【写真をもっと見る】野田洋次郎とAwich
昨年メジャーデビュー15周年を迎え、ボーダーレス、ジャンルレスなコラボレーションや実験的な要素を散りばめ、それらを自然にまとめ上げている様はさすがの一言。
—野田さんがAwichさんと出会ったのって、いつ頃ですか?
野田:4年前ぐらいにSOIL & "PIMP" SESSIONSのライブではじめて会って、そこからクラブとかでもよく会う仲になったんです。で、YENTOWNのみんなともすごく仲良くなっていって。実は3年前の『ANTI ANTI GENERATION』のアルバムの時に何かやろうって声をかけてて、でも締め切りギリギリのタイミングだったのでお互いやりたいことをやるにはちょっと急な感じがあって。だったらじっくりやろうかって、その時はやらなかったんです。今回、3年越しにようやく。
Awich:もともといろんなおしゃべりをする仲だったんですけど、そのなかでお互いの悩みとか悔しいと思ってることを共有した時に、私たちと同じようにそういうことを思ってる人たちに対しての応援歌をつくろうって提案してもらって。私も思うことはあったから、もちろんですってつくることになりましたね。
■RADWIMPS「SHIWAKUCHA feat.Awich」ミュージックビデオ
—伝えたいことが明確にあった。
野田:けっこう明確でしたね。どうしても煮え切らないというか、どう消化していけばいいんだろうみたいな出来事がいろいろ起きた時期があって。Awichと俺も共通で思うことがいっぱいあったから、同じ空気感をともに生きてきた。だったらこの悔しさというか歯がゆさみたいなのを曲にしようってなったんです。それで自分が先に一番のヴァースとサビを渡したら、もうこれ、私ラップ乗せたいですって言ってくれたので、頼む!って。
Awich:ふふ(笑)。
野田:ツアーとかでめちゃくちゃ忙しかったと思うんですけど、ボイスメモとかでそのまま生の声を送ってくれて。それでもう、最高!って感じでした。
Awich:最初は歌う感じだったところに、私ラップしていいですか、みたいな。
野田:そうそう。最初は俺が歌のフレーズの二番をつくってて、もしよかったらこれで歌ってくれないかなって言ってたんですけど。
Awich:もちろんそれもめちゃくちゃよかったし、光栄なんですけど、この曲のテーマに関しては、私ラッパーとしてもちょっと言いたいことがあるからラップをさせてくれないかってお願いして。逆に「え、時間あるの? 大丈夫なの?」ってね(笑)。
野田:本当に?みたいな(笑)。
Awich:マジ頑張るんでちょっと待っててくださいって。
—野田さん的には、いろんな曲を集めてRADWIMPSのアルバムをつくる中で、その一つの要素として今回のような曲も入れたいなって考えてたんですか?
野田:いや、その時は考えてなくて、この気持ちを消化したいって思いの方が強かったです。すごい瞬発力でできた気がして。
Awich:うん。確かに。
野田:1~2日でわーって書き殴って、それをポンって渡した気がして。普段作品をつくる時はもっとじっくり、いろんな角度からその曲を煮沸かして、一個一個精密につくり上げていくんですけど、この曲はどっちかっていうと生の剥き出しの感じっていうか。でき上がってみたらすごく鮮度を持った曲だなと思ったし、狙ってつくれるものじゃないんで、アルバムの一つの顔になるな、と思って。不思議なハマり方をしましたね。
「0か100かみたいな清々しい気持ち」になった理由
—その結果、生々しさのある曲ができあがった。でもサウンドは怒りに満ち溢れているというより、どちらかというと平和な感じが漂ってますよね。リリックは鋭いですけど。
Awich:確かに。入りがすごいですもんね。「全人類」からって。
野田:(笑)。
Awich:でもそういう、世界の悔しさを背負ってるみたいな、押しつぶされそうな気持ちはめちゃくちゃわかるから、最初のリリック聞いた時に凄いなって思いました。
—サウンドとリリックのギャップみたいなのって何か意識されてたんですか?
野田:「この気持ちを歌いたい」ってところから先行して曲をつくり始めたので、自然とそうなりました。0か100かみたいな清々しい気持ちには自然となったっていうか。人ってどん底まで行ききると、そこにすごく平らな何かを見るんじゃないかなって思うんです。地平のような青々とした清々しさみたいなものを勝手に描いて、サビで振り切れるみたいな。
—そこでAwichさんのラップも入ってくると、また景色が広がりますよね。
野田:こんなラップできて歌える女性アーティスト、日本にいないですもんね。
Awich:恐縮です。ありがとうございます。
—Awichさんは、ヒップホップではない、いわゆるロック系のサウンドに自分の声を乗せることに関してはどうですか?
Awich:実はあんまり違いを実感していなくて、ジャンルに対しての識別が甘いというか。そういうところ鈍感なんですよね。だからいろんなことできるんだろうなって思いますし、あっち行ったりこっち行ったりしてるように見えるかもしれないんですけど実は一緒じゃん、って思ってるところがある。
野田:ハートの部分でヒップホップを持ってる。
Awich:そうかもしれないですね。
野田:音楽のジャンルとして持ってる感じがしないんですよね。だから仲良くなれたって思う。
Awich:そうなんですよね。ハートでヒップホップをやってたら、音楽的なジャンルは超えてると思います。だから私は音楽的なジャンルの垣根を、そんなにハードルと感じないというか。やってみたいと思うし楽しそうって思います。
—野田さんがYENTOWNのメンバーやヒップホップをやっている人たちとノリが合うのって、何でだと思います?
野田:単純に音楽としてもそうだし、説明がつかないくらい自然と仲良くなっていったので。でも人が人を好きになることの答え合わせって結果論でしかないっていうか。結局今日も一緒にいたねっていうハートの話で、でもそれが一番自分の中で確かで。説明できないけど一緒にいちゃう。で、それが音楽でも響き合ってるんだと思います。いろんな影響を受けるし、俺もいろんな影響を与えたいし。
Awich:ヒップホップって声なきものの声だと思うんですよね。
—『FOREVER DAZE』収録曲の「SUMMER DAZE 2021」もそうですけど、野田さんって曲づくりのきっかけに友達への想いがあると思っていて、そこがすごくリアルだなと。普段から仲間をすごく大事にしていて、その人たちのために何かできることがないか、ってところから動き出していくのって、ヒップホップのハートと近いのかなって思ったんですけど。
Awich:確かに。
野田:でもそうですね。一番近い人たちが動機になることが自分にとってはすごく自然で。もちろんいろんなコラボレーションもありますけど、自分が普段生活してるなかで生まれてくるものが音楽だし。その時沸き上がってくる感情で音楽をつくっていたいなっていうのは、昔から変わらずありますね。
Photo by Maciej Kucia
「全国民がAwichの虜になるべき」(野田)
—コロナ禍以降、感情を吐き出す表現のアプローチも変わりましたか?
野田:どうなんだろう。でも今回のアルバムはコロナの間につくってたので、暗いことばっか言ってたくねぇ!みたいな気持ちにはなって。すごく希望に向かってつくってたかなって気はします。自然と光に向かってリリックを書いてたのかなって、いま聴き返してみてすごく思いますね。こんだけみんな散々な目にあってるのに、より散々なことを言いたくないっていうか。昔は幸せなぬるま湯の中にいたから、穿った見方して、世の中をどうやって切り刻もうかなみたいなところもあったんですけど、ここまで世の中が停滞して沈んでると、もうあとは光に向かっていくしかないな、って気持ちはどっかにありますけどね。
—確かに今回のアルバムは明るいですよね。
野田:そうですね。そう意図してはなかったんですけど、そういうアルバムになりましたね。
—Awichさんのラップので”這い上がった物語を人は神話と呼ぶだろう”って歌詞がありますよね。それってAwichさんがよくインタビューでおっしゃってる、世の中の常識やルールはフィクションであり、そう捉えることで前に進める、みたいなことにも通じるのかなと思いました。
Awich:フィクションっていうか、意味づけする権利をそれぞれの人が持ってると思ってるので。どん底にいる時は、そこでしか味わえないものがあるんですよ、絶対。だからそれを、私がどん底に落ちた時にはこの曲で言ってあげたいし、今そこにいる人たちにはそういうふうに言ってあげたい。それを乗り越えてこそ、伝説だったり、神話みたいに言われるからって意味の言葉です。世の中はフィクションっていうのは、そういう意味だと思ってます。
—意味づけするのは自分。
Awich:そうそうそう。
—野田さんは普段Awichさんと話す時、そういう真面目な話もするんですか?
野田:うーん、なんの話してるかね。半分くらい記憶なくなってる(笑)。
Awich:最終的にはなくなってる(笑)。けっこういろんな話をしますね。私の愚痴も聞いてくれるし。
野田:あと、俺はもうどんだけお前が凄いかみたいな話をずっとしてる気がする。
Awich:(笑)。
野田:とんでもねぇぞって。
—そういう意味でも、念願叶ったコラボですね。
野田:そう、それがうれしかったですね、本当に。全国民がAwichの虜になるべきだし、なるだろうなって思ってる。
Awich:マジですか(笑)。それはありがたい。うれしいし頑張ろうって思います。
—野田さんは、Awichさんのことをまだ知らない、いわゆるロックしか聴かない自分のリスナーにも、こういうアーティストがいるんだよって知ってもらいたい気持ちはあるんですか? もちろん自分が仲がいいという前提はあると思うんですけど。
野田:そうですね。仲良くなくても、音楽だけで俺は取り憑かれてただろうなって思うので、そこは関係なく。聴かないのはもったいないし、日本語でこれだけの音をやってる才能は稀有だと思うので。みんなが聴いて絶対プラスになるなって思います。
—Awichさん、どうですか。
Awich:めちゃくちゃうれしいです。もちろん誰に言われてもうれしいんですけど、私は洋次郎さんがライブしてるのも見てたし娘がもともと超大ファンで、すごい人たちに囲まれた遠い存在だった方がそんなふうに言ってくれるのはめっちゃうれしいし、やる気も出てくる。もちろん自分でも「やってやる」って気持ちはいつもあるんですけど、もっと、待っててねって気持ちが芽生える(笑)。
Photo by Maciej Kucia
「ちゃんとカッコいい音楽をやって多くの人に愛されるーーそのお手本」(Awich)
—前のアルバムはMIYACHIさんでしたけど(「TIE TONGUE feat.MIYACHI, Tabu Zombie」)、RADWIMPSはそうやってラッパーの人をフィーチャリングして、それがまたファンの人に受け入れられて、って流れが出来つつありますよね。
野田:そうですね。RADWIMPS自体がボーダーレスになりたいし、そういう意味で聴く人の境界みたいなものも取っ払っていきたいなって思っていて。そもそも、音楽のジャンルってだんだん意味を為さなくなってきたっていうか。もちろん認識していくためにはカテゴライズも必要なのかもしれないですけど、最近はクロスオーバーが著しいなって思ってます。ロックの要素がどんどんヒップホップに流れ込んでるし、ヒップホップももはや、ロックだったりテクノ、ハウス、ジャズだったりがふんだんに入ってきてて。それが音楽の正しい姿でもあるので、その正しい姿をRADWIMPSでもちゃんと表現したいなって思います。今回もタブ(ゾンビ)さんとかにも入ってもらってるしオーケストラも入れてるし、いろんな音楽を自分なりに、RADWIMPSってフィルターを通して表現し続けたいって思います。
—前作の時のRolling Stone Japanのインタビューで野田さんが語っていた、「音楽集団としてどんどん変化して、進化していける気がする」って、その通りになってきてますね
野田:次のツアーは2人メンバー増やして6人編成のバンドになるので。そうやって楽団みたいになっていくのかなって。オーケストラも2~30人、毎回固定のメンバーで入ってもらってずっとレコーディングしてるから、もはや俺にとってはその人たちも全員メンバーだし。だから認識として、RADWIMPSっていうコアなハートにみんなで音楽を鳴らす集団っていうか、そういうものになっていくべきなのかなって気はしてます。
—そういったところから生まれるアート性だけではなく、お茶の間に届くキャッチーさもあるし、RADWIMPSのバランス感覚ってAwichさんはどう見てますか?
Awic:お手本をつくってくれてありがとうございますって感じです。ちゃんとカッコいい音楽をやって多くの人に愛されるというか。音楽をやっていく上で、方向性が見えなくて迷ってる人たちもいると思うし、カッコいいことやってちゃダメなのかなとか、どうして売れないのかなとか思ってる人たちもいると思いますけど、私にはお手本がいるから、カッコよくやるにも絶対手段があるって思える。それは本当にいつも勇気をもらってます。
—素晴らしい関係性ですね。
野田:本当ありがたいですね。音楽人生が豊かになります。うれしいのは、Awichもカズマも、中学から(RADWIMPSを)聴いてると言ってくれて。で、はじめてあった時にカラオケ行って、俺が19歳の時とかに出したアルバムの曲をカズマが歌いだして。
Awich:やばい(笑)。
野田:「俺色スカイ」って曲なんですけど。俺、これで音楽目覚めたんですよ、とか言って。クラブで会うヒップホップ周りの奴ら、RADWIMPS聴いてたっていうのが多いんですよ。中学から聴いてますとか、高校の時に聴いてましたとか。大きな流れで見ると、今はロックよりもヒップホップの方が主流になっているけど、ロックのエッセンスを血として持ちながら、クラブシーンだったりヒップホップだったりで、自分たちの音楽をやってるっていうのも面白い還元の仕方だなと思います。で、俺もまためちゃめちゃ影響を受けるんで。長くやっていればそういうご褒美があるんだなって思う、素敵な循環です。
Photo by Maciej Kucia
「FOREVER IN THE DAZE TOUR 2021-2022」について
—Awichさんはこの間までツアー(「Queendom Tour 2021」)をして、追加公演も大成功だったみたいで。
野田:行きましたか? めちゃめちゃよかったですよ!
Awich:ありがとうございます(笑)。
野田:4年ぐらい見てるんですよ。最初はクラブだったし、初ワンマンも見てるし。
Awich:めっちゃうれしい! それ!
野田:だからもう父親みたいな気持ちです。最初の頃ももちろんうまかったけど、お客さんにちょっと頼るノリで。
Awich:そうです。
野田:ノリでいってる部分はあるなぁと思ってたんですけど、最近もう、地の力が強くなりすぎてえげつないっていうか。あんまり褒めすぎるのもどうかと思うけど、本当に凄いです。
Awich:コロナ禍のライブって、自分の力でやらないといけないんですよ。お客さんからのフィードバックが感じられない分、みんなに刺さってると信じてやらないといけないから、精神的な強さも養われるし、今まで誤魔化せたところが誤魔化せなくなってて(笑)。それで、スキル的なところだったり精神的なところだったりは今回のツアーで結構成長したと思います。
野田:試されるよね。
Awich:試される。でも流石にみんなの大合唱が恋しいなって気持ちがあります。
野田:ね!
Awich:だからみんなで声だして空間を震わせる、その一体感みたいなものが恋しいなっていうのが今の正直な気持ちですね。
—RADWIMPSは、12月から全国ツアー「FOREVER IN THE DAZE TOUR 2021-2022」が始まりますね。
野田:はい、今まさにリハーサルをやっていて。今までとは全然違うライブを見せられる気がしてます。
—15周年のライブも見せ方が面白かったですけど、また違う感じなんですね。
野田:全然違いますね。メンバーも違いますし。楽しみだね。
Awich:楽しみです、めっちゃ!
野田:Awichが来たらやべぇなって思いながら。
Awich:いやぁ! 楽しみですマジで。
Photo by Maciej Kucia
<INFORMATION>
『FOREVER DAZE』配信中
https://lnk.to/RadFD
『FOREVER DAZE』
RADWIMPS
Muzinto Records / EMI
発売中
01. 海馬
02. SHIWAKUCHA feat.Awich
03. 匿名希望
04. TWILIGHT
05. 桃源郷
06. 夏のせい
07. MAKAFUKA
08. Tokyo feat.iri
09. うたかた歌 feat.菅田将暉
10. 犬じゃらし
11. グランドエスケープ
12. かたわれ
13. 鋼の羽根
14. SUMMER DAZE 2021
「FOREVER IN THE DAZE TOUR 2021-2022」
2021年12月4日(土)・5日(日)神奈川・ぴあアリーナMM
2021年12月21日(火)・22日(水)福岡・マリンメッセ福岡 A館
2022年1月8日(土)・9日(日)千葉・幕張メッセ国際展示場9~11ホール
2022年1月18日(火)・19日(水)兵庫・ワールド記念ホール
2022年1月25日(火)・26日(水)愛知・日本ガイシホール
2022年1月29日(土)・30日(日)宮城・セキスイハイムスーパーアリーナ
https://radwimps.jp/foreverinthedaze/
「口に出して」
Awich
YENTOWN / UNIVERSAL MUSIC
配信中
https://lnk.to/KuchiniDashite
https://awich.jp