DJ/プロデューサー/ソングライターとして世界中で活躍し、エレクトロニック・ダンス・ミュージックの世界に革命を起こした、スウェーデ・ストックホルム生まれのアヴィーチー。彼の初ベスト・アルバム『フォーエヴァー~ベスト・オブ・アヴィーチー』(原題:Avicii Forever)が2025年5月16日リリースされた。
本作品には、過去の名曲から選り抜いた19曲と、エル・キングをフィーチャーした新曲「レッツ・ライド・アウェイ」が収録され、さらに日本盤CDはボーナス・トラックとして2曲(日本初CD化)を加えた全22曲が収録されている。本作のリリースを機に、アヴィーチーの歩みとその音楽性を辿る。

2018年4月20日、28歳の若さで他界したアヴィーチー。月日の経つのは早く、あれからもう7年も経ってしまったけれど、今でも彼の創造した音楽は決して色褪せることなく、タイムレスなクラシックチューンとして聴き継がれている。

カイゴやティエストが頻繁に自身のDJセットで名曲「Levels」などをプレイしたり、昨年末から配信されているNetflixドキュメンタリー『アヴィーチー:アイム・ティム』を観て、改めて彼に興味をもった若いファンもいるだろう。また彼の音楽に対する熱意や、音楽と向き合うピュアな姿勢に感動した人も少なくないはずだ。お金や名声が目的ではなく、ただ単に音楽をクリエイトしたかっただけ。そんな彼が誠心誠意を込めて作り上げた音楽には、多くの人々を惹きつける不思議な魔力が備わっている。思わず誰もが口ずさみたくなるはつらつとしたアンセム調のメロディ、高揚感漲るドラマティックなビートと煌びやかな音色。そして常に前人未到の新しいソニックワールドを開拓しようという野心に溢れている。

兄の影響で16歳から音楽制作を始め、17歳で地元スウェーデンのレーベルと契約。初期には有名アーティストたちのクラブヒットのリミックスを数多く手掛け、また同時に自身名義の「Levels」などのヒットで台頭、瞬く間にEDM界のトップDJ/プロデューサーの仲間入りを果たす。
そして人気を決定付けたのが2013年のデビューアルバム『True』と同作からのリードシングル「Wake Me Up」の世界的ヒットだ。アルバムは母国スウェーデンで1位を記録し、全英2位、全米5位の大ヒット。シングル「Wake Me Up」に至っては世界中のチャートで1位を記録し、全米こそ4位止まりとはいえ、クラブチューンがアメリカ一般チャートでここまで上位に食い込むのは稀なこと。当時のEDMシーンの隆盛ぶりも影響しているかもしれないが、その第一人者としてアヴィーチーの存在が大きかったのは火を見るより明らかだ。

既にこの時点で、自身のサウンドをしっかり確立していた事実にも驚かされる。躍動感溢れるエレクトロニックサウンドに、フォークやカントリー、ブルーグラスといったオーガニックな生音を交配。一見、水と油のように思える対極のエレメントが見事に手を結び、融合されている。アロー・ブラック、オードラ・メイ、アダム・ランバートはじめアメリカ人シンガーも多数起用されてはいるが、アメリカンルーツミュージックとは異なるヨーロピアンな香りが圧倒的だ。この辺りは個人的な感想かもしれないが、欧州のフォークダンス的なメロディやリズム感が聴こえてくるのは筆者だけだろうか。

2年後の2015年のセカンドアルバム『Stories』では、ジャンルの壁をぶち壊そうという意図がいっそう明白に。各ジャンルの専門家ともいえるアーティストたちとの共作、コラボレーションという制作へと進化した。中でも驚いたのがサザンロック/カントリー・バンドを率いるザック・ブラウン(「Broken Arrows」)との共演だが、他にもフージーズのメンバーでハイチ系アメリカ人のワイクリフ・ジョンとレゲエシンガーのマティスヤフ(「Cant Catch Me」)、コールドプレイのクリス・マーティン(「True Believer」)、ザ・キラーズのブランドン・フラワーズとロビー・ウィリアムス(「The Days」)、EDMシーンの同胞ともいえるマーティン・ギャリックス(「Waiting For Love」)ら多彩なジャンルのビッグネームたちとコラボ。
また2012年の”ULTRA MIAMI”でステージ共演を見せたマドンナとは、彼女の2014年のアルバム『Rebel Heart』の数曲に貢献。コールドプレイとは彼らの2014年のスマッシュヒット「A Sky Full Of Stars」の制作でタッグを組み、没後の2019年に発表されたサードアルバム『Tim』にもクリス・マーティン参加曲が収録された(「Heaven」)。これらの作品を聴いて思うのが、如何なるアーティストと組もうが一聴してアヴィーチーらしさが常に圧倒的であることだ。

晩年はメンタル不調に悩まされ、ツアーから引退。繰り返し中止を重ねた来日公演は、2016年6月に遂に実現し(大阪・舞洲特設会場と千葉・QVCマリンフィールド)、既にファイナルツアーと宣言されていたものの、不調な様子を微塵も感じさせないアッパーなプレイで観客を大いに熱狂させた。今にして思えば、そうしたファンを裏切らない彼の生真面目さが仇となったのかもしれないのだが。

没後、翌年2019年6月には直前まで制作されていた前述のサードアルバム『Tim』が日の目を見ることとなり、12月にはトリビュートコンサートがストックホルムで開催。デヴィッド・ゲッタやカイゴ、ニッキー・ロメロら同胞DJ、更にオードラ・メイ、アロー・ブラック、アダム・ランバート、リタ・オラはじめ多数のシンガーも駆けつけ歌声を披露した。彼の生前の夢でもあった30人編成のオーケストラ奏者も参加した。2022年には、ミュージアム”Avicii Experience”がストックホルムにオープン。彼のレガシーに触れようと世界各地からファンが訪れている。そして、もちろんファンの多くが、今回リリースされた初のベストアルバム『Avicii Forever』を手にして感動を新たにしていることだろう。
彼の全キャリアを通しての代表的ヒット曲が網羅されているうえ、これまで未発表だった幻の新曲「Lets Ride Away」(withエル・キング)を収録。入門編としても最適だ。

「Wake Me Up」や「Waiting For Love」といった彼の人気を決定付けたメガ・ヒットはもちろんのこと、あえてこれまでアルバム本編から外されていたアルバムデビュー以前のヒット曲も収録されている。ブルースシンガーのエタ・ジェイムスの歌がサンプリングされた「Levels」(2011年)、スウェーデン出身のアンドレアス・モエの歌う「Fade Into Darkness」(2011年)、同じくスウェーデン出身のサレム・アル・ファキールの歌う「Silhouettes」(2012年)、ニッキー・ロメロとのコラボチューン「I Could Be The One (Avicii Vs. Nicky Romero)」(2012年)も、同じくスウェーデン出身のヌーニー・バオが歌っている。同郷スウェーデン人シンガーとの初期トラックが多数収録されているのは、やはり嬉しく思われる。「Without You」(2017年)を歌うサンドロ・カヴァッザもスウェーデン出身のシンガーであり、多数のアヴィーチー作品に貢献している。アヴィーチー作品といえば彼の歌、と語っていたのは、アヴィーチーの影響でダンスミュージックにハマったというカイゴ。2020年に発表された追悼曲「Forever Yours (Avicii Tribute)」(アヴィーチー、カイゴ、カヴァッザ名義による)では、カヴァッザがボーカルを担当した。

前述の追悼コンサートでは、ひと際艶やかな歌声と存在感で圧倒したリタ・オラの「Lonely Together」(彼の生前最後のEP『Avīci (01)』(2017年)に収録)、イマジン・ドラゴンズのダン・レイノルズが激しいシャウトを放つ「Heart Upon My Sleeve」も聴きどころではないだろうか。その後、クリス・マーティンがソフトな歌声で優しく包み込む「Heaven」で本編は締め括られる。更に日本盤には2曲のボーナストラックが追加収録。因みに先日、日本のレコード会社が行ったファンによる人気投票では、1位が「Wake Me Up」、2位が「The Nights」、3位が「Without You」、4位が「Levels」、5位が「Waiting For Love」という結果に。
そのトップ50曲のプレイリストも公開されている。

<リリース情報>

アヴィーチーが遺したもの、初のベスト盤『Avicii Forever』に刻まれた創作の熱意


アヴィーチー
『フォーエヴァー~ベスト・オブ・アヴィーチー』
発売中
https://umj.lnk.to/AviciiForever
=日本盤CD収録曲=
1. ウェイク・ミー・アップ
2. レヴェルズ
3. レッツ・ライド・アウェイ FEAT. エル・キング
4. ザ・ナイツ
5. ウェイティング・フォー・ラヴ
6. ウィズアウト・ユー FEAT. サンドロ・カヴァッザ
7. SOS FEAT. アロー・ブラック
8. ヘイ・ブラザー
9. ロンリー・トゥゲザー FEAT. リタ・オラ
10. アイ・クッド・ビー・ザ・ワン (アヴィーチー VS ニッキー・ロメロ)
11. シルエット
12. フェイド・イントゥ・ダークネス
13. ユー・メイク・ミー
14. ザ・デイズ
15. フォー・ア・ベター・デイ
16. アディクテッド・トゥ・ユー
17. フレンド・オブ・マイン
18. ブロークン・アローズ
19. ハート・アポン・マイ・スリーヴ FEAT. イマジン・ドラゴンズ
20. ヘヴン
21. タフ・ラヴ(ティエスト・リミックス) (アヴィーチー、アグネス、ヴァーガス&ラゴラ)
22. フェイズ・アウェイ(トリビュート・コンサート・ヴァージョン)(アヴィーチー、ミッシュキャット)
*日本盤ボーナス・トラック(日本初CD化)

Avicii 海外公式サイト https://avicii.com/
日本アーティスト・ページ https://www.universal-music.co.jp/avicii/
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