南米の名匠であるパブロ·ラライン監督が、チリを舞台に音楽、映像に力を入れた話題の衝撃作『エマ、愛の罠』が10月2日(金)より公開される。新時代のヒロインとも言える、若きダンサーのエマが繰り広げるセンセーショナルな作品を生み出した、パブロ監督に話を訊いた。
ナタリー・ポートマンが、ジョン・F・ケネテディ大統領夫人のジャクリーン・ケネディを演じた『ジャッキー/ファーストレディ最後の使命』で、初めて英語作品に挑戦し、アカデミー賞3部門にノミネートされ反響を呼んだ南米チリを代表する監督、パブロ·ラライン。歴史を題材にした、いわゆる”過去の解剖”というべき作品を得意とする彼が「今作は”現在の証言”」と話す今作は、初めて”現在”のチリを舞台に制作し、自身と異なる世代を描いたものだ。
主人公は、若いダンサーのエマ。とある事件がきっかけで、ガエル・ガルシア・ベルナル演じる振付師の夫との結婚生活が破綻してしまう。愛も仕事もすべてを失い、絶望のどん底に突き落とされたエマは、中年の女性弁護士、消防士の男性、そして未練を引きずる別居中の夫までもを挑発し始める。3人の男女を手玉に取り、妖しい魅力で虜にしていくエマの真意は何なのか――。
Photo by Fabula, Santiago de Chile, 2019
女性に対する抑圧的な風習が残る南米社会に一石を投じるように、監督が創造した”エマ”というヒロインは、ジェンダーレスなルックスのみならず、この世の常識やモラルのボーダーさえも軽々と踏み越えていく、型破りなキャラクターだ。
エマを演じたのは、これが映画初主演となった女優のマリアーナ・ディ・ジローラモ。監督は、彼女の写真を新聞で見つけ、本人に連絡を取って、カフェで話し始めて10分後には、この映画の主演をオファーしていたと語る。「マリアーナが演じたことで、エマのキャラクターに強い力が与えられたと思う。彼女が原動力になって、この作品が持つポップパンク・カルチャー的な興奮を観客に伝え、驚くほど魅惑的で挑戦的な未知の世界へと導いてくれたよ」と、話している。
Photo by Fabula, Santiago de Chile, 2019
本作の魅力は、映像美とともに、注目すべきはニューヨーク出身チリ育ちのエレクトロ・ミュージック界の鬼才ニコラス・ジャーが奏でる音楽だ。
―非常に斬新で衝撃的なラストを迎える、大変面白い作品でした。本作の音楽をニコラス・ジャーに依頼したのはなぜですか?
ニコラスは素晴らしい音楽家で、何年も前から僕が尊敬しているアーティストの一人だったんだ。ニコラスは、チリ人だけど、チリに住んでないから、ずっと音楽は聴いていたけど、一度も会ったことはなくて、今回初めて一緒に仕事をしたよ。
僕が電話をして、彼に映画の話をしたら、とても興味を持ってくれたんだ。本当に幸運だったと思うよ。「音楽」が、この映画にとっては、ガイドであり、アイデンティティであり、それらを決定づけるものだから、普段映画を撮るときは、音楽は後付けなんだけど、この映画に関していうと、撮影前と、撮影中にもニコラスはずっと音楽を作ってくれていたから、音楽を聴きなが撮影を進めたんだ。カメラを回しながら聴いていたから、音楽のリズム、トーンや雰囲気を表現できたのだと思うよ。そういう意味でも、普通の映画とは違った撮影現場だったね。
そして、この作品は、メロドラマ、音楽、ビデオクリップ、スリラーという多くの要素がある。全てのジャンルが混ざり合った映画にできたのも、音楽のおかげだったと思う。
Photo by Fabula, Santiago de Chile, 2019
-ニコラス氏に楽曲を制作する上でリクエストしたことはどんなことですか?
一番初めに音楽性についてのアイデアは伝えたんだ。その後、お互いにアイデアを出し合いながら、録音を重ね、共同作業で楽曲制作をしていった感じかな。
―前半のコンテンポラリーダンスシーンのアンビエントな楽曲はとても美しく、映像美とともに観入ってしまいました。途中のレゲトンパーティーのシーンも、レゲトンサウンドとアンビエントなエレクロトサウンドのマッチングが素晴らしかったです。本作で音楽での演出でこだわった部分を教えてください。
ニコラスはチリに住んでいないけど、チンチローネ(チリの伝統的な太鼓とシンバルの楽器)とパーカッションをベースに、チリで初めに録音をして、その後でニコラスがエレクトロニカとかアンビエントサウンドを付け足していき、最終的にレゲトンに仕上げて行ったんだ。従来のレゲトンサウンドではなくて、ヒップホップ、トラップ、エレクトロ、アンビエントなど、色々な音が交じり合った新しい”レゲトン性のあるもの”を作ったんだ。この映画の中の音楽はエレクトロニカなんだけど、虹の様に色々な要素がある。そういうスタイルが”パンク”なのかなと思っているよ。
Photo by Fabula, Santiago de Chile, 2019
パブロ·ラライン監督(左)、主演のマリアーナ・ディ・ジローラモ(中)、ガエル・ガルシア・ベルナル(右)
-本作は、カルチャー、モラル、セクシャリティ、などすべての概念を覆す、パンク・ロックムービーだと思います。本作を製作する上で、いちばんこだわった部分を教えてください。
映画を創るときに一番大切にしているのは、人々がそれぞれ違う意見を持つこと。
-日本のアーティストで好きなアーティストは?
日本の音楽シーンはあまり詳しくないから、お勧めのアーティストを教えて!
【動画予告編】『エマ、愛の罠』
『エマ、愛の罠』
10/2 (金) 新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷、ヒューマントラストシネマ有楽町、kino cinéma立川髙島屋S.C.館ほか 全国公開
監督:パブロ・ラライン
出演:マリアーナ・ディ・ジローラモ ガエル・ガルシア・ベルナル パオラ・ジャンニーニ サンティアゴ・カブレラ クリスティアン・スアレス
http://synca.jp/ema
ナタリー・ポートマンが、ジョン・F・ケネテディ大統領夫人のジャクリーン・ケネディを演じた『ジャッキー/ファーストレディ最後の使命』で、初めて英語作品に挑戦し、アカデミー賞3部門にノミネートされ反響を呼んだ南米チリを代表する監督、パブロ·ラライン。歴史を題材にした、いわゆる”過去の解剖”というべき作品を得意とする彼が「今作は”現在の証言”」と話す今作は、初めて”現在”のチリを舞台に制作し、自身と異なる世代を描いたものだ。
主人公は、若いダンサーのエマ。とある事件がきっかけで、ガエル・ガルシア・ベルナル演じる振付師の夫との結婚生活が破綻してしまう。愛も仕事もすべてを失い、絶望のどん底に突き落とされたエマは、中年の女性弁護士、消防士の男性、そして未練を引きずる別居中の夫までもを挑発し始める。3人の男女を手玉に取り、妖しい魅力で虜にしていくエマの真意は何なのか――。

Photo by Fabula, Santiago de Chile, 2019
女性に対する抑圧的な風習が残る南米社会に一石を投じるように、監督が創造した”エマ”というヒロインは、ジェンダーレスなルックスのみならず、この世の常識やモラルのボーダーさえも軽々と踏み越えていく、型破りなキャラクターだ。
エマを演じたのは、これが映画初主演となった女優のマリアーナ・ディ・ジローラモ。監督は、彼女の写真を新聞で見つけ、本人に連絡を取って、カフェで話し始めて10分後には、この映画の主演をオファーしていたと語る。「マリアーナが演じたことで、エマのキャラクターに強い力が与えられたと思う。彼女が原動力になって、この作品が持つポップパンク・カルチャー的な興奮を観客に伝え、驚くほど魅惑的で挑戦的な未知の世界へと導いてくれたよ」と、話している。

Photo by Fabula, Santiago de Chile, 2019
本作の魅力は、映像美とともに、注目すべきはニューヨーク出身チリ育ちのエレクトロ・ミュージック界の鬼才ニコラス・ジャーが奏でる音楽だ。
本人名義で2016年『Sirens』以来となるニュー・アルバム『Cenizas』を、今年3月にリリースしたばかりだが、本作では全編にわたり、ニコラス・ジャーの世界を堪能できる。ローリングストーンジャパンは、パブロ·ラライン監督に、ニコラス・ジャーとの音楽制作や映画のみどころを訊いた。
―非常に斬新で衝撃的なラストを迎える、大変面白い作品でした。本作の音楽をニコラス・ジャーに依頼したのはなぜですか?
ニコラスは素晴らしい音楽家で、何年も前から僕が尊敬しているアーティストの一人だったんだ。ニコラスは、チリ人だけど、チリに住んでないから、ずっと音楽は聴いていたけど、一度も会ったことはなくて、今回初めて一緒に仕事をしたよ。
僕が電話をして、彼に映画の話をしたら、とても興味を持ってくれたんだ。本当に幸運だったと思うよ。「音楽」が、この映画にとっては、ガイドであり、アイデンティティであり、それらを決定づけるものだから、普段映画を撮るときは、音楽は後付けなんだけど、この映画に関していうと、撮影前と、撮影中にもニコラスはずっと音楽を作ってくれていたから、音楽を聴きなが撮影を進めたんだ。カメラを回しながら聴いていたから、音楽のリズム、トーンや雰囲気を表現できたのだと思うよ。そういう意味でも、普通の映画とは違った撮影現場だったね。
そして、この作品は、メロドラマ、音楽、ビデオクリップ、スリラーという多くの要素がある。全てのジャンルが混ざり合った映画にできたのも、音楽のおかげだったと思う。

Photo by Fabula, Santiago de Chile, 2019
-ニコラス氏に楽曲を制作する上でリクエストしたことはどんなことですか?
一番初めに音楽性についてのアイデアは伝えたんだ。その後、お互いにアイデアを出し合いながら、録音を重ね、共同作業で楽曲制作をしていった感じかな。
―前半のコンテンポラリーダンスシーンのアンビエントな楽曲はとても美しく、映像美とともに観入ってしまいました。途中のレゲトンパーティーのシーンも、レゲトンサウンドとアンビエントなエレクロトサウンドのマッチングが素晴らしかったです。本作で音楽での演出でこだわった部分を教えてください。
ニコラスはチリに住んでいないけど、チンチローネ(チリの伝統的な太鼓とシンバルの楽器)とパーカッションをベースに、チリで初めに録音をして、その後でニコラスがエレクトロニカとかアンビエントサウンドを付け足していき、最終的にレゲトンに仕上げて行ったんだ。従来のレゲトンサウンドではなくて、ヒップホップ、トラップ、エレクトロ、アンビエントなど、色々な音が交じり合った新しい”レゲトン性のあるもの”を作ったんだ。この映画の中の音楽はエレクトロニカなんだけど、虹の様に色々な要素がある。そういうスタイルが”パンク”なのかなと思っているよ。

Photo by Fabula, Santiago de Chile, 2019

パブロ·ラライン監督(左)、主演のマリアーナ・ディ・ジローラモ(中)、ガエル・ガルシア・ベルナル(右)
-本作は、カルチャー、モラル、セクシャリティ、などすべての概念を覆す、パンク・ロックムービーだと思います。本作を製作する上で、いちばんこだわった部分を教えてください。
映画を創るときに一番大切にしているのは、人々がそれぞれ違う意見を持つこと。
ダンスや音楽が良かったと思ってくれる人もいれば、道徳がない、モラルがないと思う人もいる。でもこれって、ただ一人一人が感じる人間的なことだよね。映画の中で男性が女性を誘惑するのって普通だし、女性が自分から男性、女性を誘惑すると非道徳だというような拒否反応が出てくる。そういった個々の意見を知りたいというところが、こだわりとしている部分だったかな。
-日本のアーティストで好きなアーティストは?
日本の音楽シーンはあまり詳しくないから、お勧めのアーティストを教えて!
【動画予告編】『エマ、愛の罠』
『エマ、愛の罠』
10/2 (金) 新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷、ヒューマントラストシネマ有楽町、kino cinéma立川髙島屋S.C.館ほか 全国公開
監督:パブロ・ラライン
出演:マリアーナ・ディ・ジローラモ ガエル・ガルシア・ベルナル パオラ・ジャンニーニ サンティアゴ・カブレラ クリスティアン・スアレス
http://synca.jp/ema
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