2008年、シンディ・ローパーがロックの殿堂入りの資格を初めて得た年にすぐ殿堂入りしていても、驚いた人はほとんどいなかっただろう。なにしろ彼女は80年代を代表する成功を収めたアーティストの一人であり、「Time After Time」「True Colors」「Girls Just Want to Have Fun」などの楽曲は、今もなお圧倒的な人気を誇っている。「Girls Just Want to Have Fun」のミュージックビデオはYouTubeで15億回以上再生され、楽曲自体もSpotifyで14億回以上再生されている。
それでも何らかの理由で、シンディ殿堂入りを果たすまでには、実に17年と3回の投票を要した。今回私たちは、彼女のフェアウェル・ツアーの合間を縫って、そして次回作となるミュージカル『ワーキング・ガール』の準備のさなか、Zoomでこの栄誉について語ってもらった。
「女性たちの歴史」の一部として
―殿堂入りについて驚きはありましたか? これは以前から望んでいたことでしたか?
シンディ:何を思えばいいのか、正直よくわからなかった。でも、私のことを知ってるでしょ?私はいつだって「今やっていること」に意識が向いてるの。だから、賞賛とか栄誉とか、そういうのは来るときは来る、っていう感覚なのよ。とはいえ、私は今でも「ロックンロールは世界を救える」と信じてるし、だからこそ、常に前に進み続けて、人の助けになろうとしてるの。人文学のフィールドに身を置いているわけだしね。
それに、女性たちがたくさん私に票を入れてくれたっていう事実には本当に感謝してるし、身の引き締まる思いがするわ。
―どのようにして殿堂入りの知らせを知ったのですか?
シンディ:マネージャーが教えてくれたの。それを聞いてまず思ったのは、私の前に殿堂入りした女性たちのこと、彼女たちの「肩の上に立っている」自分のこと、そしてこれからの世代の女性たちが、今度は私の肩の上に立ってくれるということ。その連なりの一部になれたことが、本当に素晴らしいわ。
―シェールが選ばれたのは去年でした。ティナ・ターナーにしても、アイク抜きで殿堂入りしたのは亡くなる直前。信じられませんよね。
シンディ:ほんとよ。最初の頃って、誰が投票してたのかしら?
―確かに、投票していたのは主に男性でした。
シンディ:そう、それがすごく大事な点なのよ。もっと多くの女性が関わるようになれば、当然その影響は出てくるわよね。私自身の考えとしては、扉を叩き続けることが大事。
バッド・カンパニー、ソルト・ン・ペパへの共感
―今年はあなたのほかにも、チャビー・チェッカー、バッド・カンパニー、ホワイト・ストライプス、ソルト・ン・ペパ、アウトキャスト、サウンドガーデンなど、かなり多様な顔ぶれが殿堂入りしますね。誰か好きなアーティストはいますか?
シンディ:ええ、もちろん。ロサンゼルスで開催された「Home for the Holidays」というイベントで、アウトキャストのメンバーの一人と一緒に歌う機会があったの。それはもう最高だったわ。それに、バッド・カンパニー。私がバックコーラスじゃなくて、初めてリードボーカルとしてステージに立ったときに歌ったのが、彼らの曲だったのよ。
私はずっと、メリー・クレイトンみたいなバックグラウンド・シンガーになりたかったの。子どもの頃からメリー・クレイトンが大好きだったのよ。バックコーラスのほうがリードボーカルより自由があるように感じてた。高い音域で思いっきり歌えるし、背景にいるのがクールだと思ってたのよ。
それにね、私はプラットフォームシューズ(厚底靴)で踊るのが苦手で、よく転んじゃってたの(笑)。でもそのおかげで、お客さんとどうやって話すかを覚えたの。だって、転んだら何か言わなきゃいけないでしょ?私がリードシンガーの仕事をもらったのも、実はそのへんが関係してて。マネージャーがこう言ったのよ――「あの後ろの子、踊れないけどすごく歌が上手いでしょ? あの子をリードシンガーにしなさい」って。それで私はリードに抜擢されたの。最初に歌ったのは、フリーの曲とバッド・カンパニーの曲だった。
―となると今回の殿堂入りは、まさに原点回帰のような瞬間ですね。
シンディ:ええ、そうなの。あれはハンプトンズの「ボーディ・バーン」で、ニッケル(5セント)ビールを飲んでる5,000人の観客の前だったのを覚えてるわ。とにかく怖くて仕方なかった。でも、タンバリンをリズムに合わせて振りながら歌い始めた瞬間、スイッチが入ったの。そのプラットフォーム(台)の上を降りたときには、私はもう立派なリードシンガーになってたのよ。
それと、ソルト・ン・ペパにもすごくワクワクしてる。彼女たちも「Home for the Holidays」に出演してくれてね。私は「What a Man」でスピンデレラのラップパートを歌わせてもらったの。あれは本当に嬉しかった! ソルト・ン・ペパが出てきた頃、私はまだハムスターの回し車みたいに走り続けてたから、ゆっくり音楽を聴く時間もあまりなかったんだけど……でも彼女たちはとにかく最高に楽しい存在だった。ヒップホップ界における私、みたいな感じ。
―ロックの殿堂にヒップホップが入ることに文句を言う人がいますが、それについてどう思いますか?
シンディ:そういうの、ほんと嫌い。くだらないわよね。ヒップホップはロックンロールよ。ロックンロールが最初に登場したとき、チャック・ベリーやリトル・リチャードみたいな人たちがすべてを変えたの。それは新しいムーブメントだった。そしてヒップホップが生まれたときも、まさに同じことが起きていた。あれもロックンロールだったのよ。
私は、ロックンロールは世界を変える力があると思ってる。だから、もしあるリズムが世界を変えるのなら、それはもうロックンロールなのよ、ベイビー!
―エンディングでは毎回恒例の”ジャム・セッション”がありますが、他の殿堂入りメンバーたちと一緒に歌うことを想像しますか?
シンディ:ソルト・ン・ペパと一緒に歌えるなら、それだけで私は満足よ。それにポール・ロジャースともね。
チャビー・チェッカーは、本当はもっとずっと前に殿堂入りしているべきだった。でも、またしても彼は有色人種。私たちは、リズムを授けてくれたアフリカ系アメリカ人コミュニティ──そこにネイティブ・アメリカンのリズムも混ざり合って、ロックンロールのリズムが生まれた。その人たちの「肩の上」に立っているのよ。
もしあなたが、ビッグ・ママ・ソーントンが「Hound Dog」をテレビで歌ってるパフォーマンスを観たらわかるはずよ。エルヴィスがカバーする前に何週間もチャートのトップにいたその曲で、あのドラムの音を聴いたら、「これこそがロックンロールだ」ってなる。
殿堂入り式典でパフォーマンスする曲は?
―誰があなたを殿堂に紹介してくれるのか、もう考えていますか?
シンディ:まず第一に、それはまだ言っちゃダメなの(笑)。それから実際のところ、まだ決めてないの。スケジュールが空いてて、やりたいって思ってくれる人じゃないとダメだしね。リストでも作ろうかな。だって、ついこの前まで日本に行ってたし、フェアウェル・ツアーでずっと忙しかったから。
―私はマディソン・スクエア・ガーデンの公演に行きましたよ。素晴らしかったです。
シンディ:ほんと? ありがとう! あのときはもう、みんなを招待してたから、もし私のパフォーマンスがイマイチだったら全部自分のせいになるなって思ってたの(笑)。だから自分に言い聞かせたの。「オーケー、落ち着いて。スーパーマンのマントは持ってない。自分らしく、ベストを尽くしてステージに立てばいい」ってね。結局、それしかないのよ。
私はいつもこう言ってるの。「ミック・ジャガーって、ステージ前に何て自分に言い聞かせてるのかな?」って。でも実際には、彼に聞いたことなんてない(笑)。だけど、私の心の中では、スーパーマンかスーパーヒロインのマントが欲しいなって思ってた。ワンダーウーマンよね? でも、あのベルトは持ってなかったし、たぶんうまくいかなかったと思う。だから私は「私」でいるしかなかったのよ。
―サム・スミスが登場して、あなたと一緒に演奏したあの場面、とても素晴らしかったです。
シンディ:あれは最高だったでしょ! 彼、すごく素敵だったわよね。「Time After Time」が大好きなのは知ってたの。コロナ禍のときにも歌ってくれてたし。それがきっかけで、私も彼と一緒に何かやることになったの。彼、本当に優しくて、可愛いのよ。それで彼が「一緒にやろうよ」って言ってくれて。
―殿堂入りの際には通常3曲を披露しますが、どの曲を演奏するかはもう決めていますか?
シンディ:1曲は決めてるわ。「Girls Just Want to Have Fun」はやるつもり。でも、そのときはスーパー・ガール・バンドを従えて演奏したいの。単に女の子がコーラスを歌うって意味じゃなくて、本気で演奏できる、最高にイカしたプレイヤーたちを揃えたいの。それが実現したら、本当に最高だと思う。それこそが、私が思う「Girls Just Want to Have Fun」ね。
―殿堂入りのタイミングも完璧ですね。フェアウェル・ツアーが終わってから、わずか数カ月後ですし。
シンディ:それに加えて、翌日には『ワーキング・ガール』の舞台がラホヤで開幕するのよ。ほんと、全然止まらないわね(笑)。
―そちらの準備はどうですか?
シンディ:もうほとんど終わりよ。残ってるのは3曲、それと3曲分の書き直し。ほとんどは簡単に調整できそうだけど、1曲だけちょっと難関かな。でも、それがうまくいけば本当に素晴らしいものになると思う。6月までに仕上げなきゃいけないけど、大丈夫、大丈夫。なんとかなるわよ。
フェアウェル・ツアー以降の展望「音楽は世界を変えられる」
―今年の活動が終わった後も、単発のライブやフェスティバル、公演のレジデンシー(定期開催)などには出演される可能性はありますか? ステージに立つこと自体にはまだ前向きですか?
シンディ:移動しなくていいショーならやりたいわ。もう、あちこち飛び回って、荷物を詰めたり開けたり、飛行機に乗ろうと必死になるようなことは、もう二度と無理。あれをまたやったら、本当に身体がもたない。でも、アートと音楽を融合させたような、小さなショーならやってみたい。それが自分にとって新しい一歩になるようなものなら、すごくワクワクすると思うの。
『ワーキング・ガール』のあとに、もうひとつどうしてもやり遂げたいプロジェクトがあるの。人生には限られた時間しかないでしょ。だからこそ、それをちゃんと形にしたいし、本当にいい仕事をしたいって思ってる。
それから、自分の歌に誇りを持ちたい。それは「ライブ」でありたい。ライブなら、ちゃんとライブであることが大事だと思うのよ。ライブって、何が起きるかわからないじゃない?映像とのタイミングは合わせなきゃいけないけど、毎晩まったく同じように歌う必要なんてない。私は時々、意識的に歌い方を少しだけ変えるの。みんなをびっくりさせるためじゃなくて、ほんの少しだけ何か新しい感覚を見つけるために。そうやって、ステージに「生きている」感じを持たせたいの。
―ロックの殿堂の夜、ビートルズやストーンズ、ジョニ・ミッチェルといったレジェンドたちと”同じクラブ”に入る実感を抱く瞬間、どんな気持ちになると思いますか?
シンディ:思い出してほしいんだけど、ジョニ・ミッチェルだってすぐに殿堂入りしたわけじゃなかったのよ。ジョーン・バエズだって同じ。あの人は本当に世界を変えた人よ。私がボブ・ディランを知ったのも、ジョーンのおかげ。彼女を聴いていなかったら、ディランには一生出会っていなかったと思う。私はまだすごく若かった。それに私は、最初の女性解放運動のデモにも参加したの。トレーニングブラを燃やしたのよ。それは私自身のためだけじゃなくて、母や祖母のためでもあった。私は「抑圧の連鎖」を断ち切りたかったの。
それで気づいたの。音楽は世界を変えられるって。ロックンロールは、ずっと世界を救ってきた。『ライブ・エイド』を見てごらんなさい。あれが何を成し遂げたか。だから、あの夜私が壇上で最初に言いたいのは、ただ「ありがとう」だけじゃなくて――「どうか忘れないで。私たちの音楽は、かつて世界を変えてきたし、今もそれができる」ということ。音楽はこの世界をよりよくするために貢献してきたの。私たちは、何かを変える力を持ったコミュニティなんだから、これからもそのことを忘れずにいなければいけないのよ。
From Rolling Stone US.

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