ソニックマニアとサマーソニックにシャイガール(Shygirl)が出演、華やかなパフォーマンスと狂乱のグルーヴでフロアを盛大に揺らした。

サウス・ロンドン出身、セガ・ボデガやクク・クロエとともにレーベル兼コレクティブ〈NUXXE〉を立ち上げ、自ら先鋭的な楽曲をリリースしはじめたのが2016年のこと。
近年盛り上がりを見せるイギリスのアンダーグラウンドなダンスミュージック・シーンでめきめきと頭角を現し、ファッションブランドとのコラボレーションなどでも注目を集めながら、時代のアイコンとしてスターダムを駆け上がってきた。昨今はFKAツイッグスやアルカ、ビョークといったビッグネームとも作品を制作し求心力を高め続けている。サマーソニック当日、ライブの興奮も醒めやらぬ中、話を訊いた。(質問作成・構成:つやちゃん 取材:小熊俊哉)

―素晴らしいライブでした! 普段、ご自身のパフォーマンスについて大切にしていること、こだわっているポイントはどういったところにありますか?

シャイガール:私はオーディエンスとのつながりを一番大切にしてる。みんなの様子を見てるし、ある意味、会話をしようとしてるんだよね。新しいライブの度に、歌を通して目の前のファンとコミュニケーションしている感覚かな。


―声を楽器のように扱うアプローチが印象的でした。別のインタビューでは、読書が好きで様々なキャラクターに没頭してきたとおっしゃっていましたが、多彩な声色や歌唱法を駆使しているのはそういった影響もあるのでしょうか。

シャイガール:たとえば、苛立ってる時の声は低くなるだろうし自信がないときは軽くなるように、感情のエネルギーの方向性によって声は変わる。あとヘッドボイスをうまく操ることが重要だと思っていて、それはシアターパフォーマンスに近いかな。私は主人公で、1人で20パターンくらいの主人公を演じる、みたいな感じ(笑)。

―ちなみに、影響を受けたシンガーというと誰でしょう?

シャイガール:サウンドというより、ペルソナ的存在としての憧れはマライア・キャリー
あとは最近ビヨンセのライブを観たんだけど、彼女はもはやアスリートだなって思った。溢れるエネルギーや、ライブにすべてを捧げている姿には本当に刺激を受ける。私は到底そのレベルには達していないけど、ずっと憧れの存在。

Shygirlが日本で語る 妖精のような浮遊感、ビョークからの学び、XGへの熱視線

ソニックマニアのライブ写真 (C)SUMMER SONIC All Rights Reserved.

―そもそも、あなたがShygirlと名乗って音楽活動を志すことを決めた、一番大きなきっかけはなんだったのでしょう?

シャイガール:私はもともとシャイだった。しかも、女性として生まれて理想の女性像を演じなきゃいけないっていうルールにも縛られていた。でも時々子供のように何のためらいもなく色々なことにトライする中で、心地よくないことも知ることになるけど、自分自身を強くするものと出会うことだってある。
私の場合、音楽と出会って、良い方向に自分の予言を成就させる力が働いたんだと思う。つまり、私はシャイだったけど、音楽によって自分にすごく自信を持つことができたっていうこと。

―作品はクラブサウンドでありながらも常に背景はジャンルフルイドで、様々な音楽性が折衷されています。という前提の上で、その中でも特に多大な影響を受けた音楽を挙げるとしたら何でしょうか。

シャイガール:それは、絶対にポップ。私は音楽を作るよりもリスナーだった期間のほうがずっと長くて、ラジオのヘビーリスナーだった。
どんなジャンルであっても、ずっと聴いていたんだよね。だから、自分で音楽を作り始める前は、どちらかというと流行の音楽を追っていただけだった。でも、活動を始めてからは、自分は誰から影響を受けているのかということを深く追求するようになった。とは言え、結局は私のルーツはポップなんだよね。多くの人に音楽を届けたいし、どんなサウンドであっても私の感情を伝えたい。音楽でみんなをつなげたい。
そういうことをポップミュージックはいつも叶えていると思う。気取ってなくて、リアルで、エモーショナル。そして、もちろん楽しい。やっぱり、音楽は楽しくなくちゃね。

〈Ethereal〉な世界観、ビョークからの学び

―セガ・ボデガやダニー・L・ハール、アルカ、ムラ・マサなど多くの人とコラボレーションされています。様々な方と制作することで、ご自身の音楽家としての特徴で見えてきたものはありますか?

シャイガール:確かに、コラボレーションは自分の声を理解したり、本来やりたいことが何か私自身について振り返ったりする機会になってる。
アルバム制作を終えた時、私は何者かってことがはっきりと理解できたし、アルバムは当時のタイムカプセルのような存在になった。今、新しい音楽に取り組んでるけど、以前よりもエグゼクティブ・プロデューサーとして意思決定やリスクを負う覚悟ができるようになったし、完成を見届けるのを楽しみにしてる! 今までやってきたことを誇りに思っているし、もちろん、それは私を支えてくれたコラボレーターたちのおかげでもある。

ライブのハイライトとなった「Heaven」は、ソニックマニアに出演したムラ・マサ、キャロライン・ポラチェックにも携わるダニー・L・ハールが制作に参加

―Spotifyの公式プレイリスト〈Ethereal〉が継続的にあなたの曲をピックしている通り、シャイガールの作品には天使・妖精のような浮遊感を感じます。タイトルも”Nymph”や”Heaven”など天使や妖精を彷彿とさせるモチーフが多いですよね。ご自身では、自らの音楽としてEthereal(エーテル的)なものが生まれる背景をどのように捉えていますか?

シャイガール:エモーションは時折、まるで聖書の中のストーリーのようなパワフルさを発揮して、人間の身体を超えていくように感じることがある。その感情って代々多くの人たちにも起こってきたことで、たくさんのキャラクターや表現方法に影響を与えてきたんだと思うと、安心感を覚える。私たちがどうしてそういった感情を持つのか、それには何か理由があると思う。天使や妖精、誘惑、願望の概念を知れば、自分の感情に折り合いをつけて自分を納得させることもできる。そういうふうに考えることに私はなんのためらいもないし、みんなと共有できる、人間の特別な資質の一つだとも思う。私には幼い頃から自分を理解しようとする時にいつも語りかけてくるキャラクターがいて、そういった定義できないようなミステリアスな存在に惹かれてる。

―Etherealな世界観について、あなたが共感を覚えるアーティストや作品は?

シャイガール:やっぱりビョーク。彼女と同じ時間軸にいるなんて信じられない! こんなに影響を受けた人と同じ時間を生きられるなんて、まさか想像しなかった。サウンドだけじゃなくて、私の人生にも影響を与えたアーティスト。子どもの頃にビョークの音楽を聴いて、私は居場所を見つけることができた。別にどこかに逃げようとしていたわけじゃなかったんだけど、存在を認めてくれるような、安心できるような居場所だった。この世界にいて、Etherealな空間にアクセスできるってことを教えてくれたんだよね。ただの逃避じゃない。それは、あなたがいる場所と実際につながるということだから。

―今年の春に「Woe」のビョーク・リミックスをリリースされましたね。自分の曲がリミックスされたものを聴いて、あなたはどのような発見を得ましたか?

シャイガール:まず、ビョークの方からアプローチしてくれたってことが本当に幸せ! 少しの言葉を交わしただけで、あとはこちらを信頼してくれた。それほど貴重なことってないと思う。ステム(楽曲を構成するトラックのグループ)ができて、ボーカルを受け取った時のことーー想像できる? ファンが歌手のボーカル音源をゲットするなんて! クレイジーな経験だった。でも、私にとってビョークというアーティストの期待に応えようというプレッシャーは心地良くもあった。相手にすばらしい機会を与えて、信じることの大切さ。音楽業界の多くは、相手との信頼関係で動いていると思う。自分を信じるだけじゃなくて、誰かが「きっとあなたならできる、美しいものを生み出せる」って言ってくれることで、それが原動力になったりするものだよね。

―しかも、あなたが尊敬する相手から……!

シャイガール:ええ! ほんとに信じられないよね? デモができあがった時、 セガ(・ボデガ)が送ってくれたの。私はロサンゼルスにいて、車の中で窓の外を眺めながら、”Oh my gosh…”ってうわの空だった(笑)。こんな貴重な瞬間を味わえたことに、本当に感謝してる。

〈PC MUSIC〉と〈NUXXE〉について、XGへの熱視線

―時代を代表する先鋭的なミュージシャンとして紹介される一方で、ファッション面でもアイコニックな存在として扱われることが多いと思います。ご自身の中ではどのような気持ちでその役割を引き受けていますか?

シャイガール:普段はトラックスーツでくつろいでるから、そういったイメージを持たれてるってちょっと変な感じだよね(笑)。でも、ファッションは自己表現であって、アーティストとして表現の方法に関わることでもある。それから、ファッションには変化をもたらすパワーもある。普段着からステージの衣装に着替えた途端、スイッチが入るよね。やっぱり普段着でステージに上がってパフォーマンスできるとは思えないし、そういったファッションのパワーは、この世界で時折必要だと思う。あと、クラフトマンシップについてもリスペクトしてる。どうやってファッションを表現の一部にしようかってことは常に考えていて、それは音楽への好奇心と似ている。きっと、ファッションに憧れる人と音楽に憧れる人の間にはかなり類似点があるように思う。両者とも、現実世界とイマジネーションの世界を融合させようとしている。私は、その2つを結ぶパイプになりたいと思ってる。

Shygirlが日本で語る 妖精のような浮遊感、ビョークからの学び、XGへの熱視線

Photo by Angela Steps

―先日、レーベル〈PC MUSIC〉が活動を終了するというニュースがありました。あなたはレーベルと近い位置で活動してきましたし、所属ミュージシャンとの交流もありました。改めて、PC MUSICから受けた影響を今振り返ってどのように感じていますか?

シャイガール:音楽業界に変化を与えたっていうことを自分たちで認識することはとても大切だし、アーティストとして自分たちが築いた世界から離れたいと思ったのなら、それに従うことは自然だよね。一時代を築いた多くのアーティストたちが方向転換するのって、よくあることじゃない?〈PC MUSIC〉は、確実に一つの時代を作った。そこから離れてまた新しい実験を続けたいっていう考えは、容易に想像できる。アーティストたちは当初からかなり成長しているし、まだまだ先の景色を見たいんじゃないかな。正しい判断だと思うし、それは、私たちへのギフトだね。次に何を生み出してくれるのか楽しみにしてる。

―あなたは〈NUXXE〉の創始者としても知られていますが、今はレーベルの運営にどの程度関わっているのでしょうか?レーベルの今後の構想は何かありますか?

シャイガール:レーベルのアーティスト・アンド・レパートリー(A&R)は一時的にストップしていて、今は自分たちの活動にフォーカスしている。レーベルは私にとってパーソナルなもので、一度も誰かに渡そうと思ったことはない。私とセガ(・ボデガ)、クク・クロエとのフレンドシップから始まって、私たちの音楽への情熱と、自分たちで音楽を作りたいっていう好奇心から全てがスタートした。私たちのレーベルからリリースしたいというリクエストがたくさん来るんだけど、でも私も業界のことを理解してるわけじゃないでしょう? とくに到達地点があるわけでもなく、レーベルを始めた。だから、試行錯誤の日々。レーベルの周りでコミュニティが形成されていく様子を見るのはとても面白くて、光栄なことだと思っている。今、私たちはそれぞれの個人のキャリアの行先を直感的に考えようとしていて、それって今後アーティストを育てたり誰かにプラットフォームを提供したりっていう時に絶対に役立つはず。レーベルを完全に止めるっていうことはしたくないけど、キャリアについて模索してる最中に、別のプレッシャーを感じるのは正しい判断とは言えない。今のこの忙しさも、ありがたいと思ってるしね。だから、止めることなく裏で静かに活動してるって感じかな。

―ありがとうございます。最後に、あなたが注目している日本のアーティストや、好きな日本のカルチャーがあったら教えてください。

シャイガール:XGっていうガールズグループのファンなの! 彼女たちのヴィジュアルは最高! ご存知のとおり、私はヴィジュアルにうるさいのよ(笑)。XGは世界観をとてもうまく表現していると思う。恐らくグローバルマーケットを見込んでいると思うんだけど、インターナショナルな雰囲気も感じるよね。MVでコラボしてた韓国のフォトグラファーも好みだった。そうね……今知っているのは、彼女たちくらい。最近、ずっと自分の音楽のバブルに立ち会っていて……ちょっと顔を上げてみると「今、一体何が起こってるの?」っていう具合(笑)。だから、今日はようやくNewJeansを観ることができたんだ。XGには機会があれば会ってみたい!

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