千葉県誕生150周年記念事業「百年後芸術祭~環境と欲望~内房総アートフェス」が、内房総5市(市原市、木更津市、君津市、袖ケ浦市、富津市)にて3月23日より開催されている。

本フェスは、「LIFE ART」「LIVE ART」の2つのイベントを両軸としており、アートを主とする「LIFE ART」では、国内外で活躍する気鋭の現代アート作家を招聘。
絵画、彫刻、映像、インスタレーションなど様々な作品を展示している。一方「LIVE ART」は、木更津の「KURKKU FIELDS(クルックフィールズ)」をはじめ、4つの会場で開催。櫻井和寿やスガ シカオ、宮本浩次、アイナ・ジ・エンド、荻野目洋子、綾小路 翔らのスペシャルライブが、小林武史によるプロデュースで行われる。

「通底縁劇・通底音劇」と題し、「つながるはずのないものがつながる、つながっている」をコンセプトに、音楽だけでなくダンスやドローンアートなどを組み合わせた総合表現を用いることで、小林は何を伝えようとしているのだろうか。

─千葉県誕生150周年記念事業の一環として、百年後を考える誰もが参加できる『百年後芸術祭~環境と欲望~内房総アートフェス』が3月23日より開催されています(5月26日まで)。本芸術祭の総合プロデューサーを務める小林さんは、芸術祭の会場の1つである「KURKKU FIELDS(クルックフィールズ)」(木更津市)の代表でもあります。そもそもクルックフィールズは、どのような経緯で設立され、今回の芸術祭へと繋がっていったのでしょうか。

小林武史:ap bank(小林武史、櫻井和寿 、坂本龍一の3人が拠出した資金をもとに、環境保護や自然エネルギー促進事業、省エネルギーなど様々な環境保全のためのプロジェクトを提案・検討している個人や団体へ低金利で融資することを目的に設立された非営利団体)の活動を続けていく中で、これからの人や社会の豊かさを提案していく「場」を作ろうと場所を探していた時があって。

僕はスキューバダイビングもやるのですが、例えばダイビングスポットのある場所を訪れると、そこには普段スタジオに閉じこもって作業している生活とは真逆の暮らしがあるわけです(笑)。太陽光からのエネルギーの循環、そこから始まる暮らしの豊かさを思い出すような場所が、今の僕たちには必要なのではないかと。そんな中、ap bank fesに関わってくれている方のご縁で見つけたのが木更津にある約9万坪の広大な農場だったんです。

─それが、ap bankの理念を実践する場所ともいえる、KURKKU FIELDS設立の経緯だったのですね。


小林:最初は有機農業から始まり10年ほど続けていく中で、いよいよお客さんを招き入れようと2019年秋にオープンしたのが、「農」と「食」と「アート」を融合した複合施設クルックフィールズでした。そこを起点に内房総5市(市原市、木更津市、君津市、袖ケ浦市、富津市)や、千葉県と繋がっていったわけです。

一方、僕が尊敬しているアートディレクターの北川フラムさんが、2014年から『房総里山芸術祭 いちはらアート×ミックス』という芸術祭を開催されていて、そことの「つながり」もイメージしていました。よりスケールアップしていくというか。今回、『百年後芸術祭』でアートの総合ディレクターを北川さんにお願いしたのもそういった経緯がありました。

─なるほど。

小林:僕らはもう存在していないであろう、100年後の世界をイメージすること。経済的合理性や自己責任ばかりを求めるのではなく、自分と自分以外の何かとの「繋がり」を意識すること。そういったことが『百年後芸術祭』のテーマになっています。

「つながるはずのないものがつながる、つながっている」

─『百年後芸術祭~環境と欲望~内房総アートフェス』は、「LIFE ART」「LIVE ART」の2つのイベントを両軸としており、音楽を主とする「LIVE ART」を「通底縁劇・通底音劇」と名付けたのも、今おっしゃっていただいたような経緯があったからなのですね。「通底」という言葉は、アンドレ・ブルトンの『通底器』からヒントを得たものだとお聞きしました。「つながるはずのないものがつながる、つながっている」ということをイメージしているそうですが。


小林:僕らがap bankを作ってからもう20年以上経つのですが、当時予想していた未来よりも深刻な状況になっています。例えば気候温暖化がもたらす深刻な変化について、もはや疑いようのないところまで来ていることを世界中の人たちが感じているはずです。左とか右とか、大企業とか小さなコミュニティとか、そういう次元で考える問題ではない。一進一退は当然ありますが、問題解決に向け工夫して乗り越えていくためには、「つながるはずのないものがつながる、つながっている」ということをイメージすることが大切なのではないかと。

実際、つながってないものなんてないんですよ。例えば歴史的な要因による戦争や、自然災害による物理的な分断だけでなく、コロナ禍で起きたさまざまな分断はあっても、根底では我々は繋がっているし、分かり合えるのではないかと感じています。今、この時期に「通底」をテーマにライブを行なうことの意味は、「つながるはずのないものがつながる、つながっている」ということを提示したかったからなんです。

─「通底縁劇・通底音劇」の内容についても具体的にお聞かせください。小林さんプロデュースによるスペシャルライブが4会場で行われ、その第1弾が4月6日に富津公園ジャンボプールにて開催される、アイナ・ジ・エンドさんをフィーチャーしたアートパフォーマンスライブ『不思議な愛な富津岬』です。

小林:『不思議な愛な富津岬』というタイトルは、アイナはもちろん『不思議な国のアリス』にも引っ掛けていて(笑)。富津公園ジャンボプールの一角で、今まで見たこともなかったようなサイケデリックかつファンタジックな世界観を作り出す予定です。最近は俳優としてヴィム・ヴェンダース監督作『Perfect Days』や、Netflixドラマ『First Love 初恋』にも出演し異彩を放っているダンサーのアオイヤマダもメンバーとして名を連ねるパフォーマンス集団「東京QQQ」も要注目です。


実は先日、『通底(ツーツーテーテー)大熊町~復興&交流イベントおおくま学園祭2024』というイベントを、未だ帰宅困難な地域が残る大熊町で開催したのですが、スガ シカオくんや安藤裕子さん、CENTらと共に素晴らしいパフォーマンスを見せてくれたアオイツキ(アオイヤマダと高村月の二人からなるポエトリーダンスパフォーマンスユニット)もメンバーの一員である東京QQQと、アイナ・ジ・エンドが一体どんな化学反応を織りなしていくか。ひびのこづえさんというコスチューム・アーティストの衣装にも期待してもらいたいですね。

─4月20日、21日は、メインステージとなるクルックフィールズで、櫻井和寿さん、スガ シカオさんを中心としたライブ『super folklore(スーパーフォークロア)』が開催されます。

小林:Mr.Childrenの楽曲はもちろん、僕がプロデュースしてきた櫻井くんの、とにかく名曲揃いの作品たちを「再解釈」してみようと。櫻井くんの楽曲が好きな人たちにとっては、それだけでも大満足してくれるものになると思います。「フォークロア」と名付けているように、テーマは個の営みと社会や他者との関係性。例えば、未知なるものに対する敬虔な思い……例えば「信仰」や「宇宙観」「スピリチュアリズム」は、個の営みに内在していたりもする。つまり個と全体は真っ二つに分断されているのではなく複雑に関係しているということを、クルックフィールズという場所で「組曲」として届けたい。そのためにはスガ シカオくんのある種の「毒味」というか、日常を切り取る独特の視点が必要だと思ったので声をかけさせてもらいました。2人とも積極的に参加してくれていて、今とてもワクワクしていますね。

また、『super folklore(スーパーフォークロア)』にはButterfly Studioというクリエーター集団も出演します。ゲストボーカリストのHana Hopeや東京QQQの⾼村⽉、KUMIらをフィーチャーしながら進んでいく。
名和晃平くんが手がけるドローンアートも組み込まれた、通常のライブパフォーマンスとは全く違う総合表現になると思います。

─君津市民文化ホールでは、5月4日、5日に宮本浩次さんを中心としたライブ『dawn song(ドーンソング)』が開催されますが、こちらはどんな内容になりそうですか?

小林:宮本くんは、数年前に女性の歌う楽曲ばかりカバーしたアルバムを2枚リリースして(『ROMANCE』『秋の日に』)、僕はアレンジャーとして参加したのですが、そこでは昭和の楽曲もたくさん取り上げたんですよ。今回「通底」をテーマに掲げると決めた時、そういう「昭和的なもの」を掘り起こすことも必要だと。思えば内房総は、戦後の高度経済成長を象徴する「京葉工業地域」でもあるんですよ。そこに宿る「悲喜こもごも」を、昭和の楽曲に投影させるというか。敗戦から立ち上がり「dawn(夜明け)」を迎えていくような、そんな力強いライブになったらいいなと思っています。

昭和の歌謡曲といえば、ザ・ピーナッツというグループがあって、コーラスもできるし歌い分けもデュエットもできる、素晴らしく機能的なグループだと僕は思っていたのですが、彼女たちをオマージュした落花⽣ズという2人組も、『dawn song(ドーンソング)』に出演してくれます。そのうちの一人であるヤマグチヒロコは、僕が中沢新一さんと石巻市で『Reborn-Art Festival 2019』という芸術祭を開催したとき、宮沢賢治をテーマにしたオペラ『四次元の賢治』にも出演してくれて。満島真之介が宮沢賢治を演じ、コムアイやSalyuら錚々たるメンツが集まったのですが、その中でもヒロコは引けを取らない演技を披露してくれて。彼女のパフォーマンスも非常に楽しみにしています。

小林武史が語る、「通底」をテーマにライブを開催する意味

Photo by Takuya Maeda

何気ない日常の中に「ユニバース=宇宙」を感じる

─そして最後は『茶の間ユニバース』。5月12日に袖ケ浦市⺠会館にて荻野目洋子さん、MOROHAをフィーチャーしたイベントです。


小林:先ほどの『super folklore(スーパーフォークロア)』の話にも通じますが、何気ない日常の中に「ユニバース=宇宙」を感じるというか。例えば茶道の茶室のように、色々なものが色々な役割をもって融通無碍に重なり合い、その中に生じる小さなユニバースがテーマです。「日常」と真摯に向き合い表現をしているアーティストとして、まず思い浮かんだのがMOROHA。凛としたギター1本で演奏していく感じが、「茶の間ユニバース」を象徴する存在のような気がしたんですよね。そして、彼らと通底する存在として、荻野目洋子さんをキャスティングしました。

─意外かつ、ユニークな座組です。

小林:荻野目さんご本人もすごく興味を持ってくれているので、今からとても楽しみです。そして先日発表になりましたが、内房総の主ともいえる(笑)、氣志團の翔やん(綾小路 翔)が出演してくれることが決まりました。

翔やんとは、以前からChim↑Pomのエリイも含めて繋がっていたんです。彼の中にはちょっと面白い禅問答のような要素があって、そういうところを僕のアレンジやプロデュースによって、宇宙的なところにまで引っ張っていけたらと思っていますね。そして、ここにもアオイヤマダが登場してくれる。どんな化学反応が生まれるのか、全く想像がつかないからこそ楽しみです。


─お話を聞いていると、小林さんが描く未来についてのオプティミスティックなビジョンは、次世代アーティストとの積極的な交流によって生まれているように思いました。メインストリームで活動しながら、その一歩外側にあるオルタナティブな動きにも常にアンテナを張っているのは、どのようなモチベーションからなのでしょうか。

小林:メインストリームはメインストリームでとても大事ですが、そことはまた違うところで面白い子たちはたくさん出てきているし、彼ら彼女たちをもうちょっとこう……フックアップできたらとは常に思っています。それもやっぱり、「つながるはずのないものがつながる、つながっている」というイメージを提示するうえでも大切なことなのではないかと。いずれにしても、今は頑張りどきなのでしょうね。

小林武史が語る、「通底」をテーマにライブを開催する意味

Photo by Takuya Maeda

小林武史が語る、「通底」をテーマにライブを開催する意味
小林武史が語る、「通底」をテーマにライブを開催する意味

小林武史が語る、「通底」をテーマにライブを開催する意味
小林武史が語る、「通底」をテーマにライブを開催する意味


総合プロデューサーに音楽家・音楽プロデューサーの小林武史、各地の芸術祭をディレクションする北川フラムをアートディレクターに迎え、千葉県内房総5市(市原市、木更津市、君津市、袖ケ浦市、富津市)で開催している「百年後芸術祭~環境と欲望~内房総アートフェス」。小林武史プロデュースによる音楽とアートを融合したライヴパフォーマンス「通底縁劇・通底音劇」のチケットは絶賛発売中。

「百年後芸術祭~環境と欲望~ 内房総アートフェス」

会期:2024年3月23日(土)-5月26日(日)
定休日:火・水曜(4月30日、5月1日は除く。一部施設は通常営業)
開催時間:10:00-17:00
*作品によって公開日・公開時間が異なる場合がございます。
チケット(税込):一般3,500 円/小中高2,000 円/小学生未満無料
百年後芸術祭:https://100nengo-art-fes.jp/uchiboso/ 
通底縁劇・通底音劇:https://100nengo-art-fes.jp/event/通底縁劇・通底音劇/
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