その革新の道のりにおけるひとつの到達点であり通過点がメジャー1stアルバム『HOLLOW』だ。デジタルは全13曲収録。CDにはボーナストラックとして第2のBiSHを作るオーディション企画「BiSH THE NEXT」の課題曲「Patient!!」のセルフカバーが収録されている。
1曲目の「hollow out (intro)」はプロローグ的な約1分半のインストゥルメンタル。静謐と猥雑が混在したようなトラックは、ここから始まる新たなカオスを表しているかのようだ──と思ったら、すぐさま(sic)boyのメタリックなシャウトが轟き、ハードロック調の「shockwave」に突入。光と闇が交差する憂鬱なリアルライフを、軽快に疾走するビートに乗せてシャープなラップで表出させる。続く「living dead!!」では、耽美的なポストパンクで「自分は愚かで呪われたspiderだが飛べる、そして君も」と手を差し伸べる。先行配信された「sober」でファンキーに退廃的な世界を描いた後は、KMとのゴールデンタッグが始まったEP『(sic)s sense』収録曲「(stress)」をベースにした「(stress)2」を展開。鍵盤と不気味に浮遊するラップが交わり、ミステリアスな叙情性を醸し出す。
中盤に収録された「Miss You feat. Vernon of SEVENTEEN」はアルバムのハイライトのひとつだ。SEVENTEENのメインラッパーであるVernonは以前から(sic)boyの新曲をInstagramでシェアする等、SNSでの交流があったことから実現したコラボレーションだ。プロデュースはもちろんKM。
その次の「幽霊船 feat. Daichi Yamamoto」もまた良い。スローテンポのジャジーなトラックに気だるく浮遊する(sic)boyのラップが乗り、Daichi Yamamotoのスモーキーなラップパートにバトンが渡され、幽霊船のごとく放浪する二人の姿が浮き上がる。
ギターとTR-808の音色が印象的なトラックに乗せて灰色の時代における希望を紡ぐメッセージが放たれる「Afraid?? feat. nothing,nowhere.」、(sic)boy のデスボイスから始まる「Dark Horse feat. JESSE(RIZE / The BONEZ)」、孤独に加速する未来をヘヴィなバンドサウンドに乗せた「Falling Down」と続け、最後はアコースティックギターによるメロウな「Wasted」。現世の最果てで来世に期待を膨らませ、〈目を覚ましたくはないよ Im sorry Im wasted〉と歌われる、まさに”HOLLOW”な楽曲だ。
ジャンルや国境を越えたサウンドの引き出しはさらに多彩に。そして、瞬発力豊かにさまざまな表情を見せる(sic)boyのラッパー/シンガーとしての底知れなさが詰まっている。アルバムというアートフォームによるストーリーテラーぶりも深化し、より多くにリーチするであろう幅広さをも宿した『HOLLOW』は、ロック×ヒップヒップという軸を強固にしながらも、ボーダーレスな時代における新たなメルクマールとなり得る作品だろう。
<INFORMATION>

『HOLLOW』
(sic)boy
add. some labels
発売中
配信リンク:
https://sicboy.lnk.to/HOLLOW