国内最大級のヒップホップフェス「THE HOPE」が9月21日(土)、22日(日)、東京・お台場のTHE HOPE特設会場で開催された。2daysへと拡大した同フェスの進化を、文筆家・ライターのつやちゃんが振り返る。
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2022年に始まり、今年で3回目を迎えた大型ヒップホップフェス「THE HOPE」。昨年から会場をお台場に移しての開催となり、今年はさらに2daysへと拡大。総勢59組のライブアーティストと29組のDJが出演し、国内最大のフェスとして着実に進化を遂げてきた。DJを手厚くフックアップするのはTHE HOPEの特徴だが、それ以外にも、会場で展開されるコンテンツは充実の一途をたどっている。ASIAN CAN CONTROLERZ(TOMI-E & 鬼頭)がペイントし、ANARCHYも参加した全長約50メートルのグラフィティウォール、KANEが描いていた車へのペインティング、さらに漫画『スーパースターを唄って。』の作者・薄場圭によるアーティストビジュアル看板など、会場を歩いていると至るところからヒップホップカルチャーの香りが漂ってくるような作り。主催者側は今年のフェス開催前のインタビューで「将来的に、もっと港区や地元の商業施設、自治体と連携してストリートっぽさを演出するというか、一過性のイベントだけではなく、THE HOPEを軸にしつつその前後でカルチャー色を出していけたら」と語っていたが、まさにそういった構想につながる場の編集になっていた。お台場で開催してきた音楽フェスというと「ULTRA JAPAN」をはじめとしてこれまでもいくつか例があるが、人工的かつ無機質な地域だけに、カルチャーというよりもエンタメ色の方がマッチするように思う。だからこそそこにあえてヒップホップ文化を根づかせようというのは非常にヴィジョナリーな発想で、都市と音楽の関係性を考える上でも今後の動向が気になるところだ。
さて、各ラッパーの充実したパフォーマンスは公式から発信されている多くの写真や動画を見ていただくとして、本稿ではTHE HOPE 2024から見えた傾向、あるいは展望について考えてみよう。アジェンダとして、以下の2点を挙げたい。
1. Education&Entertainment
2. Unity&Peace
まず、1)Education&Entertainmentについて。
そういった状況下で、今年のTHE HOPEでは、観客との意思疎通に苦しみながらもコミュニケーションに務めるアーティストが目立った。例えばYoung Cocoはモッシュピットを作る際に「えっ? 普段クラブでやってるやん? 真ん中あけて!」とリル・ウージー・バートやプレイボーイ・カーティのライブで見られるようなモッシュ作法を粘り強く伝えたり、ゆるふわギャングのステージでNENEは「(手を縦に振る仕草をしながら)これやめて? うちらの音楽にこれ合わないから」と笑顔でノリ方を教えたりしていた。特にDJ陣はそういったエデュケーションに積極的で、多くの人が国内と海外の曲をバランスよく繋げ、どうにかUSラップの魅力も伝えようと苦心していたように見える。中でもFUJI TRILL(OVER KILL)のステージは、「ボケ死ね」などのキラーチューンとトラヴィス・スコット「FE!N」などのUSラップをバランス良く繋げ、二日間で最もドープな時間を作り出していた。途中サプライズでrirugiliyangugiliまでもが乱入する事態になり、ヒップホップの多様な側面を見せることに成功していた。
Young Coco(Photo by NAGOSHI)
ゆるふわギャング(Photo by kenta nagoshi)
FUJI TRILL(OVER KILL)(Photo by Yusuke Baba)
コミュニティの人々を繋ぎとめているのは、”ヒップホップが好き”というモチベーションそのもの
そういった中で、THE HOPEが屋外の開催であるというのは、このフェスのカラーを決める要素として重要だろう。まず、開放感がある。
観客のヒップホップリテラシーの問題なのか気候による疲労の問題なのかは判断が難しいが、とにかく全員が盛り上がるようなアンセムと、エデュケーションの意味合いを込めた曲との配合が非常に難しいフェーズに入ってきているのは確か。来年以降、そういった匙加減をどのあたりに定め落としどころを探っていくのか、多くの演者が悩んでいるタイミングなのではないだろうか。
次に、2)Unity&Peaceについて。二日間で最も盛り上がったステージの一つがAK-69とDJ RYOWのスロットだったが、そこでパフォーマンスされた「My Gs feat. SEEDA」、プレイされた「知らざあ言って聞かせやShow(Remix)feat. ZORN」は、ヒップホップ史への言及を含んだ非常に重要な曲だった。AK-69とSEEDAは次から次に怒涛のネームドロップを繰り出し、ZORNは「俺だけじゃねえ 俺らで発展させる日本のHIPHOP 舐めんじゃねえ」というリリックでTOKONA-Xの偉業に花を添える。ヒップホップとは常に自己言及と自問自答を繰り返しながら緊張感を保つ言論ゲームであるが、リスナーの価値観も様々に多様化している今の時代だからこそ、こういった大型フェスの場でステートメント的に発せられる歴史性を内包したUnityの精神は、その意義が増してきているように思う。
AK-69(Photo by yusuke kitamura)
DJ RYOW(Photo by yusuke kitamura)
あるいは、そういった言及を最後「縁/何かの縁」と結んでいたAK-69とSEEDAのリリックも印象的だった。当然それは、プロデュースに入っているChaki Zulu=YENTOWNに対するリスペクトの意味もあるだろう。Awichのステージで集結したYENTOWNのメンバーも「縁」を強調していたが、こうやって何人ものラッパーがUnityを表現する際に「縁」というフレーズを連呼するのは興味深い。
SEEDA(Photo by takara)
YENTOWN(Photo by yusuke kitamura)
顕著になったPeaceな空気
また、Unityだけでなく、ヒップホップに息づいてきたPeaceな空気が顕著になったのも今年の傾向だったように思う。昨年のTHE HOPE以降に起きたBAD HOPや舐達麻を巻き込んでの大きなビーフの収束、それらに代わって現れた千葉雄喜の「チーム友達」の大ヒット。彼が全世界に向けて友達とのUnityを歌ったという、そのピースフルなムードがフェス全体にも満ちていた。実際、ビーフの発端の一つとなったジャパニーズマゲニーズは、ステージ上で改めて謝罪。そういった背景もあり、ヒップホップが好きな者たち同士Unity&Peaceを再確認する場として、ポジティブな意味合いを強めていた。
千葉雄喜(Photo by NAKAYAMA)
ジャパニーズマゲニーズ(Photo by NAKAYAMA)
他にも、観客をアカペラの技巧的なラップで挑発したR-指定(Creepy Nuts)や、兄妹で涙の共演を果たしたLEX&LANA、さらにXGのメンバーがサプライズ出演したAwichのステージなど、見所が満載だった今年のTHE HOPE。最後は、¥ellow Bucksが東海人脈を広く呼んでのパワフルなパフォーマンスで締めくくった。ヒップホップを取り巻く環境が激変する中で、こういった大型フェスは現行シーンの「今」を鮮やかにキャプチャしつつ、皆が一度立ち止まって大切なものを振り返る場としても機能しているように思う。変わらないものと変わりゆくもの、その双方を見守りながら流動的に形を変えていく――それがヒップホップだと、改めて感じた二日間だった。
Creepy Nuts(Photo by Daiki Miura)
LEX(Photo by shotby_dm)
LANA(Photo by mnp.hoto)
¥ellow Bucks(Photo by mnp.hoto)
【写真を見る】総勢59組が出演した「THE HOPE」ライブ写真
2022年に始まり、今年で3回目を迎えた大型ヒップホップフェス「THE HOPE」。昨年から会場をお台場に移しての開催となり、今年はさらに2daysへと拡大。総勢59組のライブアーティストと29組のDJが出演し、国内最大のフェスとして着実に進化を遂げてきた。DJを手厚くフックアップするのはTHE HOPEの特徴だが、それ以外にも、会場で展開されるコンテンツは充実の一途をたどっている。ASIAN CAN CONTROLERZ(TOMI-E & 鬼頭)がペイントし、ANARCHYも参加した全長約50メートルのグラフィティウォール、KANEが描いていた車へのペインティング、さらに漫画『スーパースターを唄って。』の作者・薄場圭によるアーティストビジュアル看板など、会場を歩いていると至るところからヒップホップカルチャーの香りが漂ってくるような作り。主催者側は今年のフェス開催前のインタビューで「将来的に、もっと港区や地元の商業施設、自治体と連携してストリートっぽさを演出するというか、一過性のイベントだけではなく、THE HOPEを軸にしつつその前後でカルチャー色を出していけたら」と語っていたが、まさにそういった構想につながる場の編集になっていた。お台場で開催してきた音楽フェスというと「ULTRA JAPAN」をはじめとしてこれまでもいくつか例があるが、人工的かつ無機質な地域だけに、カルチャーというよりもエンタメ色の方がマッチするように思う。だからこそそこにあえてヒップホップ文化を根づかせようというのは非常にヴィジョナリーな発想で、都市と音楽の関係性を考える上でも今後の動向が気になるところだ。
さて、各ラッパーの充実したパフォーマンスは公式から発信されている多くの写真や動画を見ていただくとして、本稿ではTHE HOPE 2024から見えた傾向、あるいは展望について考えてみよう。アジェンダとして、以下の2点を挙げたい。
1. Education&Entertainment
2. Unity&Peace
まず、1)Education&Entertainmentについて。
ここでは、はじめに観客の属性について触れておこう。今年の「THE HOPE」は20代が7割以上を占めており、昨年までと同様に若い層の占有比が非常に高いイベントとなっている。ちょうど同じ日に来日公演を行なっていたNasとなるともちろんそうはいかず、もはや同じヒップホップで括るのが難しいくらいに異なる客層だ。若者には若者の価値観があり、お金も時間も限られている中で、いまUSのヒップホップがなかなか聴かれづらくなっている状況なのは間違いない。また、ヒップホップがこの数年で急速に浸透してきた中で、ライブでの観客としての振る舞い、あるいは楽しみ方がユース層の間にまだ根づいていないタイミングでもある。
そういった状況下で、今年のTHE HOPEでは、観客との意思疎通に苦しみながらもコミュニケーションに務めるアーティストが目立った。例えばYoung Cocoはモッシュピットを作る際に「えっ? 普段クラブでやってるやん? 真ん中あけて!」とリル・ウージー・バートやプレイボーイ・カーティのライブで見られるようなモッシュ作法を粘り強く伝えたり、ゆるふわギャングのステージでNENEは「(手を縦に振る仕草をしながら)これやめて? うちらの音楽にこれ合わないから」と笑顔でノリ方を教えたりしていた。特にDJ陣はそういったエデュケーションに積極的で、多くの人が国内と海外の曲をバランスよく繋げ、どうにかUSラップの魅力も伝えようと苦心していたように見える。中でもFUJI TRILL(OVER KILL)のステージは、「ボケ死ね」などのキラーチューンとトラヴィス・スコット「FE!N」などのUSラップをバランス良く繋げ、二日間で最もドープな時間を作り出していた。途中サプライズでrirugiliyangugiliまでもが乱入する事態になり、ヒップホップの多様な側面を見せることに成功していた。
Young Coco(Photo by NAGOSHI)
ゆるふわギャング(Photo by kenta nagoshi)
FUJI TRILL(OVER KILL)(Photo by Yusuke Baba)
コミュニティの人々を繋ぎとめているのは、”ヒップホップが好き”というモチベーションそのもの
そういった中で、THE HOPEが屋外の開催であるというのは、このフェスのカラーを決める要素として重要だろう。まず、開放感がある。
陽が落ち、海風に吹かれながら聴くグッド・ヴァイブスなサウンド――例えば¥ellow Bucksなど——は最高だ。一方で、特に一日目はまだまだ気温が高く陽射しも強く、かなり体力が削られたのは確か。アーティスト側も疲労でどんどん動けなくなっていく観客を盛り上げるのに必死で、「もっと大きい声出せるだろ?」という定番の煽りを、煽りではなくリアルな訴えとして発言していたように思う。
観客のヒップホップリテラシーの問題なのか気候による疲労の問題なのかは判断が難しいが、とにかく全員が盛り上がるようなアンセムと、エデュケーションの意味合いを込めた曲との配合が非常に難しいフェーズに入ってきているのは確か。来年以降、そういった匙加減をどのあたりに定め落としどころを探っていくのか、多くの演者が悩んでいるタイミングなのではないだろうか。
次に、2)Unity&Peaceについて。二日間で最も盛り上がったステージの一つがAK-69とDJ RYOWのスロットだったが、そこでパフォーマンスされた「My Gs feat. SEEDA」、プレイされた「知らざあ言って聞かせやShow(Remix)feat. ZORN」は、ヒップホップ史への言及を含んだ非常に重要な曲だった。AK-69とSEEDAは次から次に怒涛のネームドロップを繰り出し、ZORNは「俺だけじゃねえ 俺らで発展させる日本のHIPHOP 舐めんじゃねえ」というリリックでTOKONA-Xの偉業に花を添える。ヒップホップとは常に自己言及と自問自答を繰り返しながら緊張感を保つ言論ゲームであるが、リスナーの価値観も様々に多様化している今の時代だからこそ、こういった大型フェスの場でステートメント的に発せられる歴史性を内包したUnityの精神は、その意義が増してきているように思う。
AK-69(Photo by yusuke kitamura)
DJ RYOW(Photo by yusuke kitamura)
あるいは、そういった言及を最後「縁/何かの縁」と結んでいたAK-69とSEEDAのリリックも印象的だった。当然それは、プロデュースに入っているChaki Zulu=YENTOWNに対するリスペクトの意味もあるだろう。Awichのステージで集結したYENTOWNのメンバーも「縁」を強調していたが、こうやって何人ものラッパーがUnityを表現する際に「縁」というフレーズを連呼するのは興味深い。
アメリカのヒップホップは、人種差別と階層格差の中で黒人が作りあげてきた表現の場がコミュニティ基盤として確立されてきたが、日本の場合、コミュニティの人々を繋ぎとめているのは”ヒップホップが好き”というモチベーションそのものである。それを私たちは「縁」と呼んでおり、どうしてもふわふわした脆弱なものだからこそ、こういった場でUnityを確認し合う必要があるのだろう。
SEEDA(Photo by takara)
YENTOWN(Photo by yusuke kitamura)
顕著になったPeaceな空気
また、Unityだけでなく、ヒップホップに息づいてきたPeaceな空気が顕著になったのも今年の傾向だったように思う。昨年のTHE HOPE以降に起きたBAD HOPや舐達麻を巻き込んでの大きなビーフの収束、それらに代わって現れた千葉雄喜の「チーム友達」の大ヒット。彼が全世界に向けて友達とのUnityを歌ったという、そのピースフルなムードがフェス全体にも満ちていた。実際、ビーフの発端の一つとなったジャパニーズマゲニーズは、ステージ上で改めて謝罪。そういった背景もあり、ヒップホップが好きな者たち同士Unity&Peaceを再確認する場として、ポジティブな意味合いを強めていた。
千葉雄喜(Photo by NAKAYAMA)
ジャパニーズマゲニーズ(Photo by NAKAYAMA)
他にも、観客をアカペラの技巧的なラップで挑発したR-指定(Creepy Nuts)や、兄妹で涙の共演を果たしたLEX&LANA、さらにXGのメンバーがサプライズ出演したAwichのステージなど、見所が満載だった今年のTHE HOPE。最後は、¥ellow Bucksが東海人脈を広く呼んでのパワフルなパフォーマンスで締めくくった。ヒップホップを取り巻く環境が激変する中で、こういった大型フェスは現行シーンの「今」を鮮やかにキャプチャしつつ、皆が一度立ち止まって大切なものを振り返る場としても機能しているように思う。変わらないものと変わりゆくもの、その双方を見守りながら流動的に形を変えていく――それがヒップホップだと、改めて感じた二日間だった。
Creepy Nuts(Photo by Daiki Miura)
LEX(Photo by shotby_dm)
LANA(Photo by mnp.hoto)
¥ellow Bucks(Photo by mnp.hoto)
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