愛主義者兼ビジネスウーマンがトラウマを乗り越えて、代弁者へと転身するという、真のパリス・ヒルトンを包み隠さず描いたとして絶賛された。だが実際のところは、#girlbossフェミニズムを神格化し、女性の自立性が人格や困難への耐性ではなく、高い自意識と逆手に取る手腕で判断されたらどうなるかを示した作品だ。
X世代のパリス・ヒルトンも、Z世代のパリス・ヒルトンも間違いだと『This Is Paris』は告げる。彼女はおバカなブロンド娘でも、女性の自己改革の代表格でもない。痛ましいトラウマを負った女性であり、かつ多額のお金を操ってもっと稼ぎたいと願う一人の女性なのだ。おそらく、どちらの顔も真実なのだろう。
She needed a Hero, so she became one. #BreakingCodeSilence pic.twitter.com/zr3hhDBlht— Paris Hilton (@ParisHilton) September 16, 2020
(Twitter)
パリス・ヒルトンのツイート
”ヒーローを求めていた彼女は、自分でヒーローになっちゃった。
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