まもなく初のプロモーション来日が実現するコナン・グレイ。日本デビュー作となる2ndアルバム『Superache』は全米・全英チャート初登場TOP10入り。
注目度が高まっているポップ・プリンスの魅力を、ライター・辰巳JUNKに解説してもらった。

コナン・グレイを紹介するとなると、世代を代表する存在ゆえに、Z世代アーティストの典型的キャッチコピーになりがちかもしれない。たとえば、YouTuberから人気シンガーになった経歴。ベッドルームをルーツにする繊細サウンドと、正直な歌詞。メディアから「新世代ジェンダーレス」と評されるファッションアイコンである一方、セクシャリティのラベリングを拒否する姿勢……。

ただし、テイラー・スウィフトやBTSのVから支持を受けるコナンは、アメリカの人気シンガーとして異色な立ち位置にある。
大恋愛や大失恋があふれるポップ界において「誰ともつきあったことがない」と語る、失恋ソングの名手なのだ。

「恋したことが無いとか、恋に落ちることを待ち焦がれてる状態について書いてるアーティストを、僕は知らない。恋愛中か失恋中か、って単純な話でもなくて……今の僕はスーパー失恋中ってわけでもないし、とくに恋してもいないんだ。そういう状況を歌った曲はあまり無い。同世代は、僕の音楽に共感してくれると思う」――コナン・グレイ(GQ

YouTubeを始めたのは、退屈で、寂しかったから。そう語るコナンは、1998年、日本人の母親と米国人の父親のもとに生まれてから、何度も引っ越した。
最終的にはテキサスの小さな町で母親との二人暮らしに落ち着いたが、人種差別的イジメも多く経験したという。そして2017年、変化のない小さな町から逃げ出したい欲求を歌う「Idle Town」がバイラルヒットした。

大学を中退してレーベル契約を果たした翌年には、さらに大きな話題を呼ぶ。周囲が夢中になる恋愛文化への鬱憤を爆発させる「Crush Culture」をリリースしたのだ。ミュージックビデオだと主人公にも好きな人がいるオチになってはいるものの”恋愛なんて息苦しいだけ 独りぼっちでいさせてくれ”と言い放つこの曲は、アロマンティック・アセクシュアルの人々のアンセムとしても受容された。

「傍観者」だからこそのリリシズム

”今はこうして 周りの人を観察しているだけ 見守っているだけ 
君の人生を 自分に重ねながら
今まで一度も 本気で恋をしたことはない”
(「People Watching」)

コーチェラ・フェスティバルで華々しいステージを魅せる立場になろうと、コナンは、たびたび「傍観者」を自称する。
「誰かとロマンティックな関係になったことは無い」と語る彼は、友人を筆頭に他者の交際を見て学んできたという。このたびリリースされた2ndアルバム『Superache』では、趣味の人間観察を題名にした「People Watching」にて、大学在籍中ウォッチしていたカップルの存在を通して、恋人関係への憧れを歌っている。

ロマンスの「主役」だらけのポップミュージックにおいて「傍観者」であるコナンは、尊敬するテイラー・スウィフトとも、同世代の親友オリヴィア・ロドリゴとも、異なる視点に立って、共感を集めている。稀有で独特な人気シンガーであると同時に、これまで見過ごされてきた人々の気持ちを代弁するリリシストなのだ。

激情を肯定する「失恋の王子」

もちろん、コナンがつむぐ歌詞は、経験や年齢問わず広範な層に響く。2020年作のデビューアルバム『Kid Krow』では、ティーン時代の片想いと失恋が、彼特有の切り口で歌われている。


代表例は、エルトン・ジョンいわく「(当時の)Spotifyチャートのトップ50で唯一の単独名義による作詞作曲」であった「Heather」。主人公の片想い相手が夢中になってる”完璧な女の子”ことヘザーに対して”死んでくれたら……”とまで願ってしまう一曲だ。モデルになった女子は、コナンに何か悪いことをしたわけでもないらしいため、倫理的に問題がある作品かもしれない。一方「みんなに愛されてる者を憎んでしまう」、人には言いづらい感情の表現が共感を集めたことは、この曲がTikTokアンセムとなりダブルプラチナムセールスとなった事実からも伝わるだろう。

ミクロな世界観も魅力だ。『Superache』のために1年半で250曲制作したという多作なコナンだが、曲中で語っている人物はほぼ3人なのだという
そのうち一人は親友、そして「Heather」に登場した片想い相手だ。

”髪型を変えたら もっと気に入ってくれるのかな
それならキッチンバサミを握って 自分で自分を切り刻むよ 君のために”

”自分自身のパーツを全部交換した パズルのピースがどれも 僕じゃなくなる気がするまで”
(「Jigsaw」)

ティーン時代、一目惚れしては結婚を意識する熱情家だったというコナンの二つ名は「失恋の王子」。『Superache』でも”君に告白したら大惨事になりそうだ”と不安が疾走するシンセチューン「Disaster」、好きな相手のために自身を変え続ける虚しさを叫ぶポップロック「Jigsaw」など、ハートブレイキングな激情がほとばしる。

『Superache』が示す、作家としての成長

リリシストとして「残酷なほど正直」と評されるコナンだが『Superache』制作はつらかったという。自己紹介的な1stとは異なり、確立した自己を示さなければいけなかったし、ツアーが中断したコロナ禍は色々考えすぎてしまっていた。「Family Line」にて過酷な家庭環境まで歌った当人いわく、封印していた記憶に立ち返るソングライティングは「墓を掘り返すようなもの」だった。
そして、彼は成長した。ローリングストーン誌のインタビューでは「ずっと恋人ができない理由は、自分自身にあるとわかった」とまで語っている。

テーマとなったのは、いわば「感情の喪中」。リアルタイムの悲劇ではなく、あとをひくかたちで長引く心傷についての音楽だ。作品としては、生々しい感情表現はそのままに、俯瞰的かつユーモアも身に着けている。

オープナー「Movie」では”現実の恋愛は映画と全然ちがう”と嘆く。これは「10代のころと違って、もう自分はそういうフェイクな完璧を求めていない」とわかったからこそ書いた曲だ。

”まるで小説みたい 脇役は結局ひとりぼっちになるんだから
僕は君の人生に脚注を残しておくよ 君は僕を追い出してしまえばいい”
(「Footnote」)

アルバムの主題を象徴する重要曲「Footnote」も、恋愛映画をテーマにしている。映画版『高慢と偏見』を観て号泣して書いたこの曲では「愛は『高慢と偏見』のようにはいかない」と悟る。同作の原作は有名小説なだけあり、「脚注」を意味するタイトルも、コナンらしいかたちで文芸的な意味を孕んでいる。

「愛した人が自叙伝を書いたとしたら、自分の存在は、ページの下部にある、小さな脚注でしかない……大半の音楽で描かれる愛は、巨大な存在で、騒々しい。でも、この曲は静かな気づきなんだ」――コナン・グレイ(Apple Music

次なる「Memories」も恋愛映画モチーフ。”いつまでも君の思い出に刻まれたい。ずっとそばにいて”といった定番セリフをコナンなりに解体し「どうか僕の思い出から去ってくれ」と願うバラードだ。映画への憧れから脱し、自己流の再構築に至る──このアルバム構成だけで、人間として、そして作家としての成長が伝わるだろう。

孤独を分かち合うファンへの恩返し

”すでに見つけたんだね 恋しいと思える人を
僕が出口に立ち尽くしている間に
僕は今も出口に突っ立ったまま”
(「The Exit」)

終幕「The Exit」は、周囲の人々が進んでいっているなか悲嘆に暮れてとどまっている自分、という立場で書かれた曲だ。アルバムとしては、さみしい終わり方かもしれない。しかし、コナン自身は、孤独を感じないようだ。小さな町からトップアーティストへと駆け上がった彼は、自らの音楽を愛してくれるファンの存在を知ったことで「なんでも強烈に感じてしまう」人間が自分ひとりではないと知ることができたのだ。だからこそ、コナンがこのアルバムで願うのは、ある面でファンへの恩返しだ。

「このアルバムで、少しでも孤独を感じてる人が減ればいいな。それこそ、僕が音楽を始めた理由だから。孤独な子どもで、他人とわかりあえる気がしなかった。生きているということは、混乱すること。頭が狂うかってくらい複雑な感情のままでいてもいいんだ」――コナン・グレイ(Apple Music)

『Superache』は、苦悩と孤独を抱えるリスナーを救っていくだろう。ただ、コナン・グレイの音楽は、最初から「こんな風に悩んでいるのは君だけじゃない」と伝えてきたはずだ。かつて孤独な少年をスターにした前出「Idle Town」のYouTubeトップコメントには、おそらくはファンになりたてのユーザーによる、こんな熱情がつづられている。「誰にも理解されないだろうけど、私は本当に、本気で、彼と友達になりたい」。

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