新東京が、ニューEP『新東京 #5』をリリースした。杉田春音(Vo)、田中利幸(Key)、大蔵倫太郎(Ba)、保田優真(Dr)の4人によって構築される楽曲は、即興演奏的なアンサンブルにキャッチーな歌メロが乗ったポップネスが特徴的だが、曲が生まれる過程はリーダーの田中を中心にデータのやり取りから紡がれているという。
―台湾のフェス〈ROCK IN TAICHUNG 2024〉に出演して帰国したばかりですよね。フェスはいかがでしたか?
保⽥優真(Dr):野音の3倍ぐらいの会場で、今まで一番多い人の前で演奏できて、嬉しかったです。本当に歓声が大きくて、あんなに大きい人の声を聞いたことがなかったので、めちゃくちゃテンションが上がってました。ライブではソロのセクションが多いんですけど、ソロが始まると「フォー!」ってノッてくれるので、すごくやり甲斐がありましたね。
杉⽥春⾳(Vo):ある意味、日本よりもアウェーじゃない感じだったんですよ。日本だと、例えば「このバンドが好き」とか、めちゃくちゃ琴線に触れたバンドに関しては、知らなくても応援したりすると思うんですけど、興味ない人は結構後ろの方でボーっとしたりすることもあると思うんです。台湾では本当に会場が一丸になっていたのが印象的でした。僕たちは台湾でほとんどやったこともないし誰も知らないのに、あんなにみんなで一緒の動きをしながら盛り上げてくれて、実家みたいな安心感がありました(笑)。
⽥中利幸(Key):本当に会場がすごくデカかったし、歓声がモニターを飛び越えて聴こえてくるぐらいだったので、すごく嬉しかったです。あとは、もうちょっと小箱でもやってみたいなって思いました。
⼤蔵倫太郎(Ba):すごく気持ち良かったんですけど、めちゃくちゃ暑くて、ビシャビシャでした。とにかく暑いことを伝えようとして、「Im Hot」って言ってたんですけど、それってめっちゃエロい意味だったみたいで(笑)。そういう英語の学びがありました。
―そうした巨大なステージでのライブがある一方で、9月にはビルボードライブ横浜に初出演しました(「ナノ・ユニバース」創立25周年記念イベント【S.A.R.×新東京 at Billboard Live YOKOHAMA 2024】)。1stステージを拝見させてもらったのですが、ああいう会場でのライブはいかがでしたか?
杉⽥:ライブレストランでやった経験がそんなになかったので、特に1stステージはちょっと探り探りというか、どういうテンションでいくのが正解かわからなかったんです。でも、良い意味での落ち着きみたいなのはあったかなと思っていて。無理に熱量を上げたり、手を叩いてもらったりとかそういう必要がないっていうか。体の力を抜いて、良い音を鳴らすことが求められているっていうことを楽しめたと思います。
―⼤蔵さんは、頻繁にステージ前に出て弾いてましたよね。
⼤蔵:ああいう、座って美味しいごはんを食べながら聴いている瞬間がなくなるときが一番興奮するんですよ。
―1stアルバム『NEO TOKYO METRO』はすごくキャッチーな作品だと思ったんですけど、『新東京 #5』は幾何学的でちょっと難解な印象でした。このEPシリーズとフルアルバムの違いって明確に線引きされているわけですか。
田中:幾何学的なサウンドみたいなものは、今回はすごく意識していました。ただ、難解にしようっていうつもりはなくて、好き勝手にやっていたらこういう感じになったんです。EPのシリーズとアルバムの違いはあんまりなくて、アルバムはこれまでの新東京を1回振り返って全部新曲で作ってみたんですけど、今回は4曲という枠の中で、色々作ってみて新しいことに挑戦しようっていうのがありました。
―今回の「メタ的な視点」というテーマはどこから出て来たのでしょうか。
大蔵:遠征中の車の中で、たわいもない話をしている中で、たまたま「『マトリックス』とか、メタ的なものって面白くね?」っていう話になって。『ソフィーの世界』って本があるんですけど、それも結構メタっぽい展開があるみたいな話をしていて、そこら辺からぼんやり決まって行った感じです。
―「n+1」という曲で、こちらに話しかけてくるメタ的な瞬間がありますよね。これはどうやって出来上がったんですか。
杉田:4作品全部メタをテーマにしつつ、別の切り口ではメタに関連した概念とかに触れているんですけど、「n+1」は、特にn次元とn+1次元とn-1次元の3つの次元を描きたくて、それを今聴いている人に体感させたかったんです。
―曲の中から話しかけてくるってちょっとドキッとするし、面白いですよね。他にどんなパターンを考えていたんですか?
杉田:最初、大蔵も喋ってました。
大蔵:僕が喋るパターンは、聴いている人の靴下の色を当てるっていうやつで。当たったらビックリするじゃないですか?
一同:(笑)。
大蔵:結果、それはボツになりました(笑)。
―結果、ベースソロだけ残ったわけですね(笑)。この曲も含めて、新東京の曲づくりのアプローチってどこから始まるのでしょうか? よくある話だとまずリズムを決めて始まるってこともあると思うんですけど、このバンドではどうなんでしょう。
保田:リズムから決めるっていうのは、うちではないですね。曲によって流れが違うんですけど、今回の『新東京 #5』は、トシ(田中)が作ったデモが送られてきて、例えばビートができてて、そこに対して「もっと別のビートは考えられますか?」みたいに投げてきて、「こういう可能性もあるかもね」みたいなものを僕が提示して、「でもそれ良くないから使いません」とか(笑)、「それはいいから採用します」みたいなやり取りをして出来上がった感じが今回ドラムの作り方でした。
―ほぼデータのやり取りでアレンジが完成しているんですね。
田中:「新東京 #3 (Organic)」というEPの2、3曲は、スタジオでみんなで即興でやりながら、ライブバージョンそのままで使ったんですけど、基本的にはデータのやり取りでやっています。それは最終的にみんなの耳に届くデジタルということもあって、音に細かくフォーカスして一番良い音を探すという意味考えています。
―ライブを見て、ジャムセッションで即興演奏を繰り返してアンサンブルを積み上げてきたバンドなのかなと思っていました。
田中:ライブを観た人から、よくそういう感想をいただくんですけど、ライブの新東京と音源の新東京はまったく別なので。最近になってライブで自分たちが曲をものにして、そういうふうな観られ方をするようになってきたと思っているので、それはそれで良いかなと思ってます。「新東京 #3 (Organic)」みたいなセッションで曲を作るっていうのも、またありかなとは思ってます。
―歌詞は、曲が出来上がった段階で乗せるんですか?
杉田:いや、先に詞があります。(田中と杉田の)どっちかが持ってくることもあれば、一緒に話し合って決めることもあるんですけど、そのテーマから割といろんなパターンで、若干Aメロっぽいな、サビっぽいなみたいなフレーズから作詞したり、小説の一節みたいな散文を書いてみたり、単語の羅列だったりとかいろんな形式のメモがあって、それをトシに渡すと形にしてくれるので。そこでできたフォーマットに2番とかを合わせていったりします。だから詞先といえば詞先だしそうじゃない部分もあります。
―「This Reality」も杉田さんが歌詞を書いてますね。
杉田:前回のアルバムにもあった、”表現することを厭わない”みたいなテーマがちょっと引き継がれてるんです。何の制作経験もなかった自分が新東京に加入して最初のシングルCDを作るまでの経緯だったりとか、表現したことがないからって言って諦めたんじゃなくて、アーティストと一般人の違いとかを気にせずに踏み込んだ結果、得られたものとか。今こうして新東京として活動していることで固定観念を壊したりしたっていう意味で、1つ上の次元に進んだって解釈していて。表現する前の自分と、そこから表現をするようになった時の次元の変化っていうのを、自叙的なタッチで書いてます。歌詞にクローゼットの話が出てくるんですけど、(”クローゼットの中 シニカルなリアルを嘆いて”)「This Reality」のデモって、トシの家のクローゼットの中でRECしたんですよ(笑)。
―えっどういうことですか?
杉田:クローゼットの中は洋服がいっぱいかかってるので、ハンガーにマイクをかけて、洋服を吸音材にしながら、ボーカルを録ったんです。それが新東京の始まりだったりしたので、そういう要素も入れつつ作ったのが、「This Reality」です。
―面白い発想しますね(笑)。田中さんはどんな音像を考えていたのでしょうか。
田中:音像という意味では、ベースのハーフミュートで、ベロシティ(音の強弱)をデカく弾かないように、本当に触るぐらいの感じでベースが耳元で聴こえてくるみたいな音像を出したかったんです。MIDIで最初にベースラインを作ったんですけど、そのMIDIデータは音量が0から127まであるんです。その中で10ぐらいの音量で絶対弾くようにすると、音量も小さいんですけど、そこから音量をグッと上げるとそれ以外の空気感がより上がってきて、本当に耳元で響いている感じが出るんです。
―田中さんの頭の中に、全部の楽器パートの演奏が浮かんでいる?
田中:基本的にはそうですね。ミックスも自分がやるので、それを前提にアレンジを考えたりします。
大蔵:ライブのときはまた違うんですけど、レコーディングに関して言うとなるべくオーダーに忠実に弾くようにしています。自分はクリエイティビティにはあんまり関わらないって言ったら何ですけど、なるべく作曲者の意向を尊重したいと思っているので。
―「New Dimension」は、それこそ幾何学的で速い曲ですが、どんなことを考えて作ったのか教えてください。
田中:これは一番最初にできた曲で、EP『新東京 #5』を4曲で1つとすると、提示部にあたる曲を想定していました。なので、EPのテーマを大きく見て歌詞を完成させて、音像やアレンジに関してもEPを象徴するような位置にしようと思いました。
―これはまさに、新次元の新東京の入口という感じですよね。めちゃめちゃ速いし、演奏の難易度は高そうですね。
保田:Zepp Shinjukuでやろうって話しているところですけど、かなり難しいです。自分は演奏しながらその曲のテーマを考えたりすることはないんですけど、やっぱり音数が多いので、一音一音、意識が下がっちゃうと演奏がグチャグチャになっちゃうので、丁寧な演奏を心がけてやろうと思ってます。
―「Mirror」も他の曲と同様に田中さんのデモから始まってるんですよね。歌詞も田中さんが書いていますが、どんな意味を込めていますか。
田中:「Mirror」は「n+1」と近しい曲なんですけど、僕たちが創作物をどう作っても、それを鑑賞する側には干渉できないっていうことをどうにかしたいなと思っていて。それこそ、「n+1」の中で、聴いている人に話しかけるとかももちろんそうなんですけど、それの一種で、僕たちが「鏡」というプロダクトを世に出したらどうなるかなと思ったんです。鏡は鑑賞者そのものを映し出すので、僕たちが生み出したn-1という意味ではnに最も近い存在かなと思っていて。グッズでも、鏡面でいろんなものを作ったり、CDのジャケットも鏡面にしようとか思ってます。ジャケットとも関連があるんですけど、僕たちがVRゴーグルをつけているっていうのは、VRゴーグルの中身って第三者が作った別の世界じゃないですか? その中では、創造主の物理が働いていてどんなことでも起こりうる世界だと思うんですけど、それを牛に体験させている僕らと、その中にいる僕だけがカメラ目線に気づいているんです。これは、今世界の人たちがジャケットを見ているっていうことに対してちょっと気づきを得ているっていう表現です。さらにそれを見ている自分が鏡に映るっていう。「数学的帰納法」じゃないんですけど、工夫すれば順番に上に上がることができるよっていうことを表現しています。
―今回に限らず、作品ごとにテーマを掲げて音楽を介して社会課題とか個人の心に気づきを与えたいっていうのが、新東京の大きなコンセプトみたいなところもあるんですか?
田中:いや、EPによっては全然そういうことを意識しないで、新東京として今何を表現したいかみたいなもので作った経験もあるんですけど、今回は特に意識して全体でコンセプトをカッチリ決めた感じです。
―EPのテーマ、グッズやジャケット等を連動させて、それが帰着するのが11月22日(金)にZeppShinjukuで開催する〈ONE-MAN LIVE”NEOVERSE”〉なんですね。
田中:そうです。一番最初に作ったのはZepp Shinjukuのフライヤーだったんですけど、まだ曲もジャケットもできる前で、コンセプトだけは決まっていて。Zepp Shinjukuではどんなことを表現しようかって考えて、ジャケットはこういう風に作ったから、この続きにしたいと思って、VRゴーグルを取り去った牛の視点をフライヤーにしました。
―ここに並んでいるたくさんの牛乳というのは?
田中:その牛が自ら出したものに気づいているっていうことです。ゴーグルの中にも青空と草原がちょっと映っていて、ちょっと前までそこにいたんだっていうことを描いてます。
―Zepp Shinjukuのワンマンライヴを経て、新東京として成し遂げたいこと、目標ってありますか。
杉田:こういうことを言うとおこがましいですけど、ある種、示唆的であったり、洗脳とかこう考えるべきだとかじゃなくて、「こういう考え方が存在するよね」とか、「こういう物の見方があるのを知ってますか」みたいな、思考する機会を提供したいって思っていて。それに気づかずに終わっていく人も多い中で、「こういう捉え方も考えられる」っていうことすら考えてないとしたら、もったいないというか、ちょっと危ないんじゃないかなって思うんです。そういうことに気づくきっかけを与えられる音楽でいたいっていうのは、僕の作詞の面で目指しているところです。
保田:アジアでライブをしたりとか、いろんな国でもっとライブをやってみたいというのはありますね。国によって受け取られ方も違うと思うので、そういうことにすごく興味があります。
大蔵:成し遂げたいことや崇高な思想っていうのは、お任せしてますので、ただ楽しんで楽器を弾ければという思いです。そして、新東京の思想がそこに存在するのなら、それを俺が押してやるよっていう感じです。
田中:今回のEPに関して言うと、今まで機能しなかった考え方に気づいてほしいなっていう気持ちがあって、いろんな曲の中でそれを提示しました。今後の新東京がどうなっていくかわからないですけど、今の流れ的には”表現することを厭わない”っていうことが、アルバムからずっと続いている感じですね。
<リリース情報>
新東京
『新東京 #5』
=収録曲=
1. New Dimension(ニューディメンション)
2. This Reality(ジスリアリティ)
3. Mirror(ミラー)
4. n+1(エヌプラスワン)
<ライブ情報>
「NEOVERSE」
2024年11月22日(金)Zepp Shinjuku(TOKYO)
開演 19:00~(開場 18:00~)
スタンディング ¥4500
https://eplus.jp/sf/detail/3923280001?P6=001&P1=0402&P59=1
Official HP:https://shintokyo.city/
そんな彼らの新作は、11月22日Zepp Shinjukuで開催されるワンマン・ライブに向けて、メタ的な視点をテーマとした4曲によるコンセプトEPとなっている。今作に込めたメッセージについて、メンバー全員に語ってもらった。
―台湾のフェス〈ROCK IN TAICHUNG 2024〉に出演して帰国したばかりですよね。フェスはいかがでしたか?
保⽥優真(Dr):野音の3倍ぐらいの会場で、今まで一番多い人の前で演奏できて、嬉しかったです。本当に歓声が大きくて、あんなに大きい人の声を聞いたことがなかったので、めちゃくちゃテンションが上がってました。ライブではソロのセクションが多いんですけど、ソロが始まると「フォー!」ってノッてくれるので、すごくやり甲斐がありましたね。
杉⽥春⾳(Vo):ある意味、日本よりもアウェーじゃない感じだったんですよ。日本だと、例えば「このバンドが好き」とか、めちゃくちゃ琴線に触れたバンドに関しては、知らなくても応援したりすると思うんですけど、興味ない人は結構後ろの方でボーっとしたりすることもあると思うんです。台湾では本当に会場が一丸になっていたのが印象的でした。僕たちは台湾でほとんどやったこともないし誰も知らないのに、あんなにみんなで一緒の動きをしながら盛り上げてくれて、実家みたいな安心感がありました(笑)。
⽥中利幸(Key):本当に会場がすごくデカかったし、歓声がモニターを飛び越えて聴こえてくるぐらいだったので、すごく嬉しかったです。あとは、もうちょっと小箱でもやってみたいなって思いました。
小箱であの熱狂があったら、どういう感じなんだろうなって。基本的にはデッドな環境が映える曲が多いバンドなので、小さいライブハウスで各々が音楽と向き合って、どういう化学反応が起こるか気になりました。
⼤蔵倫太郎(Ba):すごく気持ち良かったんですけど、めちゃくちゃ暑くて、ビシャビシャでした。とにかく暑いことを伝えようとして、「Im Hot」って言ってたんですけど、それってめっちゃエロい意味だったみたいで(笑)。そういう英語の学びがありました。
―そうした巨大なステージでのライブがある一方で、9月にはビルボードライブ横浜に初出演しました(「ナノ・ユニバース」創立25周年記念イベント【S.A.R.×新東京 at Billboard Live YOKOHAMA 2024】)。1stステージを拝見させてもらったのですが、ああいう会場でのライブはいかがでしたか?
杉⽥:ライブレストランでやった経験がそんなになかったので、特に1stステージはちょっと探り探りというか、どういうテンションでいくのが正解かわからなかったんです。でも、良い意味での落ち着きみたいなのはあったかなと思っていて。無理に熱量を上げたり、手を叩いてもらったりとかそういう必要がないっていうか。体の力を抜いて、良い音を鳴らすことが求められているっていうことを楽しめたと思います。
―⼤蔵さんは、頻繁にステージ前に出て弾いてましたよね。
⼤蔵:ああいう、座って美味しいごはんを食べながら聴いている瞬間がなくなるときが一番興奮するんですよ。
コットンクラブのときもビルボードのときも、最後は結局ウワ~ってなっちゃうっていう感じが良いですね。
―1stアルバム『NEO TOKYO METRO』はすごくキャッチーな作品だと思ったんですけど、『新東京 #5』は幾何学的でちょっと難解な印象でした。このEPシリーズとフルアルバムの違いって明確に線引きされているわけですか。
田中:幾何学的なサウンドみたいなものは、今回はすごく意識していました。ただ、難解にしようっていうつもりはなくて、好き勝手にやっていたらこういう感じになったんです。EPのシリーズとアルバムの違いはあんまりなくて、アルバムはこれまでの新東京を1回振り返って全部新曲で作ってみたんですけど、今回は4曲という枠の中で、色々作ってみて新しいことに挑戦しようっていうのがありました。
―今回の「メタ的な視点」というテーマはどこから出て来たのでしょうか。
大蔵:遠征中の車の中で、たわいもない話をしている中で、たまたま「『マトリックス』とか、メタ的なものって面白くね?」っていう話になって。『ソフィーの世界』って本があるんですけど、それも結構メタっぽい展開があるみたいな話をしていて、そこら辺からぼんやり決まって行った感じです。
―「n+1」という曲で、こちらに話しかけてくるメタ的な瞬間がありますよね。これはどうやって出来上がったんですか。
杉田:4作品全部メタをテーマにしつつ、別の切り口ではメタに関連した概念とかに触れているんですけど、「n+1」は、特にn次元とn+1次元とn-1次元の3つの次元を描きたくて、それを今聴いている人に体感させたかったんです。
やっぱり、メタっていう概念とか僕らが言いたいことと、聴いている人の実生活とのオーバーラップ的な要素がないと、「何か難解なことをやってるな」って思っちゃうじゃないですか? 僕たちが表現したいことが、どうあなたの人生や生活に関わっているのかみたいなところまで示したいっていう思いがありました。その中でn-1次元からn次元に対する干渉みたいなものを実際に何かを仕掛けて表現できないかって考えたときに、出来上がった状態の曲から、今聴いている人に対してリアルタイムで何かを言い合ったりする内容があったら面白いんじゃないかなと思って。元々いろんなパターンがあったんですけど、何かを話しかけて感想を求めたりして、その後「そういえばこの曲から語りかけられるのって意外なことですよね」みたいな感じで去っていくっていう感じにしました。
―曲の中から話しかけてくるってちょっとドキッとするし、面白いですよね。他にどんなパターンを考えていたんですか?
杉田:最初、大蔵も喋ってました。
大蔵:僕が喋るパターンは、聴いている人の靴下の色を当てるっていうやつで。当たったらビックリするじゃないですか?
一同:(笑)。
大蔵:結果、それはボツになりました(笑)。
―結果、ベースソロだけ残ったわけですね(笑)。この曲も含めて、新東京の曲づくりのアプローチってどこから始まるのでしょうか? よくある話だとまずリズムを決めて始まるってこともあると思うんですけど、このバンドではどうなんでしょう。
保田:リズムから決めるっていうのは、うちではないですね。曲によって流れが違うんですけど、今回の『新東京 #5』は、トシ(田中)が作ったデモが送られてきて、例えばビートができてて、そこに対して「もっと別のビートは考えられますか?」みたいに投げてきて、「こういう可能性もあるかもね」みたいなものを僕が提示して、「でもそれ良くないから使いません」とか(笑)、「それはいいから採用します」みたいなやり取りをして出来上がった感じが今回ドラムの作り方でした。
―ほぼデータのやり取りでアレンジが完成しているんですね。
田中:「新東京 #3 (Organic)」というEPの2、3曲は、スタジオでみんなで即興でやりながら、ライブバージョンそのままで使ったんですけど、基本的にはデータのやり取りでやっています。それは最終的にみんなの耳に届くデジタルということもあって、音に細かくフォーカスして一番良い音を探すという意味考えています。
―ライブを見て、ジャムセッションで即興演奏を繰り返してアンサンブルを積み上げてきたバンドなのかなと思っていました。
田中:ライブを観た人から、よくそういう感想をいただくんですけど、ライブの新東京と音源の新東京はまったく別なので。最近になってライブで自分たちが曲をものにして、そういうふうな観られ方をするようになってきたと思っているので、それはそれで良いかなと思ってます。「新東京 #3 (Organic)」みたいなセッションで曲を作るっていうのも、またありかなとは思ってます。
―歌詞は、曲が出来上がった段階で乗せるんですか?
杉田:いや、先に詞があります。(田中と杉田の)どっちかが持ってくることもあれば、一緒に話し合って決めることもあるんですけど、そのテーマから割といろんなパターンで、若干Aメロっぽいな、サビっぽいなみたいなフレーズから作詞したり、小説の一節みたいな散文を書いてみたり、単語の羅列だったりとかいろんな形式のメモがあって、それをトシに渡すと形にしてくれるので。そこでできたフォーマットに2番とかを合わせていったりします。だから詞先といえば詞先だしそうじゃない部分もあります。
―「This Reality」も杉田さんが歌詞を書いてますね。
杉田:前回のアルバムにもあった、”表現することを厭わない”みたいなテーマがちょっと引き継がれてるんです。何の制作経験もなかった自分が新東京に加入して最初のシングルCDを作るまでの経緯だったりとか、表現したことがないからって言って諦めたんじゃなくて、アーティストと一般人の違いとかを気にせずに踏み込んだ結果、得られたものとか。今こうして新東京として活動していることで固定観念を壊したりしたっていう意味で、1つ上の次元に進んだって解釈していて。表現する前の自分と、そこから表現をするようになった時の次元の変化っていうのを、自叙的なタッチで書いてます。歌詞にクローゼットの話が出てくるんですけど、(”クローゼットの中 シニカルなリアルを嘆いて”)「This Reality」のデモって、トシの家のクローゼットの中でRECしたんですよ(笑)。
―えっどういうことですか?
杉田:クローゼットの中は洋服がいっぱいかかってるので、ハンガーにマイクをかけて、洋服を吸音材にしながら、ボーカルを録ったんです。それが新東京の始まりだったりしたので、そういう要素も入れつつ作ったのが、「This Reality」です。
―面白い発想しますね(笑)。田中さんはどんな音像を考えていたのでしょうか。
田中:音像という意味では、ベースのハーフミュートで、ベロシティ(音の強弱)をデカく弾かないように、本当に触るぐらいの感じでベースが耳元で聴こえてくるみたいな音像を出したかったんです。MIDIで最初にベースラインを作ったんですけど、そのMIDIデータは音量が0から127まであるんです。その中で10ぐらいの音量で絶対弾くようにすると、音量も小さいんですけど、そこから音量をグッと上げるとそれ以外の空気感がより上がってきて、本当に耳元で響いている感じが出るんです。
「This Reality」ではそういう部分を意識して作りました。
―田中さんの頭の中に、全部の楽器パートの演奏が浮かんでいる?
田中:基本的にはそうですね。ミックスも自分がやるので、それを前提にアレンジを考えたりします。
大蔵:ライブのときはまた違うんですけど、レコーディングに関して言うとなるべくオーダーに忠実に弾くようにしています。自分はクリエイティビティにはあんまり関わらないって言ったら何ですけど、なるべく作曲者の意向を尊重したいと思っているので。
―「New Dimension」は、それこそ幾何学的で速い曲ですが、どんなことを考えて作ったのか教えてください。
田中:これは一番最初にできた曲で、EP『新東京 #5』を4曲で1つとすると、提示部にあたる曲を想定していました。なので、EPのテーマを大きく見て歌詞を完成させて、音像やアレンジに関してもEPを象徴するような位置にしようと思いました。
―これはまさに、新次元の新東京の入口という感じですよね。めちゃめちゃ速いし、演奏の難易度は高そうですね。
保田:Zepp Shinjukuでやろうって話しているところですけど、かなり難しいです。自分は演奏しながらその曲のテーマを考えたりすることはないんですけど、やっぱり音数が多いので、一音一音、意識が下がっちゃうと演奏がグチャグチャになっちゃうので、丁寧な演奏を心がけてやろうと思ってます。
―「Mirror」も他の曲と同様に田中さんのデモから始まってるんですよね。歌詞も田中さんが書いていますが、どんな意味を込めていますか。
田中:「Mirror」は「n+1」と近しい曲なんですけど、僕たちが創作物をどう作っても、それを鑑賞する側には干渉できないっていうことをどうにかしたいなと思っていて。それこそ、「n+1」の中で、聴いている人に話しかけるとかももちろんそうなんですけど、それの一種で、僕たちが「鏡」というプロダクトを世に出したらどうなるかなと思ったんです。鏡は鑑賞者そのものを映し出すので、僕たちが生み出したn-1という意味ではnに最も近い存在かなと思っていて。グッズでも、鏡面でいろんなものを作ったり、CDのジャケットも鏡面にしようとか思ってます。ジャケットとも関連があるんですけど、僕たちがVRゴーグルをつけているっていうのは、VRゴーグルの中身って第三者が作った別の世界じゃないですか? その中では、創造主の物理が働いていてどんなことでも起こりうる世界だと思うんですけど、それを牛に体験させている僕らと、その中にいる僕だけがカメラ目線に気づいているんです。これは、今世界の人たちがジャケットを見ているっていうことに対してちょっと気づきを得ているっていう表現です。さらにそれを見ている自分が鏡に映るっていう。「数学的帰納法」じゃないんですけど、工夫すれば順番に上に上がることができるよっていうことを表現しています。
―今回に限らず、作品ごとにテーマを掲げて音楽を介して社会課題とか個人の心に気づきを与えたいっていうのが、新東京の大きなコンセプトみたいなところもあるんですか?
田中:いや、EPによっては全然そういうことを意識しないで、新東京として今何を表現したいかみたいなもので作った経験もあるんですけど、今回は特に意識して全体でコンセプトをカッチリ決めた感じです。
―EPのテーマ、グッズやジャケット等を連動させて、それが帰着するのが11月22日(金)にZeppShinjukuで開催する〈ONE-MAN LIVE”NEOVERSE”〉なんですね。
田中:そうです。一番最初に作ったのはZepp Shinjukuのフライヤーだったんですけど、まだ曲もジャケットもできる前で、コンセプトだけは決まっていて。Zepp Shinjukuではどんなことを表現しようかって考えて、ジャケットはこういう風に作ったから、この続きにしたいと思って、VRゴーグルを取り去った牛の視点をフライヤーにしました。
―ここに並んでいるたくさんの牛乳というのは?
田中:その牛が自ら出したものに気づいているっていうことです。ゴーグルの中にも青空と草原がちょっと映っていて、ちょっと前までそこにいたんだっていうことを描いてます。
―Zepp Shinjukuのワンマンライヴを経て、新東京として成し遂げたいこと、目標ってありますか。
杉田:こういうことを言うとおこがましいですけど、ある種、示唆的であったり、洗脳とかこう考えるべきだとかじゃなくて、「こういう考え方が存在するよね」とか、「こういう物の見方があるのを知ってますか」みたいな、思考する機会を提供したいって思っていて。それに気づかずに終わっていく人も多い中で、「こういう捉え方も考えられる」っていうことすら考えてないとしたら、もったいないというか、ちょっと危ないんじゃないかなって思うんです。そういうことに気づくきっかけを与えられる音楽でいたいっていうのは、僕の作詞の面で目指しているところです。
保田:アジアでライブをしたりとか、いろんな国でもっとライブをやってみたいというのはありますね。国によって受け取られ方も違うと思うので、そういうことにすごく興味があります。
大蔵:成し遂げたいことや崇高な思想っていうのは、お任せしてますので、ただ楽しんで楽器を弾ければという思いです。そして、新東京の思想がそこに存在するのなら、それを俺が押してやるよっていう感じです。
田中:今回のEPに関して言うと、今まで機能しなかった考え方に気づいてほしいなっていう気持ちがあって、いろんな曲の中でそれを提示しました。今後の新東京がどうなっていくかわからないですけど、今の流れ的には”表現することを厭わない”っていうことが、アルバムからずっと続いている感じですね。
<リリース情報>
新東京
『新東京 #5』
=収録曲=
1. New Dimension(ニューディメンション)
2. This Reality(ジスリアリティ)
3. Mirror(ミラー)
4. n+1(エヌプラスワン)
<ライブ情報>
「NEOVERSE」
2024年11月22日(金)Zepp Shinjuku(TOKYO)
開演 19:00~(開場 18:00~)
スタンディング ¥4500
https://eplus.jp/sf/detail/3923280001?P6=001&P1=0402&P59=1
Official HP:https://shintokyo.city/
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