音楽、文芸、映画。長年にわたって芸術の分野で表現し続ける者たち。
表の顔は無敗の弁護士、裏の顔は伝説の殺し屋の血を引く「人斬り」。そんな二つの顔を持つ男が悪党に裁きを下す、アクションエンターテインメント映画『ヒットマン・ロイヤー』が公開される。幕末の伝説の殺し屋「人斬り以蔵」こと岡田以蔵の血を引く主人公・神道楷を演じるのは、ミュージカル『テニスの王子様』で注目を集め、ミュージカル『刀剣乱舞』など数多くの舞台で活躍する荒木宏文。中でも「ミュージカル「『刀剣乱舞』にっかり青江 単騎出陣」は、47都道府県全てを一人で回る単独公演として人気を博した。
「今回の映画『ヒットマン・ロイヤー』は、とにかくぶっ飛んだ設定なんですよ(笑)。監督の大野大輔さんからも、『荒唐無稽な映画にしたい』と言われました。要するに、ぶっ飛んだことをふざけて演じるのではなく、とにかく真剣に演じ切る面白さを追求したいと。そうすることで荒唐無稽になるのだと聞いて腑に落ちましたね。弁護士としての顔も、殺し屋としての顔も、どちらも真剣に演じればいい。そこを理解してからは迷うことなく演技に集中できました」
映画はまるで「続編」か「シリーズ化」を匂わせるようなエンディングを迎えるが、すでにその予定はあるのだろうか。
©「ヒットマン・ロイヤー」製作委員会
「どうなるんでしょうね(笑)。ある意味『序章』的な作品だったからこそ、あれだけ荒唐無稽なストーリーになったのかもしれないですし。これからの展開は、僕自身も楽しみです」
彼のデビューは所属するワタナベエンターテインメントの俳優集団のオーディションがきっかけだったという。
「高校の時に進路を決めなければならなくて。頭は良くなかったので、医者や弁護士は無理だろうけど(笑)、親には『ちゃんとお金を稼げる子供に育て上げた』と誇りに思ってもらいたい気持ちがあったんです。で、医者は無理だけどそれに近い職種になんとか就くことはできないか?とない知恵をひねり、カウンセラーの道を選んで心理学を学ぶことにしたんですよね」
大学の推薦枠をもらい、論文を書く準備までしていた荒木。しかし「本当にそれでいいのか?」という葛藤もあった。そんなある日、妹が自宅でテレビドラマを見ていたときに、画面に映る主演俳優を眺めながら「よし、有名人になろう!」と閃いたという。
「『有名人なら学歴関係ないかも』と安易に考えたんですよね。役者を選んだのは消極的な理由です。関西人なのに人を笑わせる才能はないし、作詞作曲ができなきゃミュージシャンも、踊れなきゃダンサーも無理だよなと。でも役者だったら、別にイケメンじゃなくても役はあるし、歳を取っても”おじいちゃん役”があるじゃないですか(笑)。
とにかく2年で結果を出すので、それまでは大目に見てほしい。そう親を説得して、地元・大阪にある芸能系専門学校へ入学した荒木。学校ではミュージックビデオやショートムービーの制作をしつつ、外ではオーディションを受けまくる日々が始まった。
「『D-BOYSオーディション』はそのときに受けたのですが、賞を獲ることができなかったんです。でも全然納得がいかなくて。『きっと大阪在住だから落とされたんだ』と思い込んでいました(笑)。”上京さえすれば、オーディションに合格した人達にだって絶対勝てるはず”と、根拠のない謎の自信に満ち溢れていたんですよね。でも、実際に『D-BOYSオーディション』でネルケプランニング(当時)の松田誠さんが審査員をされていたことをきっかけに、ミュージカル『テニスの王子様』のオーディションを受けて合格することができたんです。そのおかげでD-BOYSにも加入することができたわけですから、人生何が起こるか分からないなと思います」
そうして役者の道を歩き出した荒木。しかし演技のことも、映画や舞台のことも、そこまで興味があったわけでもなく、いわゆる「基礎」を全く知らないまま試行錯誤を繰り返していたという。
「それでも自信だけはありました。自分が評価されていないのは、頭の中にある”最高のイメージ”を100パーセント表現しきれていないだけなんだと。それさえ表現できれば、間違いなく素晴らしい俳優になれるとずっと信じていましたね」
最初の壁にぶつかったのは、23歳の時。『テニスの王子様』を卒業し、スーパー戦隊シリーズ『獣拳戦隊ゲキレンジャー』で同じD-BOYSメンバーの鈴木裕樹演じるゲキレッド(漢堂ジャン)と対決するダークヒーロー、黒獅子リオ(理央)役に選ばれる前だった。
「僕は高校時代に腰を壊したことがあるし、体もそんなに強くない状態だったので事前準備が必要だったんですよ。稽古が始まる30分前に入ってウォームアップしていないと動くのが怖かったし、家に帰っても台本を常にそばに置いておかないと不安で仕方なかった。でも、出演者の中には台本もろくに読まないし、稽古が始まる5分前に入って来るような人もいて。なのに本番では最高の演技をするし、お客さんにもキャーキャー言われているんです。その姿を見たときに、『スターってこういう人たちのことなんだろうな』と。凡人の自分が、そんなスターに太刀打ちできるはずがない。そう思ったときに、ようやく周りを認めることができるようになりました」
そんな荒木にとって、同じ事務所の後輩である瀬戸康史との出会いは大きかったそうだ。
「あいつはすごく真面目だし、もの静かで黙々と一人で努力しているタイプ。
前述した『刀剣乱舞』はもちろん、2月には舞台『モノノ怪~化猫~』に主演するなど「2.5次元俳優」として押しも押されもせぬ存在の荒木。たくさんの作品ファンから愛されているアニメや漫画、ゲームのキャラクターを演じる上で、心掛けているのはどんなことだろうか。
「普通の映画や舞台と違い、2.5次元舞台や2.5次元ミュージカルでは容姿がすでに決まっているキャラクターを演じなければならないんです。そのためには自分の個性は必要ない。どれだけそのキャラに近づけるかが何より大切です。この努力を怠れば、原作ファンの期待を裏切ることになってしまう。僕自身は、キャラの容姿はもちろん『こういう姿だから声色はこうで、口癖もこうなって、佇まいはこんな感じなんだろう』といった具合に、とにかく細胞から作り替えていく気持ちで取り組んでいますね」
そう言ってアメリカンスピリットに火を付ける荒木。
「兵庫県から上京してきたときからずっと、東京には”仕事をしに来ている”というマインドを捨てないようにしていますね。常に仕事のことを考えるようにしている。例えば食事も、自分がそのときに演じている役に合わせて『何を身体に取り込むべきか?』を考えますし。それは2.5次元という、容姿が決まっているキャラクターを演じることが多いから不摂生はできないんです」
体重や体型も、舞台の期間中はずっとキープしなければならないので、とにかく生活習慣は徹底的に管理している。
「そのときに演じている作品、次に演じる予定の作品に合わせて生活スタイルを決めているくらいなので。ストイックですかね? 確かに、”ながらタバコ”なんてもったいなくてできないです。スマホとか一切見ずに1本集中型の喫煙(笑)。今は吸える場所も少なくなってきたし、ますますタバコの時間が貴重になっています。健康には人一倍気を使っていますね。『タバコ吸ってるから不健康なんだよ』なんて言われるのがいちばん悔しいので、誰よりも健康であろうと頑張っていますね」
>>未公開撮り下ろし写真(全5点):都内某所のスタジオにてリラックスして撮影に臨んだ荒木宏文
『ヒットマン・ロイヤー』
主演:荒木宏文 陳内将 秋谷百音 高橋健介
監督:大野大輔
配給:クロックワークス
4月21日(金)よりシネマート新宿他にて限定公開
荒木宏文
1983年兵庫県出身。2004年、第1回「D-BOYSオーディション」で最終選考に残り、俳優集団D-BOYSに加入。
Styling = Shuichi Ishibashi
Hair and Make-up = Junko Kobayashi
ジャケット ¥27,500、シャツ ¥20,900、パンツ ¥19,800(SOUTH2 WEST8 TEL: 011-280-7577) ミュール ¥50,600(ENGINEERED GARMENTS TEL: 03-6419-1798)
本業も趣味も自分流のスタイルで楽しむ、そんな彼らの「大人のこだわり」にフォーカスしたRolling Stone Japanの連載。2.5次元舞台や2.5次元ミュージカルの世界で活躍する俳優、荒木宏文。オーディションをきっかけに役者の道を自ら切り拓いてきた彼のタフさとモチベーションはどこから来るのだろうか?
表の顔は無敗の弁護士、裏の顔は伝説の殺し屋の血を引く「人斬り」。そんな二つの顔を持つ男が悪党に裁きを下す、アクションエンターテインメント映画『ヒットマン・ロイヤー』が公開される。幕末の伝説の殺し屋「人斬り以蔵」こと岡田以蔵の血を引く主人公・神道楷を演じるのは、ミュージカル『テニスの王子様』で注目を集め、ミュージカル『刀剣乱舞』など数多くの舞台で活躍する荒木宏文。中でも「ミュージカル「『刀剣乱舞』にっかり青江 単騎出陣」は、47都道府県全てを一人で回る単独公演として人気を博した。
「今回の映画『ヒットマン・ロイヤー』は、とにかくぶっ飛んだ設定なんですよ(笑)。監督の大野大輔さんからも、『荒唐無稽な映画にしたい』と言われました。要するに、ぶっ飛んだことをふざけて演じるのではなく、とにかく真剣に演じ切る面白さを追求したいと。そうすることで荒唐無稽になるのだと聞いて腑に落ちましたね。弁護士としての顔も、殺し屋としての顔も、どちらも真剣に演じればいい。そこを理解してからは迷うことなく演技に集中できました」
映画はまるで「続編」か「シリーズ化」を匂わせるようなエンディングを迎えるが、すでにその予定はあるのだろうか。
©「ヒットマン・ロイヤー」製作委員会
「どうなるんでしょうね(笑)。ある意味『序章』的な作品だったからこそ、あれだけ荒唐無稽なストーリーになったのかもしれないですし。これからの展開は、僕自身も楽しみです」
彼のデビューは所属するワタナベエンターテインメントの俳優集団のオーディションがきっかけだったという。
「高校の時に進路を決めなければならなくて。頭は良くなかったので、医者や弁護士は無理だろうけど(笑)、親には『ちゃんとお金を稼げる子供に育て上げた』と誇りに思ってもらいたい気持ちがあったんです。で、医者は無理だけどそれに近い職種になんとか就くことはできないか?とない知恵をひねり、カウンセラーの道を選んで心理学を学ぶことにしたんですよね」
大学の推薦枠をもらい、論文を書く準備までしていた荒木。しかし「本当にそれでいいのか?」という葛藤もあった。そんなある日、妹が自宅でテレビドラマを見ていたときに、画面に映る主演俳優を眺めながら「よし、有名人になろう!」と閃いたという。
「『有名人なら学歴関係ないかも』と安易に考えたんですよね。役者を選んだのは消極的な理由です。関西人なのに人を笑わせる才能はないし、作詞作曲ができなきゃミュージシャンも、踊れなきゃダンサーも無理だよなと。でも役者だったら、別にイケメンじゃなくても役はあるし、歳を取っても”おじいちゃん役”があるじゃないですか(笑)。
『これ、可能性としてはいちばんありかも』と。もちろん親には反対されましたが、それもバネになったというか。親を説得させられるくらいの熱量がなければ、そもそも役者なんて無理だろうと思ったんです」
とにかく2年で結果を出すので、それまでは大目に見てほしい。そう親を説得して、地元・大阪にある芸能系専門学校へ入学した荒木。学校ではミュージックビデオやショートムービーの制作をしつつ、外ではオーディションを受けまくる日々が始まった。
「『D-BOYSオーディション』はそのときに受けたのですが、賞を獲ることができなかったんです。でも全然納得がいかなくて。『きっと大阪在住だから落とされたんだ』と思い込んでいました(笑)。”上京さえすれば、オーディションに合格した人達にだって絶対勝てるはず”と、根拠のない謎の自信に満ち溢れていたんですよね。でも、実際に『D-BOYSオーディション』でネルケプランニング(当時)の松田誠さんが審査員をされていたことをきっかけに、ミュージカル『テニスの王子様』のオーディションを受けて合格することができたんです。そのおかげでD-BOYSにも加入することができたわけですから、人生何が起こるか分からないなと思います」
そうして役者の道を歩き出した荒木。しかし演技のことも、映画や舞台のことも、そこまで興味があったわけでもなく、いわゆる「基礎」を全く知らないまま試行錯誤を繰り返していたという。
「それでも自信だけはありました。自分が評価されていないのは、頭の中にある”最高のイメージ”を100パーセント表現しきれていないだけなんだと。それさえ表現できれば、間違いなく素晴らしい俳優になれるとずっと信じていましたね」
最初の壁にぶつかったのは、23歳の時。『テニスの王子様』を卒業し、スーパー戦隊シリーズ『獣拳戦隊ゲキレンジャー』で同じD-BOYSメンバーの鈴木裕樹演じるゲキレッド(漢堂ジャン)と対決するダークヒーロー、黒獅子リオ(理央)役に選ばれる前だった。
「僕は高校時代に腰を壊したことがあるし、体もそんなに強くない状態だったので事前準備が必要だったんですよ。稽古が始まる30分前に入ってウォームアップしていないと動くのが怖かったし、家に帰っても台本を常にそばに置いておかないと不安で仕方なかった。でも、出演者の中には台本もろくに読まないし、稽古が始まる5分前に入って来るような人もいて。なのに本番では最高の演技をするし、お客さんにもキャーキャー言われているんです。その姿を見たときに、『スターってこういう人たちのことなんだろうな』と。凡人の自分が、そんなスターに太刀打ちできるはずがない。そう思ったときに、ようやく周りを認めることができるようになりました」
そんな荒木にとって、同じ事務所の後輩である瀬戸康史との出会いは大きかったそうだ。
「あいつはすごく真面目だし、もの静かで黙々と一人で努力しているタイプ。
すごく器用で頭の回転が早いのに、そこに甘んじていないというか。『忙しくて疲れることより、仕事がないことの方が不安なんです』とよく言っていたんですよ。どれだけ寝不足でも、仕事があるだけありがたいって。そういう考え方に共感を覚えました。『同じマインドで頑張っている後輩がいるなら、自分はちゃんと背中を見せられるような尊敬できる存在にならなきゃ』って。それが自分自身のモチベーションにつながっていた気がしますね」
前述した『刀剣乱舞』はもちろん、2月には舞台『モノノ怪~化猫~』に主演するなど「2.5次元俳優」として押しも押されもせぬ存在の荒木。たくさんの作品ファンから愛されているアニメや漫画、ゲームのキャラクターを演じる上で、心掛けているのはどんなことだろうか。
「普通の映画や舞台と違い、2.5次元舞台や2.5次元ミュージカルでは容姿がすでに決まっているキャラクターを演じなければならないんです。そのためには自分の個性は必要ない。どれだけそのキャラに近づけるかが何より大切です。この努力を怠れば、原作ファンの期待を裏切ることになってしまう。僕自身は、キャラの容姿はもちろん『こういう姿だから声色はこうで、口癖もこうなって、佇まいはこんな感じなんだろう』といった具合に、とにかく細胞から作り替えていく気持ちで取り組んでいますね」
そう言ってアメリカンスピリットに火を付ける荒木。
彼にとって、タバコを燻らせる時間だけが唯一「自分」を取り戻せる瞬間なのだという。
「兵庫県から上京してきたときからずっと、東京には”仕事をしに来ている”というマインドを捨てないようにしていますね。常に仕事のことを考えるようにしている。例えば食事も、自分がそのときに演じている役に合わせて『何を身体に取り込むべきか?』を考えますし。それは2.5次元という、容姿が決まっているキャラクターを演じることが多いから不摂生はできないんです」
体重や体型も、舞台の期間中はずっとキープしなければならないので、とにかく生活習慣は徹底的に管理している。
「そのときに演じている作品、次に演じる予定の作品に合わせて生活スタイルを決めているくらいなので。ストイックですかね? 確かに、”ながらタバコ”なんてもったいなくてできないです。スマホとか一切見ずに1本集中型の喫煙(笑)。今は吸える場所も少なくなってきたし、ますますタバコの時間が貴重になっています。健康には人一倍気を使っていますね。『タバコ吸ってるから不健康なんだよ』なんて言われるのがいちばん悔しいので、誰よりも健康であろうと頑張っていますね」
>>未公開撮り下ろし写真(全5点):都内某所のスタジオにてリラックスして撮影に臨んだ荒木宏文
『ヒットマン・ロイヤー』
主演:荒木宏文 陳内将 秋谷百音 高橋健介
監督:大野大輔
配給:クロックワークス
4月21日(金)よりシネマート新宿他にて限定公開
荒木宏文
1983年兵庫県出身。2004年、第1回「D-BOYSオーディション」で最終選考に残り、俳優集団D-BOYSに加入。
2005年1月「ミュージカル『テニスの王子様』」で2代目乾貞治役を務め注目を集める。その後、舞台、映画、アーティスト活動と幅広い分野で活動し、2.5次元舞台では第一線を走っている。
Styling = Shuichi Ishibashi
Hair and Make-up = Junko Kobayashi
ジャケット ¥27,500、シャツ ¥20,900、パンツ ¥19,800(SOUTH2 WEST8 TEL: 011-280-7577) ミュール ¥50,600(ENGINEERED GARMENTS TEL: 03-6419-1798)
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