めまぐるしく変化する音楽業界を牽引する人々の舞台裏に迫るローリングストーン誌の連載、At Work(アット・ワーク)。さまざまな職種や新しいアイデアの紹介、さらには新規参入者へのアドバイスをはじめ、音楽業界に関する多種多様なテーマを探求する。
2020年が例年どおりの年であれば、ステファニー・ラフェーラ氏はその場の雰囲気を楽しみながら、明け方までダンスイベント漬けの日々を送るはずだった。「クラブイベントに参加するアーティストたちは、私のママ友たちにはとても想像できないくらい長い時間を会場で過ごします」と音楽エグゼクティブであり、長年のEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)ファンでもあるラフェーラ氏は本誌に語った。「冗談のつもりで、私をダンスフロアにひきずっていってと言っています」。
EDMアーティストのマネジメントを行うLittle Empire Musicの創設者・元CEOのラフェーラ氏は、米大手タレントエージェンシーのウィリアム・モリス・エンデヴァー(以下WME)のEDM部門の責任者として今年の3月からカルヴィン・ハリスやスティーヴ・アオキなどの著名なEDMアーティストと仕事をしている。以前は、ギャランティスやCID(シド)といった大物EDMアーティストのマネジメントを行なっていた。ラフェーラ氏は、EDMのストリーミングへのシフトを手助けしたこと、ポスト・コロナ時代のEDMイベント、エレクトロニックミュージック愛が仕事におよぼす影響などについて本誌に語ってくれた。
ー普段の生活はどのように始まりますか?
2歳の子どもの機嫌次第ですね。朝5時~6時15分のあいだに起床するので、7時頃には仕事に取り掛かれます。シドニー、ロンドン、ニューヨーク、ロサンゼルスに私のチームがいるんです。
ほぼ毎朝、朝食をとりながらRadio 1(訳注:ポップスや最新ヒットチャートを専門とする英BBCのラジオ局)を聴いています。
ーお子さんたちもEDM好きですか?
大大大好きですよ。子どもたちは、ダンスが好きなんです。6歳の娘は、初めて大ファンになったポップスターのデュア・リパにどハマりしていますが、私は別に気にしていません。だって彼女は最高ですから。
ー3月初頭にWMEのEDM部門の責任者に就任されました。ということは、外出禁止期間と在職期間がほぼ重なっていたわけですね。ご自身の業務への影響は?
会社側は、私が週明けから出勤すると発表し、火曜日と水曜日はいくつかの会議のために出社しました。私が出席した最初の会議では、世界中のパンデミック状況とアメリカで起こり得る事態について話し合いが行われました。木曜日には、オフィス全体が閉鎖されました。そのため、まだオフィスで仕事したことがないんです。いまは、完全にバーチャルで仕事をしていて、これは刺激的な体験でもあります。画面越しで仲間意識を育むのはチャレンジではありましたが、とても興味深いプロセスでした。
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ー着任直後は、ライブエンターテイメントにとっては盛況な年になるだろうという雰囲気が漂っていましたが、その勢いはすぐに途絶えてしまいましたね。どのようにして方向転換をしたのですか?
私がやろうと思っていた多くのことは、いまも実践できています。採用された際に会社側から私に与えられたミッションのひとつは、グローバルチームの結束と既存の中心的なチームを強化することでした。当然ながら、どの会社もディスラプション(創造的破壊)を経験していますが、私たちが顧客のために現在行っていることは、本当に素晴らしいものです。私たちは、顧客と彼らのチームがライブストリーミングの真意を理解し、推進できるよう、バーチャル面での露出度をサポートする部門へと方向転換しています。重要なのは、迅速に考えて行動し、チームメンバーを動員し、先の見えない時代に顧客とマネジメントチームを支えることです。
ーEDMアーティストやDJは、真っ先にライブストリーミングを実施した印象があるのですが、それはなぜでしょう?
EDMコミュニティは、当時すでに(ライブストリーミングを)実践していました。だからこそ、ここまで自然に感じられるのです。ライブストリーミングに全力で取り組むのは、私たちのアーティストにとってごく自然なことなのです。彼らは、日頃からTwitch(訳注:Amazonが提供しているライブストリーミング・プラットフォーム)で配信していましたから。私たちにとって重要なのは、アーティストのニーズと彼らが欲しているものを理解することです。
ーEDMイベントの再開は、ロックやヒップホップといったほかの音楽ジャンルと比べてより困難だと思いますか?
フェスかイベントかに限らず、ナイトクラブなどを営む事業者たちに話を聞くと、ちょっとした差はあります。私は読心術者ではありませんが、ライブ会場で行われるチケット制のイベントのほうが、完全にオープンなダンスフロアが特徴のナイトクラブと比べてソーシャルディスタンスなどの措置を取り入れやすいと思います。
EDMにとってのメリットは、私たちが抱えるアーティストが車や飛行機での移動により積極的だということです。ギターテクニシャンを雇う必要もありませんし、クルーを集めて移動する必要もありません。ゴーサインさえ出れば、私たちのほうが早くスタートを切れるのです。
ー若い頃からレイブやEDMイベントに足を運ばれたそうですが、現場で働くことで見方は変わりましたか?
13歳の頃から音楽を聴き、愛してきました。幕を開けて、その後ろにあるものを見たからと言って、自分が変わったとは思っていません。ダンスフロアにいるときの感覚はいまも大好きです。まるでひとつの大きなグループにハグされているような気分です。音楽とオーディエンスが与えてくれるエネルギーと一体感が心に響くんです。
ーパンデミック前は、相変わらず深夜のイベントにも参加されていたのですか?
転職前は、ギャランティスのツアーが終盤に差し掛かっていて、かなり遅い時間までライブがありました。でも、別に構いませんでした。私にとってライブはオマケのようなものですから。ライブは、エネルギーと興奮を感じるためにあるんです。いまはそれが叶わないのは、ライブエンターテイメント業界で働くすべての人の課題です。でも、6歳の娘と『トゥモローランド』を観ながらキッチンの周りを飛んだり跳ねたりし、その場の雰囲気を楽しもうともしました。
ー若い頃にEDMカルチャーを経験しなかった音楽エグゼクティブにもこのビジネスは可能だと思いますか?
いつも言うのですが、これは生まれつきのもので、取り払うことはできません。私たちが「EDMブーム」と呼んでいる、ラスベガスでのビジネスの全盛期、EDCラスベガスの開催、北米中の人たちがEDMに熱狂した頃のEDM関係者は、本当の意味でEDMとの文化的な結びつきを感じていませんでした。ダンスミュージック業界には誰もが参入する余地はありますが、EDMを愛し、EDMに人生を捧げる中心となる集団は変わらないと思います。私は、大金が稼げるから、あるいは企業とのビッグなビジネスをしている人たちを見てこの業界に足を踏み入れたわけではありません。ただ、心底ダンスミュージックが好きだったからです。その気持ちはずっと変わらないと思います。WMEのアシスタントにも「どのアーティストが好き?」と訊いています。誰がEDM熱狂的なファンで、どんなアーティストを聴いているかを知りたいんです。それがEDMでなくても構いません。とにかく、あなたは誰にハマってるの? 音楽好きではないなら、それはまた別の話になってしまいますね。
ーイベントの規模はますます大きくなり、企業という要素も加わるようになりました。でも、EDMの独壇場とまではいかないようです。
なぜそうかははっきり言えないのですが、パーティが夜7時に始まり、朝6時に終わるとしたら、大人数のグループを排除する可能性が高いです。開催が深夜というだけで、夜8時に始まって夜11時に終わり、夜中には寝られるようなコンサートが好きな人たちには敬遠されるかもしれません。なかには、この時間帯にEDMライブやフェスが行われる場合もあります。でも、そうしたイベントに参加するアーティストの多くは、イベントが終わっても朝4時まで演奏を続けるでしょう。そのほうが楽しいからです。
ー音楽エグゼクティブとして、いままでに得た最良のアドバイスは?
背水の陣を敷いてはいけない。アシスタントであれ、インターンであれ、社長であれ、すべての人に敬意を表しなさい。かなり若い頃にこうしたことを教わりました。とても役に立っています。私は、可能な限りの品位を持ってこの業界を歩んでいきたいです。アーティストたちのために最高の取引を行い、この仕事においてナンバー1になりたいです。それと同時に、人々に対して謙虚さと優しさも見せたいですね。これは、いつも心がけてきたことです。

連載:AT WORK
音楽業界を牽引する人々の舞台裏に迫る、米ローリングストーン誌の連載「At Work(アット・ワーク)」
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