ジョーディー・グリープはインタビュー場所として、何の説明もなくロンドン中心部のカジノを指定してきた。ブラック・ミディの元シンガー兼ギタリストだったグリープは「この店に何度か来たことがある」と明かした。ただし、月曜のランチタイムに来たのは初めてだという。彼はかつて、百万ポンドを当てて狂喜乱舞する女性の姿を目撃したことがあるらしい。「カジノのマネージャーがやって来て、”とにかく騒がないで。落ち着きましょう。車を手配して、あなたを無事に連れ出します”と、女性をなだめていた」と彼は振り返る。
それから彼はカジノ・テーブルの向こう側の世界を、ユニークな言い回しで表現した。まるで彼の楽曲の歌詞を読んでいるかのようだ。「カジノ・テーブルで働く女性たちは全員、爪を長く伸ばしている。負けた客のチップをかき集めて穴へと落とし込む時に、実に嫌な音を立てるんだ。
当初は、インタビュー場所として彼がカジノを指定した理由がわからなかった。しかし、多彩で驚くほど常識外れな彼のソロデビュー・アルバム『The New Sound』を聴いているうちに、その理由が何となく見えてきた。彼の作品に登場するのは、カジノでよく見かけるようなキャラクターたちだ。グリープは、時にグロテスクながらも生き生きとした言葉で、色あせた魅力、見せかけだけの威勢、決して叶わぬ夢といったストーリーを描いている。
「彼らは、自分が状況をコントロールできていると信じている。さらに、周囲はそれに気づいていないと思い込んでいるんだ」とグリープは、曲の登場人物について説明する。会話の合間に彼はドリンクを片手に、階下でギャンブルに興じる人々の様子を眺めている。
「ナイトクラブ、裏路地、ダウンタウンの夜といった、普通の世界を描きたかった」とグリープは言う。『The New Sound』で彼は、愛に飢え、倒錯的な力に突き動かされるキャラクターを描いた。「あなたと手を取り合えるのなら、自分の腹を割いても構わなかった」とグリープは歌う(「Through a War」)。アルバムには、残酷だが思わず惹かれるフレーズが散りばめられている。
ブラック・ミディ活動休止についての本音
グリープが世に出たのは、ブラック・ミディのフロントマンとしてだった。彼らはイギリスで最もエキサイティングな新興バンドとして、デビューシングル曲「bmbmbm」(2019)がリリースされる以前から大きな話題になっていた。1stアルバム『Schlagenheim』(2019)から攻撃的な音楽を展開したブラック・ミディは、2枚目の『Cavalcade』から3枚目のアルバム『Hellfire』に至るまで、どれも素晴らしい出来栄えだった。バンドは熱狂的なファンを獲得し、中国やモンゴルをはじめとするライブ会場はどこも完売で、さらにマーキュリー賞にもノミネートされた。
グリープは、2024年前半に行ったInstagramのライブ配信中に突然、バンドの活動停止を宣言した。グリープの発言を受けて、ベーシストのキャメロン・ピクトンもソーシャルメディア上でコメントした。「バンドの”解散”については何も言わない約束だったから、昨夜は僕もある意味で不意を突かれた。ただ笑うしかない時ってあるよな」。

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ブラック・ミディの存在価値について、グリープは次のように語っている。「僕たちは決して作品に対して妥協を許さなかった。
ブラック・ミディの終焉には「あらゆる要因」が絡んでいたというが、グリープは「クリエイティブな成果が上げられなくなった」ことと、経済面での不安を特に挙げている。「ある頃から、自分たちの音楽に妥協があってはならないと感じるようになった。でも、妥協しない理由も見えず、いったい何と戦ったり抵抗したりしているのかもわからなくなってきた。僕から見れば、少し焦点がずれてきたように思えた。バンドのメンバーそれぞれが違う世界にいるように感じたのさ」。
バンドとして最後に回ったツアーで、グリープは、自分たちのライブの質が落ちてきたと感じていた。「誰が悪いわけではないが、実際にそう感じてしまったのさ。ベストを尽くさずに、妥協したライブを見せたくはない。ドキドキやワクワクもなくなっていた」とグリープは言う。
一方で、ソロデビュー・アルバム『The New Sound』にはワクワク感がある、とグリープは確信している。今回のアルバムで彼は新たなメンバーと組み、あらゆる分野に挑戦した。結果として、多様性に富むとてつもなくユニークな作品に仕上がった。
『The New Sound』に凝縮された音楽観
当初『The New Sound』は、グリープとコラボレーターのセス・”シャンク”・エヴァンスが新たに組むバンド向けのプロジェクトとして、スタートした。アルバムとしてアレンジするためにそれぞれが曲を持ち寄った時、グリープは10曲以上を用意していたが、エヴァンズは2、3曲しか作っていなかった。「僕たちは無理をしたくなかったし、バンドとしてのアルバムはいつの日か実現しようということになった。だから今回は、僕のソロ・アルバムを作ることになったのさ」と彼は振り返る。「いつかは自分のソロ・アルバムを出したいと思っていた。
それでもエヴァンズが、『The New Sound』制作のキーマンであることに変わりはない。素晴らしい楽曲が並ぶ中で、彼は収録曲「Motorbike」のリード・ボーカルも努めた。デモ音源からアルバム用に楽曲を仕上げていく過程を経て、グリープは自分のビジョンを実現するのに最適なミュージシャンを探し始めた。ちょうどブラック・ミディのツアーでサンパウロに滞在中だった彼はブラジルの知り合いに連絡を取り、数日間のオフを利用してレコーディングに参加できるミュージシャンを集めた。

Photo by James Potter
現地でレコーディングした作品の半分以上は、自由でクリエイティブなレコーディング・セッションから生まれた。ミュージシャンたちのほとんどは、英語でのコミュニケーションが取れなかった。グリープはコード進行とデモ音源をミュージシャンたちへ渡したものの、基本的に彼ら自身のスタイルとセンスに任せた。グリープは、ロンドンの教会で音楽活動を始めた頃のことを懐かしく思い返していた。
中学校に進んだグリープは、先輩から教会のバンドに誘われた。「モダンなゴスペルって感じのクレイジーな音楽だった」とグリープは振り返る。「環境はどうあれ、誰でも演奏に参加できる場所だった。
グリープの音楽観や哲学が、このアルバムでは実証されている。アルバムのオープニング曲「Blues」は、元々ブラック・ミディ向けに作られた楽曲だということがすぐにわかる。伝統的なアメリカのクルーニング・スタイルで歌う「Through a War」から、ブラジルのラテン音楽「Terra」、ヨット・ロック調の「Holy, Holy」まで、実に幅広い音楽が収められている。
「このアルバムは、”少しでも間違えれば史上最悪の作品になりかねなかった危険性がある”という印象がある」とグリープは言う。「それこそエキサイティングでクールなことさ! ただヒットを狙った曲ばかり書いていても、つまらない。”これは駄作だろうか?”と表向きは自信なさそうに見えても、心の中では”これは傑作だ”と確信しているミュージシャンやアーティストの作った音楽が、僕は好きだ。安心も満足もできない状況。そんな、いつ何時すべてが崩壊してしまうかもしれない、という危険性を秘めた状況を作りたかった」。
そんなグリープが、晴れたランチタイムの街へ出て行く前に「カジノで少し遊ぼう」と提案した。我々の掛け金があっという間に消えているにもかかわらず、彼はカジノ運営のちょっとした癖を見抜いて嬉しそうだった。彼のアドバイスで我々はルーレット・テーブルへと移り、最後の賭けに挑んだ。規格外のソロデビュー・アルバムを引っ提げて飛び込んだ彼のソロ・キャリアと同じく、我々の最後の賭けも報われた。間もなく我々は、週の初めから気分よく過ごせるだけの儲けを手に、店を出た。グリープは「いいね!」と満面の笑みで街へと飛び出した。
ニューヨークのTV Eyeで撮影された1時間40分にわたるライブ映像
From Rolling Stone UK.

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バンド・メンバー:


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