ついにリリースされたブランデー戦記の1stフルアルバム『BRANDY SENKI』。これまでのバンド活動の一つの集大成である今作をもって、3人は、ユニバーサルシグマからメジャーデビューを果たした。
このアルバムを通して、初めてブランデー戦記のロックと出会う人はきっと多いと思う。また、既に3人のロックに心を撃ち抜かれている人も、今作が描き出していく切実な〈愛〉を巡る壮大で深淵な物語を通して、改めて、このバンドの真価に触れることになると思う。今回、新しいスタートラインに立ったばかりのメンバー3人へのインタビューを敢行。今作に込められた想い、そして、今作に貫かれた”芸術”に携わる者としての覚悟について語ってもらった。

―皆さんの中で、フルアルバムを作る構想はいつ頃からあったのでしょうか。

ボリ(Dr):去年の夏が終わったぐらいから、なんかほんまに、レコーディングラッシュじゃないですけど、プリプロしてレコーディングしてっていう流れが続いていて、そこらへんぐらいからアルバムの構想というか、どの曲を収録しようか考え始めるっていう動きがあったかなって感じです。

みのり(B・Cho):当時は、アルバムを作るぞっていうよりは、一曲一曲やるぞっていう気持ちに近かった気がします。でも、アルバムの構想を組み上げていく中で、やっぱり私もアルバムという一つの作品の形がすごい好きなので、その感じを大事にしつつ、曲順とかを含めて決めていきました。

―結果として、13曲を収録した渾身の一作が完成しました。自分たちのバンド名を今作のタイトルにしたのは、自然な流れの中で決まったことだったのでしょうか。

蓮月(G・Vo):セルフタイトルを付けられる機会は限られているなと思うので、やっぱり、それこそ名刺代わりになる1stフルアルバムが完成したこのタイミングで、自分たちのバンド名をタイトルにするのはすごくいいなと思いました。

みのり:私も、今までの活動を全てまとめたような一枚になったと思うので、賛成でした。


―選曲、もしくは曲順を決める上で、どのような話し合いがありましたか?

蓮月:ブランデー戦記っていうバンドを知らない人、聴いたことがない人が、初めて手に取って、初めて再生した時に、どう感じるかっていうことをすごく大事にして組んでいきました。感覚なんですけど、その中でまず、表題曲の「Fix」っていう曲の位置を、どの辺りに来てほしいかなって考えて、12曲目に決めて。

ブランデー戦記が語る、芸術を表現する覚悟、メジャーデビューアルバムに込めたこだわり

蓮月(Photo by asami makura)

―最後から2番目の位置ですね。1曲目の「The End of the F***ing World」の冒頭に〈呪いと愛の違いがまだわからない〉というラインがあって、まるでそれと対になるような形で、12曲目の「Fix」には、全部が愛だから別に良かった〉というラインがあります。今作の中で、とても重要な役割を果たしている一曲だと思います。

みのり:私も「Fix」は12曲目がいいなって。曲順を決める時、これまでいろいろなアルバムを通して聴いた経験を振り返っていたんですけど、あるアーティストのアルバムを聴いた時に、そのアーティストの代表的な曲がラストから2番目に入っていって、それで、後書き的な感じの曲がその後ろに入っていて、すごく感動して。この「Fix」って曲も、最後から2番目においたら、すごいハマるんじゃないかと思って。

蓮月:13曲目の「Untitled」は、13曲目というよりかは、後書きのような役割になるかなっていう話をして。その時、みのりんが言ってたのは、このアルバムが、ずっとバンドサウンドで続いていくんですけど、最後、この曲で、弾き語りで一人になる。そういう意味で、この曲が最後に来ると後書きっぽいんじゃないかって。

―みのりさんは、蓮月さんと同じように、「Fix」は12曲目がいいのではと思っていたとのことですが、この曲はバンドにとってどういう位置付けの曲だと思っていますか?

ブランデー戦記が語る、芸術を表現する覚悟、メジャーデビューアルバムに込めたこだわり

みのり(Photo by asami makura)

みのり:もちろん、全部素敵な曲なんですけど、その中でも、すごい一番、刺さってくる。
伝わるのかちょっとあれなんですけど、しっかり届けようとした時に、すごいカロリーが大きい。そういったような一曲かなって思っています。蓮月ちゃん、いつもライブでこの曲をやる時に「特別な曲です」って言ってから演奏するんですけど、やっぱり、一人の特別はみんなの特別。そういう意味でも、思い入れがある曲で。

蓮月:これはどの曲にも通ずることなんですけど、まず最初に曲の種を作る段階では、自分とかを含め、大事な人を傷つけるかもしれないと思って曲を書いていて。それがすごく、芸術には大事なことだと思っています。「Fix」は、その要素が特に色濃く出た楽曲で。そうですね、そういう意味で特別な一曲。

―世の中にはいろいろな楽曲があって、その中には無色透明なポップソングもたくさんあり、悪く言えば、それは薬にも毒にもならなかったりします。でも、ブランデー戦記の音楽はそういうものではないと思っていて。リスナーにとっての薬になるかもしれないし、もしくは毒になるかもしれない。どちらになるかは分からないけれど、何かしらの刺激をリスナーに与え得る。
これを伝えたら、これを表現したら、もしかしたら受け手が傷ついてしまうかもしれない、という畏れは、大小様々であれ、多くのアーティストが抱えているものだと思います。今、蓮月さんから、「大事な人を傷つけるかもしれない」と思って曲を書いているというお話がありましたが、表現に真摯に向き合う上では、やはり、深い覚悟が必要になるのだろうと想像しました。

蓮月:私は、芸術っていうものは、すごく神聖で、気高いものだと思っていて。だからこそ、私自身、受け手として、それなりの覚悟がないともう触れられないようなものだと思っていて。そういう気持ちで日々芸術に触れているので、自分が表現をする時も、それに見合う向き合い方をしていきたいし、努力していきたいと思っています。

―世の中にはいろいろなアーティストがいて、聴いてくれるリスナーのために音楽を作る人も多いです。ただ、この点についても、ブランデー戦記はそうではないのかなと思っていて。芸術は時として受け取った相手を傷つけてしまうかもしれない、という畏れは、バンド活動を始めた当初から今に至るまで一貫して蓮月さんの中にあり続けているものですか?

蓮月:作詞作曲の部分で言うと、第一に、自分のためにしか曲を作ったことがなくて。そうでないものを作ろうと考えたことはないです。自分たちのために作ることで、それが回り回って、聴いてくれる人により深く届くんじゃないかと思ってるので。聴いてもらう人たちのために寄り添うようなことは、あまりしてこなかったと思っています。

―蓮月さんの、そうしたソングライターとしての一貫性を、お二人は近くでどのように見ていますか?

みのり:聴いて頂いたらなんとなく分かると思うんですけど、蓮月ちゃんは、ニルヴァーナなどのルーツをしっかり持ちながらも、いろんなジャンルの音楽をやってる、でも、芯はぶれない。


ボリ:根底の部分はたぶん変わってなくて、その変わらないものこそが、ブランデー戦記の核心なんかなと思います。でも、変わらないまま、進化してる。ジャンルってものに縛られない人なんで、いろいろ吸収しながらすごい自由度高くやっていて。

ブランデー戦記が語る、芸術を表現する覚悟、メジャーデビューアルバムに込めたこだわり

ボリ(Photo by asami makura)

―先ほど、12曲目の「Fix」が実質的なラストナンバーで、13曲目の「Untitled」は、まるで後書きのような役割を果たしている、というお話がありました。たしかにこの曲は少し独立した佇まいというか、アルバムの最後にこのピュアなラブソングが据えられていることによって、1曲目から12曲目までが相対化されるような感覚を抱きます。とても大切な役割を担う曲だと思いますが、その曲にタイトルが付いていないというのがすごく奥深いなと思いました。

蓮月:これは、アルバムの立ち位置を踏まえた上で決めた曲名というよりかは、名前を付けられない感情っていう意味で「Untitled」という曲名がいいかなと思って決めました。このアルバムの中で、唯一といっていいほど、純粋な恋の歌のようであると私は感じていて。それを最後に持ってくることで、アルバム全体が純粋な恋の歌のように捉えられてしまうかもしれないとすごく不安だったんですけど、でも、そこに対して、先ほどお話ししたように、みのりんが、「これは後書きというふうに捉えられるね」って言ってくれて。この曲はアルバム全体の答えではなく、後書きっていう少し離れた立ち位置の曲なんだっていうふうに捉えることで、安心してここに置くことができました。

―このアルバムは、1曲目「The End of the F***ing World」の〈呪いと愛の違いがわからない〉というラインから幕を開けて、まるで、その答えを探す旅のように一つひとつの曲が展開されていき、そして、12曲目の「Fix」で、〈全部が愛だから別に良かった〉という一つの答えに辿り着く。最後には、後書きもある。
解釈の仕方は決して一つではないと思いますが、今作全体からそういう感動的なストーリーを感じる人はきっと多いのではないかと感じました。

蓮月:今頂いたお話、すごく素敵で。改めて、私も気付かされたんですけど、歌詞の内容のストーリー性、この曲の次にこれが来る、というのはすごくこだわったんですけど、一方で、サウンドとして聴いた時の入りやすさとか、いかに引き込ませられるか、についても同じようにこだわっていました。頭のほうでは、まず、入りやすさっていうか、聴いて楽しい、ワクワクする、という入り方を大事にしていて。で、後半にかけて、歌詞の強さが増したり、表現が直接的になってきたりして、より内に向かうエネルギーが高まるような曲を置いていて、単体で聴いた時とはまた違うよさが伝わればいいなと思って。

―これまで何度もライブやミュージックビデオなどを通して聴いてきた「Musica」が終盤にあたる10曲目に据えられていて、アルバム全体の流れの中に位置付けられることによって、全く新しい響きや輝きを放っているように感じました。

みのり:アルバムを一つの作品として捉えて頭から聴いていってもらうと、これまでと聴こえ方が変わったり、そういうことが起こると思うで、ぜひ頭から再生してほしいなっていう気持ちです。

―ちなみに、アルバムの曲順を決める時の考え方と、ライブのセットリストを決める時の考え方は、通じるものがあるのか、もしくは違うものなのか、でいうといかがでしょうか?

ボリ:ライブのセトリに関しては、僕がベーシックを決めて、それをメンバーに共有して、テコ入れしてもらうことが多いんですけど、全然違う頭を使う感じです。ライブのセトリを考える時は、その日の会場とか、時間とか、演出とか、どういうお客さんが来ているかとか、そういう制限がある中での最大値を探してるような気がするんですけど、アルバムは、そういう制限とかはなくて、イヤホンで聴く人もいるし、スピーカーで聴く人もいるし、朝聴く人もいるし、夜聴く人もいる。そういうふうにいろんな聴かれ方をすると思うので、アルバムとライブのセトリは、似てるけど考え方が違う感じがちょっとしました。

―1stフルアルバムを完成させた今、今後の自分たちの歩みについて、どのような予感を抱いていますか? もし、今作の完成を契機として、バンドとしてのモードやマインドの変化などが既にあれば教えてください。

蓮月:このアルバムリリースのタイミングでメジャーデビューっていうのもあって、また新しいスタート地点に立たせてもらえたような気持ちでいます。
大事な軸は変わらず、でも、常に進化し続けていたい。それが、バンドにとってもすごくいいことだと思うので。だから、常に聴いてくれる人をワクワクさせられるように進化していきたいなと思います。

ボリ:正直、これからどうなるかはマジで分からないんですけど、そうですね、でもほんまに、トゥービーコンティニュー、続くっていう感じです。だから、また新しいことをやるかもしれんし、なんかしら始まるとは思うんですけど、自分たち自身も何が始まるかはほんとに楽しみって感じです。

<リリース情報>

ブランデー戦記
1st ALBUM『BRANDY SENKI』
リリース日:2025年5月14日(水)
価格:通常盤(UMCK-1794) ¥3000-(税別) / 初回限定盤(UMCK-7268) ¥7000-(税別)
=収録曲=
◇CD(全形態共通)
1. The End of the F***ing World
2. Coming-of-age Story
3. 春
4. ラストライブ
5. 水鏡
6. 悪夢のような
7. 27:00
8. メメント・ワルツ
9. Kids
10. Musica
11. ストックホルムの箱
12. Fix
13. Untitled
◇DVD(初回限定盤のみ)
BRANDY SENKI – STUDIO LIVE 2024
Coming-of-age Story
Musica
Kids
悪夢のような
27:00
ストックホルムの箱
Fix

<ツアー情報>

BRANDY SENKI 1ST ALBUM RELEASE TOUR
2025年6月7日(土)SAT) 札幌cube garden
2025年6月22日(日)仙台MACANA
2025年6月29日(日)福岡BEAT STATION
2025年7月日(土)大阪ゴリラホール
2025年7月13日(日)名古屋ELL
2025年7月20日(日)東京Zepp Shinjuku(TOKYO)
BRANDY SENKI TOUR 2025 AUTUMN
2025年11月6日(木)東京 Zepp DuverCity (TOKYO)
2025年11月24日(月)大阪 なんばHatch

OFFICIAL HP https://brandysenki.com/
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