衣装や振り付けからロケハン、キャスティングに至るまで全てを自ら手配し、トータルプロデュースのスタイルで始動したNissyは、2023年8月6日に10周年を迎えた。今でこそ、ソロアーティストとして歴史上初となる2度目の6大ドームツアーを実現させる彼だが、その幕開けは穏やかではなかった。
ソロ活動の企画書を何パターンも作り提案を重ねるも、周りにはまともに取りあってもらえない。そんななか、Nissyが描くプランに胸を高鳴らせた面々で集結し、行く手を阻むことを押し切って踏み出した一歩が、現在に繋がっているのである。

衣装や撮りおろし写真、数々のアイテムなどを展示した10周年記念の展覧会『Nissy Entertainment 10th Anniversary EXHIBITION』、自ら全国30会場へ出向いて全73公演で一人ひとりに感謝の気持ちを伝えた『10th Anniversary LIVE VIEWING TOUR 2023 -Nissy Meets You-』と、スペシャルなトピックが目白押しだったアニバーサリーイヤー。ベルーナドーム公演を皮切りに全国6都市11公演で開催された『Nissy Entertainment ”Re10th Anniversary Final” BEST DOME TOUR』は、その締めくくりに相応しい伝説的な公演だった。

【ライブ写真ギャラリー】Nissy Entertainment ”Re10th Anniversary Final” BEST DOME TOUR

彼の言葉を借りるならば、まさに「Nissy Entertainmentの最高到達点」。歌やダンスといった音楽的なエッセンスだけでなく、コメディや映画、最新テクノロジーまでも飲みこんで、唯一無二のエンターテインメントショーを作り上げたのである。

本稿では、2月19日に開催された東京ドーム公演、Day1の様子をお届けする。

今回のツアーでは、Nissyの身辺サポートAIとしてTHREEが続投すると共に、陽気なキャラクターのFOURthも仲間入り。FOURthによる『鑑賞マナー講座』が終わると、スクリーンにはカウントダウンが出現し、オーディエンスの胸の高鳴りを加速させるように、数字を削っていった。バックで流れていた「SUGAR」が終わるタイミングで場内も暗くなり、一気にNissy Entertainmentへなだれこんだ。

本公演は大きくわけて、時を超えた愛の物語を1本の映画のように紡ぎだす前編とバラエティ感たっぷりに盛り上げ尽くす後編に感じられた。目覚まし時計の音でNissyが目覚めるところから、ストーリーはスタートした。
こだわり抜かれたカット割りや色彩、作りこまれた世界観は圧巻で、映像だけでも心を掴まれてしまうのはいうまでもないが、彼の創り出すエンターテイメントは、それだけでは終わらない。スクリーンのなかで、火を取り出せば会場にも炎が吹き上がり、雷が飛び出せば場内を雷光のような光が走る。映像の世界に入りこんだような感覚になる演出で、あっという間に観客の心を掌握していった。

劇中で、その時代を象徴するMVやLIVEの衣装に着替えながら、2024年から2013年へ遡っていくNissy。始まりの年に到着すると、雷や暗雲に絡みとられて、ダークモードへと変貌。映像から飛び出るかのようにその姿のまま、センターステージに姿を現した。

オープニングを飾ったのは、ソロデビューから10年が経ち、初めて生々しい感情を落としこむに至った「SLAVE」。自分のなかにある想いを、そのまま出すことをできるだけしてこなかった彼にとって、これだけリアリスティックな言葉が乗ったナンバーを冒頭に持ってくるのは、並大抵の覚悟ではなかっただろう。少なくとも、コロナ禍での経験をエンターテイメントとして昇華した『HOCUS POCUS 3』があったからこそ、たどり着けた境地なのは間違いない。10周年という節目を迎えたNissyは、自身の経験とクローズドな表現を極上のエンターテイメントとして成立させることに挑んだのだ。

Nissy Entertainmentの最高到達点 総動員数45万人のドームツアーで示した「理想郷」

Photo by 田中聖太郎

曲中でマントを脱ぎ捨てると、白い衣装へチェンジ。真っ黒なスタイリングをしたダンサーのなか、白一点で舞い踊る姿は、妬みや軽蔑、制限にだって抗っていく強い意志を感じさせる。
エンターテイメントを取り戻すという想いをこめて作られた「Get You Back」へ繋ぎ、どす黒い感情と向き合う彼自身を描きだした。

雷が終わるのをきっかけに、ステージは瞬時にポップテイストへ。Nissyも先ほどまでのソリッドな雰囲気とは一変して、微笑みながら「調子はどうですか!」と観客に声をかけていく。キラキラスマイルを振りまきながら、”今を生きていこう”と歌い踊る姿は、まさにポップスター。彼がピースサインを掲げるのに合わせて、フロアからもピースが突き上げられる光景は、最高にピースフルだ。虹色の光が射すなか「Time To Party」をパフォーマンスすると、シームレスに映像へ誘っていった。

映像で展開されていくのは、願いを叶えてくれるお店で働くNissyの物語。魔法を使ってたくさんの人を幸せに導いていくものの、時には心や体に代償を負ってしまうことも。そんななか、パク・ミニョン演じるハナと出会い、ふたりは蜜月の時を過ごすようになっていく。

束の間の幸せを愛しむように、歌い上げられる「Rendezvous」。星空のような照明も十分にロマンチックだが、それだけでは終わらないのがNissy Entertainment。ステージ側からNissyを捉えて客席側を背にすることで、ペンライトによる光の海を演出に取り入れてみせたのだ。
花火や噴水もあがり、幻想的な空間が編み出されていった。

Nissy Entertainmentの最高到達点 総動員数45万人のドームツアーで示した「理想郷」

Photo by 田中聖太郎

このままハッピーエンドへ向かうのかと思いきや、ストーリーは一気に急展開。Nissyのなかにあった10年間の記憶をハナに移し、彼女は忽然と姿を消してしまうのである。そして、大切な人を失った悲しみをダンスと歌唱に特化したパフォーマンスで魅せていく。「When You Were Mine」では、ダンサーたちと共に圧巻のダンスパフォーマンスを披露。ここぞという瞬間以外は寄りにしないカメラワークや特殊効果を用いずに照明だけで魅せる演出は、「ダンスで魅せられる」という自信の表れといっていいだろう。続く「Dont let me go」では、メインステージに佇み、スタンドマイクへ真っすぐに声を落としていく。丁寧に言葉を紡がれていくようなボーカルは、いつの時代も歌うことと愚直に向き合ってきた彼の生き様を感じさせた。

10年以上の月日を重ねてきたからこその包容力

物語もいよいよ佳境へ突入。街で何者かに追われるハナをNissyが保護すると、彼女の口から事の真相が語られていった。自身がNissyの魔法に救われた少女であること、魔法の力のせいでNissyが狙われる立場にあること、そして彼を救うためにタイムリープを使って10年後の未来から会いにきたこと。必死の逃走もむなしく、ハナは命を落としてしまい、Nissyは悲しみに打ちひしがれる。
痛々しい胸の叫びを描くように、繰り広げられていく「愛tears」。光と水で魅せる演出は、エモーショナルな表現をより一層引き立てる。ハナが魔法のように消えていく映像とともに、場内にも光の風船があがり、物語のクライマックスを想起させた。

再び映像へ戻ると、力なくうなだれるNissyの前に、マントをまとったダークNissyが現れた。ダークNissyは「その子を救いたいだろう。そしたら、あんたの能力と記憶の10年分をもらう。今までもそうしてきただろう」と問いかけ、Nissyのパワーを奪取。結果的に、2035年の世界でハナは命を吹き返したが、残念ながらNissyにハナの記憶はない。しかし、ハナの姿を見かけたのをきっかけに、彼女のことをハッと思い出すNissy。たとえ記憶を失ったとしても、大切にしたい想いは心が覚えているし、魔法の力で心身共に削られることがあったとしても、エンターテインメントへの愛はいつまでも消えることがないと、示唆するようなハッピーエンドとなった。温かな歌声で奏でられていく「WISH」は、映画のエンドロールのよう。空を舞うシャボン玉がミラーボールに反射され、会場の端っこのほうまでNissyの魔法が広がっていったのだった。


FOURtheがテレビのチャンネルを操作するような映像を挟み、楽しいこと全部乗せの後編へ。幕間では前回ツアーの『Nissy Entertainment 4th LIVE ~DOME TOUR~』に引き続き、チョコレートプラネットが出演し、Nissyと一緒にTT兄弟を繰り広げていく。3人が大奮闘したガチの即興により、しんみりとした空気は一気に笑いへ変わっていった。

Nissy Entertainmentの最高到達点 総動員数45万人のドームツアーで示した「理想郷」

Photo by 田中聖太郎

空気が温まったタイミングを捕まえるようにして、辰の着ぐるみに今年の干支のヘビを巻きつけたNissyが車の荷台に乗せられて登場。外周をグルッと走りセンターステージへ到着すると、ジャージルックに着替えて、お決まりのダンスチューンである「DANCE DANCE DANCE」を導いた。パワフルなモーションで誰よりも熱いパフォーマンスを繰り広げながら、「東京って、そんなもんでしたっけ?」と焚きつけるNissy。その熱量は、ダンサーとバンドメンバーの見せ場が設けられたメドレーでも変わらない。「Playing With Fire」を筆頭に「The Eternal Live」や「Addicted」などを次々に披露。ビートが変わるごとに瞬時にリズムを掴み、迫力のステージでトリコにしていく。「Double Trouble」では、可愛い決め顔をしてから本気のブレイキンをぶちかまし、尋常じゃないギャップでオーディエンスを釘付けにした。勢いそのままに引き継がれたのが、「Liar」なのもまた粋である。「DANCE DANCE DANCE」では”バカにされてもシカトでいいとはゆうけど(超ツライね)”と歌う一方で、「Liar」では”誰が何を言ってきたって理屈じゃ止められない衝動”と言い放つのだ。
まるで、この10年間は誰かが何かを言ってきてツライ瞬間もあったけど、信頼できる仲間たちとの出会いもあり、エンターテインメントに対する衝動を止められなかったと謳っているようではないか。

いよいよライブは、最後のブロックへ。LippyとRujjuがアニバーサリーケーキを作る映像を挟み、会場一体となって大騒ぎする大団円へ向かってかけていく。ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの仲間たちも、Nissyと一緒にフロートに乗って出現し、「The Days」と「トリコ」をみんなで踊り、多幸感ある空気で東京ドームを満たした。ロックチューンの「Mr. Trouble」でタオルがクルクルと空を舞う頃には、ライブの熱気は最高潮。言葉の意味を届けようとする歌いかたも、どこか挑発的な表情も、スクリーンに映し出されたリリックにも、全部に意味があるのだろう。ポップというフォーマットに乗せて、”弱さも着こなして 自分生きてこうぜ”とメッセージを投げかける。ラストソングには、ソロデビュー11周年を迎えた日にリリースされた「そうしようか」をドロップ。思い出を振り返るような映像と軽快なサウンドで、晴れやかに本編を結んだのだった。

Nissyがステージから去ったあとも、とめどなく沸き続けるアンコール。ほどなくして、スクリーンに姿を現したFOURthは、山寺宏一が声優を務めていたことを種明かし。どことなく感じていた可能性が事実だと判明し、会場からは歓声があがった。

なんと今年のアンコールでは、ヘリウムの関係で『Nissy Entertainment 4th LIVE ~DOME TOUR~』では、札幌ドーム公演だけとなっていた気球が復活。上空から姿を現したNissyは「Relax & Chill」や「Girl I Need」といった楽曲を歌いながら、ひとりひとりと目を合わせていく。愛嬌たっぷりに猫ポーズを披露したり、「ちょっとは近くなったでしょ」と声をかけたり。どんな場所で観ていたとしても、寂しい想いをさせないライブ構成は、さすがNissy。ふいの投げキスにオーディエンスが湧き上がると、「俺もう38だよ(笑)」と恥ずかしそうに笑みをこぼした。

Nissy Entertainmentの最高到達点 総動員数45万人のドームツアーで示した「理想郷」

Photo by 田中聖太郎

この日初となる長尺のMCでは、自身が積み重ねてきたNissy Entertainmentに思いを馳せて「いろんな方々にも見に来ていただいて、次の世代の方たちに繋がっているんだな」としみじみ噛みしめる。そして「耳も目も鼻も香りも、全て全身で受け取る準備できてますか」と焚きつけ、「LOVE GUN」「SUGAR」とクールなダンスナンバーで追い打ちをかけていった。彼が「その声を聞きたいな」とイヤモニを外すと、場内からは特大のレスポンスが。「My Luv」になると、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの面々も再登場し、東京ドームをひとつにする盛大なシンガロングで、柔らかくアンコールが終幕したのだった。

『Nissy Entertainment ”Re10th Anniversary Final” BEST DOME TOUR』を準備している様子を映したエンドロールに続き、いよいよ本当にラストとなるWアンコールへ。エンターテイナーNissy始まりの曲である「どうしようか?」が引き連れられた。デビュー当時の彼が抱えていた「どうしたらいいかわからない」という想いがこめられた1曲は、10年以上の月日を重ねてきたからこその包容力を持って響く。最後には「自分のことをしっかりと愛してあげてください」と伝え、ステージの奥へ姿を消したのだった。

ただのライブに収まらない、比類なきエンターテイメントショーとなった『Nissy Entertainment ”Re10th Anniversary Final” BEST DOME TOUR』。エンターテインメントと呼ばれる様々な表現を横断し、ひとつの作品として完成させたばかりでなく、現実的な自身の感情さえも秀逸なエンターテインメントに昇華できると提示して魅せた。さらには、オンラインライブが普及して、生のライブの価値が問われる昨今において、ひとつの答えを創出したのである。「もうここまでやれるLIVEは本当に最後だよ!」なんてNissyは口にしているが、とびきりのエンターテイメントに続きがあることを願うばかりだ。

Nissy Entertainmentの最高到達点 総動員数45万人のドームツアーで示した「理想郷」

Photo by 田中聖太郎
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